第1章【何が起きたのか理解不能】
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【 6 】
「そのような事情がおありでしたら、お力添え致しましょう」
「ありがたい」
「すぐに部屋を用意致しますので、少々お待ち願えますか」
「ああ、頼む」
何の前触れもなく現れた俺たちを迎え入れてくれた若者に、少しでも彼女に改善の策が見出だせるかと期待を浮かべてしまう。
通された部屋は西棟の最上階だった。
廊下の広い窓からは街を一望できた。
久しくここを訪れることのなかった自分には、当時とは何も変わらないこの街も建物も人も、相変わらずだと思わざるを得ない。
何年経とうが、何も変わらない。
…いや、変わろうとしているのかもしれない。
2年前の旅でこの街の実権を握り、その力を固持していた愚か者達は消えた。
そこにかつての親友も含まれていたのは個人的に残念だとは思うが。
これにより指揮系統を失ったここは、まさに頭をもがれた蛇。
じたばたとみっともなく跳ね回っては、あとはただ腐れるばかり。
だが、これでよかったのかもしれない。
堕ちるところまで堕ち、腐り、醜い垢や膿を全て吐き出して何も残らないようにしてしまったほうが先の未来は明るいだろう。
あれから2年という時間が過ぎ、ここの空気は多少なりとも変化はあったようだ。
ここまでずっと抱き抱えてきたラフテルを静かに寝台に横たえた。
「医師を手配しました。じきに見えるでしょう」
「ああ」
「何か入り用のものがありましたら仰って下さい」
「………」
「…何か?」
「あ、いや、…随分と…「親身にする理由を知りたい、ですか?」……」
このバラライという若者、この2年の間に立ち上がった新エボン党の党首、らしい。
張り付けたような微笑みを浮かべる様は、かつての老師の1人を思い出させる。
奴は、俺やラフテルのことをよく知っていた。
当然と言えば当然なのだろうが…。
かつてかの大召喚士を守った伝説のガードとしての俺達は、ベベルの僧や兵達にとって偉大な存在となっているらしい。
そんな彼女の一大事に助力を惜しまないのは当然のことだと、笑顔のままで言い放った。
ベベルの医療技術は高いほうだと思っている。
このスピラで一番大きな街であることがそれに繋がるのは至極当然なのだが、それを抜きにしてもその技術はなかなか高いだろう。
魔法が蔓延るこの世界に於いて、魔法だけではどうしようもないこともある。
今、まさにラフテルがそうなのだ。
程なくして部屋を訪れた初老の医師は、一通り診察を終えるとこちらを振り返った。
突然、医師の姿が子供のそれに変わる。
フードを目深に被った、少年。
『僕たちでは、どうすることもできないよ』
「!!」
「見たところ、原因となるような外傷も見られませんし…」
はっとして医師の言葉に意識を戻す。
ほんの瞬きのような一瞬の幻。
つい先日の記憶が蘇ったようだ。
「まぁ、古い傷はたくさん見られるようですが、これも立派に務めを果たした結果ということですかな」
「…どうなんだ?」
「…ふむ、こう言っては何ですが、魔法をかけられている可能性は、ありますかな?」
…その可能性は祈り子たちも示唆したことだった。
しかし、あの瞬間、あの場で誰が彼女を眠らせて悦ぶ?
念のために魔力を打ち消す魔法も試してみたが、結果は何も。
医師にもその旨を伝えると、顎に片手をあてて小さく唸った。
「何だ?」
「いえ、こんな風に深い眠りに入っている死人を診たのは、初めてでして」
「…こいつが死人だと…」
「何年、ここで医者をやってると思ってるんです」
医師の言葉に納得の意味を込めて嘆息する。
そして今この医師が口にした言葉を頭の中で反芻する。
“眠り”…?
