第10章【冥界コロシアム】
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『88』~ハデスカップ~
「…参ったな」
口の端を手の甲でぐいと拭った。
そこについた赤い液体はたちまち小さな光となって宙に消えていく。
最後の大技が来るとわかった瞬間、防御力を上げる魔法が切れた。
かけ直そうとすれば間に合ったはすだ。
十分余裕はあった。 だがそうしなかった。
あえてあの子達の技を受けた。
それまでの少年の攻撃が頼りなかったので、この攻撃も大したことない。そう高をくくったのだ。
そうだ、子供だと侮ってこのざまだ。
それにしても、本当にいい動きだった。
補助魔法がなかったら、私でも勝てないかもしれない。
…これは、しなくていい戦いだった。
私の身勝手なエゴであの子を利用した。
面目とか矛持ちとか立場的には少なからずあるのかもしれない。
これは私自身の存在の問題。
私は、“キーブレードで倒され”なければならない。
「…うっ…」
体中をギシリと激しい痛みが突き抜ける。
思ったよりもダメージは大きいようだ。
放っておいてもこの体は勝手に回復していく。
これほどのダメージは幾日かかかるだろう。
胸に手を当てて自分自身に回復魔法をかけようとして、やめた。
わざとあの子にケンカを売って戦ってもらったのは何の為か、全部無駄になる。
次はどうやって止めをさしてもらうか考えなければ。
ソラ達が入った奴の部屋から、あの子達の声がここまで聞こえてくる。
あとは彼らだけでなんとかできるだろうか。
闇の扉を開いて座り込んだ姿勢のまま、闇で体を包み込んでいく。
日に日にこの力のほうが強くなっていくように思う。
あの時のあの男が言ったように、記憶もなくし、変態野郎の言いなりの、本当の下僕になっていくだけだ。
そんなことになるくらいなら、私を倒せる武器がここにある内に、まだ私が私を保っていられる内に…。
「……殺してくれ」
そう言えば、奴の部屋で見た自分の人形とアーロンの人形。
ソラ達が、アーロンを元に戻せると言っていた。
…では、私の人形は…?
あれがなくなれば、私と奴との契約も無くなる……なんて考えは安直すぎるか。
だが、どうなったのか気になる。
もしかしたら、ソラ達がアーロンの人形と一緒に持っていく可能性は?
私を見たことがあるならば、あれが私だと言われなくても気付く。
もし、あれを取り戻すことができたら……。
コロシアムに行ってみるか。
ここで独りもんもんと思考を巡らせても、考えすぎて頭が重くなっていくだけ。
私を解放出来得る方法がそこにあると言うなら、すぐにでも行かなくては。
そこへやって来た時、目に飛び込んで来たのは美しく儚げに瞬く星のような火花。
目に痛いほど眩しいわけではなく、キラキラと優しい光が降り注いでいた。
その下にいたのは太刀を降り下ろしたアーロンと、その太刀を両手で受け止めている、あいつ。
凄いな、あれを素手で受け止めるのか、彼は。
…そうか、あの子達をあの場所へ寄越したのは、あいつだったのか。
自分がアーロンの足止め役になって、その間にソラ達が…。
「くそぉぉぉぉ~~~っ!!」
別の所から変態野郎が悔しがる声が響いた。
ずっとこの戦況を見ていたのだろう。
お陰で奴の部屋の前での私とソラのやり取りは知らないと思う。
目に光を取り戻したアーロンが、ゆっくりとした動きで太刀を収める。
ずっと受け止めていたのか、あいつはその場に力なく座り込んだ。
「アーロン!ヘラクレス!」
ソラ達が側に駆け寄る。
3人の声に反応して、俯いていた男はスッと立ち上がって何事も無かったかのように爽やかな笑顔を浮かべた。
だが明らかに無理をしているのだろう、その顔に浮かぶ疲労の色は隠せない。
ソラ達と一言二言言葉を交わすと、途端に肩をぐったりと落としてみせた。
コロシアムの観客たちは皆、こちらの世界の者ではないのは明らかで、闘技場に向かって激しいブーイングを投げ掛けている。
急にそれが歓声に変わる。 舞台に、奴が現れたから。
いつものようにボフンなんてあり得ない効果音つきで、黒い煙りと共にそこに立つ。
ソラを初め、そこにいた者達は警戒して身構えた。
「あーあ、つまらない結末。 ちぃ~っとも盛り上がらなくしちゃってさ~」
「ハデス、大会は終わりだ!」
「はっ? 何言っちゃってんの、この小僧は? ゴホン、え~、本日この素晴らしきハデスカップを観戦に来られた皆さま方!」
またどこからともなく取り出した何かの道具? 拡声器みたいなもので、観客席に向かって呼び掛け始めた。
「今夜は、長年待ちに待った冥界コロシアムでの、記念すべき復活大会! だ~が~、ご覧の通り、我が冥界の戦士はことごとくやられ~、折角の記念大会だってのに、こんなんで終われるわけがな~い!」
観客席から、次々に賛同の言葉が飛ぶ。
「そ・こ・で、この俺様から貴様らにチャンスをくれてやろう!
