第2章【過去の記憶】
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
=14=
ジェクトの背に掴まって、崖を這い上がった。
もう魔物たちの姿はなく、ブラスカがいつものように優しい微笑で迎えてくれた。
その背後に見えた、赤い背中。
はっとして思わず身構える。
だが、先程ジェクトと交わした言葉を思い出す。
今までと同じように接して、同じように振舞う。
変に意識してしまうとこの先の旅が続けにくくなるから、と。
それは本当に、とても難しいことかもしれない。
私達に気が付いたのか、アーロンがこちらを振り返った。
嫌でも蘇る、あの時のアーロンの顔。
必死に何気ない様子を演じる。
「よかった、ラフテルも無事だったんだね。大丈夫かい?」
「…ブラスカ、心配掛けてごめんなさい。魔物も、いなくなったみたいだね」
「なんとかね。 ……ラフテル、首のところ、どうしたんだい?」
「えっ…」
思わず首元に自分の手を当てる。
ピリと走る軽い痛みに、またあの光景が蘇ってゾワリと寒気が走った。
動揺しちゃいけない。平静を保たなければ、と言い聞かせる。
「…あ、いや、これは別に…」
「魔物にやられたのかい? …おいで、ラフテル」
優しくブラスカが呼ぶが、ブラスカの傍にはアーロンもいるわけで、必然的に私の足取りは重くなる。
だがここで普段と違う行動をすれば、当然不審がられてしまう。
私はなるべく普段どおりを装ってブラスカの元まで歩み寄った。
ブラスカの温かな回復魔法の光を受けて、喉もとの傷だけでなく、私の気持ちをも癒されるような感覚がした。
光が収まるのを待って、ブラスカに礼を言う。
「ラフテル」
低い声がした。
私の中の全ての感覚が一気に緊張する。
「…何?」
「…サポートする気があるのなら、魔法だけに頼るのはあまり得策とは言えん。もう少し……」
「悪かったよ…」
言葉を途中で遮って、その場から逃げた。
すぐにジェクトの背中に回って、その背に身を隠すようにした。
「アーロン、もう少し労いの言葉を掛けてあげたらどうだい?」
「しかしブラスカ様!あいつがもっと……」
「混乱して味方にまで武器を向けるような人の台詞とは思えないが?」
「うっ……」
声だけしか聞こえないが、ブラスカがいつものようににこやかに笑って言う姿が目に浮かんだ。
「アーロン、混乱したままだったのか?」
「おお、あんのバカ、ブラスカにまで攻撃しかけようとしやがってよ」
「ジェクト!そんなこと言わんでいいだろうが!」
ジェクトがアーロンをバカにしたように笑いながらからかい、真面目なアーロンはそれを真に受けて真剣に怒り、最後にはブラスカに笑顔で説教される。
そんないつもの光景に、少しだけ私の気が楽になった。
それから、先のことを考えるべきということで、今後の予定を、ということになったのだが…
私もブラスカも魔力はほとんど残っていない。
できればもう少しアイテムも補充したいところだが、今いる場所はマカラーニャの街道のほぼ中程。
本当なら戻るべきところなのだろうが、ブラスカは先へ進むことを選択した。
私は魔物に破り取られたアイテムを入れていた袋を手にして、あちこちに飛び散ってしまったまだ使えそうなアイテムを拾い集めた。
エーテルが2本あったので、私とブラスカとで分け合い、当座の凌ぎとした。
ここでこれだけの魔物が一同に出たことで、この先もまた同じように大量の魔物が出るか、または逆に少なくなるか、それは進んでみないことにはすぐに判断することはできない。
後者に期待を持って、寺院への道を進むことにした。
アーロンの様子は、いつもとまったく変わらない。
相変わらずブラスカにからかわれてふざけているジェクトに、眉間に皺を寄せながら苦言を漏らしている。
私に、あんなことをしたくせに…
私は、意識しないようにと、目も合わせずそれどころか一切そいつを視界に入れたくなくて、無意識に距離を取っていた。
仲間のはずなのに、胸の中に湧き上がるこの醜い気持ちをなんとか抑えようと、何度目かの深い溜息を人知れず零していた。
辛い…
憎い…
悔しい…
いっそのことこの小太刀でその喉を掻っ捌いてやりたいとさえ考えた。
…そんなことはできないと、わかりきっているのに。
私に何をしたか、自分がどんな状況だったかも記憶のない人間に、改めて起こった出来事を教えてやる必要はない。
それなのに…
やり場のない怒りや悲しみが自分自身を飲み込んでいきそうだった。
それなのに…
いつの間に、その気持ちが逆になっていったんだろうか?
