第1章【何が起きたのか理解不能】
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【 8 】
腕の中で突然気が狂ったように暴れだしたラフテルは、手が付けられないほど混乱していた。
こちらもなんとか宥めようとしてみたが、その行為そのものがかえって彼女の興奮を煽ってしまうのか、益々激しく暴れるばかりだった。
仕方がないとばかりに、抱き締めたままの彼女の後ろ首に手刀を落とす。
息の詰まる短い呻き声が上がるのと、この先の扉が壊されたであろう大きな破壊音がしたのは同時だった。
一番に俺の元へ駆けつけたのは、俺達を受け入れた張本人、バラライだった。
騒ぎを聞き付けて様子を見に来たらしい。
俺にとっては、騒ぎどころか何が起こったかすらもわからないというのに。
訓練の時間を終えて、部屋に戻ろうとしたところで、酷く怯えたラフテルがいた。
それだけだ。
バラライの後に続いてやって来た兵達は皆、一様に手に武器を携えていた。
怪訝に思いながら、眉間に力が入る。
「…何があった」
「ひっ!」
先頭きってやってきたバラライに向けた問いかけだった。
息を飲んだのは、彼に隠れるようにして立つ、若い兵だ。
短い悲鳴を隠すことができず、その顔には恐怖の混じった動揺が浮かんでいた。
「それを聞きたいのはこちらです」
「………」
「流石は、伝説、というわけですか」
「…どういう意味だ」
「まずは彼女を部屋へ戻しましょう。部屋からここまでの様子を見て頂ければわかるでしょう」
意識の無いラフテルを抱えて、さっさと踵を返して歩き出したバラライの後に続いた。
無理矢理こじあけたのか、半分ほど壊された観音開きの扉や、その先に広がるガラスの破片は天井の照明の成れの果てか。
微かに残る魔法の名残が大気の歪みをまだそこに留めている。
どこか痛めたのか、兵士が何人か運ばれていくところも見えた。
…こいつが、やったのだろうか…
意識が戻ったこいつが、ここがベベルだと知ったから、なのか?
確かにこいつはここを嫌っていた。
俺でさえも、あまり好ましいとは言えない。
だが、これは余りにも…
それほどまでに逃げ出したいと思っているのか。
…ここに連れてきたのは間違いだったのだろうかと己自身に疑問をかける。
だが、ここで人間の医師に診せることが一番の目的なのだ。
彼女が目覚めたときに、側にいることができなかったのが悔やまれた。
そこまで考えて、ふと先ほどの彼女の行動を思い出した。
俺の姿に怯えていたように見えたが…
ガタガタと震える様は、その身に恐怖を感じているようにしか見えなかった。
どういうことだ…?
やっと目を覚ましたかと思えば、いきなり逃亡しようとして、俺の顔を見てガタガタと震える。
一体、眠っている間に彼女に何が起きたというのだろうか?
兵士から奪ったのか、僧兵の服を身に纏った彼女を、再び寝台の上に戻してから、その傍らに膝を付く。
また静かに眠り続けるラフテルの頬を軽く撫でてから、バラライに向き直った。
部屋の中の割れた花瓶やテーブルを片付けていた下働きの者たちも追い出すと、バラライは静かに部屋の戸を閉めた。
「見回りに来た兵の話に寄りますと、部屋に入ったときに突然攻撃され、何も覚えていないと。
巡回の兵達の制止の声も聞かずにただ真っ直ぐに昇降装置へ向かったようです」
「…ここがベベルだと…」
「わかるでしょう、あなたと同じですから」
「…そうだな」
ドアを小さくノックする音に意識を持っていかれる。
バラライの返事のあと、遠慮がちに静かに開かれた扉から顔を覗かせたのは、ラフテルを診てくれた医師だった。
「お邪魔しますよ」
「先生、…どうぞ」
→
10,jun,2015
腕の中で突然気が狂ったように暴れだしたラフテルは、手が付けられないほど混乱していた。
こちらもなんとか宥めようとしてみたが、その行為そのものがかえって彼女の興奮を煽ってしまうのか、益々激しく暴れるばかりだった。
仕方がないとばかりに、抱き締めたままの彼女の後ろ首に手刀を落とす。
息の詰まる短い呻き声が上がるのと、この先の扉が壊されたであろう大きな破壊音がしたのは同時だった。
一番に俺の元へ駆けつけたのは、俺達を受け入れた張本人、バラライだった。
騒ぎを聞き付けて様子を見に来たらしい。
俺にとっては、騒ぎどころか何が起こったかすらもわからないというのに。
訓練の時間を終えて、部屋に戻ろうとしたところで、酷く怯えたラフテルがいた。
それだけだ。
バラライの後に続いてやって来た兵達は皆、一様に手に武器を携えていた。
怪訝に思いながら、眉間に力が入る。
「…何があった」
「ひっ!」
先頭きってやってきたバラライに向けた問いかけだった。
息を飲んだのは、彼に隠れるようにして立つ、若い兵だ。
短い悲鳴を隠すことができず、その顔には恐怖の混じった動揺が浮かんでいた。
「それを聞きたいのはこちらです」
「………」
「流石は、伝説、というわけですか」
「…どういう意味だ」
「まずは彼女を部屋へ戻しましょう。部屋からここまでの様子を見て頂ければわかるでしょう」
意識の無いラフテルを抱えて、さっさと踵を返して歩き出したバラライの後に続いた。
無理矢理こじあけたのか、半分ほど壊された観音開きの扉や、その先に広がるガラスの破片は天井の照明の成れの果てか。
微かに残る魔法の名残が大気の歪みをまだそこに留めている。
どこか痛めたのか、兵士が何人か運ばれていくところも見えた。
…こいつが、やったのだろうか…
意識が戻ったこいつが、ここがベベルだと知ったから、なのか?
確かにこいつはここを嫌っていた。
俺でさえも、あまり好ましいとは言えない。
だが、これは余りにも…
それほどまでに逃げ出したいと思っているのか。
…ここに連れてきたのは間違いだったのだろうかと己自身に疑問をかける。
だが、ここで人間の医師に診せることが一番の目的なのだ。
彼女が目覚めたときに、側にいることができなかったのが悔やまれた。
そこまで考えて、ふと先ほどの彼女の行動を思い出した。
俺の姿に怯えていたように見えたが…
ガタガタと震える様は、その身に恐怖を感じているようにしか見えなかった。
どういうことだ…?
やっと目を覚ましたかと思えば、いきなり逃亡しようとして、俺の顔を見てガタガタと震える。
一体、眠っている間に彼女に何が起きたというのだろうか?
兵士から奪ったのか、僧兵の服を身に纏った彼女を、再び寝台の上に戻してから、その傍らに膝を付く。
また静かに眠り続けるラフテルの頬を軽く撫でてから、バラライに向き直った。
部屋の中の割れた花瓶やテーブルを片付けていた下働きの者たちも追い出すと、バラライは静かに部屋の戸を閉めた。
「見回りに来た兵の話に寄りますと、部屋に入ったときに突然攻撃され、何も覚えていないと。
巡回の兵達の制止の声も聞かずにただ真っ直ぐに昇降装置へ向かったようです」
「…ここがベベルだと…」
「わかるでしょう、あなたと同じですから」
「…そうだな」
ドアを小さくノックする音に意識を持っていかれる。
バラライの返事のあと、遠慮がちに静かに開かれた扉から顔を覗かせたのは、ラフテルを診てくれた医師だった。
「お邪魔しますよ」
「先生、…どうぞ」
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10,jun,2015