第6章【心を失うということ】
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【 52 】
「お前こそ、俺を殺すのではなかったのか?」
「!!」
「…態々俺が構えるのを待つまでもなく止めを差せばいい。 今の俺の力はお前の足元にも及ばぬのだから」
「…っ! …~っっ!!」
図星か。
俺の言葉に何かを返そうとして必死に何かを考え、そして葛藤している様が丸分かりだ。
やはりこいつは、俺を殺せない。
だが俺を殺さねば自由にはなれん、そんなところか。
…ラフテル。
「どうした、やれ。 俺の力は出せない上に、今しがたの戦闘もあって俺はまともに戦えん。絶好の好機だぞ。 …俺を、殺すのだろう?」
「うるさいっ!」
「ラフテル。 お前を、連れ戻したかった。 …だがもう、…そうか」
「…何が言いたい?」
「今のお前はもう、あの男のものなのか」
「!!」
顔色が変わった。
この薄暗い空間にいても、それがはっきりとわかった。
俺に向けて振り上げられた彼女の武器がゆっくりと腕と共に下ろされた。
「ラフテル、やめるな。 俺を殺すのだろう?」
顔を俯けるラフテルと、対照的に見上げている自分。
この体勢は、今の2人の力関係をそのまま体現したものなのか。
何も答えない彼女を見上げながら、ゆっくりと腰を上げる。
俺が動いたことによって彼女に動揺を与えてしまったのか、ビクリと身を振るわせて反射的に剣を振り上げる。
その剣先は俺の喉元に向いているというのに、彼女の足は1歩後退している。
彼女自身、恐らく気付いていない無意識の行動なのだろう。
自分の表に出てしまった感情を抑えつけるように、誤魔化すように、ラフテルはその目に力を込めて俺を睨む。
「覚悟はある、と?」
僅かに声が震えている。
何がお前を苦しめている?
俺に剣を向けることか?
あの男の言いなりになっていることか?
「あの男のものとなって、俺にケリを着けたかったのか?」
「黙れっ!!」
俺を一喝して再び剣を振り上げた。
彼女の素早さに、俺は反応しきれなかった。
ラフテルが剣を振り上げたと思った瞬間、首に熱を感じた。
はっとして剣を持たぬ手で首に触れるが、一瞬早く鮮血が吹き出した。
「…うっ……!!」
急に目眩を覚え、足に力が入らなくなる。
…ラフテルなら、俺にこんなことはしないだろうと、どこか慢心していた。
彼女は俺を殺す気でいることを知っていたというのに…。
己自身の情けなさに呆れるばかりで、彼女に対しての怒りなど湧かない。
寧ろ、ラフテルにこんなことをさせてしまったことに対しての悲しみのほうが遥かに大きかった。
ラフテルを見た。
力の入らぬ足で体を支え、斬り裂かれた首筋を片手で抑えつけたまま、じっと彼女を見つめた。
あの時、あの男の部屋から少年達と逃げた時に一瞬見えたあの目をしたラフテルがそこにいた。
酷く哀しそうな、辛い思いを溜め込んだような、そんな目だ。
「…ラフテル、…お、お前……」
痛みは無いはずはない。
だが、痛みよりも気分の悪さのほうが酷い。
吐き気を催しそうだ。
視界が極端に狭くなっていく。
目眩をおこしているからか、世界がぐるぐると揺れている。
力の入らぬ足は地に着いているのかさえわからない。
重い金属の硬質な音が部屋の中に木霊して、だがそれは遥か遠くから聞こえる。
反響の余韻の残響だけがぐわんぐわんと耳に残る。
ぐらりと大きく体が傾いて、バランスを取ることもできなくなった体は、膝から崩れ落ちた。
ドクドクと血が溢れてくる。
血を流したことで体温が下がったのだろう。
傷を負った箇所だけが異様に熱い。
自分の首に当てていただけだというのに、持ち上げていた腕が重くて耐えられない。
全てのことがダルくて鬱陶しい。
どうでもいいとさえ思えてくる。
全ての感覚も鈍り、目がよく見えないし耳も聞こえない。
これは前にも感じたことがあった。
…死という感覚……
→