決して許さないと思っていた気持ちはいつしか消え失せてしまい、私は逆の気持ちを抱いていた。
ブラスカ達と最後まで旅を共にして、長い時間皆と一緒に過ごして、たくさん話をして…
憎むべき相手なのに、そんな気持ちは無くなってしまっていた。
→第3章
5,aug,2011
ジェクトの背に掴まって、崖を這い上がった。
もう魔物たちの姿はなく、ブラスカがいつものように優しい微笑で迎えてくれた。
その背後に見えた、赤い背中。
はっとして思わず身構える。
だが、先程ジェクトと交わした言葉を思い出す。
今までと同じように接して、同じように振舞う。
変に意識してしまうとこの先の旅が続けにくくなるから、と。
それは本当に、とても難しいことかもしれない。
私達に気が付いたのか、アーロンがこちらを振り返った。
嫌でも蘇る、あの時のアーロンの顔。
必死に何気ない様子を演じる。
「よかった、ラフテルも無事だったんだね。大丈夫かい?」
「…ブラスカ、心配掛けてごめんなさい。魔物も、いなくなったみたいだね」
「なんとかね。 ……ラフテル、首のところ、どうしたんだい?」
「えっ…」
思わず首元に自分の手を当てる。
ピリと走る軽い痛みに、またあの光景が蘇ってゾワリと寒気が走った。
動揺しちゃいけない。平静を保たなければ、と言い聞かせる。
「…あ、いや、これは別に…」
「魔物にやられたのかい? …おいで、ラフテル」
優しくブラスカが呼ぶが、ブラスカの傍にはアーロンもいるわけで、必然的に私の足取りは重くなる。
だがここで普段と違う行動をすれば、当然不審がられてしまう。
私はなるべく普段どおりを装ってブラスカの元まで歩み寄った。
ブラスカの温かな回復魔法の光を受けて、喉もとの傷だけでなく、私の気持ちをも癒されるような感覚がした。
光が収まるのを待って、ブラスカに礼を言う。
「ラフテル」
低い声がした。
私の中の全ての感覚が一気に緊張する。
「…何?」
「…サポートする気があるのなら、魔法だけに頼るのはあまり得策とは言えん。もう少し……」
「悪かったよ…」
言葉を途中で遮って、その場から逃げた。
すぐにジェクトの背中に回って、その背に身を隠すようにした。
「アーロン、もう少し労いの言葉を掛けてあげたらどうだい?」
「しかしブラスカ様!あいつがもっと……」
「混乱して味方にまで武器を向けるような人の台詞とは思えないが?」
「うっ……」
声だけしか聞こえないが、ブラスカがいつものようににこやかに笑って言う姿が目に浮かんだ。
「アーロン、混乱したままだったのか?」
「おお、あんのバカ、ブラスカにまで攻撃しかけようとしやがってよ」
「ジェクト!そんなこと言わんでいいだろうが!」
ジェクトがアーロンをバカにしたように笑いながらからかい、真面目なアーロンはそれを真に受けて真剣に怒り、最後にはブラスカに笑顔で説教される。
そんないつもの光景に、少しだけ私の気が楽になった。
それから、先のことを考えるべきということで、今後の予定を、ということになったのだが…
私もブラスカも魔力はほとんど残っていない。
できればもう少しアイテムも補充したいところだが、今いる場所はマカラーニャの街道のほぼ中程。
本当なら戻るべきところなのだろうが、ブラスカは先へ進むことを選択した。
私は魔物に破り取られたアイテムを入れていた袋を手にして、あちこちに飛び散ってしまったまだ使えそうなアイテムを拾い集めた。
エーテルが2本あったので、私とブラスカとで分け合い、当座の凌ぎとした。
ここでこれだけの魔物が一同に出たことで、この先もまた同じように大量の魔物が出るか、または逆に少なくなるか、それは進んでみないことにはすぐに判断することはできない。
後者に期待を持って、寺院への道を進むことにした。
アーロンの様子は、いつもとまったく変わらない。
相変わらずブラスカにからかわれてふざけているジェクトに、眉間に皺を寄せながら苦言を漏らしている。
私に、あんなことをしたくせに…
私は、意識しないようにと、目も合わせずそれどころか一切そいつを視界に入れたくなくて、無意識に距離を取っていた。
仲間のはずなのに、胸の中に湧き上がるこの醜い気持ちをなんとか抑えようと、何度目かの深い溜息を人知れず零していた。
辛い…
憎い…
悔しい…
いっそのことこの小太刀でその喉を掻っ捌いてやりたいとさえ考えた。
…そんなことはできないと、わかりきっているのに。
私に何をしたか、自分がどんな状況だったかも記憶のない人間に、改めて起こった出来事を教えてやる必要はない。
それなのに…
やり場のない怒りや悲しみが自分自身を飲み込んでいきそうだった。
それなのに…
いつの間に、その気持ちが逆になっていったんだろうか?
決して許さないと思っていた気持ちはいつしか消え失せてしまい、私は逆の気持ちを抱いていた。
ブラスカ達と最後まで旅を共にして、長い時間皆と一緒に過ごして、たくさん話をして…
憎むべき相手なのに、そんな気持ちは無くなってしまっていた。
→第3章
5,aug,2011