第11章【帰ろう、ともに…】
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【 99 】
本当にこれでよかったのかと、まだ俺は迷っているらしい。
いつまでも女々しいと、こいつに詰められそうだ。
そうするのがいいと言うのならば、俺はもう何も言うまい。
だが、その後どうするかは俺に決めさせて貰おう。
でなければ、俺は立場がない。
お前を探してこんなところにまでやってきて、手ぶらで帰るわけにはいかんからな。
あの少年、ソラが戦っているのを、俺はここで見守っていることしかできない。
以前もこうして見ていることしかできなかった場面があった。
その時のことを思い出さずにはいられない。
だが、あの時とは違う。
これは彼女が望んだことなのだ。
ソラは素晴らしい才能を持っている。
ちゃんと指導を受けることができたら、腕の立つ戦士となれるだろう。
彼とは、こんな場所ではない所で違う形で出会いたかったと思った。
もしかしたらティーダも適わないだろう。
その子が目の前で戦っている。
形を変え、大きさを変え、その攻撃には一貫性はなく、あらゆる方向から予測も付けられず、それでも何度も何度も立ち向かう。
闇という、その存在さえ不確かなものと、少年は対峙を続けている。
「ソラ、手を貸すよ!」
「ボク達も一緒に……、っ!!!」
ソラと共にいた仲間達を、俺は太刀で制する。
一瞬驚いて声を失うが、すぐに俺に食ってかかる。
…まあ、当然だろうな。
「…これは、ソラの役目だ。 彼にしかできない、彼がやるべき事」
俺の言葉の意味がすぐに理解できなかったのだろう。
2人はぎゃんぎゃんと反発の言葉を投げ掛ける。
答えることすら煩わしさを覚え、何も言わずにいるとやがて2人も諦めたのか、納得はしていないようだがおとなしく見守ることにしたようだ。
何度も思わず声を上げそうになる場面に遭遇する。
だがそれを無理矢理に飲み込んで、小さな嘆息に変える。
無限とも思えた時間が過ぎ、そしてとうとうその時が来た。
ソラの捨て身とも見える攻撃を弾かれ、地に腰を落とした。
覆い被さるように闇がソラを隠していく。
側で2人の悲鳴のような声を聴いた瞬間、闇が動きを止めた。
不気味な声を上げて大きく仰け反った闇の胸には、キーブレードが深々と突き刺さっていた。
尻もちをついたままの恰好で、ソラは大きな早い呼吸を繰り返し、あのでかい青い目で闇を見つめていた。
隣からの悲鳴は歓声に変わり、2人はソラの元へ駆け寄った。
ソラと目が合った。
ラフテルを抱いたままゆっくりと立ち上がる。
それを合図にするかのように、俺の腕の中のラフテルは黒い煙となって宙に消えた。
俺もソラをじっと見つめたまま足を進める。
疲れ切った、それでもどこか満足気な表情を浮かべていたその顔は、俺が距離を縮めるにつれてどんどん険しいものに変わっていく。
実際戦ったのはこいつなんだ。
俺の意図をすぐに理解しただろう。
それでもこうして最後まで続けてくれた。
彼女の望みを果たしてくれた。
どんな罵声を浴びせられても仕方なかろう。
キーブレードが突き立てられたままの黒い闇の塊を引き寄せた。
苦しいのか、異様なほどにガタガタと震え、闇を撒き散らしている。
「………」
駆け寄ってきた仲間達の声に答えることもなく、ただじっと俺を見上げ、睨んでいる。
「…俺を恨んで構わん。 お前を騙し、利用したのだから」
ソラからの返事はなかった。
相変わらず、青いでかい目で俺を見上げていた。
だがふいに、その目から大粒の涙がボロボロと溢れた。
俺は言葉を失った。
引き寄せた闇の塊は、うっすらと人の形を残してはいたが、酷く曖昧な存在になっているようだ。
頬に触れたものは、ラフテルが伸ばした手なのか、たまたま空気に溶ける途中に触れた闇の欠片だったのか。