「眠って、いる、と?」
「私にはそう見えますが?」
「………」
眠っていることは分かる。
この俺でさえも。
その原因や対処を知りたいのだ。
「どうすれば目覚める」
そこで医師はまた顎に手をかけたままの姿勢で僅かに俯いた。
→
8,jun,2015
「そのような事情がおありでしたら、お力添え致しましょう」
「ありがたい」
「すぐに部屋を用意致しますので、少々お待ち願えますか」
「ああ、頼む」
何の前触れもなく現れた俺たちを迎え入れてくれた若者に、少しでも彼女に改善の策が見出だせるかと期待を浮かべてしまう。
通された部屋は西棟の最上階だった。
廊下の広い窓からは街を一望できた。
久しくここを訪れることのなかった自分には、当時とは何も変わらないこの街も建物も人も、相変わらずだと思わざるを得ない。
何年経とうが、何も変わらない。
…いや、変わろうとしているのかもしれない。
2年前の旅でこの街の実権を握り、その力を固持していた愚か者達は消えた。
そこにかつての親友も含まれていたのは個人的に残念だとは思うが。
これにより指揮系統を失ったここは、まさに頭をもがれた蛇。
じたばたとみっともなく跳ね回っては、あとはただ腐れるばかり。
だが、これでよかったのかもしれない。
堕ちるところまで堕ち、腐り、醜い垢や膿を全て吐き出して何も残らないようにしてしまったほうが先の未来は明るいだろう。
あれから2年という時間が過ぎ、ここの空気は多少なりとも変化はあったようだ。
ここまでずっと抱き抱えてきたラフテルを静かに寝台に横たえた。
「医師を手配しました。じきに見えるでしょう」
「ああ」
「何か入り用のものがありましたら仰って下さい」
「………」
「…何か?」
「あ、いや、…随分と…「親身にする理由を知りたい、ですか?」……」
このバラライという若者、この2年の間に立ち上がった新エボン党の党首、らしい。
張り付けたような微笑みを浮かべる様は、かつての老師の1人を思い出させる。
奴は、俺やラフテルのことをよく知っていた。
当然と言えば当然なのだろうが…。
かつてかの大召喚士を守った伝説のガードとしての俺達は、ベベルの僧や兵達にとって偉大な存在となっているらしい。
そんな彼女の一大事に助力を惜しまないのは当然のことだと、笑顔のままで言い放った。
ベベルの医療技術は高いほうだと思っている。
このスピラで一番大きな街であることがそれに繋がるのは至極当然なのだが、それを抜きにしてもその技術はなかなか高いだろう。
魔法が蔓延るこの世界に於いて、魔法だけではどうしようもないこともある。
今、まさにラフテルがそうなのだ。
程なくして部屋を訪れた初老の医師は、一通り診察を終えるとこちらを振り返った。
突然、医師の姿が子供のそれに変わる。
フードを目深に被った、少年。
『僕たちでは、どうすることもできないよ』
「!!」
「見たところ、原因となるような外傷も見られませんし…」
はっとして医師の言葉に意識を戻す。
ほんの瞬きのような一瞬の幻。
つい先日の記憶が蘇ったようだ。
「まぁ、古い傷はたくさん見られるようですが、これも立派に務めを果たした結果ということですかな」
「…どうなんだ?」
「…ふむ、こう言っては何ですが、魔法をかけられている可能性は、ありますかな?」
…その可能性は祈り子たちも示唆したことだった。
しかし、あの瞬間、あの場で誰が彼女を眠らせて悦ぶ?
念のために魔力を打ち消す魔法も試してみたが、結果は何も。
医師にもその旨を伝えると、顎に片手をあてて小さく唸った。
「何だ?」
「いえ、こんな風に深い眠りに入っている死人を診たのは、初めてでして」
「…こいつが死人だと…」
「何年、ここで医者をやってると思ってるんです」
医師の言葉に納得の意味を込めて嘆息する。
そして今この医師が口にした言葉を頭の中で反芻する。
“眠り”…?
「眠って、いる、と?」
「私にはそう見えますが?」
「………」
眠っていることは分かる。
この俺でさえも。
その原因や対処を知りたいのだ。
「どうすれば目覚める」
そこで医師はまた顎に手をかけたままの姿勢で僅かに俯いた。
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8,jun,2015