第8章【感情は心より生まれる】
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
『71』~ハートと心~
「人の心の闇が具現化したもの、それがハートレス。
ハートレスとなった者の心の抜け殻をノーバディと呼ぶ。
そのどちらにも、心はない。 ノーバディはもともと無であり、存在しないものだ。 倒されれば消滅するしかない。
だが、ハートレスには“ハート”を持つものがいる」
「…ハートと心は違うのか?」
「ああ、違う。 ノーバディもハートレスも等しく、心無き闇のもの。 ハートはヒトの心の欠片なのだ。
ハートレスを倒すとハートは解放されるが、通常はまたすぐに闇に戻りハートレスとなって現れる。
ただ、ある武器によって倒された場合、ハートは回収され世界の中心に集められる」
「…ある、武器…?」
「……キーブレードだ」
「!!」
「我々ⅩⅢ機関の最終目的はその世界の中心にある世界の心を完成させ、自らを完全なものにすること。
その為にはキーブレードを持つ者にハートを回収してもらわねばならん」
「…わ、私は…、私も、ハートを持っているのか?」
「持ってるさ。当然だ」
「なぜわかる?」
シグバールは、両手の指で器用にハート形を作り、己の首の下に当てて見せた。
「あるだろう? おたくの、ここに」
「!」
思わず服の上から手を当てた。
シグバールは、そんな私の態度を見て小さく笑みを浮かべた。
そしてさらに話を続けて行く。
「その印を持つハートレスをエンブレムと呼ぶ。 …ハートを持つものだ。
そしておたくは、記憶を持ち、人の姿をしたものだ。 そんなハートレスは……俺は一人しか知らない」
「…珍しい、のか?」
「まあ、かなり特殊、だと言えるだろうな。 だから言ったんだ。『よほど強い心を持っていた』と」
シグバールと名乗った男の背後に、闇の扉が現れた。
ふいと一瞬、私から視線を外したがすぐに戻すと、足を一歩後退させた。
「シグバール、待て!」
「また来るよ、子猫ちゃん」
すーっと音もなく闇に消えていく様が、異様にあっけなく思えた。
あの変態野郎のときは、わざとらしいボフンなんて音を立てるものだから余計に癪に障る。
自分の真後ろの気配に、その時に初めて気付いた。
シグバールが逃げるように立ち去った原因はこれだろう。
彼を知らぬ他の人間がこの気配を感じたら、誰もが先程のシグバールのようにさっさと逃げるだろう。
或いは恐ろしさに怯えるだろうか。
だが、私にはそんな感情も感覚もない。
…心がないのだから仕方がない。
「…アーロン」
「………」
「よかった、無事だったんだな。 さっきの場所にいなかったから、どうしたんだろうと思った。 傷は、もう大丈夫なのか?」
…心配、安心、そんな感情はない。
ただ、ヒトであった時の名残ともいえる記憶がこの言葉を紡いでいるにすぎない。
この沸き上がる感覚は気のせいだというのに、アーロンに会えたことを素直に嬉しいと感じている。
「ラフテル、今のは誰だ…?」
「シグバールのことか?」
「シグバール…」
「…私もよく知らない。 何かの調査だと言っていたが」
「この世界のことなどどうでもいい。 さっさと帰るぞ」
「………」
返事を返すこともできないまま、私は俯いてしまった。
「ラフテル…」
「…ダメだ」
「なんだと」
「…帰りたい、…でも、ダメなんだ」
「何故だ?」
「………」
理由を言うのは簡単だ。だが、言ってしまうとどうなるかわからない。
それはアーロンには全く関係ない私の個人的な件なのだから。
それでもこいつはなんとかしようとするだろう。
わざわざこんなところにまで私を探しに来てくれたほどだ。
事実、助けて欲しいと願ったときもある。
その姿を見て、声を聞けて、触れられて、喜びを覚えた。
だが、それは本物の感情ではないのだ。
奴に奪われた心を取り戻したとしても、ヒトですらない私は、…帰れない。
「ラフテル」
アーロンの口調が強まる。 怒りを含ませた呼び掛けだとすぐに理解する。
それでも私は何も答えることもできず、静かに首を左右に振って後退した。
アーロンから漂う怒気が殺気に変わっていく。
危機感に反応して咄嗟に飛び退いた。
いつの間に手にしたのか、いつもの武器である太刀をゆっくり肩に担ぎ体勢を低くしていく。