25,jul,2015
「お前こそ、俺を殺すのではなかったのか?」
「!!」
「…態々俺が構えるのを待つまでもなく止めを差せばいい。 今の俺の力はお前の足元にも及ばぬのだから」
「…っ! …~っっ!!」
図星か。
俺の言葉に何かを返そうとして必死に何かを考え、そして葛藤している様が丸分かりだ。
やはりこいつは、俺を殺せない。
だが俺を殺さねば自由にはなれん、そんなところか。
…ラフテル。
「どうした、やれ。 俺の力は出せない上に、今しがたの戦闘もあって俺はまともに戦えん。絶好の好機だぞ。 …俺を、殺すのだろう?」
「うるさいっ!」
「ラフテル。 お前を、連れ戻したかった。 …だがもう、…そうか」
「…何が言いたい?」
「今のお前はもう、あの男のものなのか」
「!!」
顔色が変わった。
この薄暗い空間にいても、それがはっきりとわかった。
俺に向けて振り上げられた彼女の武器がゆっくりと腕と共に下ろされた。
「ラフテル、やめるな。 俺を殺すのだろう?」
顔を俯けるラフテルと、対照的に見上げている自分。
この体勢は、今の2人の力関係をそのまま体現したものなのか。
何も答えない彼女を見上げながら、ゆっくりと腰を上げる。
俺が動いたことによって彼女に動揺を与えてしまったのか、ビクリと身を振るわせて反射的に剣を振り上げる。
その剣先は俺の喉元に向いているというのに、彼女の足は1歩後退している。
彼女自身、恐らく気付いていない無意識の行動なのだろう。
自分の表に出てしまった感情を抑えつけるように、誤魔化すように、ラフテルはその目に力を込めて俺を睨む。
「覚悟はある、と?」
僅かに声が震えている。
何がお前を苦しめている?
俺に剣を向けることか?
あの男の言いなりになっていることか?
「あの男のものとなって、俺にケリを着けたかったのか?」
「黙れっ!!」
俺を一喝して再び剣を振り上げた。
彼女の素早さに、俺は反応しきれなかった。
ラフテルが剣を振り上げたと思った瞬間、首に熱を感じた。
はっとして剣を持たぬ手で首に触れるが、一瞬早く鮮血が吹き出した。
「…うっ……!!」
急に目眩を覚え、足に力が入らなくなる。
…ラフテルなら、俺にこんなことはしないだろうと、どこか慢心していた。
彼女は俺を殺す気でいることを知っていたというのに…。
己自身の情けなさに呆れるばかりで、彼女に対しての怒りなど湧かない。
寧ろ、ラフテルにこんなことをさせてしまったことに対しての悲しみのほうが遥かに大きかった。
ラフテルを見た。
力の入らぬ足で体を支え、斬り裂かれた首筋を片手で抑えつけたまま、じっと彼女を見つめた。
あの時、あの男の部屋から少年達と逃げた時に一瞬見えたあの目をしたラフテルがそこにいた。
酷く哀しそうな、辛い思いを溜め込んだような、そんな目だ。
「…ラフテル、…お、お前……」
痛みは無いはずはない。
だが、痛みよりも気分の悪さのほうが酷い。
吐き気を催しそうだ。
視界が極端に狭くなっていく。
目眩をおこしているからか、世界がぐるぐると揺れている。
力の入らぬ足は地に着いているのかさえわからない。
重い金属の硬質な音が部屋の中に木霊して、だがそれは遥か遠くから聞こえる。
反響の余韻の残響だけがぐわんぐわんと耳に残る。
ぐらりと大きく体が傾いて、バランスを取ることもできなくなった体は、膝から崩れ落ちた。
ドクドクと血が溢れてくる。
血を流したことで体温が下がったのだろう。
傷を負った箇所だけが異様に熱い。
自分の首に当てていただけだというのに、持ち上げていた腕が重くて耐えられない。
全てのことがダルくて鬱陶しい。
どうでもいいとさえ思えてくる。
全ての感覚も鈍り、目がよく見えないし耳も聞こえない。
これは前にも感じたことがあった。
…死という感覚……
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25,jul,2015