第1章【2年後のお話】
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
=1=
この命というものが存在しない、魂だけの世界で、私は何を知ったのだろう。
何を見てきたのだろう。
何を学んだのだろう。
何のために存在してきたのだろう…?
自分の本当の気持ち、素直に出せない感情、心の奥底に眠る、大切な想い。
声に出して言ったことはあるだろうか?
誰かに伝えたことはあるだろうか?
命を持ち、命の溢れる世界で生きていたときにも出来なかったことが、この世界で出来ているだろうか?
異界という世界は途方も無く広い。
限りなんて最初から無いのかもしれない。
それは私達が生きて暮らしていたスピラの星空と同じ様に、無限なのかもしれない。
この無限の世界で、不思議な出来事が起こったとしても、何らおかしなことではないのだろうか。
「……ラフテル、か……?」
おかしな疑問系の言葉を掛けられた方を振り向いた。
そこに立っていた人物。
私は言葉を失ってしまう。
見覚えのある、赤い服を身に纏った、青年……。
…どうして?
なぜ“彼”がここにいる…!?
なぜこの姿で私の目の前に現われたのだろうか?
「…ど、どう、して…?」
何とか搾り出した言葉を聞き取ったのか、その青年は私の顔を見て真面目そうな厳しい顔を崩して、……笑った。
ドキリと胸が高鳴った。
“彼”のこの時のこんな笑顔を見たのは初めてだった。
いつも怒っているような真面目な堅苦しい表情しか表に出さない人物だったから。
あぁ、こんな顔で笑うんだ…
今まで全く想像すらしなかった、できなかったその顔に見惚れてしまう。
ブラスカやジェクトのものとはまた違う、温かな笑顔。
どこかはにかんだ様な、もっと幼く見える笑顔。
心臓がどきどきと大きな鼓動を繰り返す。
…心臓?
ヒトの形を保っているとは言っても、所詮は魂の塊。
だが、ならば胸の中で騒いでいるのは何だ?
そこにいたのは、有り得ない人物。
「髪、伸ばしたのか、うん、いいな。…少し、老けたか?」
久しぶり、とでもいうように明るく話すこの青年はどう見ても10年前の、一緒に旅をしてた頃のアーロンだ。
違うのは、この柔らかい感じと優しい笑顔。
「ラフテル?」
私が何も答えられずにいると、伺うように私の名を呼びながら顔を覗き込んでくる。
はっとして思わず一歩後退してしまった。
すぐ間近にあった彼の顔はやっぱりあの当時の無精髭もないきれいに整った顔で、反射的に私は己の顔が熱くなるのに気付いた。
これがあのアーロン!?
どうしてこんな姿でここにいるんだ?
軽くパニックになっている私の頭の中には、様々な考えが浮かんでは消える。
「ラフテル、少し話さないか?あれからどれくらい経ったんだ?スピラは、どうなった?」
混乱する頭のまま、目の前にいる若い姿のアーロンから目を逸らせられない。
高鳴る胸の鼓動が収まらない。
落ち着け落ち着けと自分に言い聞かせ、火照る頬を冷たい手のひらで鎮めようとする。
話は、私もしてみたい。
聞きたい、何があったのか、なぜこんな姿でここにいるのか。
そして、確かめたい。
今、帰るべき場所にいるはずの、今のアーロンは…?
「…あ、あの、今日は、もう、帰らないと……」
なんとか必死に声を絞り出す。
「帰るって、どこへだ?…ここは異界だろう、と言うことは俺もお前ももう生きてはいない。今更どこに帰る場所があるんだ…」
「異界だとしても、私には帰る場所がある」
少し寂しそうな顔をして、彼はそうか、と笑った。
「す、すまない、アー……」
名前を、この名前で呼んでいいものなのか分からず、途中で言葉は途切れてしまう。
「いいさ。だが、代わりに明日は会ってくれ」
こういう口調はいかにもこいつだな、なんて感じながらも、私はゆっくり頷いてしまった。
→
21,jun,2011
この命というものが存在しない、魂だけの世界で、私は何を知ったのだろう。
何を見てきたのだろう。
何を学んだのだろう。
何のために存在してきたのだろう…?