腕の中の闇に質量はなく、お前の金色に光る眼だけがお前の存在を知らせてくれる。
「(…ソラ、大事な、もの、…だろ?)」
「!! ……う、うん」
ようやく聞き取れるような小さな小さな囁き。
あの時のデジャヴを感じさせるやり取りで、キーブレードはソラの手に戻る。
ほっとしたかのように、ラフテルの形を作る闇が俺に身を寄せる。
「お姉さん! お、俺…!」
「お前は、自分の果たすべき事をやっただけに過ぎん。 自分を責めるなよ」
「(…ソラ、…ありが、とう)」
「そんな、お姉さん! ……ラフテル―――っ!!」
ソラの痛々しい叫びは俺の胸をも抉っていく。
彼女がヒトではない存在であることはよくわかっているつもりだというのに、それでもこんな形で自分の腕の中から消えてゆくお前を見るのが酷く辛い。
幻光虫の美しい光となって宙に還るのならばまだしも、黒い闇は黒い軌跡しか残さない。
「…ラフテル、俺はお前を…」
「(…アーロン、…迎え、うれし、かった。…やっと、かえれ、るね…)」
「あぁ、帰ろう」
彼女の消え入りそうな小さな囁きの後、金色の光は小さくなっていき、そして消えてしまった。
腕の中に残った僅かな闇の残像は、握った手の中に残ることはなかった。
自分が情けない。
ラフテル、お前を守ることができなかった。
俺は女一人すら守ることができない。
これまでも何度も何度も、お前の危機を知っていて、俺はお前を救えなかった。
力のない俺を嘲笑え、罵れ。
何もできないくせにお前を追いかけることしかできん俺には、お前の側にいる資格はないのかもしれん。
…ラフテル、それでもお前の手を離したくない、共にありたいと願うのは俺の我が儘なのだろう。
お前の胸に突き刺さったものが俺の胸にも痛みを伝えている。
…あの時のお前の気持ちを、少しだけ理解できたかもしれん。…ほんの、少しだけ。
→
26,sep,2015
本当にこれでよかったのかと、まだ俺は迷っているらしい。
いつまでも女々しいと、こいつに詰められそうだ。
そうするのがいいと言うのならば、俺はもう何も言うまい。
だが、その後どうするかは俺に決めさせて貰おう。
でなければ、俺は立場がない。
お前を探してこんなところにまでやってきて、手ぶらで帰るわけにはいかんからな。
あの少年、ソラが戦っているのを、俺はここで見守っていることしかできない。
以前もこうして見ていることしかできなかった場面があった。
その時のことを思い出さずにはいられない。
だが、あの時とは違う。
これは彼女が望んだことなのだ。
ソラは素晴らしい才能を持っている。
ちゃんと指導を受けることができたら、腕の立つ戦士となれるだろう。
彼とは、こんな場所ではない所で違う形で出会いたかったと思った。
もしかしたらティーダも適わないだろう。
その子が目の前で戦っている。
形を変え、大きさを変え、その攻撃には一貫性はなく、あらゆる方向から予測も付けられず、それでも何度も何度も立ち向かう。
闇という、その存在さえ不確かなものと、少年は対峙を続けている。
「ソラ、手を貸すよ!」
「ボク達も一緒に……、っ!!!」
ソラと共にいた仲間達を、俺は太刀で制する。
一瞬驚いて声を失うが、すぐに俺に食ってかかる。
…まあ、当然だろうな。
「…これは、ソラの役目だ。 彼にしかできない、彼がやるべき事」
俺の言葉の意味がすぐに理解できなかったのだろう。
2人はぎゃんぎゃんと反発の言葉を投げ掛ける。
答えることすら煩わしさを覚え、何も言わずにいるとやがて2人も諦めたのか、納得はしていないようだがおとなしく見守ることにしたようだ。
何度も思わず声を上げそうになる場面に遭遇する。
だがそれを無理矢理に飲み込んで、小さな嘆息に変える。
無限とも思えた時間が過ぎ、そしてとうとうその時が来た。
