第11章【帰ろう、ともに…】
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【 96 】
彼女の元に駆け寄った時、ゾクリと嫌な感覚が走った。
横たわったその体から立ち上る細い煙のような黒い闇が空気に溶けて消えていくのに合わせて、お前すらも消えてなくなってしまうような気がした。
先程戦っていた時のような黒い姿ではなく、いつもの見慣れたお前の顔は血の気が引いた青白いものだ。
だが、もう終わったのだ。
そうだろう?
お前も言ったではないか。やっと終わったと。
「…ラフテル」
横たわるお前の側に跪いて声をかける。
反応はない。
そっと血の跡の残る顔に触れる。
温もりを感じることはなかったが、ピクリと僅かに反応したのを見逃さなかった。
よかった、まだ息はあるようだ。
後ろから激しい音が聞こえてくる。
どうやらソラ達とあいつとの戦いが始まったようだ。
ソラはまだ子供だが、確かな可能性を秘めている。
大きな力を身に付ける日も遠くないだろう。
だが、見たところ、相手が悪そうだ。
あまり優勢とは言い難い。
ラフテルの顔に触れていた手に、手が重ねられた。
「…ラフテル」
「…ア、アーロン…」
「大丈夫……では、ないな。 今回復を」
俺の顔を見て、ラフテルは力なく首を横に振った。
お前がそう思っても、俺の気が済まないのだ。
彼女の意思を無視して回復しようとする俺を、なぜかラフテルは強情に否定した。
「なんだ、胸に穴が空いている割りに元気なのか」
冗談のつもりでかけた声に、ラフテルは薄い笑みを浮かべた。
震える手で俺の襟元を引き寄せようとする。
顔が触れるほど近付いて、俺は彼女の上半身だけ引き起こして抱き締めた。
「アーロン、聞いてくれ。 時間がない」
「…どこかで聞いたセリフだな」
俺は死人だ。
死人はその存在を維持できなくなると、幻光虫となって消える。
だがこいつは、黒い霧となって消え始めている。
ずっとお前を探して、こんな世界でお前を見つけて、やっと取り戻して元の世界に帰れると思ったらこれだ。
何なんだ全く!
おかしな呪いでも受けたようだ。
更にこのセリフだ。
今までもさんざんこんな目にあって、本当にギリギリにならなければ話してくれない。
だから尚更時間がなくなる。
本当に、手間のかかる女だ!
「話せ」
「…ごめん」
「この期に及んでお前はまだそんなこと……「違う」 ?」
「違う、話せなくて謝ったんじや、ない。…せっかく、迎えに来てくれたのに、それに応えられなくて、ごめん」
「…どういう意味だ?」
「ずっと、帰れないと、言ってたはずだ」
「…ああ、そうだな。 たが、さっき…」
胸に受けた傷は浅くはない。
穴が空いているのだ。
喋るのも辛いだろうに、ラフテルは言葉を選びながらゆっくりと話をしていく。
彼女がもう人間ではないこと、契約のこと、ⅩⅢ機関のこと、そして、彼女とキーブレードの関係。
俺は黙って聞いていた。
それが彼女の遺言のような気がしていた。
彼女とキーブレードの関係を聞いて、俺は覚悟を決めていたのかもしれない。
ハートレスとやらになってしまった彼女を救うには、こうする他はないのだ、と。
「…だからお前は自分に防御魔法もかけず、回復もせず、それを悟られまいとして戦ったのか。 俺やソラと」
「流石に痛みを忘れる魔法なんてないから、大変だった…。 私を勝手に回復させようと、守ろうと、闇は私を包んでくれる。 表情を隠すのには丁度よくて…」
ラフテルは静かに目を閉じた。
後ろでも動きがあったようだ。
ラフテルの頭を包み込むように胸に押し付けて抱き抱え、後ろに視線を向ける。
神々しく淡い光に包まれているのは、先程穴に飛び込んだ青年か。
異界でよく目にした淡い光。
だが明らかに幻光虫のものとは違う。
スピラや異界ではお目にかかることはまずない。
あれは、ザナルカンドにいた頃、あの泣き虫を誤魔化すために見せた映画だったか。
あれに登場した神だか天使だかにそっくりだ。
彼とソラの攻撃で、奴は膝をついてしまった。
どうやら向こうも決着がついたようだ。
腕の中のラフテルはとても穏やかな顔をしていた。
彼女のこんな顔を見るのは、一体いつ振りだろうか。
さんざん俺を振って独りで苦労を背負い込んできたのだろう。
契約のことも、そのせいでここから離れられないことも知った。
だがもう、お前は自由だ、ラフテル。
今度こそ、一緒に帰ろう。
…ソラ、お前を信じてるぞ。
ラフテルを、頼む。
「「「ラフテル!!」」」
不意に掛けられた声にそちらに目を向ける。
一体どうした!?
