第1章【何が起きたのか理解不能】
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この世界で生まれて、命を落としてから初めて、死に対して恐怖を覚えたあの日。
命を落とすことではなく、消滅することへの恐怖は消えない。
一度芽生えてしまった、根付いてしまった恐怖は二度と消えることはない。
ましてやそれを与えた人物が目の前に現れたとしたら…
その姿そのものが、死という恐怖へと直結する。
こいつは、私にとって、まさしくそんな存在でしかないのだ。
呼吸が定まらない、落ち着かない。
もがき続ける足は思うように動かず、それでも必死に床を這い蹲るようにして後退する。
目を背けることもできずに、見開かれたままの眦から零れる雫。
そいつが私に向かって歩いてくる。
どんどん距離を詰めてくる。
何か言葉を発しているようだったが、そんなものが耳に入るわけもなく、私は逃げ続ける。
ついには、背中が壁に当たった。追い詰められてしまった…!
そいつが私に向かって手を伸ばしてくる。
恐怖から少しでも逃れようと、自身の両足を両腕で囲むように抱きしめて小さく縮こまる。
そこでやっと目を逸らすことができた。
開きすぎて違和感さえ感じてしまう瞼が痛くて、また涙が零れる。
諦めとも取れる、体の硬直に張り詰めた緊張感。
ゆっくりとじわじわと近づいてくる気配を敏感に感じてしまう己の力を呪いたくなった。
無理やり瞳を閉じたせいで、余計に相手の気配を強く感じるのだ。
足音は、自分のすぐ横までで止まる。
ただひたすら恐怖に震える体を、己自身の腕で押さえつけることしかできない。
…自分はこんなにも弱い人間だっただろうか。
自分の真横にきた存在に緊張が走る。
ほんの微かな動作にさえいちいち反応してしまう。
自分とこいつの間に流れた時間の感覚が狂ってしまって、それが長いことそうだったのか、
それともほんの一瞬のことだったのか判別がつけられなくなる。
頭に、何かを乗せられた。
「…!」
ビクリと体が跳ねたのが自分でもわかった。
目を見開いたその瞬間、身体全部を包まれるように、…抱き締められた。
「…ラフテル」
耳元で囁かれた自分の名前。
途端に体中に走る酷い嫌悪感。
寒気なんて生易しいものじゃない。
吐き気を催すような、気を失いそうな、拒絶。
そして恐怖。
抱き締められた腕を振りほどいて逃れようと、ばたばたと手足をむやみやたらに振り回した。
年齢からの建前?恥?
そんなことを気にする余裕なんて、ない。
この声が、この態度が、この優しさが、私を苦しめる。
この顔で、この手で、この仕草で、私を蹂躙しようとする男!
嫌だ!
利用されるのも、蹂躙されるのも、苦しめられるのも、……愛されるのも。
いっそのこと気を失ってしまいたかった。
妙に覚醒している意識が恨めしかった。
「…ラフテル」
あの低い落ち着いた声で、また私の名を呼ぶ。
左肩に乗せられた男の髪が耳元や首筋に触れる度に、こそばゆい感覚が背筋を走った。
首筋から襟の中にまで侵入してくるんじゃないかと思えるほど、男はそこに顔を埋めていく。
同時に私を抱き締める腕の力が強められて、私は男の腕からは逃れられないことを悟った。
諦めを含み、私は強張ったままに動きを止めざるをえなかった。
「…やはり、もう、消えんか…」
「…?」
そう男が呟いた言葉の意味を理解できず、それ以前に解放して欲しくて、何も答えぬまま男のしたいようにさせていた。
先程鏡を見たときも、頭から湯を被ったときも、己では見えなかった、そこ。
首筋から肩にかけて今も残る傷痕。
そこに触れる、柔らかく暖かいもの。
「………ぁ」
以前にも、同じことをされたような…?
私の体に残る傷を知っている?
・・・・・こいつは、誰だ?
