第11章【帰ろう、ともに…】
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【 97 】
「ソラ、話したいことがある」
俺の言葉に、ソラはまっすぐにこちらに歩み寄ってきた。
ラフテルを腕に抱いたまま、ソラの少し曇った海の色の瞳を見つめる。
「ソラ、お前に頼みたいことがある。 難しいことだが引き受けてほしい」
「…何?」
「…こいつを、…ラフテルを、助けてくれ」
「えっ…」
目が、ただでさえでかい目がさらに見開かれる。
思わず、といった様子で片足が一歩後退した。
なんと反応したらいいのかわからないのだろう。
何か言葉を出そうとして、だが出せずに飲み込むしかない。
そんな態度がまるわかりだ。
「混乱している、だろう。 順を追って説明したいが、まずはお前の果たすべきことを終わらせて来い。
…奴の約束の件だが、生き返らせるのが最終目的であれば間接的なことでも、望めば果たされるはずだ。
…ソラ、俺を戻してくれた時のような人形が、ラフテルの分もあるはずだ。 そいつを…」
「わかった!」
明るい返事に意表を突かれ、後に続けるはずだった言葉を失ってしまった。
「ラフテルは、まだ死んでない、そういうことだよね!」
「あ、ああ…」
「よかった。 後でちゃんと説明してよね!」
ソラの顔に明るさが戻った。
飛び跳ねるようにして仲間達の元へ駆けて行く。
だが、それは心からのものではあるまい。
望んだことではないにしろ、ヒトの命を奪う行為をしたばかりなのだ。
あれは明るく振る舞っているだけだ。
俺の腕の中で静かに目を閉じているお前を見つめて、俺はどこか安堵しているのかもしれない。
そして同時に僅かな恐怖をも感じていた。
ようやくこうしてお前を腕に抱ける時が来たというのに、俺は無情にももっと残酷なことをさせようとしている。
それも、幼い子供にだ。
「あの時とは逆になったな」
俺を殺そうとしたお前は、自分の幻光虫を俺に分け与えてくれた。
だから俺は今こうしてここに存在していられる。
…そうか、だからお前の体は幻光虫に変わることもなく闇に溶けていこうとしているのか。
今更になって、ハートレスという闇の世界の存在を実感する。
「…ん」
「ラフテル?」
「…客だ」
「?」
目を開けたラフテルが小さく呟いた。
目の前の空間がじわじわと歪んでいく。
そこから黒い闇が染み出してきて、その面積を大きくしていく。
ラフテルを抱いたまま動けない俺に向かってなのか、今にも消えてしまいそうな自分自身に向かってなのか、ラフテルは『大丈夫』と言った。
闇はやがて俺達を覆い、闇に包まれた真っ暗な世界でたった2人きり取り残された気分になる。
だが、不安はない。恐怖もない。
ただ、これからどうすべきかと思っていた。
ラフテルに声を掛けようとした瞬間、気配も感じさせずどこからか声が聞こえてきた。
「お楽しみだったかな? 子猫ちゃん」
「!!」
思わず身構える俺を、ラフテルは抑えるように肩に触れる。
闇の中にいて気が付かなかった。
黒いフードを被った人物がそこにいた。
口許だけが僅かに見えている。
幻光虫を1匹放ってそいつに近付けてみる。
頭からすっぽり全身黒い服で身を包んでいる。
…俺はこいつを知っている。
あの時、ラフテルと戦っていた何度目かの時に、彼女を連れ去った男。
「…シグバール、待たせた。すまない」
そいつの名を呼ぶことに苛つく。
意味もなくこの男に嫌悪感を抱く。
…これは嫉妬か?
俺とラフテルの側で屈みこんでフードを外したこいつの顔を、俺はそこで初めて目にすることになる。
あの時はフードのせいで顔が見えなかったが、なぜラフテルがこいつと関わりを持ったのか、少しだけわかったような気がする。
…えらく気に食わないが。
「…ふ~ん、…ラフテル、お前さん、俺にこいつを重ねてたな?」
「ははは、わかった?」
考えはお互い様というところか。
それよりも…。
「おい、ここは何だ?」
「ん? ここ? ここは闇の世界の入口。 ここは生きた人間は入れない。 闇に心を囚われてしまうから。 だが、おたくら2人はここにいる。 つまり人間じゃないってハナシ」
「…それは貴様も含めて、だろう」
「人間じゃないってことはわかったが、…んん? では、おたくは何だ? 冥界の戦士」
「俺のことなどどうでもいい」
こいつが、ラフテルから聞いた機関と呼ばれる者の1人か。
ラフテルが変態野郎と呼んでいた彼女の元主、奴と同じ闇の者だが明らかに質が違う。
機関とはどういうものなのか、その存在の理由やら何やらは、確かに謎ではあるがはっきり言って今はどうでもいい。
「やっと質問の答えを貰えるんだな」
「アーロンが、ここに私を探しに来ることになった理由だ」
俺の顔を見つめながら、男の問いかけにそう答えた。
俺に視線を向けた男は俺の返答を待っているのだろう。
ラフテルの、その言葉に思い当たる事柄なんて1つだけだ。
向うに、スピラに置いてきた、もう1人のラフテル。
記憶のねじまがった彼女は今、どうしているだろうか?