ソラの捨て身とも見える攻撃を弾かれ、地に腰を落とした。
覆い被さるように闇がソラを隠していく。
側で2人の悲鳴のような声を聴いた瞬間、闇が動きを止めた。
不気味な声を上げて大きく仰け反った闇の胸には、キーブレードが深々と突き刺さっていた。
尻もちをついたままの恰好で、ソラは大きな早い呼吸を繰り返し、あのでかい青い目で闇を見つめていた。
隣からの悲鳴は歓声に変わり、2人はソラの元へ駆け寄った。
ソラと目が合った。
ラフテルを抱いたままゆっくりと立ち上がる。
それを合図にするかのように、俺の腕の中のラフテルは黒い煙となって宙に消えた。
俺もソラをじっと見つめたまま足を進める。
疲れ切った、それでもどこか満足気な表情を浮かべていたその顔は、俺が距離を縮めるにつれてどんどん険しいものに変わっていく。
実際戦ったのはこいつなんだ。
俺の意図をすぐに理解しただろう。
それでもこうして最後まで続けてくれた。
彼女の望みを果たしてくれた。
どんな罵声を浴びせられても仕方なかろう。
キーブレードが突き立てられたままの黒い闇の塊を引き寄せた。
苦しいのか、異様なほどにガタガタと震え、闇を撒き散らしている。
「………」
駆け寄ってきた仲間達の声に答えることもなく、ただじっと俺を見上げ、睨んでいる。
「…俺を恨んで構わん。 お前を騙し、利用したのだから」
ソラからの返事はなかった。
相変わらず、青いでかい目で俺を見上げていた。
だがふいに、その目から大粒の涙がボロボロと溢れた。
俺は言葉を失った。
引き寄せた闇の塊は、うっすらと人の形を残してはいたが、酷く曖昧な存在になっているようだ。
頬に触れたものは、ラフテルが伸ばした手なのか、たまたま空気に溶ける途中に触れた闇の欠片だったのか。
腕の中の闇に質量はなく、お前の金色に光る眼だけがお前の存在を知らせてくれる。
「(…ソラ、大事な、もの、…だろ?)」
「!! ……う、うん」
ようやく聞き取れるような小さな小さな囁き。
あの時のデジャヴを感じさせるやり取りで、キーブレードはソラの手に戻る。
ほっとしたかのように、ラフテルの形を作る闇が俺に身を寄せる。
「お姉さん! お、俺…!」
「お前は、自分の果たすべき事をやっただけに過ぎん。 自分を責めるなよ」
「(…ソラ、…ありが、とう)」
「そんな、お姉さん! ……ラフテル―――っ!!」
ソラの痛々しい叫びは俺の胸をも抉っていく。
彼女がヒトではない存在であることはよくわかっているつもりだというのに、それでもこんな形で自分の腕の中から消えてゆくお前を見るのが酷く辛い。
幻光虫の美しい光となって宙に還るのならばまだしも、黒い闇は黒い軌跡しか残さない。
「…ラフテル、俺はお前を…」
「(…アーロン、…迎え、うれし、かった。…やっと、かえれ、るね…)」
「あぁ、帰ろう」
彼女の消え入りそうな小さな囁きの後、金色の光は小さくなっていき、そして消えてしまった。
腕の中に残った僅かな闇の残像は、握った手の中に残ることはなかった。
自分が情けない。
ラフテル、お前を守ることができなかった。
俺は女一人すら守ることができない。
これまでも何度も何度も、お前の危機を知っていて、俺はお前を救えなかった。
力のない俺を嘲笑え、罵れ。
何もできないくせにお前を追いかけることしかできん俺には、お前の側にいる資格はないのかもしれん。
…ラフテル、それでもお前の手を離したくない、共にありたいと願うのは俺の我が儘なのだろう。
お前の胸に突き刺さったものが俺の胸にも痛みを伝えている。
…あの時のお前の気持ちを、少しだけ理解できたかもしれん。…ほんの、少しだけ。
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26,sep,2015