「!!」
「力付くでも連れていくぞ」
「ア、アーロン…!」
→
26,aug,2015
「人の心の闇が具現化したもの、それがハートレス。
ハートレスとなった者の心の抜け殻をノーバディと呼ぶ。
そのどちらにも、心はない。 ノーバディはもともと無であり、存在しないものだ。 倒されれば消滅するしかない。
だが、ハートレスには“ハート”を持つものがいる」
「…ハートと心は違うのか?」
「ああ、違う。 ノーバディもハートレスも等しく、心無き闇のもの。 ハートはヒトの心の欠片なのだ。
ハートレスを倒すとハートは解放されるが、通常はまたすぐに闇に戻りハートレスとなって現れる。
ただ、ある武器によって倒された場合、ハートは回収され世界の中心に集められる」
「…ある、武器…?」
「……キーブレードだ」
「!!」
「我々ⅩⅢ機関の最終目的はその世界の中心にある世界の心を完成させ、自らを完全なものにすること。
その為にはキーブレードを持つ者にハートを回収してもらわねばならん」
「…わ、私は…、私も、ハートを持っているのか?」
「持ってるさ。当然だ」
「なぜわかる?」
シグバールは、両手の指で器用にハート形を作り、己の首の下に当てて見せた。
「あるだろう? おたくの、ここに」
「!」
思わず服の上から手を当てた。
シグバールは、そんな私の態度を見て小さく笑みを浮かべた。
そしてさらに話を続けて行く。
「その印を持つハートレスをエンブレムと呼ぶ。 …ハートを持つものだ。
そしておたくは、記憶を持ち、人の姿をしたものだ。 そんなハートレスは……俺は一人しか知らない」
「…珍しい、のか?」
「まあ、かなり特殊、だと言えるだろうな。 だから言ったんだ。『よほど強い心を持っていた』と」
シグバールと名乗った男の背後に、闇の扉が現れた。
ふいと一瞬、私から視線を外したがすぐに戻すと、足を一歩後退させた。
「シグバール、待て!」
「また来るよ、子猫ちゃん」
すーっと音もなく闇に消えていく様が、異様にあっけなく思えた。
あの変態野郎のときは、わざとらしいボフンなんて音を立てるものだから余計に癪に障る。
自分の真後ろの気配に、その時に初めて気付いた。
シグバールが逃げるように立ち去った原因はこれだろう。
彼を知らぬ他の人間がこの気配を感じたら、誰もが先程のシグバールのようにさっさと逃げるだろう。
或いは恐ろしさに怯えるだろうか。
だが、私にはそんな感情も感覚もない。
…心がないのだから仕方がない。
「…アーロン」
「………」
「よかった、無事だったんだな。 さっきの場所にいなかったから、どうしたんだろうと思った。 傷は、もう大丈夫なのか?」
…心配、安心、そんな感情はない。
ただ、ヒトであった時の名残ともいえる記憶がこの言葉を紡いでいるにすぎない。
この沸き上がる感覚は気のせいだというのに、アーロンに会えたことを素直に嬉しいと感じている。
「ラフテル、今のは誰だ…?」
「シグバールのことか?」
「シグバール…」
「…私もよく知らない。 何かの調査だと言っていたが」
「この世界のことなどどうでもいい。 さっさと帰るぞ」
「………」
返事を返すこともできないまま、私は俯いてしまった。
「ラフテル…」
「…ダメだ」
「なんだと」
「…帰りたい、…でも、ダメなんだ」
「何故だ?」
「………」
理由を言うのは簡単だ。だが、言ってしまうとどうなるかわからない。
それはアーロンには全く関係ない私の個人的な件なのだから。
それでもこいつはなんとかしようとするだろう。
わざわざこんなところにまで私を探しに来てくれたほどだ。
事実、助けて欲しいと願ったときもある。
その姿を見て、声を聞けて、触れられて、喜びを覚えた。
だが、それは本物の感情ではないのだ。
奴に奪われた心を取り戻したとしても、ヒトですらない私は、…帰れない。
「ラフテル」
アーロンの口調が強まる。 怒りを含ませた呼び掛けだとすぐに理解する。
それでも私は何も答えることもできず、静かに首を左右に振って後退した。
アーロンから漂う怒気が殺気に変わっていく。
危機感に反応して咄嗟に飛び退いた。
いつの間に手にしたのか、いつもの武器である太刀をゆっくり肩に担ぎ体勢を低くしていく。
「!!」
「力付くでも連れていくぞ」
「ア、アーロン…!」
→
26,aug,2015