第3章【何かがおかしい】
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=20=
辺りが暗かったから…?
それがよく知る人物だったから…?
彼の体が、日に焼けたものとは明らかに違う、黒い幕で覆われていたことに、大分近づくまで気が付かなかった。
後数歩で触れられる、伸ばせば手が届く距離に達するまであと少しというところで、ジェクトが組んでいた腕を解いた。
突然取り出した、彼の武器。
かつて共に旅をしたときに使っていた彼の大きな剣を手にして、ジェクトは私に向かって身構えた。
「!?」
はっとして私は進んでいた足を咄嗟に逆方向に数歩進めた。
…ジェクト、も……?
その体そのものが幻光虫の塊であるかのように、動きにあわせて滑らかな光が黒光りしながら体の形に合わせて流れる。
この姿はどう見てもジェクトだ。
何かがジェクトの姿に変わっている?
それとも、ジェクトが何かに憑依ている…?
やや俯いた顔はこの暗闇のせいもあって、髪とバンダナに隠れて表情は伺えない。
だが、僅かに見える無精髭だらけの口元が、ニヤリと歪んだのが見えた。
ジェクトが剣を振りかぶる。
「!!」
咄嗟に身を捻って一撃をかわすが、立て続けざまに二撃三撃と剣が私のすぐ近くの空気を切り裂いていく。
ジェクトの強さはよく知っている。
どんな技を使うのかも、どんな動きをするのかも、私は知っている。
だけど、こんな……!
「ジェクト!! な、何するんだ!?」
彼の数撃をかわして少々距離を取ってから、私は自分の武器に手を掛けることもせずに声を掛ける。
その表情には迷いも戸惑いも見られない。
ただ目の前の敵に攻撃するだけ。
だがやはりいつものジェクトではない。
一言も言葉も声も出さずに攻撃するジェクトなんて、これまで見たことが無い。
だから余計に、恐ろしい。
「ジェクト!!」
彼が剣を振るう度、私がそれをかわす度、私は何度も何度も名を呼ぶ。
その声がいつか本来の彼に届くことを願って。
その呼びかけに応えて、いつもの豪快に笑うジェクトに戻るような気がして…
ジェクトは、ブリッツの名選手だった。
この異界に来てからも、何度かボールを蹴っている姿を見かけたことがあった。
その動きは戦闘においても活かされている。
かつて共に旅をしたときもずっと感じていたことだった。
そして同じように素早い動きをしてみせていた少年に、ジェクトの影を重ねていたことも事実だ。
ジェクトの動きは早い。
そして鍛え上げられた力強い腕から振り下ろされる一撃は重くて破壊力も高い。
一撃一撃が全てそんな攻撃ばかりで、それを避けて逃げ回るだけで、こちらの体力が持たない。
次第に私の息は上がり、動きも鈍くなってきた。
避けたと思った一撃は私の服の裾を僅かに切り裂いて、その小さな欠片を小さな幻光虫に変えていく。
攻撃を避けて移動した先で跪いた。
そこへ止めとばかりに背中まで振りかぶったジェクトが飛び込んでくる。
逃げるために動かそうとした足が上手く動かない。
縺れて一瞬動きが遅れた。
今から逃げても、もう間に合わない!
私は咄嗟に自分の後ろ腰に手を当てる。
そこに括り付けられた1本だけの私の武器。
こんな小さな小太刀1本で、彼の大きな武器から繰り出される重い一撃を受け止めきることなどできるはずもない。
『プロテス!』
空いたもう片方の掌を己の胸に当てて呪文を唱えた。
本当にそれは瞬間的なタイミングで、辛うじて彼の一撃を受け止めることができた。
私は僅かに動きの止まったジェクトに立て続けに魔法を唱える。
『スロウガ!』
「…ジェクト、ごめん……」
本当はこれはアーロンがよく使う技だ。
もちろん、誰でも使うことができる。私も。
彼ほどの威力は無いが、ジェクトの攻撃を鈍らせる効力があればそれでいい。
今だけ、あいつの、アーロンの力を貸して欲しい。
『パワーブレイク!』
→
11,sep,2011
辺りが暗かったから…?