決着がついてもう終わったのではないのか?
なぜ全員こちらを見ているんだ?
意味が理解できないまま成り行きを見守っていた。
「…い~ひひひひひ、い~~っひっひっひっひ…!」
「!?」
突然、それまで小さくなっていた炎を大きく燃え上がらせて、奴が気味の悪い笑い声を上げた。
ソラ達が食ってかかろうとしてみるが、歯牙にもかけない。
「お前ら、ラフテルを生き返らせる!? これが笑わずにいられるか!」
「なっ、どういう意味だ?」
「小僧、お前は今までそいつで何と戦ってきたんだ? お前が一番よく知ってるはずだろ~」
「!! …え、で、でもっ…」
「ラフテルと同じ世界から来たと言う冥界の戦士、アーロン。 傷ついた2人の体は明らかに同じ現象ではない。 …ソラ、この中で一番ハートレスを闇に還したのは誰だ。 そのキーブレードでハートレスを倒したら何が起こる。 まさか知らないとは、言わないだろうね~?」
恐らく、ソラはラフテルがハートレスであることを知らなかったのだろう。
それを今知らされた。
酷く残酷な方法で。
海のような目を見開いたまま、視点は定まらなくなっていた。
「耳を貸すな。 もう契約は終了した。 もうそいつとラフテルは何の関わりもない」
「アーロン…、でも、俺…」
奴が口にした言葉は俺も覚えている。
その約束を果たさせようというのだろう。
そして、その対象が、ラフテル。
ソラは自分が彼女を殺してしまったと思い込んでいるのか。
…だが、本当に彼女を殺すのは、これからなんだ、ソラ。
→
23,sep,2015
彼女の元に駆け寄った時、ゾクリと嫌な感覚が走った。
横たわったその体から立ち上る細い煙のような黒い闇が空気に溶けて消えていくのに合わせて、お前すらも消えてなくなってしまうような気がした。
先程戦っていた時のような黒い姿ではなく、いつもの見慣れたお前の顔は血の気が引いた青白いものだ。
だが、もう終わったのだ。
そうだろう?
お前も言ったではないか。やっと終わったと。
「…ラフテル」
横たわるお前の側に跪いて声をかける。
反応はない。
そっと血の跡の残る顔に触れる。
温もりを感じることはなかったが、ピクリと僅かに反応したのを見逃さなかった。
よかった、まだ息はあるようだ。
後ろから激しい音が聞こえてくる。
どうやらソラ達とあいつとの戦いが始まったようだ。
ソラはまだ子供だが、確かな可能性を秘めている。
大きな力を身に付ける日も遠くないだろう。
だが、見たところ、相手が悪そうだ。
あまり優勢とは言い難い。
ラフテルの顔に触れていた手に、手が重ねられた。
「…ラフテル」
「…ア、アーロン…」
「大丈夫……では、ないな。 今回復を」
俺の顔を見て、ラフテルは力なく首を横に振った。
お前がそう思っても、俺の気が済まないのだ。
彼女の意思を無視して回復しようとする俺を、なぜかラフテルは強情に否定した。
「なんだ、胸に穴が空いている割りに元気なのか」
冗談のつもりでかけた声に、ラフテルは薄い笑みを浮かべた。
震える手で俺の襟元を引き寄せようとする。
顔が触れるほど近付いて、俺は彼女の上半身だけ引き起こして抱き締めた。
「アーロン、聞いてくれ。 時間がない」
「…どこかで聞いたセリフだな」
俺は死人だ。
死人はその存在を維持できなくなると、幻光虫となって消える。
だがこいつは、黒い霧となって消え始めている。
ずっとお前を探して、こんな世界でお前を見つけて、やっと取り戻して元の世界に帰れると思ったらこれだ。
何なんだ全く!
