第5章【その武器の名はキーブレード】
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【 49 】
「おい待て!!」
これが最後とばかりに敵に真っ正面から飛び掛かろうとする少年に制止の言葉を飛ばす。
だがその足は止まらない。
こちらの猛攻で負傷したかのように頭を落として見せたが、深く沈み込んだその前足には力が込められている。
これは奴の誘いだ。
大きく飛び上がった少年は、手にした武器を両手で振りかぶった。
「やああぁぁっ!」
掛け声と共に少年が武器を降り下ろす。
その瞬間、奴の3つの首についた目が見開かれた。
「!!!」
獣の顔面目掛けて飛び込んでいった少年の体は意図も簡単にばかでかい口に飲まれてしまった。
「ソラ! ………?」
己の不甲斐なさを悔やむ間も無く、少年を捉えた獣の頭の1つが動きを止めた。
いや、動けないのか。
この位置からでは、上を向いた頭部の顎しか見えない。
だが、その横からちらちらと派手な色をした少年の靴や服が見えた。
少年を捉えた頭は、少年を飲み込むどころか口を閉じることさえできなくなっていた。
あの武器は光の中から瞬時に顕現させることができる。
少年はあの一瞬にそれをやったのだ。
口の中でつっかえ棒になった少年の武器のおかげで、噛み殺されることはなくなったが、他の2つの頭にとっては好機となる。
動けない頭を左右から挟むようにして、残りの頭が少年に襲い掛かる。
ひらりと軽い身のこなしでそれを避けると頭の1つを踏み台にして、高く高く舞い上がった。
上空でくるりと身を捻って武器を構える。
だがその下では、敵もただやられるのを待っている訳ではない。
少年の真下で3つの首を並べ、大きく口を開いた。
まさに地獄に堕ちる亡者を迎える番犬だ。
「…くっ!」
奴が上を向いたその姿勢は、俺から見れば喉、つまり弱点を晒け出している。
自分の体勢を低くして足に手に力を込める。
考えている余裕はない。
地を蹴り、肩から下ろした太刀の柄を両手で握り締めた。
ガリガリと太刀の刃先が地面を削る感覚に不快感を覚えながらも、目は上空の少年に向いている。
奴の懐まで深く入り込み、下段に構えたままの姿勢で飛び上がった。
少年にばかり気を取られていたのか、俺に斬り上げられた瞬間、甲高い悲鳴のような咆哮を上げた。
一拍遅れて俺が地に足をつけた瞬間、斬り裂いた喉元から血飛沫が飛ぶ。
こいつの防御力と言っていいのか、体毛は一本一本が太い針金のように硬いが、流石に喉元は力が出せない俺でも容易くダメージを与えられる。
獣の頭上から、今まさに止めを差そうとしている少年への手助けなどと言うつもりはない。
だが頭が3つよりは2つになったほうが…。
「………?」
不意に違和感を覚える。
だがそれを気にしている場合ではない。
目の前の敵が、巨大な獣が苦しみの咆哮を上げる。
岩に囲まれたこの空間では、それは必要以上に響き渡り、耳を劈く。
俺の攻撃を受け、今度は本当に首をもたげてしまった頭を、もう1つの頭が確認するかのように見やる。
一瞬、奴らの視線が少年から外れた。
「喰らえぇぇっ!!」
気合を込めた掛け声と共に、少年が武器を大きく振りかぶる。
その手に力が漲っていくかのように少年の体が光に包まれていく。
そのまま少年は、奴の脳天目掛けて武器を振り下ろした。
断末魔の叫び声を上げて、奴の動きが止まった。
己の足で自らの体を支えることができなくなって、崩れるように地に倒れこむ。
俺達のいた世界だったら、こうした魔物は幻光虫となって消えていく。
だがこの世界の魔物達は、黒い霧の様になって闇に飲まれるように消えていく。
今倒したこいつも例外ではないようだ。
「やった!」
敵と闘った疲れなどもう感じていないかのように、少年は喜びを体で現している。
素直に喜びを表すことができるのも、また若さ所以か。
そこから少し離れた所で見ていた俺の下へ、小走りで近づいてくる。
「やるな」
「アーロンのおかげだよ。 最後、アーロンが2つ頭を潰してくれたから! ありがとう!」
「…2つ…? いや、俺は…」
「ソラ!」
「早く早く!」
「あ、そうだった! アーロン、急ごう!」
漸くこじ開けた扉の向こうから、動物達が少年を呼ぶ声が聞こえた。
俺が反論する言葉を遮って、少年はすでに走り出している。
その後に続くつもりで、俺も足を踏み出した。
だがその足は途中で止まってしまった。
不意に感じた、あの気配に…
第5章終