ユウナ達と共にいるのだろうか?
「…心当たりがあるって顔してるな」
「さっき話しただろ、アーロン? 私のようなハートレスが生まれる時、稀にその抜け殻であるノーバディと呼ばれるものが出てくる、と。
私はハートレスだ。 つまり、アーロンが会ったという私が……」
「ノーバディ、俺達が知りたかったことだ」
「彼女の存在を知ってどうするつもりだ?」
「そりゃ勿論、始末する」
「!!」
「シグバール、待って! どういうことだ」
「俺には、ファレルクスを抹殺するという使命があるってハナシだ。 子猫ちゃんには話したよな?」
「……あぁ、だが、なぜ?」
「俺達機関のメンバーはノーバディだ。 俺達の夢は完全な体を手に入れること。
それの為なら利用できるモンは何でも利用するし、邪魔なモンは徹底的に排除する。
一度でも機関に加入したら掟は絶対だ。 抜けるには死しか方法はない」
「だからファレルクスを……?」
「まあ、この機関にも上って奴がいて、そいつの命令だからな。 俺がちゃんと始末したはずだと思ったんだが、
……お前さんという存在が現れた」
「私は機関とは関係ない」
「ああ、話を聞いて、それは俺もわかった」
「だったらなぜ!?」
「俺達の最終目的は伝えたはずだ。 一度消したはずのノーバディが再び存在できているという事実。 そいつがわかれば、俺達の目的は近づくんじゃないかってハナシ」
→
24,sep,2015
「ソラ、話したいことがある」
俺の言葉に、ソラはまっすぐにこちらに歩み寄ってきた。
ラフテルを腕に抱いたまま、ソラの少し曇った海の色の瞳を見つめる。
「ソラ、お前に頼みたいことがある。 難しいことだが引き受けてほしい」
「…何?」
「…こいつを、…ラフテルを、助けてくれ」
「えっ…」
目が、ただでさえでかい目がさらに見開かれる。
思わず、といった様子で片足が一歩後退した。
なんと反応したらいいのかわからないのだろう。
何か言葉を出そうとして、だが出せずに飲み込むしかない。
そんな態度がまるわかりだ。
「混乱している、だろう。 順を追って説明したいが、まずはお前の果たすべきことを終わらせて来い。
…奴の約束の件だが、生き返らせるのが最終目的であれば間接的なことでも、望めば果たされるはずだ。
…ソラ、俺を戻してくれた時のような人形が、ラフテルの分もあるはずだ。 そいつを…」
「わかった!」
明るい返事に意表を突かれ、後に続けるはずだった言葉を失ってしまった。
「ラフテルは、まだ死んでない、そういうことだよね!」
「あ、ああ…」
「よかった。 後でちゃんと説明してよね!」
ソラの顔に明るさが戻った。
飛び跳ねるようにして仲間達の元へ駆けて行く。
だが、それは心からのものではあるまい。
望んだことではないにしろ、ヒトの命を奪う行為をしたばかりなのだ。
あれは明るく振る舞っているだけだ。
俺の腕の中で静かに目を閉じているお前を見つめて、俺はどこか安堵しているのかもしれない。
そして同時に僅かな恐怖をも感じていた。
ようやくこうしてお前を腕に抱ける時が来たというのに、俺は無情にももっと残酷なことをさせようとしている。
それも、幼い子供にだ。
「あの時とは逆になったな」
俺を殺そうとしたお前は、自分の幻光虫を俺に分け与えてくれた。
だから俺は今こうしてここに存在していられる。
…そうか、だからお前の体は幻光虫に変わることもなく闇に溶けていこうとしているのか。
今更になって、ハートレスという闇の世界の存在を実感する。
「…ん」
「ラフテル?」
「…客だ」
「?」
目を開けたラフテルが小さく呟いた。
目の前の空間がじわじわと歪んでいく。
そこから黒い闇が染み出してきて、その面積を大きくしていく。
ラフテルを抱いたまま動けない俺に向かってなのか、今にも消えてしまいそうな自分自身に向かってなのか、ラフテルは『大丈夫』と言った。
闇はやがて俺達を覆い、闇に包まれた真っ暗な世界でたった2人きり取り残された気分になる。
