第2章【過去の記憶】
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=13=
ジェクトは、何も言わなかった。
私の顔をじっと見て、今私たちがいる場所を見回して、そして溜息をついた。
彼も男だ。
ここで何があったのか、すぐに察したのだろう。
「…ラフテル」
その言葉1つにさえ、私はビクリと肩を震わせてしまう。
心臓がバクバクと激しく脈打ち、飛び出して潰れてしまうのではないかと錯覚させる。
怖い。
目の前にいられることが、怖い。
見つめられることが、声を掛けられることが、恐ろしくて堪らない。
これはジェクトなのに、…もし今目の前にアーロンがいたら、私はおかしくなってしまいそうだ。
「…ラフテル、大丈夫だ。…もう、大丈夫だ」
ゆっくり、1つ1つ丁寧に言葉を発する。
そして、ゆっくりと近づいてくる。
私はジェクトと同じ歩調で後退していく。
だがすぐに岩壁に背中が当たって、それ以上進めなくなってしまう。
ジェクトは、ゆっくりと繰り返し大丈夫と言いながら、近づいてくる。
私は自分に言い聞かせる。
「(これは、ジェクトだ…)」
ぎゅっと目を硬く閉じて、目に入るものさえ拒絶しようとしていた私の体に、ジェクトがそっと触れたのがわかった。
体を大きく震わせて、襲い来る恐怖心に耐える。
背中に回された逞しい腕が、そっと壊れ物でも扱うように、優しく私を抱きしめた。
私は体を強張らせたまま、動くこともできずにされるがままだ。
鍛えられてよく日に焼けた胸に顔を埋めて、私は恐る恐る目を開く。
私を抱きしめたまま、ジェクトはそっと私の頭を撫でる。
まるで、泣いている子供をあやす様に…
「…怖かったな。もう、大丈夫だ」
その一言は、私の何かを壊してしまったようで、硬く強張った私の体は気が緩んでしまったようにフワリと力が抜けていく。
それと同時に両の目から溢れ出てくる、生暖かい液体。
「…ふ、う、う…、うっ、くっ……」
「ラフテル、もう、大丈夫だからな。誰にも、お前を触れさせねえ。もう、怖い思いはさせねえ」
「…うう、ジェクト……」
年甲斐もなく、声を出して泣き出してしまった私を、ジェクトは慰め続けてくれた。
アーロンと、私にあんな仕打ちをしたアーロンと同じ性別の人間であるはずなのに、あんなに恐怖を感じていたはずなのに、どうしてだろう?
こんなに、安心感を感じる。
私は父親という存在を知らない。
でも、父親って、こんな感じなんだろうか?
誰かのことを想う。
そんな気持ちやこの感情の名前はよく分からないけど、ブラスカやジェクト、それに私にこんなことをする以前のアーロンに感じていた気持ち。
たしかに、みんなのことは好きだ。
でもそれは特別なものではないように感じていた。
そう、強いて言うなら、家族のような…
ジェクトには、家族がいたはずだ。
その家族が、羨ましかった。
私もジェクトの子として生まれたかった。
→
2,aug,2011
ジェクトは、何も言わなかった。
私の顔をじっと見て、今私たちがいる場所を見回して、そして溜息をついた。
彼も男だ。
ここで何があったのか、すぐに察したのだろう。
「…ラフテル」
その言葉1つにさえ、私はビクリと肩を震わせてしまう。
心臓がバクバクと激しく脈打ち、飛び出して潰れてしまうのではないかと錯覚させる。
怖い。
目の前にいられることが、怖い。
見つめられることが、声を掛けられることが、恐ろしくて堪らない。
これはジェクトなのに、…もし今目の前にアーロンがいたら、私はおかしくなってしまいそうだ。
「…ラフテル、大丈夫だ。…もう、大丈夫だ」
ゆっくり、1つ1つ丁寧に言葉を発する。
そして、ゆっくりと近づいてくる。
私はジェクトと同じ歩調で後退していく。
だがすぐに岩壁に背中が当たって、それ以上進めなくなってしまう。
ジェクトは、ゆっくりと繰り返し大丈夫と言いながら、近づいてくる。
私は自分に言い聞かせる。
「(これは、ジェクトだ…)」
ぎゅっと目を硬く閉じて、目に入るものさえ拒絶しようとしていた私の体に、ジェクトがそっと触れたのがわかった。
体を大きく震わせて、襲い来る恐怖心に耐える。
背中に回された逞しい腕が、そっと壊れ物でも扱うように、優しく私を抱きしめた。
私は体を強張らせたまま、動くこともできずにされるがままだ。
鍛えられてよく日に焼けた胸に顔を埋めて、私は恐る恐る目を開く。
私を抱きしめたまま、ジェクトはそっと私の頭を撫でる。
まるで、泣いている子供をあやす様に…
「…怖かったな。もう、大丈夫だ」
その一言は、私の何かを壊してしまったようで、硬く強張った私の体は気が緩んでしまったようにフワリと力が抜けていく。
それと同時に両の目から溢れ出てくる、生暖かい液体。
「…ふ、う、う…、うっ、くっ……」
「ラフテル、もう、大丈夫だからな。誰にも、お前を触れさせねえ。もう、怖い思いはさせねえ」
「…うう、ジェクト……」
年甲斐もなく、声を出して泣き出してしまった私を、ジェクトは慰め続けてくれた。
アーロンと、私にあんな仕打ちをしたアーロンと同じ性別の人間であるはずなのに、あんなに恐怖を感じていたはずなのに、どうしてだろう?
こんなに、安心感を感じる。
私は父親という存在を知らない。
でも、父親って、こんな感じなんだろうか?
誰かのことを想う。
そんな気持ちやこの感情の名前はよく分からないけど、ブラスカやジェクト、それに私にこんなことをする以前のアーロンに感じていた気持ち。
たしかに、みんなのことは好きだ。
でもそれは特別なものではないように感じていた。
そう、強いて言うなら、家族のような…
ジェクトには、家族がいたはずだ。
その家族が、羨ましかった。
私もジェクトの子として生まれたかった。
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2,aug,2011