第10章【冥界コロシアム】
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『85』~純粋すぎる無垢は無知~
自分がこんなことをする日が来るなんて、思いもしなかった。
ヒトとして恥ずべき行為であることは重々承知している。
だがそれでも、そうしてまでも取り戻したいものがある。
それの在処は分かっていて、持ち主はいない。
こんな好機は恐らくもう二度と巡り来ることはないだろう。
奪われたものを取り返すだけだと自分に言い聞かせる。
時間をかけるほど成功の確率は失われる。
あの変態野郎が試合に夢中になっている今が最大のチャンス。
辺りの気配を探り、幻光虫まで飛ばせて様子を伺う。
印のついた闇の世界の魔物達は私の気配を察しただけで、また闇に還っていく。
奴の部屋の前まで辿り着いたとき、妙に違和感を感じた。
「(簡単すぎる…)」
奴はいつでも私を監視していて、ある一定の距離が開くと強制的に連れ戻される。
いつどこで、何をしていようと関係なしにだ。
今私がここにいることすらも、恐らく奴にはバレているだろう。
それなのに、静かすぎる。
私がこれからどう行動するのか全て読んでいて、それを見て面白がっている奴の気味の悪い笑い顔が浮かんでくる。
…どうしようもない遣りきれない苛立ち。
奴の掌で踊らされていたことに、自分の考えの浅はかさに腹が立つ。
ここまで来て、今更になって激しい葛藤に押し潰されそうだ。
そんなことを悶々と考慮し続けて、時間を喪失させ、負うことを避けようとしたはずのリスクを増大させて…。
何やってるんだ、私は。
ふと、気配を感じた。
誰かがこちらに近付く足音も耳に届いた。
…軽い。だがしっかりとした軽快なこの音の持ち主は、言わずもがな、あの少年達。
私に嫌悪感を抱かせるキーブレードを操る光の勇者ソラ。
この闇の世界では眩しいほどの光の加護を受ける少年の気配を嫌と言うほど身に感じる。
思わず岩陰に身を潜めてしまう。
別に隠れる必要などないのに、彼らがここに現れた理由を知りたくて意識を集中させてしまう。
「ここだ!」
「言われなくてもわかってるよ、前にも来ただろ?」
「そうだっけ?」
3人は変態野郎の部屋の前で、まるで遊びにでも来たかのように楽し気に話している。
この子達は、本当に、何をしにここに来たのだろうか?
「う~ん、どうやって開けるんだろう?」
「スイッチみたいのはないの?」
「鍵穴もないし、困ったな」
「じゃあ、合言葉だ!」
緊張感の欠片もない。
誰かに見つかるとか、時間がないとか、そんな意識はほぼなさそうだ。
オープンセサミだとか、海だの川だの口々に叫んでいる様が可笑しくて、つい口元が緩んでしまう。
岩陰から姿を表した私は3人の後ろに立つ。
いつ気が付くかと、悪戯心を浮かばせて。
だが幼子のようなやり取りをしているこいつらは一向に私に気付く様子もなく、扉と格闘を続けている。
終いには魔法を使うと言い出した。
流石にここまでだと判断して声を掛けた。
「おい…」
全く同じタイミングで肩をビクリと持ち上げて、3人はゆっくりとこちらを振り返った。
「…あ、お姉さん」
「…どう呼ぼうと勝手だが、私はラフテルだ。お前達ここで何をしている?」
“ヤバい、見つかった”という表情で私を見上げる。
つい先日、こちらから挑発して剣を交えた相手だというのに、どうしてこいつらはこうも敵意がないのだろうか?
この少年の考えてることがよくわからない。
「…あ、えーと……」
バツが悪そうに後頭部に手を当てて明後日の方向に視線を泳がせる。
ソラと共にいる2人(と言っていいのか?)も同じように目を反らす。
一先ず、この子達がここにいる理由を知りたい。
「ここが何か、わかってるのか?」
「…あいつの、…ハデスの部屋、だろ?」
「何をしに来たんだ? お前達は大会に出場してたんじゃないのか?」
この子は、私が敵だと理解しているのだろうか?
