第6章【心を失うということ】
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『57』~心は動かない~
暖かい…。
あの時とは違って、こいつ本来の体温が戻ったようだ。
よかった。
…よかった?
今の体勢に改めて我に帰る。
ずっとこの日を、こうされることを望んで願っていたはずだ。
実際私は酷く安堵しているし、恐らく嬉しい筈だ。
それなのに…。
嬉しいという気持ちが沸いてこない。
感覚ではわかっているのに、嬉しくない筈はないのに、心は冷めたまま。
あの時もそうだった。
アーロンに剣を突き立てた、あの瞬間。
彼を斬りつけた、あの瞬間。
酷く辛くて悲しい瞬間だった筈なのに、涙どころか胸が締め付けられるような感覚さえもなかった。
心が全く反応しない、いや、ぽっかりと何かが抜け落ちてしまったような、寂しいような、痛いような…
私はどうしてしまったのか。
これが、人間ではない証だと言うのか…
「ラフテル?」
私の様子にやはり違和感を感じたようで、アーロンが腕の力を緩める。
「それで、私の記憶がどうかしたのか?」
先程の話の続きを促す私の顔を、アーロンはじっと見つめる。
もう見慣れたはずの隻眼なのに、やはりこの眼で見つめられると不思議な気持ちになる。
それに、見慣れているからなのか、初めてこの顔を見た時よりも若干若くなったような気さえする。
「…こんなにも揺さぶられるものだったとはな」
「?」
私の言葉で一人で納得して一人で完結してしまったようで、口元を僅かに緩めて大きな手を私の頭に乗せた。
子供をあやすように、私の頭を撫でるその仕草を普段なら子供扱いするなとか、恥ずかしいからなどと理由をつけて払い除けてしまっていただろう。
だが今は…。
「!!」
急にその動きを止めてしまったアーロンの顔が、おかしな形に歪んで滲んでぼやける。
瞬きをした瞬間、ツウと両頬を雫が流れた。
「…え!?」
涙?
私は、泣いている?
なぜ!?
自分の目元を押さえようと持ち上げた片手は、別の手によって動かせなくなった。
次の瞬間、視界いっぱいにアーロンの顔が入ったかと思ったら、目元に暖かい柔らかいものが触れた。
「あ、アーロン、何を…」
突然のことに頭が上手く回らない。
こいつは何をしている?
無精髭がちくちくと目元から頬に軽い痛みを伝える。
決して不快なものではなく、心地よい刺激に目眩がしそうだ。
バランスの悪い体勢のままだった私の体を優しく引き寄せ、私が溢した涙を吸いとるかのように、両頬に口付けを落としていく。
胸の中にある何かが甲高い音を立てている。
私は感情を表に出すこともできないというのに、それでもアーロンは優しく私を包み込む。
第6章終
→第7章【闇の私とは真逆の存在】
6,aug,2015
18,Feb,2018 携帯版より転載
暖かい…。
あの時とは違って、こいつ本来の体温が戻ったようだ。
よかった。
…よかった?
今の体勢に改めて我に帰る。
ずっとこの日を、こうされることを望んで願っていたはずだ。
実際私は酷く安堵しているし、恐らく嬉しい筈だ。
それなのに…。
嬉しいという気持ちが沸いてこない。
感覚ではわかっているのに、嬉しくない筈はないのに、心は冷めたまま。
あの時もそうだった。
アーロンに剣を突き立てた、あの瞬間。
彼を斬りつけた、あの瞬間。
酷く辛くて悲しい瞬間だった筈なのに、涙どころか胸が締め付けられるような感覚さえもなかった。
心が全く反応しない、いや、ぽっかりと何かが抜け落ちてしまったような、寂しいような、痛いような…
私はどうしてしまったのか。
これが、人間ではない証だと言うのか…
「ラフテル?」
私の様子にやはり違和感を感じたようで、アーロンが腕の力を緩める。
「それで、私の記憶がどうかしたのか?」
先程の話の続きを促す私の顔を、アーロンはじっと見つめる。
もう見慣れたはずの隻眼なのに、やはりこの眼で見つめられると不思議な気持ちになる。
それに、見慣れているからなのか、初めてこの顔を見た時よりも若干若くなったような気さえする。
「…こんなにも揺さぶられるものだったとはな」
「?」
私の言葉で一人で納得して一人で完結してしまったようで、口元を僅かに緩めて大きな手を私の頭に乗せた。
子供をあやすように、私の頭を撫でるその仕草を普段なら子供扱いするなとか、恥ずかしいからなどと理由をつけて払い除けてしまっていただろう。
だが今は…。
「!!」
急にその動きを止めてしまったアーロンの顔が、おかしな形に歪んで滲んでぼやける。
瞬きをした瞬間、ツウと両頬を雫が流れた。
「…え!?」
涙?
私は、泣いている?
なぜ!?
自分の目元を押さえようと持ち上げた片手は、別の手によって動かせなくなった。
次の瞬間、視界いっぱいにアーロンの顔が入ったかと思ったら、目元に暖かい柔らかいものが触れた。
「あ、アーロン、何を…」
突然のことに頭が上手く回らない。
こいつは何をしている?
無精髭がちくちくと目元から頬に軽い痛みを伝える。
決して不快なものではなく、心地よい刺激に目眩がしそうだ。
バランスの悪い体勢のままだった私の体を優しく引き寄せ、私が溢した涙を吸いとるかのように、両頬に口付けを落としていく。
胸の中にある何かが甲高い音を立てている。
私は感情を表に出すこともできないというのに、それでもアーロンは優しく私を包み込む。
第6章終
→第7章【闇の私とは真逆の存在】
6,aug,2015
18,Feb,2018 携帯版より転載