第10章【冥界コロシアム】
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【 89 】
俺は、何をしていた?
…何をした…?
覚醒した瞬間、俺は男に武器を振りかざしていた。
なぜこんなことになっているのか全く理解不能で、俺は少々混乱している。
この男は知っていた。
何度か目にしたことがある程度だが。
ソラと同じかそれ以上に光を放つ、眩しい奴。
辺りをぐるりと見回す。
円い闘技場に溢れんばかりの観客と歓声。
この見せ物のような舞台は、コロシアム、か…。
つまり、俺はここでこの男と見せ物の戦いをさせられていたと言うことか。
体勢を戻して武器を引く。
相手の男も大きな溜め息と共にゆっくりと立ち上がった。
その顔に酷い疲労の色を浮かべて。
男が顔を上げて俺のほうを見る。
何も言葉は出さず、ただ安堵の笑顔を見せただけ。
その表情で全てを悟った。
この男は俺に何が起こったのか、どんな状況に措かれていたのか。
礼を言わねばと、声を掛けようとした瞬間、別の所から俺と男の名を呼ぶ声が届いた。
闘技場に走り込んできたのは、ソラ達3人。
子供達の顔を見た途端、男は何事も無かったかのように爽やかに笑った。
「2人とも大丈夫?」
「もちろんさ!」
「よかった! …アーロンは?」
「……ああ、…ソラ、俺はどうなったんだ?」
「覚えてないの?」
小さく頷くと、ソラは自分が見た一部始終を話始めたが、それはすぐに止められてしまう。
…奴が現れたからだ。
観客席から上がっていたブーイングは一気に歓喜へと変わる。
…ブリッツの試合を思い出してしまった。
相手チームの反則に対してのブーイングを、あのガキは己のシュート一発で歓声に変えてしまう。
そんな場面がふと浮かんでしまう。
おかしな効果音が聞こえたと思ったら、黒い煙の中から、奴は姿を見せる。
気味の悪い笑い声を上げながら。
…こいつだ。
全ての元凶。
ソラやこの男も同じ気持ちなのだろう。
武器を構えた俺と同じように、彼らも警戒を浮かべる。
「まったく、面白くなーい!つまらない結末!」
…こいつは一体何をしたいんだ。
俺に、殺させたいとか言ってた男を目の前にして戦うことを止めてしまったことへの当て付けか?
ひとを操ってまでこんなことをさせる意味が理解できん。
殺したいと思っているなら、自らが手を下せばいいだろうが…。
わざとらしく落ち込む仕草をしてから、顎に指をかけて何やら思案しているようだ。
その答えが出たのか、両手を大きく振り上げて叫んだ。
その言葉に呆れてしまう。
奴は観客席にいる客達に俺達の相手をさせるつもりだ。
チラリとそちらに視線を向ける。
こんな世界だ。
集まった客達も一癖も二癖もありそうな奴ばかり。
まともなヒトの姿をしている者を探すほうが難しい。
しかもこいつの提案に乗り気なようで、会場は益々盛り上がっている。
見たところ驚異になりそうな奴は見当たらないが、この数を相手にするのは骨が折れそうだ。
「た~だ~し、こいつらと戦うには条件がある!」
どこから取り出したのか、いつの間にか拡声器を手にしたこいつの言葉に、会場は水を打ったように静まり返る。
爪の伸びた細長い指で、何もない空中に絵でも描くようにして印を結ぶ。
黒い靄のようなものが発生してヒトの大きさほどもある穴が空いた。
次の瞬間、穴の中から人が出てきた。
「…ラフテル…!」
「………」
何の感情もない、ただ殺気だけが込められた金色の目。
彼女がそこに登場すると、会場はざわついた。
先程までとは明らかに空気が変わった。
「へーっへっへっへっ…。 さあて、我こそはと腕に自信のある戦士は名乗り出てみろ。 こいつを倒し、トーナメントに出場する権利を手にするのは誰だ!」
いちいち台詞回しや身振りが大袈裟で、異様に苛つく。
煽るような言葉にも、観客は反応しない。
だが1人、いや一匹か?、声を上げて立ち上がった。
俺には理解できんこちらの世界の言葉なのか、ただの鳴き声なのかわからない。
ラフテルは奴と顔を見合せ、1つ頷くと、消えた。
…いや、正確には消えたように見えるほど素早く移動した、のだ。
ソラ達には見えていなかったようだな。
観客席から上がったどよめきと狭声に視線を奪われる。
先程声を上げた奴だ。
大勢の観客の目の前で、そいつは消された。
ラフテルが首をはねたと思った瞬間、黒い霧のように消えてしまった。
緩慢な動きで武器を収め、ラフテルは舞台に戻ってきた。
何事もなかったかのような顔をして。
「い~ひっひっひっひっひ、さあ、どうした!? 他にいないのか? こいつに挑戦しようと言う猛者は!」
