第10章【冥界コロシアム】
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『84』~どちら側~
世界の広さに限界なんてあるのだろうか。
私は無いと思っている。
そう思い始めたのはついこの前なのだが…。
私はスピラで生まれ、スピラで育ち、スピラで命を落とした。
そう、私の物語の舞台はいつもスピラだ。
ジェクトや少年がいたザナルカンドなんて知らない。
異界によく似たこの冥界も、こうして足を踏み入れなければ知る由もなかっただろう。
ましてや、異界とは全く異なるもう一つの死後の世界があるなんて。
世界はまだまだ広い。
私の知る世界なんて、この広さから見たらどれだけ微々たるものか、想像すらできない。
その広い広い世界を旅しているのだと、あの子は言った。
世界の扉を開けて世界の均衡を乱す存在を倒すのだ、と。
この世界にやってきたと言うことはつまり、この世界も狂っているから。
本来、私はここにいてはいけない存在なのだろう。
私のような存在があるから、あの子は世界を巡る。
そうして元凶とも言える奴を倒し、世界を本来在るべき正しい姿を取り戻させる。
私はあの子達にとってどちら側なのだろうか?
この世界へ来たのは自分の意思ではない。
だが、あの子達が敵として戦うこの世界に出現する魔物と同じ印が、私にもついている。
私は、あの子から見たら敵なのだ。
あの子、ソラが持っている武器はキーブレードと言う。
全ての鍵を開けることも閉じることもできる。
彼はこれを使って世界の扉を開け、移動している。
私にとって、その武器は恐怖を覚えさせる。
ソラという少年は平気でも、その手にあの武器が握られている限り、私の気持ちはざわつき揺れ動く。
一刻も速く、その不安定要素を排除したくて、私はソラに敵対する。
あの子もわかっている。
私が、本当は敵ではないのだということ。
私はなぜ自分がここにいるのか、その理由を探した。
私の主はニヤニヤして気持ち悪いだけで教えてはくれない。
だから、いかにも、という雰囲気を醸し出している怪しい連中とも接触した。
彼らも私から引き出したい情報があったらしく、利害の一致を見たからだ。
あくまでも私は主の僕。
主の命令は絶対で、私はある一定の範囲の中でしか動けない。
主はその中にいる私をいつでも自分の元へ転送させる能力を持っているらしく、私が範囲の外に出ようとすると強制的に戻される。
彼ら、ⅩⅢ機関と名乗った者達と接触するには彼らのほうからここに赴いてもらうしかない。
黒い闇の扉を潜って現れる移動方法は私も使えるが、やはりこの範囲の中だけだ。
どんな仕組みがあるのかまではわからないが、これは闇を使う者だけが扱えるのだとか。
つまり、私も闇を使う者の一種と言うことになる。
この世界へ来てから、初めて知った。
スピラにいた時には使えなかった、いや、使い方を知らなかっただけかも知れない。
本来私は闇の世界の者で、だから主は異界から私を引き戻した。
………バカバカしい。
本当にそうなら、私は僕なんぞにはならない。
主を殺して自由を選ぶ。
私と主との間には、そうすることすらできない、不思議な契約の力が働いていて私を制している。
契約という見えない手で握られ、私は今日も主の元へ強制転送させられる。
「ラフテル~」
「呼ぶな、気色悪い」
ここ数日、この変態主は何かの用事で忙しかったようで、私は呼び出しを食らうこともなく割りと自由な時間を保てていた。
この限られた範囲の中だけだが。
暗い穴蔵の中の魔物達は、私の気配を察しただけで姿をくらまし、瓦礫だらけのコロシアムでは闘技大会も開かれず、闇を纏う機関の連中もここのところ姿を現さない。
私が初めて覚醒したこの部屋を自分のもののように使っているが、本来は何の、誰のものだったかは知らない。
岩をくり貫いただけの大きな窓に腰掛けて、ぼんやり底の深い穴を眺めて過ごしていた。
「久し振りだってのに、相変わらずつれない」
ほんの数日会わないだけで久し振りも何もないだろうと思いつつも、口を閉ざす。
余計な会話はしたくはない。
無言のまま、目を合わせないように視線をふいと別のところに向けた。
何気無く向けた所に例の人形があったのに気が付いた。
今の私と同じ服を着た髪の長い人形。
その奥にもう一体、赤い服の人形があった。
…あれはまさか、…アーロン!?