おかしな呪いでも受けたようだ。
更にこのセリフだ。
今までもさんざんこんな目にあって、本当にギリギリにならなければ話してくれない。
だから尚更時間がなくなる。
本当に、手間のかかる女だ!
「話せ」
「…ごめん」
「この期に及んでお前はまだそんなこと……「違う」 ?」
「違う、話せなくて謝ったんじや、ない。…せっかく、迎えに来てくれたのに、それに応えられなくて、ごめん」
「…どういう意味だ?」
「ずっと、帰れないと、言ってたはずだ」
「…ああ、そうだな。 たが、さっき…」
胸に受けた傷は浅くはない。
穴が空いているのだ。
喋るのも辛いだろうに、ラフテルは言葉を選びながらゆっくりと話をしていく。
彼女がもう人間ではないこと、契約のこと、ⅩⅢ機関のこと、そして、彼女とキーブレードの関係。
俺は黙って聞いていた。
それが彼女の遺言のような気がしていた。
彼女とキーブレードの関係を聞いて、俺は覚悟を決めていたのかもしれない。
ハートレスとやらになってしまった彼女を救うには、こうする他はないのだ、と。
「…だからお前は自分に防御魔法もかけず、回復もせず、それを悟られまいとして戦ったのか。 俺やソラと」
「流石に痛みを忘れる魔法なんてないから、大変だった…。 私を勝手に回復させようと、守ろうと、闇は私を包んでくれる。 表情を隠すのには丁度よくて…」
ラフテルは静かに目を閉じた。
後ろでも動きがあったようだ。
ラフテルの頭を包み込むように胸に押し付けて抱き抱え、後ろに視線を向ける。
神々しく淡い光に包まれているのは、先程穴に飛び込んだ青年か。
異界でよく目にした淡い光。
だが明らかに幻光虫のものとは違う。
スピラや異界ではお目にかかることはまずない。
あれは、ザナルカンドにいた頃、あの泣き虫を誤魔化すために見せた映画だったか。
あれに登場した神だか天使だかにそっくりだ。
彼とソラの攻撃で、奴は膝をついてしまった。
どうやら向こうも決着がついたようだ。
腕の中のラフテルはとても穏やかな顔をしていた。
彼女のこんな顔を見るのは、一体いつ振りだろうか。
さんざん俺を振って独りで苦労を背負い込んできたのだろう。
契約のことも、そのせいでここから離れられないことも知った。
だがもう、お前は自由だ、ラフテル。
今度こそ、一緒に帰ろう。
…ソラ、お前を信じてるぞ。
ラフテルを、頼む。
「「「ラフテル!!」」」
不意に掛けられた声にそちらに目を向ける。
一体どうした!?
決着がついてもう終わったのではないのか?
なぜ全員こちらを見ているんだ?
意味が理解できないまま成り行きを見守っていた。
「…い~ひひひひひ、い~~っひっひっひっひ…!」
「!?」
突然、それまで小さくなっていた炎を大きく燃え上がらせて、奴が気味の悪い笑い声を上げた。
ソラ達が食ってかかろうとしてみるが、歯牙にもかけない。
「お前ら、ラフテルを生き返らせる!? これが笑わずにいられるか!」
「なっ、どういう意味だ?」
「小僧、お前は今までそいつで何と戦ってきたんだ? お前が一番よく知ってるはずだろ~」
「!! …え、で、でもっ…」
「ラフテルと同じ世界から来たと言う冥界の戦士、アーロン。 傷ついた2人の体は明らかに同じ現象ではない。 …ソラ、この中で一番ハートレスを闇に還したのは誰だ。 そのキーブレードでハートレスを倒したら何が起こる。 まさか知らないとは、言わないだろうね~?」
恐らく、ソラはラフテルがハートレスであることを知らなかったのだろう。
それを今知らされた。
酷く残酷な方法で。
海のような目を見開いたまま、視点は定まらなくなっていた。
「耳を貸すな。 もう契約は終了した。 もうそいつとラフテルは何の関わりもない」
「アーロン…、でも、俺…」
奴が口にした言葉は俺も覚えている。
その約束を果たさせようというのだろう。
そして、その対象が、ラフテル。
ソラは自分が彼女を殺してしまったと思い込んでいるのか。
…だが、本当に彼女を殺すのは、これからなんだ、ソラ。
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23,sep,2015