→第6章【心を失うということ】
21,jul,2015
18,Feb,2018 携帯版より転載
「おい待て!!」
これが最後とばかりに敵に真っ正面から飛び掛かろうとする少年に制止の言葉を飛ばす。
だがその足は止まらない。
こちらの猛攻で負傷したかのように頭を落として見せたが、深く沈み込んだその前足には力が込められている。
これは奴の誘いだ。
大きく飛び上がった少年は、手にした武器を両手で振りかぶった。
「やああぁぁっ!」
掛け声と共に少年が武器を降り下ろす。
その瞬間、奴の3つの首についた目が見開かれた。
「!!!」
獣の顔面目掛けて飛び込んでいった少年の体は意図も簡単にばかでかい口に飲まれてしまった。
「ソラ! ………?」
己の不甲斐なさを悔やむ間も無く、少年を捉えた獣の頭の1つが動きを止めた。
いや、動けないのか。
この位置からでは、上を向いた頭部の顎しか見えない。
だが、その横からちらちらと派手な色をした少年の靴や服が見えた。
少年を捉えた頭は、少年を飲み込むどころか口を閉じることさえできなくなっていた。
あの武器は光の中から瞬時に顕現させることができる。
少年はあの一瞬にそれをやったのだ。
口の中でつっかえ棒になった少年の武器のおかげで、噛み殺されることはなくなったが、他の2つの頭にとっては好機となる。
動けない頭を左右から挟むようにして、残りの頭が少年に襲い掛かる。
ひらりと軽い身のこなしでそれを避けると頭の1つを踏み台にして、高く高く舞い上がった。
上空でくるりと身を捻って武器を構える。
だがその下では、敵もただやられるのを待っている訳ではない。
少年の真下で3つの首を並べ、大きく口を開いた。
まさに地獄に堕ちる亡者を迎える番犬だ。
「…くっ!」
奴が上を向いたその姿勢は、俺から見れば喉、つまり弱点を晒け出している。
自分の体勢を低くして足に手に力を込める。
考えている余裕はない。
地を蹴り、肩から下ろした太刀の柄を両手で握り締めた。
ガリガリと太刀の刃先が地面を削る感覚に不快感を覚えながらも、目は上空の少年に向いている。
奴の懐まで深く入り込み、下段に構えたままの姿勢で飛び上がった。
少年にばかり気を取られていたのか、俺に斬り上げられた瞬間、甲高い悲鳴のような咆哮を上げた。
一拍遅れて俺が地に足をつけた瞬間、斬り裂いた喉元から血飛沫が飛ぶ。
こいつの防御力と言っていいのか、体毛は一本一本が太い針金のように硬いが、流石に喉元は力が出せない俺でも容易くダメージを与えられる。
獣の頭上から、今まさに止めを差そうとしている少年への手助けなどと言うつもりはない。
だが頭が3つよりは2つになったほうが…。
「………?」
不意に違和感を覚える。
だがそれを気にしている場合ではない。
目の前の敵が、巨大な獣が苦しみの咆哮を上げる。
岩に囲まれたこの空間では、それは必要以上に響き渡り、耳を劈く。
俺の攻撃を受け、今度は本当に首をもたげてしまった頭を、もう1つの頭が確認するかのように見やる。
一瞬、奴らの視線が少年から外れた。
「喰らえぇぇっ!!」
気合を込めた掛け声と共に、少年が武器を大きく振りかぶる。
その手に力が漲っていくかのように少年の体が光に包まれていく。
そのまま少年は、奴の脳天目掛けて武器を振り下ろした。
断末魔の叫び声を上げて、奴の動きが止まった。
己の足で自らの体を支えることができなくなって、崩れるように地に倒れこむ。
俺達のいた世界だったら、こうした魔物は幻光虫となって消えていく。
だがこの世界の魔物達は、黒い霧の様になって闇に飲まれるように消えていく。
今倒したこいつも例外ではないようだ。
「やった!」
敵と闘った疲れなどもう感じていないかのように、少年は喜びを体で現している。
素直に喜びを表すことができるのも、また若さ所以か。
そこから少し離れた所で見ていた俺の下へ、小走りで近づいてくる。
「やるな」
「アーロンのおかげだよ。 最後、アーロンが2つ頭を潰してくれたから! ありがとう!」
「…2つ…? いや、俺は…」
「ソラ!」
「早く早く!」
「あ、そうだった! アーロン、急ごう!」
漸くこじ開けた扉の向こうから、動物達が少年を呼ぶ声が聞こえた。
俺が反論する言葉を遮って、少年はすでに走り出している。
その後に続くつもりで、俺も足を踏み出した。
だがその足は途中で止まってしまった。
不意に感じた、あの気配に…
第5章終
→第6章【心を失うということ】
21,jul,2015
18,Feb,2018 携帯版より転載