「…はぁ、だからみんなに嫌われるんだ」
「喧しい!」
「どうするの? 誰もいないみたいだけど?」
頭の後ろで手を組んで、ソラは挑発するような口振りだ。
他の2人と例の男は戦う気満々と言った様子で、武器を手にしたまま構えを解かずに睨み付けている。
それはどうやらラフテルも同じようで、妙に緊迫感がある空気が漂っている。
「はあ、めんどくさっ! …ラフテル、やっちゃって」
「!!」
奴の言葉を待ってましたとでも言わんばかりに、ラフテルが飛び掛かる。
先程見せた早さで武器を抜くと同時に斬りつける。
狙いは、俺ではなく、ソラ。
金属の激しくぶつかり合う耳障りな音で、ソラは漸く状況を理解したのか、おかしな声を上げて一歩下がる。
辛うじて俺の動きが間に合って、ラフテルの一撃を受け止めた。
「ちっ…」
小さな舌打ちが聞こえたと思ったその瞬間、ラフテルは後ろに飛び退き、すぐさま方向を転換して後ろのソラに向かう。
その一撃も、俺の太刀に防がれる。
執拗にソラを狙うこいつの意図が理解できず、受け止めたままの姿勢で上から被せるように力で押さえ付けた。
ソラと仲間達は奴に向かって飛び掛かっていく。
「………ぐっ」
流石に力では、まだ僅かに俺のほうが勝っているのか、ラフテルが声を漏らす。
「ラフテル、いつまでこんなことを続ける気だ?」
「………」
返ってくる言葉はない。
刃を合わせる音だけが虚しく響く。
金色の瞳の輝きが増したように感じたとき、ラフテルの体を包み込んでいるように見えていた黒い靄のようなものも、その体積を増やしたようだ。
触れている武器にまとわりつくように、絡み付くように、靄が触手の如く蠢く。
気味の悪いそいつが俺の剣や腕に向かって絡み付こうと侵食してくる様に、ゾクリと寒気を感じた。
思わず回避しようと後ろに飛び退く。
俺の力から解放されたラフテルも同じく。
だがそこから彼女の連撃が始まった。
右から左からなどという生易しい動きではない。
背後から上から、真下からも小太刀の鋭い刃が俺に向けられる。
ラフテル、確かにお前の動きは目を見張るものだが、俺には通じない。
お前の動きのパターン、攻撃の癖、そこは前と変わらない。
ああ、やはりこいつは間違いなく俺のよく知るラフテルなのだと確信できる。
そして致命的な欠点が1つ。
「お前の攻撃は、軽い!」
一瞬の隙をついて、自分の武器を振りかぶる。
ラフテルの、驚愕を浮かべた顔が見えた。
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16,sep,2015
俺は、何をしていた?
…何をした…?
覚醒した瞬間、俺は男に武器を振りかざしていた。
なぜこんなことになっているのか全く理解不能で、俺は少々混乱している。
この男は知っていた。
何度か目にしたことがある程度だが。
ソラと同じかそれ以上に光を放つ、眩しい奴。
辺りをぐるりと見回す。
円い闘技場に溢れんばかりの観客と歓声。
この見せ物のような舞台は、コロシアム、か…。
つまり、俺はここでこの男と見せ物の戦いをさせられていたと言うことか。
体勢を戻して武器を引く。
相手の男も大きな溜め息と共にゆっくりと立ち上がった。
その顔に酷い疲労の色を浮かべて。
男が顔を上げて俺のほうを見る。
何も言葉は出さず、ただ安堵の笑顔を見せただけ。
その表情で全てを悟った。
この男は俺に何が起こったのか、どんな状況に措かれていたのか。
礼を言わねばと、声を掛けようとした瞬間、別の所から俺と男の名を呼ぶ声が届いた。
闘技場に走り込んできたのは、ソラ達3人。
子供達の顔を見た途端、男は何事も無かったかのように爽やかに笑った。
「2人とも大丈夫?」
「もちろんさ!」
「よかった! …アーロンは?」
「……ああ、…ソラ、俺はどうなったんだ?」
「覚えてないの?」
小さく頷くと、ソラは自分が見た一部始終を話始めたが、それはすぐに止められてしまう。
…奴が現れたからだ。
観客席から上がっていたブーイングは一気に歓喜へと変わる。
…ブリッツの試合を思い出してしまった。
相手チームの反則に対してのブーイングを、あのガキは己のシュート一発で歓声に変えてしまう。
そんな場面がふと浮かんでしまう。
おかしな効果音が聞こえたと思ったら、黒い煙の中から、奴は姿を見せる。
気味の悪い笑い声を上げながら。
…こいつだ。
全ての元凶。
ソラやこの男も同じ気持ちなのだろう。
武器を構えた俺と同じように、彼らも警戒を浮かべる。
「まったく、面白くなーい!つまらない結末!」
…こいつは一体何をしたいんだ。
俺に、殺させたいとか言ってた男を目の前にして戦うことを止めてしまったことへの当て付けか?