彼も、こいつと契約をしたと言うのか。
あれほど拒んでいた彼と、この気色悪い変態主はどうやって、どんな手を使って契約を結んだのだろう。
契約の中身は、……私と同じだろう。
“キーブレードを持つ者を殺せ”
アーロンは、子供を手にかけたりしないはずだ。
それに、彼らが共に行動していたことも知っている。
何かしらの脅しをかけられたか、質をとられたか、…アーロンを御せるほどの何かがなければ、主は契約を結ぶことなど不可能なはずだ。
「ひっひっひ、これはダメ。ラフテルがちゃんと契約を果たしてくれるまでは、かえせな~い」
いちいち大袈裟な身振り手振りで言うその仕草がムカつく。
手品師のような真似をして手で握り隠した私の人形を、一瞬にして消して見せた。
あれは契約の証。
この主と契約を交わした者は、“心”を奪われる。
奪われた心はこうしてあの人形に封じられ、主の命令には絶対服従させられてしまうのだ。
今のアーロンがまさにその状態なのだろう。
アーロンに、会いたいと思った。
なぜこんな奴と契約を結んだのか、その理由を聞きたいと思った。
「さ~て、ラフテル~」
「名を呼ぶな」
「もう知ってると思うけど、新しいコロシアムの整備が完了した。
…ったく、大変だったんだぞ!
何百年も封印されてたもんだから、埃や蜘蛛の巣で一杯でさ~草は生えてるし、なんかの虫が発生してるし、掃除するだけで3日もかかっても~大変だったんだ!」
…こいつの言う埃や蜘蛛の巣は、私がいたスピラのような人間界基準ではない。
草も虫も、冥界基準でさぞかしでかくてグロテスクな奴だろう。
それを想像するだけでゾワリと肌が粟立つ。
「まぁいい。だがやっとこれで闘技大会が開ける」
そう言えば、以前ソラ達があの女を助けに来たときにソラに開けさせた鍵があった。
あれが関係してたのか。
私にとっては別段興味もないし、どうでもいいことだ。
そんなことより、私の人形を奴が手に取ったお陰で見えやすくやったアレのほうが私をザワつかせる。
やはりあれはアーロンだ。
私に聞かせようとしているのか、先程から延々とコロシアムのことを語り続けている。
「…それで、私に何をさせたいんだ?」
いい加減、聞いていられなくなってきた。
さっさとこいつの用を聞き出して済ませてしまいたい。
一緒にいるのは苦痛でしかない。
「…可愛くないね、ラフテルは。 まぁ、話が進んでいいけど。 要するに、これから大会を開くんだけど、…ラフテル~、お前にも出て貰おうかと思ってね?」
「わかった、何番目だ?」
「あれ…、随分あっさりだね」
だろうと思った。
勿体つけて回りくどく説得して、渋る私を大会に出させようと考えていた。
そんなところだろう。
ねちっこく付きまとわれるなら、初めから肯定したほうがいい。
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9,sep,2015
世界の広さに限界なんてあるのだろうか。
私は無いと思っている。
そう思い始めたのはついこの前なのだが…。
私はスピラで生まれ、スピラで育ち、スピラで命を落とした。
そう、私の物語の舞台はいつもスピラだ。
ジェクトや少年がいたザナルカンドなんて知らない。
異界によく似たこの冥界も、こうして足を踏み入れなければ知る由もなかっただろう。
ましてや、異界とは全く異なるもう一つの死後の世界があるなんて。
世界はまだまだ広い。
私の知る世界なんて、この広さから見たらどれだけ微々たるものか、想像すらできない。
その広い広い世界を旅しているのだと、あの子は言った。
世界の扉を開けて世界の均衡を乱す存在を倒すのだ、と。
この世界にやってきたと言うことはつまり、この世界も狂っているから。
本来、私はここにいてはいけない存在なのだろう。
私のような存在があるから、あの子は世界を巡る。
そうして元凶とも言える奴を倒し、世界を本来在るべき正しい姿を取り戻させる。
私はあの子達にとってどちら側なのだろうか?
