第9章【覚悟を決めよう】
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『78』~もう一人の、私!?~
「その前に一つ教えて欲しい」
腕の拘束から解放されてすぐ、逃げるように1歩距離をとった。
今日この日までに、たくさんのことを聞いていた。
今の私が知りたいのは一つだけ。こいつらが私を呼ぶ、もう一つの名前。
「ファレルクスとは誰だ? …機関の関係者、か?」
「…あいつか。 …そうだな、ファレルクスは、一時期俺たちと共に過ごしたが、機関のメンバーという訳ではない。
若い坊や達はよくなついてたようだったが、俺に言わせればあいつは、裏切り者の欠陥不良人形さ」
「!! な、んだと…!?」
「2年ほど前になるか。 機関のメンバーに科学者がいたんだが、そいつがあるところから記憶の欠片を持ってきた、らしい。
人一人生きてきた分丸々手に入れられたと嬉々としていた。 奴はそれを元にして、人形を作り出した。
そいつが研究していた“心”の生まれる瞬間を切望したからだ。 記憶は欠けることなく、完全な人間を生み出した、そう誰もが思った。だが……」
「記憶だけをうめこんで、完全な人間ができるはずない」
「その通り。 確かに記憶は完全だ。 だがそれは所詮他人の記憶。 己自身で生み出したものではない。 …あいつは、次第に壊れていった」
「…こわれ、た!?」
「あいつはいつでも辛そうな悲しそうな顔をしていた。 心なんてないはずなんだがな。
ヴィクセンの奴が記憶の欠片を回収した時は、余程酷い精神状態だったんだろう」
「…私とファレルクスの関係は?」
「その記憶は、おたくの記憶だってハナシ」
「なぜそう言い切れる。 他の人物のものかもしれないだろ?」
「ファレルクスは、おたくとそっくりだ。 あの坊やが間違えたのも無理はない。 それにあいつはよく、ある名を口にしていた。
つい先日、そいつを見て確信したってハナシだ」
「…名前? 誰の?」
「…“アーロン”」
「…え」
「おたくには、身近な存在の筈だ」
「…それから、どうしたんだ?」
「……俺が殺した」
「!!!」
言葉が出なかった。 ただ、驚いた。
心がないということはこういうことかと、改めて理解した。
そうかこいつが殺したのかと、まるで遠い昔の物語でも聞いたかのような思いしか出てこなかった。
こいつも、感情もないままにトリガーをひいたのだろう。
それが誰かの命令であったとしても、彼自身の意志であったのだとしても結果は同じ。
ただ、なんだろうか?
胸の中のもやもやするこの感覚は…
人として命を持っていた頃、魂だけとなって異界に存在していた頃、よく感じていたような葛藤とも呼べるようなもの。
これは、私が持つ記憶がそんな感情を思い出させているだけだ。
そう、思い込んでいるのかもしれない。
“ファレルクス“、それは、もう1人の私の名前。
私の知らない、だが同じ顔の同じ記憶を持つ、私ではないファレルクスという、私。
私の記憶の欠片から生まれた存在。
ファレルクスが誰なのかはわかった。
そしてもう存在していないのだということも。
「どうした? 子猫ちゃん」
くるりと背を向けた私に、シグバールが問い掛ける。
「少し頭の中を整理したい。 時間をくれ。 …あんたの質問にはちゃんと答えるから」
「んじゃ、俺も一度帰還するか。 また来るよ、子猫ちゃん」
「二度と来るな!」
普段は青白い炎が揺らめいている変態野郎の頭だが、感情が昂ると赤黒く燃え盛る。
言葉を発しなくても感情がだだ漏れしてることに本人は気付いていなさそうだ。
→
3,sep,2015
「その前に一つ教えて欲しい」
腕の拘束から解放されてすぐ、逃げるように1歩距離をとった。
今日この日までに、たくさんのことを聞いていた。
今の私が知りたいのは一つだけ。こいつらが私を呼ぶ、もう一つの名前。
「ファレルクスとは誰だ? …機関の関係者、か?」
「…あいつか。 …そうだな、ファレルクスは、一時期俺たちと共に過ごしたが、機関のメンバーという訳ではない。
若い坊や達はよくなついてたようだったが、俺に言わせればあいつは、裏切り者の欠陥不良人形さ」
「!! な、んだと…!?」
「2年ほど前になるか。 機関のメンバーに科学者がいたんだが、そいつがあるところから記憶の欠片を持ってきた、らしい。
人一人生きてきた分丸々手に入れられたと嬉々としていた。 奴はそれを元にして、人形を作り出した。
そいつが研究していた“心”の生まれる瞬間を切望したからだ。 記憶は欠けることなく、完全な人間を生み出した、そう誰もが思った。だが……」
「記憶だけをうめこんで、完全な人間ができるはずない」
「その通り。 確かに記憶は完全だ。 だがそれは所詮他人の記憶。 己自身で生み出したものではない。 …あいつは、次第に壊れていった」
「…こわれ、た!?」
「あいつはいつでも辛そうな悲しそうな顔をしていた。 心なんてないはずなんだがな。
ヴィクセンの奴が記憶の欠片を回収した時は、余程酷い精神状態だったんだろう」
「…私とファレルクスの関係は?」
「その記憶は、おたくの記憶だってハナシ」
「なぜそう言い切れる。 他の人物のものかもしれないだろ?」
「ファレルクスは、おたくとそっくりだ。 あの坊やが間違えたのも無理はない。 それにあいつはよく、ある名を口にしていた。
つい先日、そいつを見て確信したってハナシだ」
「…名前? 誰の?」
「…“アーロン”」
「…え」
「おたくには、身近な存在の筈だ」
「…それから、どうしたんだ?」
「……俺が殺した」
「!!!」
言葉が出なかった。 ただ、驚いた。
心がないということはこういうことかと、改めて理解した。
そうかこいつが殺したのかと、まるで遠い昔の物語でも聞いたかのような思いしか出てこなかった。
こいつも、感情もないままにトリガーをひいたのだろう。
それが誰かの命令であったとしても、彼自身の意志であったのだとしても結果は同じ。
ただ、なんだろうか?
胸の中のもやもやするこの感覚は…
人として命を持っていた頃、魂だけとなって異界に存在していた頃、よく感じていたような葛藤とも呼べるようなもの。
これは、私が持つ記憶がそんな感情を思い出させているだけだ。
そう、思い込んでいるのかもしれない。
“ファレルクス“、それは、もう1人の私の名前。
私の知らない、だが同じ顔の同じ記憶を持つ、私ではないファレルクスという、私。
私の記憶の欠片から生まれた存在。
ファレルクスが誰なのかはわかった。
そしてもう存在していないのだということも。
「どうした? 子猫ちゃん」
くるりと背を向けた私に、シグバールが問い掛ける。
「少し頭の中を整理したい。 時間をくれ。 …あんたの質問にはちゃんと答えるから」
「んじゃ、俺も一度帰還するか。 また来るよ、子猫ちゃん」
「二度と来るな!」
普段は青白い炎が揺らめいている変態野郎の頭だが、感情が昂ると赤黒く燃え盛る。
言葉を発しなくても感情がだだ漏れしてることに本人は気付いていなさそうだ。
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3,sep,2015