第5章【その武器の名はキーブレード】
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【 48 】
俺のすぐ横まで走り寄ってきた少年は、選ばれた者のみが持つという伝説の武器を手にして、勝ち誇ったように笑顔を浮かべた。
その顔が、よく見知ったあの泣き虫のガキとダブる。
あいつがこういう顔をするときは、何を言っても無駄だった。
きっとこの少年も同じなのだろう。
「…ふっ」
薄い口元だけの小さな笑みが零れる。
こいつは頼もしい。
再び目の前の敵に視線を向けて、改めて武器を構え直した。
「行くよっ!」
気合のこもった掛け声と共に、少年の先制攻撃。
牙をむき出しにした犬の横っ面を斬りつけた。
いや、この武器の場合は斬るというよりは打撃になるのだろう。
だがその攻撃も目の前の巨体にとってはダメージにはならないようだ。
むしろ、怒りの矛先を自分に向けさせただけ。
3つの首が一斉に少年に狙いを定める。
それを利用させて貰うのは甚だ心苦しいが、俺にとってはいい隙だ。
反対側に素早く回り込んで、逆の首の顔面に太刀を振り下ろす。
これは牽制。
敵がどの程度の力なのかを理解する必要がある。
この巨体で、なかなかの機敏性を持っている。
少年のほうにばかり気を取られていると思っていたが、俺が攻撃した頭の一つがこちらに振り向きざまに牙を向けてきた。
それをかわして地に足をつけてバランスをとり、目を向ける。
確かに斬った手応えはあった。
その顔面にも傷が付いている。
だがそれは本当に小さなもので、俺の攻撃は効いていないようだ。
俺と反対の位置で、少年も同じように武器を振り回して打撃を続けている。
思った以上に素早いこいつの動きは、もう一つの首の存在によって予想がつかない。
牙だけがこいつの武器ではないのだ。
鋭い爪のついた前足や、犬特有の太くて長い尻尾を振り回す。
背後に回り込んでも、この尻尾で攻撃されるか、素早く方向を転換してくる。
本来なら、この程度の敵は何も問題なく倒せるはずだ。
自分の力がここまで抑えられているのかと、この巨大な敵を相手にしてつくづく実感してしまう。
「ソラ!」
「何?」
「少しだけ注意を惹け。…一瞬でいい」
「…何かするの? わかった」
少年が身軽に敵の頭上を飛び越えていく。
つられて3つの首が一斉に少年の姿を追う。
一気に自分の気を高めていく。
太刀の柄を握る拳に力を込めて構え直した。
「はああぁぁぁ…」
少年の短い悲鳴が上がった。
同時に獣の咆哮とどさりと地に叩きつけられる鈍い音。
そして奴がこちらを振り返る。
『陣風!!』
鋭い鎌鼬の竜巻が巨大な敵を飲み込んでいく。
流石にこれはかなりのダメージとなっただろう。
少年が素早く起き上がってこちらに走り寄ってくる。
「おじさ…、アーロン、凄いや!」
「気を抜くな! まだだ!」
少年の額に手を当ててケアルを唱えてやる。
魔法は本当に得意ではないが、使えないわけではない。
だが、やはり魔法そのものも力が封じられているのかあまり効果はない。
「…アーロンも魔法、使えるんだね」
「…あいつほどではない」
「あいつ…?」
「ぼさっとするな!」
俺達の間を割るように太い前足が頭上から落ちてきた。
再び二手に分かれて両側から攻撃を再開する。
少年に掛けた己自身の言葉で、お前を思い出した。
目の前に巨大な敵がいて、まさに今、こうして闘っているというのに、お前はここにいないというのに…
お前を感じる。
少年に、戦いに集中しろと言っておきながら、自分が気を外に逸らしてしまっている。
こんな世界にまで来て、漸くお前を見つけたんだ。
それなのに、俺はこんな所で闘っている。
「もう少しだ!」
少年の声に意識を戻す。
確かに、敵はかなりのダメージを受けたのか、足がよろけている。
だがこちらの疲労もかなりのものだ。
先にくたばるのは、どっちになるか…
「とどめだっ!!」
打撃を受けて頭が下がった敵目掛けて、少年が走りこんでいく。
だが、それが誘いだとは気付いていない。
