第2章【過去の記憶】
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=12=
酷い寒さと痛みで覚醒した。
ゆっくりと体を起こして辺りを伺う。
人の気配はない。
どれくらい意識を手放していたのだろうか。
慌ててそこらにあった自分の衣服を身に着ける。
動く度に、秘部と腰に重い鈍痛が走る。
自分が横たわっていた箇所に目を落とすと、白い氷の上に落ちた、鮮やかな赤。
はっとして先程までの行為を思い出す。
悔しいという思いと、湧き上がる憎しみ。
ほんの少しでも気を失ったことで、僅かに魔力が回復してきたのか、自分の体の周りの空気を調整できる。
これで寒さはなんとかなる。
己の心を落ち着かせようと、深く深く深呼吸を繰り返した。
冷たくて澄んだ冷気が肺の中で私自身の思考をも清浄にしてくれるようだ。
…奴を、憎いと思った。
だが、今までのこと、これからのことを考えると、憎んでばかりはいられない。
それに、あの状態では不可抗力とも取られても仕方がなかった。
悪いのは、このタイミングと、私自身。
もっと周りに目を配ることができていれば…
もっと先のことを考えて行動していれば…
浮かぶ後悔を並べても、今更それをやり直せるわけもなく、ただ、虚しいだけ。
そこに置かれた自分の武器を拾おうと、身を屈ませる。
武器の上に翳した手のすぐ横に、ポタリと一滴。
はっとして瞬きを数回繰り返す。
零れた雫は己の目から溢れた、涙だった。
気が付かないうちに、いつの間にか泣いていたらしい。
力なく、その場にペタリと腰を落とした。
この崖の淵から身を投げたら、楽になるだろうかなんて、できもしないことを思い浮かべてみる。
座り込んだ姿勢のまま、呆けたようになんとなく視線を空に向けた。
たくさんの幻光虫が、幻想的にフワリと舞っているのが見えた。
そういえば、アーロンはどこに行ってしまったのか。
自分が気が付いたときにはもう姿は見えなかった。
上に、戻ったのだろうか?
そして、正気に戻っただろうか?
もうこれから、この先、どんな顔をして奴と会えばいいのだろうか。
私は正気を保っていられるだろうか?
ブラスカやジェクトに、話したほうがいいだろうか?
尻に感じる冷たさなど、先程の行為の痛みに比べたら羽に包まれているようなものだと感じる。
「お~い、ラフテル~! 生きてるか~!?」
「!!」
目の前にぱっくりと口を開けている深い谷底の岩壁に木霊するジェクトの声が聞こえた。
手放していた意識を覚醒させて、私は顔を上げた。
「ラフテル!」
再び声が聞こえた。
今度は先程よりもずっと近い場所から。
頭上を振り仰ぐようにして、私はジェクトの姿を探した。
姿を見つけることはできなかったが、私を呼ぶ声がどんどん近くなってくる。
「ジェクト!ここだ!」
「ラフテル、無事か?」
私が立つ岩棚に足を乗せたジェクトが、身軽にポンとすぐ傍まで降り立った。
私の姿を確認して、どこか安堵したようにジェクトはいつもの顔で笑った。
なぜだろう、急にその顔がとんでもない恐ろしい怪物のような形相に重なって見える。
私に近づいてくるその動きが恐ろしくて、私は思わず身を引いて後退してしまう。
「…? どうした?」
私の様子に異変を感じたのだろう。
その場で足を止めたジェクトが軽く聞いてくる。
「…あ、いや、…な、なんでもない、よ」
「どっか、痛めたのか?」
聞きながら、ジェクトは更に私に1歩近づく。
「!!」
同時に私は1歩後退してしまう。
「…ラフテル? なんだ?どうした?」
「…な、なんでも、ない。…ほんと、なんでもない、から」
「なんでもなくねーだろ。…何があった?」
今の私の様子を見て、本当になんでもないと信じられる者がいるだろうか…
→
