第6章【心を失うということ】
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【 53 】
あの時は酷い寒さだった。
吹き付ける雪の交じった強い風は、冷たいというよりも突き刺さるように痛みを感じた。
次第にそれが判らなくなって、それでも前に進むことを止めることはできなかった。
そんな記憶が自分の頭をよぎって、再び自分は死を迎えようとしている。
それなのに…
…暖かい
血を流しすぎたせいで、体温も低くなり、感覚もなくなってきているというのに、この暖かさは心地良い。
命が失われる瞬間は、こんなに心地良いものだったのか。
もう忘れかけている過去の死も、そうだっただろうか。
(…アーロン)
俺はこんな訳の分らぬ場所へ連れて来られ、本来の目的を果たすこともできずに、再び命を落とすのか。
彼女を、本来の彼女を取り戻すことができなければ、今ベベルにいる彼女はどうなる?
「…アーロン」
…名を呼んでいる?
よく聞こえなくなった耳を澄ます。
閉じてしまった目に映るのは、過去の記憶。
こうしてまた走馬灯を見ることになるとはな。
首筋に熱を感じた。
…俺はまだ、生きている?
だが、目を開けることができない。
体を動かすことができない。
「アーロン、そのまま、動くな」
「……?」
ラフテルが、いた。
俺の体は、ラフテルに抱き抱えられていたのか。
動きたくても、動くことなどできはしない。
この生ぬるい暖かさが妙に心地良い。
「死んだ?」
「…死んではいない。 だが、このまま血を流し続ければ、死ぬだろうな」
ラフテルが誰かと会話をしている。
誰かなど決まっている。
あのおかしな男だろう。
いつの間にここへ来たのだ。
全く気配を感じなかった。
今の俺には、無理だろうが…
「う~~ん、勿体ない」
「…殺せと命じたのはあんただ」
「ラフテル~~」
「名を呼ぶな、気色悪い」
「相変わらずつれない」
「う~~ん……。 戦士、戦士…」
「どうする気だ」
「取り敢えず、控室に入れておくか」
「…私も行く」
「はっ? なんで?」
「…このままでは失血死する。 控室に、ということはこいつも使うんだろ?」
「俺にはつれないクセに、そいつには優しいんだ、ラフテル~」
「…呼ぶな! こいつは、仲間だった男だからな。 せめてもの情けだ」
「ひ~っひっひっひっひっひ…。 いいね~仲間想い。 寒気の走る偽善だ」
「…なんとでも言ってろ」
「次のゲームの準備ができたら、呼ぶよ」
…ゲーム…?
戦士、控室…。
何を、始める気なんだ?
あの男の気配が突然消えて、朦朧とした意識の中、体が持ち上げられる感覚に身を任せる。
俺を持ち上げたのは、ラフテル、なのか?
…そんなこと、できるはずはない。
だが…
今はそんなことどうでもいい。
意識が、遠くなる。
→
26,jul,2015
あの時は酷い寒さだった。
吹き付ける雪の交じった強い風は、冷たいというよりも突き刺さるように痛みを感じた。
次第にそれが判らなくなって、それでも前に進むことを止めることはできなかった。
そんな記憶が自分の頭をよぎって、再び自分は死を迎えようとしている。
それなのに…
…暖かい
血を流しすぎたせいで、体温も低くなり、感覚もなくなってきているというのに、この暖かさは心地良い。
命が失われる瞬間は、こんなに心地良いものだったのか。
もう忘れかけている過去の死も、そうだっただろうか。
(…アーロン)
俺はこんな訳の分らぬ場所へ連れて来られ、本来の目的を果たすこともできずに、再び命を落とすのか。
彼女を、本来の彼女を取り戻すことができなければ、今ベベルにいる彼女はどうなる?
「…アーロン」
…名を呼んでいる?
よく聞こえなくなった耳を澄ます。
閉じてしまった目に映るのは、過去の記憶。
こうしてまた走馬灯を見ることになるとはな。
首筋に熱を感じた。
…俺はまだ、生きている?
だが、目を開けることができない。
体を動かすことができない。
「アーロン、そのまま、動くな」
「……?」
ラフテルが、いた。
俺の体は、ラフテルに抱き抱えられていたのか。
動きたくても、動くことなどできはしない。
この生ぬるい暖かさが妙に心地良い。
「死んだ?」
「…死んではいない。 だが、このまま血を流し続ければ、死ぬだろうな」
ラフテルが誰かと会話をしている。
誰かなど決まっている。
あのおかしな男だろう。
いつの間にここへ来たのだ。
全く気配を感じなかった。
今の俺には、無理だろうが…
「う~~ん、勿体ない」
「…殺せと命じたのはあんただ」
「ラフテル~~」
「名を呼ぶな、気色悪い」
「相変わらずつれない」
「う~~ん……。 戦士、戦士…」
「どうする気だ」
「取り敢えず、控室に入れておくか」
「…私も行く」
「はっ? なんで?」
「…このままでは失血死する。 控室に、ということはこいつも使うんだろ?」
「俺にはつれないクセに、そいつには優しいんだ、ラフテル~」
「…呼ぶな! こいつは、仲間だった男だからな。 せめてもの情けだ」
「ひ~っひっひっひっひっひ…。 いいね~仲間想い。 寒気の走る偽善だ」
「…なんとでも言ってろ」
「次のゲームの準備ができたら、呼ぶよ」
…ゲーム…?
戦士、控室…。
何を、始める気なんだ?
あの男の気配が突然消えて、朦朧とした意識の中、体が持ち上げられる感覚に身を任せる。
俺を持ち上げたのは、ラフテル、なのか?
…そんなこと、できるはずはない。
だが…
今はそんなことどうでもいい。
意識が、遠くなる。
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26,jul,2015