さあ、我こそはと思う者、名乗り出よ! こいつらを見事打ち倒し、このハデスカップでの優勝者にはなんと!!」
大げさな身振り手振りで四方の観客席の方向ををぐるりと回りながら、奴は叫ぶ。
どこからともなく、タタタタタなんてドラム音も聞こえてきた。
「この冥界の王である俺の権限で、1人だけを生き返らせてやる!」
観客席が一気に湧きあがった。
→
15,sep,2015
「…参ったな」
口の端を手の甲でぐいと拭った。
そこについた赤い液体はたちまち小さな光となって宙に消えていく。
最後の大技が来るとわかった瞬間、防御力を上げる魔法が切れた。
かけ直そうとすれば間に合ったはすだ。
十分余裕はあった。 だがそうしなかった。
あえてあの子達の技を受けた。
それまでの少年の攻撃が頼りなかったので、この攻撃も大したことない。そう高をくくったのだ。
そうだ、子供だと侮ってこのざまだ。
それにしても、本当にいい動きだった。
補助魔法がなかったら、私でも勝てないかもしれない。
…これは、しなくていい戦いだった。
私の身勝手なエゴであの子を利用した。
面目とか矛持ちとか立場的には少なからずあるのかもしれない。
これは私自身の存在の問題。
私は、“キーブレードで倒され”なければならない。
「…うっ…」
体中をギシリと激しい痛みが突き抜ける。
思ったよりもダメージは大きいようだ。
放っておいてもこの体は勝手に回復していく。
これほどのダメージは幾日かかかるだろう。
胸に手を当てて自分自身に回復魔法をかけようとして、やめた。
わざとあの子にケンカを売って戦ってもらったのは何の為か、全部無駄になる。
次はどうやって止めをさしてもらうか考えなければ。
ソラ達が入った奴の部屋から、あの子達の声がここまで聞こえてくる。
あとは彼らだけでなんとかできるだろうか。
闇の扉を開いて座り込んだ姿勢のまま、闇で体を包み込んでいく。
日に日にこの力のほうが強くなっていくように思う。
あの時のあの男が言ったように、記憶もなくし、変態野郎の言いなりの、本当の下僕になっていくだけだ。
そんなことになるくらいなら、私を倒せる武器がここにある内に、まだ私が私を保っていられる内に…。
「……殺してくれ」
そう言えば、奴の部屋で見た自分の人形とアーロンの人形。
ソラ達が、アーロンを元に戻せると言っていた。
…では、私の人形は…?
あれがなくなれば、私と奴との契約も無くなる……なんて考えは安直すぎるか。
だが、どうなったのか気になる。
もしかしたら、ソラ達がアーロンの人形と一緒に持っていく可能性は?
私を見たことがあるならば、あれが私だと言われなくても気付く。
もし、あれを取り戻すことができたら……。
コロシアムに行ってみるか。
ここで独りもんもんと思考を巡らせても、考えすぎて頭が重くなっていくだけ。
私を解放出来得る方法がそこにあると言うなら、すぐにでも行かなくては。
そこへやって来た時、目に飛び込んで来たのは美しく儚げに瞬く星のような火花。
目に痛いほど眩しいわけではなく、キラキラと優しい光が降り注いでいた。
その下にいたのは太刀を降り下ろしたアーロンと、その太刀を両手で受け止めている、あいつ。
凄いな、あれを素手で受け止めるのか、彼は。
…そうか、あの子達をあの場所へ寄越したのは、あいつだったのか。
自分がアーロンの足止め役になって、その間にソラ達が…。
「くそぉぉぉぉ~~~っ!!」
別の所から変態野郎が悔しがる声が響いた。
ずっとこの戦況を見ていたのだろう。
お陰で奴の部屋の前での私とソラのやり取りは知らないと思う。
目に光を取り戻したアーロンが、ゆっくりとした動きで太刀を収める。
ずっと受け止めていたのか、あいつはその場に力なく座り込んだ。
「アーロン!ヘラクレス!」
ソラ達が側に駆け寄る。
3人の声に反応して、俯いていた男はスッと立ち上がって何事も無かったかのように爽やかな笑顔を浮かべた。
だが明らかに無理をしているのだろう、その顔に浮かぶ疲労の色は隠せない。
ソラ達と一言二言言葉を交わすと、途端に肩をぐったりと落としてみせた。
コロシアムの観客たちは皆、こちらの世界の者ではないのは明らかで、闘技場に向かって激しいブーイングを投げ掛けている。
急にそれが歓声に変わる。 舞台に、奴が現れたから。
いつものようにボフンなんてあり得ない効果音つきで、黒い煙りと共にそこに立つ。
ソラを初め、そこにいた者達は警戒して身構えた。
「あーあ、つまらない結末。 ちぃ~っとも盛り上がらなくしちゃってさ~」
「ハデス、大会は終わりだ!」
「はっ? 何言っちゃってんの、この小僧は? ゴホン、え~、本日この素晴らしきハデスカップを観戦に来られた皆さま方!」
またどこからともなく取り出した何かの道具? 拡声器みたいなもので、観客席に向かって呼び掛け始めた。
「今夜は、長年待ちに待った冥界コロシアムでの、記念すべき復活大会! だ~が~、ご覧の通り、我が冥界の戦士はことごとくやられ~、折角の記念大会だってのに、こんなんで終われるわけがな~い!」
観客席から、次々に賛同の言葉が飛ぶ。
「そ・こ・で、この俺様から貴様らにチャンスをくれてやろう!
さあ、我こそはと思う者、名乗り出よ! こいつらを見事打ち倒し、このハデスカップでの優勝者にはなんと!!」
大げさな身振り手振りで四方の観客席の方向ををぐるりと回りながら、奴は叫ぶ。
どこからともなく、タタタタタなんてドラム音も聞こえてきた。
「この冥界の王である俺の権限で、1人だけを生き返らせてやる!」
観客席が一気に湧きあがった。
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15,sep,2015