29,jul,2011
酷い寒さと痛みで覚醒した。
ゆっくりと体を起こして辺りを伺う。
人の気配はない。
どれくらい意識を手放していたのだろうか。
慌ててそこらにあった自分の衣服を身に着ける。
動く度に、秘部と腰に重い鈍痛が走る。
自分が横たわっていた箇所に目を落とすと、白い氷の上に落ちた、鮮やかな赤。
はっとして先程までの行為を思い出す。
悔しいという思いと、湧き上がる憎しみ。
ほんの少しでも気を失ったことで、僅かに魔力が回復してきたのか、自分の体の周りの空気を調整できる。
これで寒さはなんとかなる。
己の心を落ち着かせようと、深く深く深呼吸を繰り返した。
冷たくて澄んだ冷気が肺の中で私自身の思考をも清浄にしてくれるようだ。
…奴を、憎いと思った。
だが、今までのこと、これからのことを考えると、憎んでばかりはいられない。
それに、あの状態では不可抗力とも取られても仕方がなかった。
悪いのは、このタイミングと、私自身。
もっと周りに目を配ることができていれば…
もっと先のことを考えて行動していれば…
浮かぶ後悔を並べても、今更それをやり直せるわけもなく、ただ、虚しいだけ。
そこに置かれた自分の武器を拾おうと、身を屈ませる。
武器の上に翳した手のすぐ横に、ポタリと一滴。
はっとして瞬きを数回繰り返す。
零れた雫は己の目から溢れた、涙だった。
気が付かないうちに、いつの間にか泣いていたらしい。
力なく、その場にペタリと腰を落とした。
この崖の淵から身を投げたら、楽になるだろうかなんて、できもしないことを思い浮かべてみる。
座り込んだ姿勢のまま、呆けたようになんとなく視線を空に向けた。
たくさんの幻光虫が、幻想的にフワリと舞っているのが見えた。
そういえば、アーロンはどこに行ってしまったのか。
自分が気が付いたときにはもう姿は見えなかった。
上に、戻ったのだろうか?
そして、正気に戻っただろうか?
もうこれから、この先、どんな顔をして奴と会えばいいのだろうか。
私は正気を保っていられるだろうか?
ブラスカやジェクトに、話したほうがいいだろうか?
尻に感じる冷たさなど、先程の行為の痛みに比べたら羽に包まれているようなものだと感じる。
「お~い、ラフテル~! 生きてるか~!?」
「!!」
目の前にぱっくりと口を開けている深い谷底の岩壁に木霊するジェクトの声が聞こえた。
手放していた意識を覚醒させて、私は顔を上げた。
「ラフテル!」
再び声が聞こえた。
今度は先程よりもずっと近い場所から。
頭上を振り仰ぐようにして、私はジェクトの姿を探した。
姿を見つけることはできなかったが、私を呼ぶ声がどんどん近くなってくる。
「ジェクト!ここだ!」
「ラフテル、無事か?」
私が立つ岩棚に足を乗せたジェクトが、身軽にポンとすぐ傍まで降り立った。
私の姿を確認して、どこか安堵したようにジェクトはいつもの顔で笑った。
なぜだろう、急にその顔がとんでもない恐ろしい怪物のような形相に重なって見える。
私に近づいてくるその動きが恐ろしくて、私は思わず身を引いて後退してしまう。
「…? どうした?」
私の様子に異変を感じたのだろう。
その場で足を止めたジェクトが軽く聞いてくる。
「…あ、いや、…な、なんでもない、よ」
「どっか、痛めたのか?」
聞きながら、ジェクトは更に私に1歩近づく。
「!!」
同時に私は1歩後退してしまう。
「…ラフテル? なんだ?どうした?」
「…な、なんでも、ない。…ほんと、なんでもない、から」
「なんでもなくねーだろ。…何があった?」
今の私の様子を見て、本当になんでもないと信じられる者がいるだろうか…
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29,jul,2011