薄暗いこの空間の中にあって、それでも明るく輝いてさえ見える海の色の瞳で私を見つめる。
何の疑問もないような、無垢な表情は本当に幼さを感じさせる。
…これは、好機か?
「………」
「!!」
徐に後ろ腰から引き抜いた武器の切っ先を少年の喉元に突き付ける。
咄嗟に一歩下がってその手に例の武器を握り、構えた。
いい反応だ。
それと共に表情が一変する。
無垢な少年の顔から、キーブレードを操る光の戦士の顔になる。
「な、何を!?」
「グワッ!」
「あひょ?」
一拍遅れて両隣の2人も身構えた。
あの時の、穴の中で対峙した時の感覚が蘇る。
ザワザワと大気が震えているような、自分自身が揺れているような、気持ちのいい高揚感。
こんなことを言うのはどうかとも思うが、所詮は子供。
今の私とまともにやりあえるとは考えられない。
「お姉さん、…ラフテル、どうして…?」
「…おかしなことを。 お前がしようとしていることを止めるのに、何の不思議がある? 自分の、いくら気色悪い奴でも一応私の主である奴の部屋に入ろうとしている者達を排除するだけだ」
「……?」
「……?」
私の言葉に返事はない。
変わりに妙な沈黙が流れた。
少年の両隣の2人は武器を下ろして顔を見合わせている。
「え、お姉さん、ハデスの手下だったの~~~~っっ!?」
「「ええええぇぇぇぇっ!!」」
「…………し、知らなかったのか」
「え、あ、いや、だって、最初に見たときハデスに剣を向けてたし、そんな黒い服着てるし…」
「水の力の機関のメンバーと闘った時も会ったし」
「片目の機関の奴の時も…」
「そうそう、だから俺達、お姉さんは機関の人なのかなあ~って思ってた!」
機関、皆一様に黒いコートで顔まで隠した、闇の世界のⅩⅢ機関のことか。
まあ、あながち間違ってはいない。
私も、ある意味機関の関係者だ。
…私自身ではなく、私の記憶、だが。
そんなことよりも今は…。
→
10,sep,2015
自分がこんなことをする日が来るなんて、思いもしなかった。
ヒトとして恥ずべき行為であることは重々承知している。
だがそれでも、そうしてまでも取り戻したいものがある。
それの在処は分かっていて、持ち主はいない。
こんな好機は恐らくもう二度と巡り来ることはないだろう。
奪われたものを取り返すだけだと自分に言い聞かせる。
時間をかけるほど成功の確率は失われる。
あの変態野郎が試合に夢中になっている今が最大のチャンス。
辺りの気配を探り、幻光虫まで飛ばせて様子を伺う。
印のついた闇の世界の魔物達は私の気配を察しただけで、また闇に還っていく。
奴の部屋の前まで辿り着いたとき、妙に違和感を感じた。
「(簡単すぎる…)」
奴はいつでも私を監視していて、ある一定の距離が開くと強制的に連れ戻される。
いつどこで、何をしていようと関係なしにだ。
今私がここにいることすらも、恐らく奴にはバレているだろう。
それなのに、静かすぎる。
私がこれからどう行動するのか全て読んでいて、それを見て面白がっている奴の気味の悪い笑い顔が浮かんでくる。
…どうしようもない遣りきれない苛立ち。
奴の掌で踊らされていたことに、自分の考えの浅はかさに腹が立つ。
ここまで来て、今更になって激しい葛藤に押し潰されそうだ。
そんなことを悶々と考慮し続けて、時間を喪失させ、負うことを避けようとしたはずのリスクを増大させて…。
何やってるんだ、私は。
ふと、気配を感じた。
誰かがこちらに近付く足音も耳に届いた。
…軽い。だがしっかりとした軽快なこの音の持ち主は、言わずもがな、あの少年達。
私に嫌悪感を抱かせるキーブレードを操る光の勇者ソラ。
この闇の世界では眩しいほどの光の加護を受ける少年の気配を嫌と言うほど身に感じる。
思わず岩陰に身を潜めてしまう。
別に隠れる必要などないのに、彼らがここに現れた理由を知りたくて意識を集中させてしまう。
「ここだ!」
「言われなくてもわかってるよ、前にも来ただろ?」
「そうだっけ?」
3人は変態野郎の部屋の前で、まるで遊びにでも来たかのように楽し気に話している。
この子達は、本当に、何をしにここに来たのだろうか?
