第6章【心を失うということ】
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【 51 】
ラフテルのほうへ足を一歩踏み出す。
彼女の纏う気配の色が一瞬変わった。
だがそれは本当に一瞬のことで、すぐに元に戻ってしまった。
もう一歩、もう一歩と足を進める。
安定せずに揺らいでいた彼女の気が、更に大きく揺らぐ。
警戒の色を濃くしていく様が、顔にも現れる。
「私に近付くな!」
「ラフテル」
名を呼んだだけだと言うのに、ビクリと肩を震わせるその態度は、俺の気持ちを引っ掻いていく。
それでも足は止めない。
止められない。
やっとお前を見つけたんだ。
お前を探してこんなところにまで来たんだ。
どんな理由があろうと、お前を元の世界へ連れていく。
距離を縮めていく俺に対して、ラフテルの動揺はあからさまだった。
あともう少しで触れられる、そこまで行ったところで足は止まった。
いや、止めざるを得なかった。
喉元に向けられた鋭い剣先。
僅かに顎を上げたことで、それは喉仏に触れそうな位置でピタリと制止していた。
「…私に近付くなと言ったはずだ」
鋭い眼差しで俺を見上げる。
完全に、“敵”を見る目だ。
「ラフテル、何があった。 なぜお前はここにいる?」
俺を睨み付けていた目が僅かに揺れる。
目に籠っていた殺気に混じって、哀しみを浮かべたように見えたのは気のせいだろうか。
ラフテルは、何も答えない。
何かを言おうとしたらしい口は、一瞬だけ小さく開かれてまたすぐにきつく結ばれてしまった。
ラフテルが己の気を集中させていく。
右足を後ろへ引いて体勢を低くし、左手で後ろ腰のもう一本の武器に手を掛けた。
こちらも無意識に警戒する。
次の瞬間、目の前にギラリと鈍色の光を纏った刃が飛んできた。
反射的に身を仰け反らせて自分の武器でその軌道を変えようとした。
普段なら、ここではない場所であったなら、それは容易いことだっただろう。
だが、失念していた。
武器同士が触れ合った瞬間、凄まじい力で後方へ弾き飛ばされた。
声を上げる暇もなく、硬い岩の地面に身を落とした。
後からじわりと襲ってくる痛みに顔を歪ませながらすぐに身を起こす。
弾かれただけで遠くまで飛ばされたわけではない為、数歩の足音が聞こえただけでラフテルが傍に立つ。
太刀の柄を握り締め、立ち上がった。
俺が剣を構えるのを待っていたかのように、再び彼女が攻撃してくる。
まともに受けるわけにはいかない。
先程と同じ様に咄嗟に自分の武器でガードするが、激しい衝撃を受けて俺の体は再び弾かれる。
今度は先程よりも強かったのか、幾分距離が開いてしまう。
「…ぅ、…ラフテル」
「………」
無言のまま俺の傍まで来て、俺が立ち上がると防がれるのを承知で攻撃してくる。
何度も、何度も…。
地に飛ばされることによって、どこか痛めたのだろう。
立ち上がる時にズキリと内部で痛みが走った。
地にボタリと落ちた赤い血が、すぐに淡い光となって舞い上がる。
俺を睨む目は相変わらずだが、その中に垣間見える哀しみ。
「ラフテル…」
「………」
立ち上がることもせず、僅かに上がった息を整えるように1つ大きく嘆息を溢してラフテルを見上げた。
目に力を込めて俺を見下ろすその目に寒気を覚える。
…こんな目を向けられる日が来るとはな。
「なぜ反撃しない?」
ラフテルが俺に問う。
彼女が打ち付ける小太刀を避けて弾かれているだけで、俺から攻撃を出すことはしない。
→
24,jul,2015
ラフテルのほうへ足を一歩踏み出す。
彼女の纏う気配の色が一瞬変わった。
だがそれは本当に一瞬のことで、すぐに元に戻ってしまった。
もう一歩、もう一歩と足を進める。
安定せずに揺らいでいた彼女の気が、更に大きく揺らぐ。
警戒の色を濃くしていく様が、顔にも現れる。
「私に近付くな!」
「ラフテル」
名を呼んだだけだと言うのに、ビクリと肩を震わせるその態度は、俺の気持ちを引っ掻いていく。
それでも足は止めない。
止められない。
やっとお前を見つけたんだ。
お前を探してこんなところにまで来たんだ。
どんな理由があろうと、お前を元の世界へ連れていく。
距離を縮めていく俺に対して、ラフテルの動揺はあからさまだった。
あともう少しで触れられる、そこまで行ったところで足は止まった。
いや、止めざるを得なかった。
喉元に向けられた鋭い剣先。
僅かに顎を上げたことで、それは喉仏に触れそうな位置でピタリと制止していた。
「…私に近付くなと言ったはずだ」
鋭い眼差しで俺を見上げる。
完全に、“敵”を見る目だ。
「ラフテル、何があった。 なぜお前はここにいる?」
俺を睨み付けていた目が僅かに揺れる。
目に籠っていた殺気に混じって、哀しみを浮かべたように見えたのは気のせいだろうか。
ラフテルは、何も答えない。
何かを言おうとしたらしい口は、一瞬だけ小さく開かれてまたすぐにきつく結ばれてしまった。
ラフテルが己の気を集中させていく。
右足を後ろへ引いて体勢を低くし、左手で後ろ腰のもう一本の武器に手を掛けた。
こちらも無意識に警戒する。
次の瞬間、目の前にギラリと鈍色の光を纏った刃が飛んできた。
反射的に身を仰け反らせて自分の武器でその軌道を変えようとした。
普段なら、ここではない場所であったなら、それは容易いことだっただろう。
だが、失念していた。
武器同士が触れ合った瞬間、凄まじい力で後方へ弾き飛ばされた。
声を上げる暇もなく、硬い岩の地面に身を落とした。
後からじわりと襲ってくる痛みに顔を歪ませながらすぐに身を起こす。
弾かれただけで遠くまで飛ばされたわけではない為、数歩の足音が聞こえただけでラフテルが傍に立つ。
太刀の柄を握り締め、立ち上がった。
俺が剣を構えるのを待っていたかのように、再び彼女が攻撃してくる。
まともに受けるわけにはいかない。
先程と同じ様に咄嗟に自分の武器でガードするが、激しい衝撃を受けて俺の体は再び弾かれる。
今度は先程よりも強かったのか、幾分距離が開いてしまう。
「…ぅ、…ラフテル」
「………」
無言のまま俺の傍まで来て、俺が立ち上がると防がれるのを承知で攻撃してくる。
何度も、何度も…。
地に飛ばされることによって、どこか痛めたのだろう。
立ち上がる時にズキリと内部で痛みが走った。
地にボタリと落ちた赤い血が、すぐに淡い光となって舞い上がる。
俺を睨む目は相変わらずだが、その中に垣間見える哀しみ。
「ラフテル…」
「………」
立ち上がることもせず、僅かに上がった息を整えるように1つ大きく嘆息を溢してラフテルを見上げた。
目に力を込めて俺を見下ろすその目に寒気を覚える。
…こんな目を向けられる日が来るとはな。
「なぜ反撃しない?」
ラフテルが俺に問う。
彼女が打ち付ける小太刀を避けて弾かれているだけで、俺から攻撃を出すことはしない。
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24,jul,2015