→
6,jun,2015
この世界で生まれて、命を落としてから初めて、死に対して恐怖を覚えたあの日。
命を落とすことではなく、消滅することへの恐怖は消えない。
一度芽生えてしまった、根付いてしまった恐怖は二度と消えることはない。
ましてやそれを与えた人物が目の前に現れたとしたら…
その姿そのものが、死という恐怖へと直結する。
こいつは、私にとって、まさしくそんな存在でしかないのだ。
呼吸が定まらない、落ち着かない。
もがき続ける足は思うように動かず、それでも必死に床を這い蹲るようにして後退する。
目を背けることもできずに、見開かれたままの眦から零れる雫。
そいつが私に向かって歩いてくる。
どんどん距離を詰めてくる。
何か言葉を発しているようだったが、そんなものが耳に入るわけもなく、私は逃げ続ける。
ついには、背中が壁に当たった。追い詰められてしまった…!
そいつが私に向かって手を伸ばしてくる。
恐怖から少しでも逃れようと、自身の両足を両腕で囲むように抱きしめて小さく縮こまる。
そこでやっと目を逸らすことができた。
開きすぎて違和感さえ感じてしまう瞼が痛くて、また涙が零れる。
諦めとも取れる、体の硬直に張り詰めた緊張感。
ゆっくりとじわじわと近づいてくる気配を敏感に感じてしまう己の力を呪いたくなった。
無理やり瞳を閉じたせいで、余計に相手の気配を強く感じるのだ。
足音は、自分のすぐ横までで止まる。
ただひたすら恐怖に震える体を、己自身の腕で押さえつけることしかできない。
…自分はこんなにも弱い人間だっただろうか。
自分の真横にきた存在に緊張が走る。
ほんの微かな動作にさえいちいち反応してしまう。
自分とこいつの間に流れた時間の感覚が狂ってしまって、それが長いことそうだったのか、
それともほんの一瞬のことだったのか判別がつけられなくなる。
頭に、何かを乗せられた。
「…!」
ビクリと体が跳ねたのが自分でもわかった。
目を見開いたその瞬間、身体全部を包まれるように、…抱き締められた。
「…ラフテル」
耳元で囁かれた自分の名前。
途端に体中に走る酷い嫌悪感。
寒気なんて生易しいものじゃない。
吐き気を催すような、気を失いそうな、拒絶。
そして恐怖。
抱き締められた腕を振りほどいて逃れようと、ばたばたと手足をむやみやたらに振り回した。
年齢からの建前?恥?
そんなことを気にする余裕なんて、ない。
この声が、この態度が、この優しさが、私を苦しめる。
この顔で、この手で、この仕草で、私を蹂躙しようとする男!
嫌だ!
利用されるのも、蹂躙されるのも、苦しめられるのも、……愛されるのも。
いっそのこと気を失ってしまいたかった。
妙に覚醒している意識が恨めしかった。
「…ラフテル」
あの低い落ち着いた声で、また私の名を呼ぶ。
左肩に乗せられた男の髪が耳元や首筋に触れる度に、こそばゆい感覚が背筋を走った。
首筋から襟の中にまで侵入してくるんじゃないかと思えるほど、男はそこに顔を埋めていく。
同時に私を抱き締める腕の力が強められて、私は男の腕からは逃れられないことを悟った。
諦めを含み、私は強張ったままに動きを止めざるをえなかった。
「…やはり、もう、消えんか…」
「…?」
そう男が呟いた言葉の意味を理解できず、それ以前に解放して欲しくて、何も答えぬまま男のしたいようにさせていた。
先程鏡を見たときも、頭から湯を被ったときも、己では見えなかった、そこ。
首筋から肩にかけて今も残る傷痕。
そこに触れる、柔らかく暖かいもの。
「………ぁ」
以前にも、同じことをされたような…?
私の体に残る傷を知っている?
・・・・・こいつは、誰だ?
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6,jun,2015