第9章【覚悟を決めよう】
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『83』~覚悟を決めよう~
黒い服の男は静かに闇の中に消えていった。
男の残した言葉の意味と、もう1人の私自身のこと、考えることがまた一つ増えてしまった。
外の空気を吸いたくなって、闇の扉を開く。
暗い世界から飛び出した私には、外の太陽が突き刺さるようだ。
思わず固く目を閉じて顔を太陽から思いきり背けた。
闇の扉を出た先は、いつかの外壁の上。
ここからは闘技場の様子が良く見渡せる。
反対側に目を向けると、そう巨大とまではいかないが、人々の賑やかな声で溢れたナグールの町が広がっている。
これからもっと暑い季節になる直前なのだろう、町のあちらこちらに見えるオアシスを模した水のオブジェの周りの木々から、若い花や草の香りが風に乗ってここまで届く。
心があったなら、こんな時どう思っただろうか。
きっと何かを感じたはずなのに、それがどんなものであったのかということですら、もう思い出せなかった。
『記憶は失われていくだけだ』
あの時の黒いコートを着た男の言葉が甦る。
背筋がゾクリとした。
このままここに留まれば、あの男の言うようにやがて記憶は無くなり、私の主である変態野郎の言いなりとなるだけの私の姿をした人形となってしまうのか…。
柔らかい日差しの下で、逞しい肉体を惜し気もなく晒して汗を流しているたくさんの働き手が、闘技場のあちこちを駆け回っている。
この瓦礫の山と化した闘技場が元の姿を取り戻す日も近そうだ。
それからもう一つ。
アーロンのこと。
アーロンが口にした言葉や態度を改めて思い返してみる。
私の勝手な解釈だが、彼が、私にとっての“鍵”となる。
シグバールの言葉、ソラの友だと言ったあの男の言葉、私に嫌悪感を抱かせる光の武器。
それらが私の頭の中でぐるぐると渦を巻いて思考の邪魔をする。
だが、糸の先が顔を出しているのもわかる。
このほつれて絡み合った全ての工程を、私はゆっくりほどいて紡ぎ直したい。
それを邪魔する存在が、私が逆らうことを許さない、我が主。
契約の力はとても強い。
反することをすれば痛みを受け、履行しなければ罰が与えられる。
それは身を持って体験済みだ。
この契約が果たされなければ、私は解放されない。
もう一つ、あの男の言葉を思い出した。
『お前にその覚悟があるのなら…』
覚悟なんて、ずっと昔からしていた。
スピラで、ガードとして旅に出る時から、いやその前から。
スピラを救う召喚士を命を懸けて守る。
それは最高の名誉であり誇りだ。
だからいつでも、命なんて惜しくなかった。
…そう言い切れない自分が情けないが。
小さく口許が緩んだのが自分でもわかった。
もう、スピラに驚異と呼ばれる災厄は存在しない。
平和なスピラで、召喚士は旅をしない。
命を懸けて守るガードも必要ない。
平和な世界で誰もが幸せに笑って過ごせればいい。
…そこに、私も入れて貰えるなら、私も心から笑って過ごせるような気がする。
だから、私は彼の言う通り覚悟を決める。
あの時に言われたことをやってみようと思う。
…少々手助けが必要だが、なんとかできる、だろうか?
第9章終
→第10章【冥界コロシアム】
8,sep,2015
18,Feb,2018 携帯版より転載
黒い服の男は静かに闇の中に消えていった。
男の残した言葉の意味と、もう1人の私自身のこと、考えることがまた一つ増えてしまった。
外の空気を吸いたくなって、闇の扉を開く。
暗い世界から飛び出した私には、外の太陽が突き刺さるようだ。
思わず固く目を閉じて顔を太陽から思いきり背けた。
闇の扉を出た先は、いつかの外壁の上。
ここからは闘技場の様子が良く見渡せる。
反対側に目を向けると、そう巨大とまではいかないが、人々の賑やかな声で溢れたナグールの町が広がっている。
これからもっと暑い季節になる直前なのだろう、町のあちらこちらに見えるオアシスを模した水のオブジェの周りの木々から、若い花や草の香りが風に乗ってここまで届く。
心があったなら、こんな時どう思っただろうか。
きっと何かを感じたはずなのに、それがどんなものであったのかということですら、もう思い出せなかった。
『記憶は失われていくだけだ』
あの時の黒いコートを着た男の言葉が甦る。
背筋がゾクリとした。
このままここに留まれば、あの男の言うようにやがて記憶は無くなり、私の主である変態野郎の言いなりとなるだけの私の姿をした人形となってしまうのか…。
柔らかい日差しの下で、逞しい肉体を惜し気もなく晒して汗を流しているたくさんの働き手が、闘技場のあちこちを駆け回っている。
この瓦礫の山と化した闘技場が元の姿を取り戻す日も近そうだ。
それからもう一つ。
アーロンのこと。
アーロンが口にした言葉や態度を改めて思い返してみる。
私の勝手な解釈だが、彼が、私にとっての“鍵”となる。
シグバールの言葉、ソラの友だと言ったあの男の言葉、私に嫌悪感を抱かせる光の武器。
それらが私の頭の中でぐるぐると渦を巻いて思考の邪魔をする。
だが、糸の先が顔を出しているのもわかる。
このほつれて絡み合った全ての工程を、私はゆっくりほどいて紡ぎ直したい。
それを邪魔する存在が、私が逆らうことを許さない、我が主。
契約の力はとても強い。
反することをすれば痛みを受け、履行しなければ罰が与えられる。
それは身を持って体験済みだ。
この契約が果たされなければ、私は解放されない。
もう一つ、あの男の言葉を思い出した。
『お前にその覚悟があるのなら…』
覚悟なんて、ずっと昔からしていた。
スピラで、ガードとして旅に出る時から、いやその前から。
スピラを救う召喚士を命を懸けて守る。
それは最高の名誉であり誇りだ。
だからいつでも、命なんて惜しくなかった。
…そう言い切れない自分が情けないが。
小さく口許が緩んだのが自分でもわかった。
もう、スピラに驚異と呼ばれる災厄は存在しない。
平和なスピラで、召喚士は旅をしない。
命を懸けて守るガードも必要ない。
平和な世界で誰もが幸せに笑って過ごせればいい。
…そこに、私も入れて貰えるなら、私も心から笑って過ごせるような気がする。
だから、私は彼の言う通り覚悟を決める。
あの時に言われたことをやってみようと思う。
…少々手助けが必要だが、なんとかできる、だろうか?
第9章終
→第10章【冥界コロシアム】
8,sep,2015
18,Feb,2018 携帯版より転載