だが、不安はない。恐怖もない。
ただ、これからどうすべきかと思っていた。
ラフテルに声を掛けようとした瞬間、気配も感じさせずどこからか声が聞こえてきた。
「お楽しみだったかな? 子猫ちゃん」
「!!」
思わず身構える俺を、ラフテルは抑えるように肩に触れる。
闇の中にいて気が付かなかった。
黒いフードを被った人物がそこにいた。
口許だけが僅かに見えている。
幻光虫を1匹放ってそいつに近付けてみる。
頭からすっぽり全身黒い服で身を包んでいる。
…俺はこいつを知っている。
あの時、ラフテルと戦っていた何度目かの時に、彼女を連れ去った男。
「…シグバール、待たせた。すまない」
そいつの名を呼ぶことに苛つく。
意味もなくこの男に嫌悪感を抱く。
…これは嫉妬か?
俺とラフテルの側で屈みこんでフードを外したこいつの顔を、俺はそこで初めて目にすることになる。
あの時はフードのせいで顔が見えなかったが、なぜラフテルがこいつと関わりを持ったのか、少しだけわかったような気がする。
…えらく気に食わないが。
「…ふ~ん、…ラフテル、お前さん、俺にこいつを重ねてたな?」
「ははは、わかった?」
考えはお互い様というところか。
それよりも…。
「おい、ここは何だ?」
「ん? ここ? ここは闇の世界の入口。 ここは生きた人間は入れない。 闇に心を囚われてしまうから。 だが、おたくら2人はここにいる。 つまり人間じゃないってハナシ」
「…それは貴様も含めて、だろう」
「人間じゃないってことはわかったが、…んん? では、おたくは何だ? 冥界の戦士」
「俺のことなどどうでもいい」
こいつが、ラフテルから聞いた機関と呼ばれる者の1人か。
ラフテルが変態野郎と呼んでいた彼女の元主、奴と同じ闇の者だが明らかに質が違う。
機関とはどういうものなのか、その存在の理由やら何やらは、確かに謎ではあるがはっきり言って今はどうでもいい。
「やっと質問の答えを貰えるんだな」
「アーロンが、ここに私を探しに来ることになった理由だ」
俺の顔を見つめながら、男の問いかけにそう答えた。
俺に視線を向けた男は俺の返答を待っているのだろう。
ラフテルの、その言葉に思い当たる事柄なんて1つだけだ。
向うに、スピラに置いてきた、もう1人のラフテル。
記憶のねじまがった彼女は今、どうしているだろうか?
ユウナ達と共にいるのだろうか?
「…心当たりがあるって顔してるな」
「さっき話しただろ、アーロン? 私のようなハートレスが生まれる時、稀にその抜け殻であるノーバディと呼ばれるものが出てくる、と。
私はハートレスだ。 つまり、アーロンが会ったという私が……」
「ノーバディ、俺達が知りたかったことだ」
「彼女の存在を知ってどうするつもりだ?」
「そりゃ勿論、始末する」
「!!」
「シグバール、待って! どういうことだ」
「俺には、ファレルクスを抹殺するという使命があるってハナシだ。 子猫ちゃんには話したよな?」
「……あぁ、だが、なぜ?」
「俺達機関のメンバーはノーバディだ。 俺達の夢は完全な体を手に入れること。
それの為なら利用できるモンは何でも利用するし、邪魔なモンは徹底的に排除する。
一度でも機関に加入したら掟は絶対だ。 抜けるには死しか方法はない」
「だからファレルクスを……?」
「まあ、この機関にも上って奴がいて、そいつの命令だからな。 俺がちゃんと始末したはずだと思ったんだが、
……お前さんという存在が現れた」
「私は機関とは関係ない」
「ああ、話を聞いて、それは俺もわかった」
「だったらなぜ!?」
「俺達の最終目的は伝えたはずだ。 一度消したはずのノーバディが再び存在できているという事実。 そいつがわかれば、俺達の目的は近づくんじゃないかってハナシ」
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24,sep,2015