第3章【何かがおかしい】
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=17=
美しい音色が聞こえてくる。
この世界で流れる音はどれも美しく荘厳ではあるが、こんな胸に響いてくる旋律は聴いたことが無い。
これは、ピアノの音…?
一体どこから聞こえてくるのだろうか。
だれがこんな胸が締め付けられるような悲しい曲を奏でているのだろうか。
今までも聴こえて来ていたのだろうか。
私がそれに気付かなかっただけで。
「ラフテル」
どこからともなく呼ぶ声が聞こえた。
辺りを見渡すが、私の名を呼んだのが誰なのかわからない。
美しい花畑の上にポツンと独り、私だけが立っている。
たくさんの幻光虫が舞い飛び、花弁が風に乗ってどこかへ流れていく。
その流れに乗って、先程から美しい旋律が微かに耳に届く。
空間は一定でなく、光り輝いて見えるところも、真っ暗な闇に包まれているところも、歪んで見えるところもそこには同じように存在している。
明るかったり暗くなったり、不思議だとしか感じられないような、幻想的な世界。
「ラフテル」
また、名を呼ばれる。
「………」
そして私も再び辺りを確認するように視線を巡らせる。
だがやはり、目に映る範囲には誰もいない。
でも、聞き覚えのある、低く優しい耳に心地よい声。
「…どこ?」
その人物を探して、私の足は自然と動き出す。
「アーロン!どこ!?」
足の動きは次第に速さを増して、それほど広くは無い花畑の端から端まで、私は走りぬけた。
そこから一歩でも踏み出せば、幻光虫の集まった巨大な滝の流れに落ちてしまうところまで来ていた。
「ラフテル、言っただろう?力を貸してくれと」
「アーロン!どこにいるんだ!」
滝の中に吸い込まれていく声に負けないようにと、私は力いっぱい彼の名を呼ぶ。
ふいに、それまで耳に届いていた微かなピアノの旋律が止んだ。
『…あぁ、キミが最後の祈り子だね…』
「…!?」
どこかで聞いたことのある、若い青年の声。
後ろを振り返って見回すが、やはり姿は無い。
「…だ、誰だ…?」
花畑の上に広がる真っ白な靄が世界を包み隠す。
風でゆっくりと流れていくそれを見送ると、自分が立っている位置と正反対の位置に黒い闇の入り口のようなものが見えた。
おかしな緊張感が私の中を駆け巡っていく。
寒いわけでもないのに背中を冷気が襲い、ブルリと身震いしてしまう。
その闇の入り口の前に、人影が見えた。
「アーロン!」
先程からずっと、私の名を呼び続けていた人物がそこにいた。
思わずそこに駆け寄る。
だが、あと数歩で触れられる位置まで来たときに、足を止めた。
僅かに俯いた彼は、普段と様子が違う。
背中に闇の入り口が口を開けているからなのだろうか?
彼の体を覆う、黒い気の塊のようなものがゆらゆらと立ち上っているのが見えた。
私に向けられるはずの優しい笑顔はそこには無い。
顔そのものが見えない。
「ラフテル、…時間だ」
その低い声は、今の隻眼のアーロンが放つものと同じ。
「…アー、ロン…?」
様子がおかしい彼の名を呼ぶことさえ躊躇われる。
一体どうしたというのか。
優しい風が吹いて、花畑の靄も花弁も一緒に流していってしまうのに、彼の後ろにある黒い煙のようにさえ見えるこれは、どうして流れていかないのだろうか?
後ろに尻尾のように伸びた長い髪も揺れることなく、そこに動かずにとどまっている。
私の纏めた髪は風に遊ばれているというのに。
→
24,aug,2011
美しい音色が聞こえてくる。
この世界で流れる音はどれも美しく荘厳ではあるが、こんな胸に響いてくる旋律は聴いたことが無い。
これは、ピアノの音…?
一体どこから聞こえてくるのだろうか。
だれがこんな胸が締め付けられるような悲しい曲を奏でているのだろうか。
今までも聴こえて来ていたのだろうか。
私がそれに気付かなかっただけで。
「ラフテル」
どこからともなく呼ぶ声が聞こえた。
辺りを見渡すが、私の名を呼んだのが誰なのかわからない。
美しい花畑の上にポツンと独り、私だけが立っている。
たくさんの幻光虫が舞い飛び、花弁が風に乗ってどこかへ流れていく。
その流れに乗って、先程から美しい旋律が微かに耳に届く。
空間は一定でなく、光り輝いて見えるところも、真っ暗な闇に包まれているところも、歪んで見えるところもそこには同じように存在している。
明るかったり暗くなったり、不思議だとしか感じられないような、幻想的な世界。
「ラフテル」
また、名を呼ばれる。
「………」
そして私も再び辺りを確認するように視線を巡らせる。
だがやはり、目に映る範囲には誰もいない。
でも、聞き覚えのある、低く優しい耳に心地よい声。
「…どこ?」
その人物を探して、私の足は自然と動き出す。
「アーロン!どこ!?」
足の動きは次第に速さを増して、それほど広くは無い花畑の端から端まで、私は走りぬけた。
そこから一歩でも踏み出せば、幻光虫の集まった巨大な滝の流れに落ちてしまうところまで来ていた。
「ラフテル、言っただろう?力を貸してくれと」
「アーロン!どこにいるんだ!」
滝の中に吸い込まれていく声に負けないようにと、私は力いっぱい彼の名を呼ぶ。
ふいに、それまで耳に届いていた微かなピアノの旋律が止んだ。
『…あぁ、キミが最後の祈り子だね…』
「…!?」
どこかで聞いたことのある、若い青年の声。
後ろを振り返って見回すが、やはり姿は無い。
「…だ、誰だ…?」
花畑の上に広がる真っ白な靄が世界を包み隠す。
風でゆっくりと流れていくそれを見送ると、自分が立っている位置と正反対の位置に黒い闇の入り口のようなものが見えた。
おかしな緊張感が私の中を駆け巡っていく。
寒いわけでもないのに背中を冷気が襲い、ブルリと身震いしてしまう。
その闇の入り口の前に、人影が見えた。
「アーロン!」
先程からずっと、私の名を呼び続けていた人物がそこにいた。
思わずそこに駆け寄る。
だが、あと数歩で触れられる位置まで来たときに、足を止めた。
僅かに俯いた彼は、普段と様子が違う。
背中に闇の入り口が口を開けているからなのだろうか?
彼の体を覆う、黒い気の塊のようなものがゆらゆらと立ち上っているのが見えた。
私に向けられるはずの優しい笑顔はそこには無い。
顔そのものが見えない。
「ラフテル、…時間だ」
その低い声は、今の隻眼のアーロンが放つものと同じ。
「…アー、ロン…?」
様子がおかしい彼の名を呼ぶことさえ躊躇われる。
一体どうしたというのか。
優しい風が吹いて、花畑の靄も花弁も一緒に流していってしまうのに、彼の後ろにある黒い煙のようにさえ見えるこれは、どうして流れていかないのだろうか?
後ろに尻尾のように伸びた長い髪も揺れることなく、そこに動かずにとどまっている。
私の纏めた髪は風に遊ばれているというのに。
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24,aug,2011