→
20,jul,2015
俺のすぐ横まで走り寄ってきた少年は、選ばれた者のみが持つという伝説の武器を手にして、勝ち誇ったように笑顔を浮かべた。
その顔が、よく見知ったあの泣き虫のガキとダブる。
あいつがこういう顔をするときは、何を言っても無駄だった。
きっとこの少年も同じなのだろう。
「…ふっ」
薄い口元だけの小さな笑みが零れる。
こいつは頼もしい。
再び目の前の敵に視線を向けて、改めて武器を構え直した。
「行くよっ!」
気合のこもった掛け声と共に、少年の先制攻撃。
牙をむき出しにした犬の横っ面を斬りつけた。
いや、この武器の場合は斬るというよりは打撃になるのだろう。
だがその攻撃も目の前の巨体にとってはダメージにはならないようだ。
むしろ、怒りの矛先を自分に向けさせただけ。
3つの首が一斉に少年に狙いを定める。
それを利用させて貰うのは甚だ心苦しいが、俺にとってはいい隙だ。
反対側に素早く回り込んで、逆の首の顔面に太刀を振り下ろす。
これは牽制。
敵がどの程度の力なのかを理解する必要がある。
この巨体で、なかなかの機敏性を持っている。
少年のほうにばかり気を取られていると思っていたが、俺が攻撃した頭の一つがこちらに振り向きざまに牙を向けてきた。
それをかわして地に足をつけてバランスをとり、目を向ける。
確かに斬った手応えはあった。
その顔面にも傷が付いている。
だがそれは本当に小さなもので、俺の攻撃は効いていないようだ。
俺と反対の位置で、少年も同じように武器を振り回して打撃を続けている。
思った以上に素早いこいつの動きは、もう一つの首の存在によって予想がつかない。
牙だけがこいつの武器ではないのだ。
鋭い爪のついた前足や、犬特有の太くて長い尻尾を振り回す。
背後に回り込んでも、この尻尾で攻撃されるか、素早く方向を転換してくる。
本来なら、この程度の敵は何も問題なく倒せるはずだ。
自分の力がここまで抑えられているのかと、この巨大な敵を相手にしてつくづく実感してしまう。
「ソラ!」
「何?」
「少しだけ注意を惹け。…一瞬でいい」
「…何かするの? わかった」
少年が身軽に敵の頭上を飛び越えていく。
つられて3つの首が一斉に少年の姿を追う。
一気に自分の気を高めていく。
太刀の柄を握る拳に力を込めて構え直した。
「はああぁぁぁ…」
少年の短い悲鳴が上がった。
同時に獣の咆哮とどさりと地に叩きつけられる鈍い音。
そして奴がこちらを振り返る。
『陣風!!』
鋭い鎌鼬の竜巻が巨大な敵を飲み込んでいく。
流石にこれはかなりのダメージとなっただろう。
少年が素早く起き上がってこちらに走り寄ってくる。
「おじさ…、アーロン、凄いや!」
「気を抜くな! まだだ!」
少年の額に手を当ててケアルを唱えてやる。
魔法は本当に得意ではないが、使えないわけではない。
だが、やはり魔法そのものも力が封じられているのかあまり効果はない。
「…アーロンも魔法、使えるんだね」
「…あいつほどではない」
「あいつ…?」
「ぼさっとするな!」
俺達の間を割るように太い前足が頭上から落ちてきた。
再び二手に分かれて両側から攻撃を再開する。
少年に掛けた己自身の言葉で、お前を思い出した。
目の前に巨大な敵がいて、まさに今、こうして闘っているというのに、お前はここにいないというのに…
お前を感じる。
少年に、戦いに集中しろと言っておきながら、自分が気を外に逸らしてしまっている。
こんな世界にまで来て、漸くお前を見つけたんだ。
それなのに、俺はこんな所で闘っている。
「もう少しだ!」
少年の声に意識を戻す。
確かに、敵はかなりのダメージを受けたのか、足がよろけている。
だがこちらの疲労もかなりのものだ。
先にくたばるのは、どっちになるか…
「とどめだっ!!」
打撃を受けて頭が下がった敵目掛けて、少年が走りこんでいく。
だが、それが誘いだとは気付いていない。
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20,jul,2015