この世界へ来たのは自分の意思ではない。
だが、あの子達が敵として戦うこの世界に出現する魔物と同じ印が、私にもついている。
私は、あの子から見たら敵なのだ。
あの子、ソラが持っている武器はキーブレードと言う。
全ての鍵を開けることも閉じることもできる。
彼はこれを使って世界の扉を開け、移動している。
私にとって、その武器は恐怖を覚えさせる。
ソラという少年は平気でも、その手にあの武器が握られている限り、私の気持ちはざわつき揺れ動く。
一刻も速く、その不安定要素を排除したくて、私はソラに敵対する。
あの子もわかっている。
私が、本当は敵ではないのだということ。
私はなぜ自分がここにいるのか、その理由を探した。
私の主はニヤニヤして気持ち悪いだけで教えてはくれない。
だから、いかにも、という雰囲気を醸し出している怪しい連中とも接触した。
彼らも私から引き出したい情報があったらしく、利害の一致を見たからだ。
あくまでも私は主の僕。
主の命令は絶対で、私はある一定の範囲の中でしか動けない。
主はその中にいる私をいつでも自分の元へ転送させる能力を持っているらしく、私が範囲の外に出ようとすると強制的に戻される。
彼ら、ⅩⅢ機関と名乗った者達と接触するには彼らのほうからここに赴いてもらうしかない。
黒い闇の扉を潜って現れる移動方法は私も使えるが、やはりこの範囲の中だけだ。
どんな仕組みがあるのかまではわからないが、これは闇を使う者だけが扱えるのだとか。
つまり、私も闇を使う者の一種と言うことになる。
この世界へ来てから、初めて知った。
スピラにいた時には使えなかった、いや、使い方を知らなかっただけかも知れない。
本来私は闇の世界の者で、だから主は異界から私を引き戻した。
………バカバカしい。
本当にそうなら、私は僕なんぞにはならない。
主を殺して自由を選ぶ。
私と主との間には、そうすることすらできない、不思議な契約の力が働いていて私を制している。
契約という見えない手で握られ、私は今日も主の元へ強制転送させられる。
「ラフテル~」
「呼ぶな、気色悪い」
ここ数日、この変態主は何かの用事で忙しかったようで、私は呼び出しを食らうこともなく割りと自由な時間を保てていた。
この限られた範囲の中だけだが。
暗い穴蔵の中の魔物達は、私の気配を察しただけで姿をくらまし、瓦礫だらけのコロシアムでは闘技大会も開かれず、闇を纏う機関の連中もここのところ姿を現さない。
私が初めて覚醒したこの部屋を自分のもののように使っているが、本来は何の、誰のものだったかは知らない。
岩をくり貫いただけの大きな窓に腰掛けて、ぼんやり底の深い穴を眺めて過ごしていた。
「久し振りだってのに、相変わらずつれない」
ほんの数日会わないだけで久し振りも何もないだろうと思いつつも、口を閉ざす。
余計な会話はしたくはない。
無言のまま、目を合わせないように視線をふいと別のところに向けた。
何気無く向けた所に例の人形があったのに気が付いた。
今の私と同じ服を着た髪の長い人形。
その奥にもう一体、赤い服の人形があった。
…あれはまさか、…アーロン!?
彼も、こいつと契約をしたと言うのか。
あれほど拒んでいた彼と、この気色悪い変態主はどうやって、どんな手を使って契約を結んだのだろう。
契約の中身は、……私と同じだろう。
“キーブレードを持つ者を殺せ”
アーロンは、子供を手にかけたりしないはずだ。
それに、彼らが共に行動していたことも知っている。
何かしらの脅しをかけられたか、質をとられたか、…アーロンを御せるほどの何かがなければ、主は契約を結ぶことなど不可能なはずだ。
「ひっひっひ、これはダメ。ラフテルがちゃんと契約を果たしてくれるまでは、かえせな~い」
いちいち大袈裟な身振り手振りで言うその仕草がムカつく。
手品師のような真似をして手で握り隠した私の人形を、一瞬にして消して見せた。
あれは契約の証。
この主と契約を交わした者は、“心”を奪われる。
奪われた心はこうしてあの人形に封じられ、主の命令には絶対服従させられてしまうのだ。
今のアーロンがまさにその状態なのだろう。
アーロンに、会いたいと思った。
なぜこんな奴と契約を結んだのか、その理由を聞きたいと思った。
「さ~て、ラフテル~」
「名を呼ぶな」
「もう知ってると思うけど、新しいコロシアムの整備が完了した。
…ったく、大変だったんだぞ!
何百年も封印されてたもんだから、埃や蜘蛛の巣で一杯でさ~草は生えてるし、なんかの虫が発生してるし、掃除するだけで3日もかかっても~大変だったんだ!」
…こいつの言う埃や蜘蛛の巣は、私がいたスピラのような人間界基準ではない。
草も虫も、冥界基準でさぞかしでかくてグロテスクな奴だろう。
それを想像するだけでゾワリと肌が粟立つ。
「まぁいい。だがやっとこれで闘技大会が開ける」
そう言えば、以前ソラ達があの女を助けに来たときにソラに開けさせた鍵があった。
あれが関係してたのか。
私にとっては別段興味もないし、どうでもいいことだ。
そんなことより、私の人形を奴が手に取ったお陰で見えやすくやったアレのほうが私をザワつかせる。
やはりあれはアーロンだ。
私に聞かせようとしているのか、先程から延々とコロシアムのことを語り続けている。
「…それで、私に何をさせたいんだ?」
いい加減、聞いていられなくなってきた。
さっさとこいつの用を聞き出して済ませてしまいたい。
一緒にいるのは苦痛でしかない。
「…可愛くないね、ラフテルは。 まぁ、話が進んでいいけど。 要するに、これから大会を開くんだけど、…ラフテル~、お前にも出て貰おうかと思ってね?」
「わかった、何番目だ?」
「あれ…、随分あっさりだね」
だろうと思った。
勿体つけて回りくどく説得して、渋る私を大会に出させようと考えていた。
そんなところだろう。
ねちっこく付きまとわれるなら、初めから肯定したほうがいい。
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