第6章【心を失うということ】
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『56』~会いたかった~
私は、契約を交わした。
ある男と。
そこに私の意思はなく、ただ一方的な圧力を掛けられての、力ずくで支配するというものでしかない。
私の大切なものを盗み、取り戻す為に言いなりに、と。
勿論断るが、奴は自分の思い通りにならない時、機嫌を損ねた時には私に酷い苦痛をもたらす。
それがどんな術なのか技なのか、全くわからないから、恐ろしい。
それでも契約を交わした以上は、契約の内容を完了さえすれば解放される。
内容そのものは決して難しくはなかったはずだ。
それなのに…。
今現在、これほどまでに悩み苦しんでいる原因は他ならぬ自分自身にある。
私の決断が、行動が、結局こんなことを引き起こしてしまった。
今さら、だからどうしろと言われてもどうもできない。
新しい解決方法を探すしかないのだろう。
私の軽率な思考と言動のせいで迷惑を被った、目の前の男と共に。
「私のことではなく、あんたのほうの事情を聞きたい」
いくら魔力を利用して寒さを凌いでいると言っても、薄暗い洞窟の奥底はかなり冷える。
あの変態野郎が控え室と呼ぶこの小さな洞穴は、この空間のあちらこちらに形も大きさも向きも様々なものが無数に点在している。
変態野郎は、また何かおかしなことを始めようとしているようだ。
直接私の契約の内容に関わらないことであれば、極力接触したくはない。
奴が控え室と呼ぶ穴には、私たちの他にも色々な魔物がいるようで、時折気味の悪い咆哮が岩肌の空間に木霊している。
こんな寒くて気味の悪い場所で、ずっと会いたいと願っていた人物とこうして触れ合うことができても、素直に喜べない。
「それは構わんが、その前に一つ確認したい」
「何?」
「…お前は、どこまで覚えている、あの時のことを?」
「…あの時…?」
「異界の奥のあの場所で、ユウナやジェクトと別れた後だ」
「!!」
あの時のことをまた思い出せと!?
思わず息を飲んだ。
こいつが言っている意味を瞬間的に理解できなかった。
「…あ、あの時の、ことは…、 …よく、覚えていないんだ。 …祈り子たちと、集めた欠片を1つにして、最後に少年…、ティーダが笑ったような気がして、…次に気が付いたら、この世界っ…わっ!!!」
私の言葉は最後まで紡がれる前におかしな声で遮られてしまった。
何を思ったのか、目の前の男、アーロンが突然飛びついてきたから。
二人とも向き合って座っていた為か、かなり不安定な姿勢だ。
私が力を抜いてバランスを崩したら押し倒されてしまいそうだ。
「!? …アー、ロン?」
「…ラフテル、本当に、お前なのだな」
「な、何言って…」
「会いたかった」
その一言で、何も返せなくなった。
会いたいと願っていたのは私も同じ。
助けて欲しいと、この世界から救い出して欲しいと。
そして今、その人物が目の前にいる。
だが今の私は人間ですらない。
死人でもない。
—————という、あの変態野郎が生み出した魔物なのだ。
私の首元の印を見られた。
魔物の証である、あの気味の悪い印を。
変態野郎の部屋からあそこの空間まで、あの子供達と共に逃げたはず。
ならばそこまでの道のりで、魔物との戦闘も経験したはずだ。
私と同じ印のついた、この世界のおかしな魔物達と。
私は、人間ではないのだ。
そんな魔物が、私に会いたいと言ってくれる人の言葉を素直に受け取れるわけはない。
→
5,aug,2015
私は、契約を交わした。
ある男と。
そこに私の意思はなく、ただ一方的な圧力を掛けられての、力ずくで支配するというものでしかない。
私の大切なものを盗み、取り戻す為に言いなりに、と。
勿論断るが、奴は自分の思い通りにならない時、機嫌を損ねた時には私に酷い苦痛をもたらす。
それがどんな術なのか技なのか、全くわからないから、恐ろしい。
それでも契約を交わした以上は、契約の内容を完了さえすれば解放される。
内容そのものは決して難しくはなかったはずだ。
それなのに…。
今現在、これほどまでに悩み苦しんでいる原因は他ならぬ自分自身にある。
私の決断が、行動が、結局こんなことを引き起こしてしまった。
今さら、だからどうしろと言われてもどうもできない。
新しい解決方法を探すしかないのだろう。
私の軽率な思考と言動のせいで迷惑を被った、目の前の男と共に。
「私のことではなく、あんたのほうの事情を聞きたい」
いくら魔力を利用して寒さを凌いでいると言っても、薄暗い洞窟の奥底はかなり冷える。
あの変態野郎が控え室と呼ぶこの小さな洞穴は、この空間のあちらこちらに形も大きさも向きも様々なものが無数に点在している。
変態野郎は、また何かおかしなことを始めようとしているようだ。
直接私の契約の内容に関わらないことであれば、極力接触したくはない。
奴が控え室と呼ぶ穴には、私たちの他にも色々な魔物がいるようで、時折気味の悪い咆哮が岩肌の空間に木霊している。
こんな寒くて気味の悪い場所で、ずっと会いたいと願っていた人物とこうして触れ合うことができても、素直に喜べない。
「それは構わんが、その前に一つ確認したい」
「何?」
「…お前は、どこまで覚えている、あの時のことを?」
「…あの時…?」
「異界の奥のあの場所で、ユウナやジェクトと別れた後だ」
「!!」
あの時のことをまた思い出せと!?
思わず息を飲んだ。
こいつが言っている意味を瞬間的に理解できなかった。
「…あ、あの時の、ことは…、 …よく、覚えていないんだ。 …祈り子たちと、集めた欠片を1つにして、最後に少年…、ティーダが笑ったような気がして、…次に気が付いたら、この世界っ…わっ!!!」
私の言葉は最後まで紡がれる前におかしな声で遮られてしまった。
何を思ったのか、目の前の男、アーロンが突然飛びついてきたから。
二人とも向き合って座っていた為か、かなり不安定な姿勢だ。
私が力を抜いてバランスを崩したら押し倒されてしまいそうだ。
「!? …アー、ロン?」
「…ラフテル、本当に、お前なのだな」
「な、何言って…」
「会いたかった」
その一言で、何も返せなくなった。
会いたいと願っていたのは私も同じ。
助けて欲しいと、この世界から救い出して欲しいと。
そして今、その人物が目の前にいる。
だが今の私は人間ですらない。
死人でもない。
—————という、あの変態野郎が生み出した魔物なのだ。
私の首元の印を見られた。
魔物の証である、あの気味の悪い印を。
変態野郎の部屋からあそこの空間まで、あの子供達と共に逃げたはず。
ならばそこまでの道のりで、魔物との戦闘も経験したはずだ。
私と同じ印のついた、この世界のおかしな魔物達と。
私は、人間ではないのだ。
そんな魔物が、私に会いたいと言ってくれる人の言葉を素直に受け取れるわけはない。
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5,aug,2015