「う~ん、どうやって開けるんだろう?」
「スイッチみたいのはないの?」
「鍵穴もないし、困ったな」
「じゃあ、合言葉だ!」
緊張感の欠片もない。
誰かに見つかるとか、時間がないとか、そんな意識はほぼなさそうだ。
オープンセサミだとか、海だの川だの口々に叫んでいる様が可笑しくて、つい口元が緩んでしまう。
岩陰から姿を表した私は3人の後ろに立つ。
いつ気が付くかと、悪戯心を浮かばせて。
だが幼子のようなやり取りをしているこいつらは一向に私に気付く様子もなく、扉と格闘を続けている。
終いには魔法を使うと言い出した。
流石にここまでだと判断して声を掛けた。
「おい…」
全く同じタイミングで肩をビクリと持ち上げて、3人はゆっくりとこちらを振り返った。
「…あ、お姉さん」
「…どう呼ぼうと勝手だが、私はラフテルだ。お前達ここで何をしている?」
“ヤバい、見つかった”という表情で私を見上げる。
つい先日、こちらから挑発して剣を交えた相手だというのに、どうしてこいつらはこうも敵意がないのだろうか?
この少年の考えてることがよくわからない。
「…あ、えーと……」
バツが悪そうに後頭部に手を当てて明後日の方向に視線を泳がせる。
ソラと共にいる2人(と言っていいのか?)も同じように目を反らす。
一先ず、この子達がここにいる理由を知りたい。
「ここが何か、わかってるのか?」
「…あいつの、…ハデスの部屋、だろ?」
「何をしに来たんだ? お前達は大会に出場してたんじゃないのか?」
この子は、私が敵だと理解しているのだろうか?
薄暗いこの空間の中にあって、それでも明るく輝いてさえ見える海の色の瞳で私を見つめる。
何の疑問もないような、無垢な表情は本当に幼さを感じさせる。
…これは、好機か?
「………」
「!!」
徐に後ろ腰から引き抜いた武器の切っ先を少年の喉元に突き付ける。
咄嗟に一歩下がってその手に例の武器を握り、構えた。
いい反応だ。
それと共に表情が一変する。
無垢な少年の顔から、キーブレードを操る光の戦士の顔になる。
「な、何を!?」
「グワッ!」
「あひょ?」
一拍遅れて両隣の2人も身構えた。
あの時の、穴の中で対峙した時の感覚が蘇る。
ザワザワと大気が震えているような、自分自身が揺れているような、気持ちのいい高揚感。
こんなことを言うのはどうかとも思うが、所詮は子供。
今の私とまともにやりあえるとは考えられない。
「お姉さん、…ラフテル、どうして…?」
「…おかしなことを。 お前がしようとしていることを止めるのに、何の不思議がある? 自分の、いくら気色悪い奴でも一応私の主である奴の部屋に入ろうとしている者達を排除するだけだ」
「……?」
「……?」
私の言葉に返事はない。
変わりに妙な沈黙が流れた。
少年の両隣の2人は武器を下ろして顔を見合わせている。
「え、お姉さん、ハデスの手下だったの~~~~っっ!?」
「「ええええぇぇぇぇっ!!」」
「…………し、知らなかったのか」
「え、あ、いや、だって、最初に見たときハデスに剣を向けてたし、そんな黒い服着てるし…」
「水の力の機関のメンバーと闘った時も会ったし」
「片目の機関の奴の時も…」
「そうそう、だから俺達、お姉さんは機関の人なのかなあ~って思ってた!」
機関、皆一様に黒いコートで顔まで隠した、闇の世界のⅩⅢ機関のことか。
まあ、あながち間違ってはいない。
私も、ある意味機関の関係者だ。
…私自身ではなく、私の記憶、だが。
そんなことよりも今は…。
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