ひとを操ってまでこんなことをさせる意味が理解できん。
殺したいと思っているなら、自らが手を下せばいいだろうが…。
わざとらしく落ち込む仕草をしてから、顎に指をかけて何やら思案しているようだ。
その答えが出たのか、両手を大きく振り上げて叫んだ。
その言葉に呆れてしまう。
奴は観客席にいる客達に俺達の相手をさせるつもりだ。
チラリとそちらに視線を向ける。
こんな世界だ。
集まった客達も一癖も二癖もありそうな奴ばかり。
まともなヒトの姿をしている者を探すほうが難しい。
しかもこいつの提案に乗り気なようで、会場は益々盛り上がっている。
見たところ驚異になりそうな奴は見当たらないが、この数を相手にするのは骨が折れそうだ。
「た~だ~し、こいつらと戦うには条件がある!」
どこから取り出したのか、いつの間にか拡声器を手にしたこいつの言葉に、会場は水を打ったように静まり返る。
爪の伸びた細長い指で、何もない空中に絵でも描くようにして印を結ぶ。
黒い靄のようなものが発生してヒトの大きさほどもある穴が空いた。
次の瞬間、穴の中から人が出てきた。
「…ラフテル…!」
「………」
何の感情もない、ただ殺気だけが込められた金色の目。
彼女がそこに登場すると、会場はざわついた。
先程までとは明らかに空気が変わった。
「へーっへっへっへっ…。 さあて、我こそはと腕に自信のある戦士は名乗り出てみろ。 こいつを倒し、トーナメントに出場する権利を手にするのは誰だ!」
いちいち台詞回しや身振りが大袈裟で、異様に苛つく。
煽るような言葉にも、観客は反応しない。
だが1人、いや一匹か?、声を上げて立ち上がった。
俺には理解できんこちらの世界の言葉なのか、ただの鳴き声なのかわからない。
ラフテルは奴と顔を見合せ、1つ頷くと、消えた。
…いや、正確には消えたように見えるほど素早く移動した、のだ。
ソラ達には見えていなかったようだな。
観客席から上がったどよめきと狭声に視線を奪われる。
先程声を上げた奴だ。
大勢の観客の目の前で、そいつは消された。
ラフテルが首をはねたと思った瞬間、黒い霧のように消えてしまった。
緩慢な動きで武器を収め、ラフテルは舞台に戻ってきた。
何事もなかったかのような顔をして。
「い~ひっひっひっひっひ、さあ、どうした!? 他にいないのか? こいつに挑戦しようと言う猛者は!」
「…はぁ、だからみんなに嫌われるんだ」
「喧しい!」
「どうするの? 誰もいないみたいだけど?」
頭の後ろで手を組んで、ソラは挑発するような口振りだ。
他の2人と例の男は戦う気満々と言った様子で、武器を手にしたまま構えを解かずに睨み付けている。
それはどうやらラフテルも同じようで、妙に緊迫感がある空気が漂っている。
「はあ、めんどくさっ! …ラフテル、やっちゃって」
「!!」
奴の言葉を待ってましたとでも言わんばかりに、ラフテルが飛び掛かる。
先程見せた早さで武器を抜くと同時に斬りつける。
狙いは、俺ではなく、ソラ。
金属の激しくぶつかり合う耳障りな音で、ソラは漸く状況を理解したのか、おかしな声を上げて一歩下がる。
辛うじて俺の動きが間に合って、ラフテルの一撃を受け止めた。
「ちっ…」
小さな舌打ちが聞こえたと思ったその瞬間、ラフテルは後ろに飛び退き、すぐさま方向を転換して後ろのソラに向かう。
その一撃も、俺の太刀に防がれる。
執拗にソラを狙うこいつの意図が理解できず、受け止めたままの姿勢で上から被せるように力で押さえ付けた。
ソラと仲間達は奴に向かって飛び掛かっていく。
「………ぐっ」
流石に力では、まだ僅かに俺のほうが勝っているのか、ラフテルが声を漏らす。
「ラフテル、いつまでこんなことを続ける気だ?」
「………」
返ってくる言葉はない。
刃を合わせる音だけが虚しく響く。
金色の瞳の輝きが増したように感じたとき、ラフテルの体を包み込んでいるように見えていた黒い靄のようなものも、その体積を増やしたようだ。
触れている武器にまとわりつくように、絡み付くように、靄が触手の如く蠢く。
気味の悪いそいつが俺の剣や腕に向かって絡み付こうと侵食してくる様に、ゾクリと寒気を感じた。
思わず回避しようと後ろに飛び退く。
俺の力から解放されたラフテルも同じく。
だがそこから彼女の連撃が始まった。
右から左からなどという生易しい動きではない。
背後から上から、真下からも小太刀の鋭い刃が俺に向けられる。
ラフテル、確かにお前の動きは目を見張るものだが、俺には通じない。
お前の動きのパターン、攻撃の癖、そこは前と変わらない。
ああ、やはりこいつは間違いなく俺のよく知るラフテルなのだと確信できる。
そして致命的な欠点が1つ。
「お前の攻撃は、軽い!」
一瞬の隙をついて、自分の武器を振りかぶる。
ラフテルの、驚愕を浮かべた顔が見えた。
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16,sep,2015