それがよく知る人物だったから…?
彼の体が、日に焼けたものとは明らかに違う、黒い幕で覆われていたことに、大分近づくまで気が付かなかった。
後数歩で触れられる、伸ばせば手が届く距離に達するまであと少しというところで、ジェクトが組んでいた腕を解いた。
突然取り出した、彼の武器。
かつて共に旅をしたときに使っていた彼の大きな剣を手にして、ジェクトは私に向かって身構えた。
「!?」
はっとして私は進んでいた足を咄嗟に逆方向に数歩進めた。
…ジェクト、も……?
その体そのものが幻光虫の塊であるかのように、動きにあわせて滑らかな光が黒光りしながら体の形に合わせて流れる。
この姿はどう見てもジェクトだ。
何かがジェクトの姿に変わっている?
それとも、ジェクトが何かに憑依ている…?
やや俯いた顔はこの暗闇のせいもあって、髪とバンダナに隠れて表情は伺えない。
だが、僅かに見える無精髭だらけの口元が、ニヤリと歪んだのが見えた。
ジェクトが剣を振りかぶる。
「!!」
咄嗟に身を捻って一撃をかわすが、立て続けざまに二撃三撃と剣が私のすぐ近くの空気を切り裂いていく。
ジェクトの強さはよく知っている。
どんな技を使うのかも、どんな動きをするのかも、私は知っている。
だけど、こんな……!
「ジェクト!! な、何するんだ!?」
彼の数撃をかわして少々距離を取ってから、私は自分の武器に手を掛けることもせずに声を掛ける。
その表情には迷いも戸惑いも見られない。
ただ目の前の敵に攻撃するだけ。
だがやはりいつものジェクトではない。
一言も言葉も声も出さずに攻撃するジェクトなんて、これまで見たことが無い。
だから余計に、恐ろしい。
「ジェクト!!」
彼が剣を振るう度、私がそれをかわす度、私は何度も何度も名を呼ぶ。
その声がいつか本来の彼に届くことを願って。
その呼びかけに応えて、いつもの豪快に笑うジェクトに戻るような気がして…
ジェクトは、ブリッツの名選手だった。
この異界に来てからも、何度かボールを蹴っている姿を見かけたことがあった。
その動きは戦闘においても活かされている。
かつて共に旅をしたときもずっと感じていたことだった。
そして同じように素早い動きをしてみせていた少年に、ジェクトの影を重ねていたことも事実だ。
ジェクトの動きは早い。
そして鍛え上げられた力強い腕から振り下ろされる一撃は重くて破壊力も高い。
一撃一撃が全てそんな攻撃ばかりで、それを避けて逃げ回るだけで、こちらの体力が持たない。
次第に私の息は上がり、動きも鈍くなってきた。
避けたと思った一撃は私の服の裾を僅かに切り裂いて、その小さな欠片を小さな幻光虫に変えていく。
攻撃を避けて移動した先で跪いた。
そこへ止めとばかりに背中まで振りかぶったジェクトが飛び込んでくる。
逃げるために動かそうとした足が上手く動かない。
縺れて一瞬動きが遅れた。
今から逃げても、もう間に合わない!
私は咄嗟に自分の後ろ腰に手を当てる。
そこに括り付けられた1本だけの私の武器。
こんな小さな小太刀1本で、彼の大きな武器から繰り出される重い一撃を受け止めきることなどできるはずもない。
『プロテス!』
空いたもう片方の掌を己の胸に当てて呪文を唱えた。
本当にそれは瞬間的なタイミングで、辛うじて彼の一撃を受け止めることができた。
私は僅かに動きの止まったジェクトに立て続けに魔法を唱える。
『スロウガ!』
「…ジェクト、ごめん……」
本当はこれはアーロンがよく使う技だ。
もちろん、誰でも使うことができる。私も。
彼ほどの威力は無いが、ジェクトの攻撃を鈍らせる効力があればそれでいい。
今だけ、あいつの、アーロンの力を貸して欲しい。
『パワーブレイク!』
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11,sep,2011