自分の本当の気持ち、素直に出せない感情、心の奥底に眠る、大切な想い。
声に出して言ったことはあるだろうか?
誰かに伝えたことはあるだろうか?
命を持ち、命の溢れる世界で生きていたときにも出来なかったことが、この世界で出来ているだろうか?
異界という世界は途方も無く広い。
限りなんて最初から無いのかもしれない。
それは私達が生きて暮らしていたスピラの星空と同じ様に、無限なのかもしれない。
この無限の世界で、不思議な出来事が起こったとしても、何らおかしなことではないのだろうか。
「……ラフテル、か……?」
おかしな疑問系の言葉を掛けられた方を振り向いた。
そこに立っていた人物。
私は言葉を失ってしまう。
見覚えのある、赤い服を身に纏った、青年……。
…どうして?
なぜ“彼”がここにいる…!?
なぜこの姿で私の目の前に現われたのだろうか?
「…ど、どう、して…?」
何とか搾り出した言葉を聞き取ったのか、その青年は私の顔を見て真面目そうな厳しい顔を崩して、……笑った。
ドキリと胸が高鳴った。
“彼”のこの時のこんな笑顔を見たのは初めてだった。
いつも怒っているような真面目な堅苦しい表情しか表に出さない人物だったから。
あぁ、こんな顔で笑うんだ…
今まで全く想像すらしなかった、できなかったその顔に見惚れてしまう。
ブラスカやジェクトのものとはまた違う、温かな笑顔。
どこかはにかんだ様な、もっと幼く見える笑顔。
心臓がどきどきと大きな鼓動を繰り返す。
…心臓?
ヒトの形を保っているとは言っても、所詮は魂の塊。
だが、ならば胸の中で騒いでいるのは何だ?
そこにいたのは、有り得ない人物。
「髪、伸ばしたのか、うん、いいな。…少し、老けたか?」
久しぶり、とでもいうように明るく話すこの青年はどう見ても10年前の、一緒に旅をしてた頃のアーロンだ。
違うのは、この柔らかい感じと優しい笑顔。
「ラフテル?」
私が何も答えられずにいると、伺うように私の名を呼びながら顔を覗き込んでくる。
はっとして思わず一歩後退してしまった。
すぐ間近にあった彼の顔はやっぱりあの当時の無精髭もないきれいに整った顔で、反射的に私は己の顔が熱くなるのに気付いた。
これがあのアーロン!?
どうしてこんな姿でここにいるんだ?
軽くパニックになっている私の頭の中には、様々な考えが浮かんでは消える。
「ラフテル、少し話さないか?あれからどれくらい経ったんだ?スピラは、どうなった?」
混乱する頭のまま、目の前にいる若い姿のアーロンから目を逸らせられない。
高鳴る胸の鼓動が収まらない。
落ち着け落ち着けと自分に言い聞かせ、火照る頬を冷たい手のひらで鎮めようとする。
話は、私もしてみたい。
聞きたい、何があったのか、なぜこんな姿でここにいるのか。
そして、確かめたい。
今、帰るべき場所にいるはずの、今のアーロンは…?
「…あ、あの、今日は、もう、帰らないと……」
なんとか必死に声を絞り出す。
「帰るって、どこへだ?…ここは異界だろう、と言うことは俺もお前ももう生きてはいない。今更どこに帰る場所があるんだ…」
「異界だとしても、私には帰る場所がある」
少し寂しそうな顔をして、彼はそうか、と笑った。
「す、すまない、アー……」
名前を、この名前で呼んでいいものなのか分からず、途中で言葉は途切れてしまう。
「いいさ。だが、代わりに明日は会ってくれ」
こういう口調はいかにもこいつだな、なんて感じながらも、私はゆっくり頷いてしまった。
→
21,jun,2011
1/7ページ