第4章【再会、だけど…】
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『36』~嫌な戦闘~
俯いた顔のまま、後ろ腰に手を回す。
変態野郎が私に与えたもので唯一気に入った、黒く長いコートがバサリと音を立てて翻った。
当たり前のようにいつもの位置にある獲物の柄を、慣れた手つきで握り締める。
同時に片足を、地面を滑らせるように僅かに後方に下げて体勢を落とす。
「……!」
私と向き合っている男の気迫に、若干の揺らぎを感じた。
金属が擦れ合うような乾いた音と共に、後ろに回された私の両手は前方へ戻る。
その両手にギラリと鈍く光を放つ二振りの小太刀を握り締めて。
顔の高さまで持ち上げられた片腕に沿うようにある刃が相手に向けられる。
俯いていた顔を少しだけ持ち上げて、瞼を開く。
気迫で負けるわけにはいかない。
よく見知った相手だからこそ、遊びではないと知らしめねばならない。
それは己自身にも言えること。
大きく息を吸って、ゆっくりと吐き出す。
アーロンは、動かない。
私の出方を待っているのか。
ならば先手必勝!
もう一つ大きく息を吸いこんで体に力を込める。
低い体勢のまま、地を蹴った。
牽制なんて必要ない。
一撃目から急所狙いの襲撃。
利き腕である右腕は奴の首を、一拍遅れて左腕は脇腹の骨のすぐ下を狙う。
私の初撃はどうくるか読んでいたであろうアーロンは、いとも簡単にかわしてしまう。
間合いや隙が大きくなる奴の太刀には、こうして懐に飛び込んでしまうのが一番有効だ。
だが当然、それは相手も承知のこと。
空振った私の腕が戻る前に、まるで虫でも追い払うかのように私の脇腹を払い除ける。
突然別方向から加えられた力にバランスを崩しながらも、素早く地に降りて相手を目視する。
視界に飛び込んできたのは、太刀を振りかぶっている姿。
はっとしてその体勢のまま、横に飛んだ。
太刀の先が岩肌の地面に叩きつけられて耳障りな音を立てた。
攻撃を繰り出した直後が一番の狙い目となる。
再び奴の首を狙って小太刀を振りかざした。
太刀を振り切ったままの姿勢のアーロンが、こちらを見ることもなく頭をひょいと後ろに流し、私の攻撃はまた綺麗にかわされてしまう。
ふいに移動した奴の頭があった位置よりも下方に、拳が見えた。
咄嗟に左腕を腹部へ持っていき、腹に力を込めた。
だが僅かに防御が間に合わなかった。
重い一撃を受けてまた私の体は別方向へ。
地面を滑るように足の裏でブレーキをかけながら、それでもなんとか体勢を保つ。
体が安定した途端に思わず二度ほど咳き込んでしまう。
気を抜くことはできない。
すぐに顔をあげて奴を確認しなければ。
次の瞬間、頭上から凄まじい殺気を感じた。
顔を上げると、先程と同じように太刀を振りかぶったアーロンの姿。
両手の小太刀を持ち替えて、顔の前でクロスさせる。
そこに奴の拳など比ではない重い一撃が落ちてきた。
瞬間的に唱えた防御魔法のおかげで、なんとかその一撃を受け止める。
だがこの重さは恐ろしい。
腕どころか、体全体に重みが圧し掛かってビリビリと震えが走る。
「くっ!」
思わず口から苦痛の呻きが漏れてしまう。
腕が痺れるように痛い。
上からの重みで体を支える足が地面にめり込みそうだ。
いや、その前に私の足など簡単に潰されてしまうだろう。
「どうした、ラフテル。おまえはそんなものではないだろう?」
「………」
勝ち誇ったような余裕の笑みを浮かべて、アーロンが私を見下ろしている。
戦う相手にこんな台詞を言われたら、普通だったら逆上するかもしれない。
冗談じゃないとせせら笑って更に攻撃をぶつけていたかもしれない。
…だが…。
悔しいと思う気持ちは浮かばない。
ただただ、こんな戦いは嫌だと感じていた。
かつて、ジェクトと戦った時のように。
→
8,jul,2015
俯いた顔のまま、後ろ腰に手を回す。
変態野郎が私に与えたもので唯一気に入った、黒く長いコートがバサリと音を立てて翻った。
当たり前のようにいつもの位置にある獲物の柄を、慣れた手つきで握り締める。
同時に片足を、地面を滑らせるように僅かに後方に下げて体勢を落とす。
「……!」
私と向き合っている男の気迫に、若干の揺らぎを感じた。
金属が擦れ合うような乾いた音と共に、後ろに回された私の両手は前方へ戻る。
その両手にギラリと鈍く光を放つ二振りの小太刀を握り締めて。
顔の高さまで持ち上げられた片腕に沿うようにある刃が相手に向けられる。
俯いていた顔を少しだけ持ち上げて、瞼を開く。
気迫で負けるわけにはいかない。
よく見知った相手だからこそ、遊びではないと知らしめねばならない。
それは己自身にも言えること。
大きく息を吸って、ゆっくりと吐き出す。
アーロンは、動かない。
私の出方を待っているのか。
ならば先手必勝!
もう一つ大きく息を吸いこんで体に力を込める。
低い体勢のまま、地を蹴った。
牽制なんて必要ない。
一撃目から急所狙いの襲撃。
利き腕である右腕は奴の首を、一拍遅れて左腕は脇腹の骨のすぐ下を狙う。
私の初撃はどうくるか読んでいたであろうアーロンは、いとも簡単にかわしてしまう。
間合いや隙が大きくなる奴の太刀には、こうして懐に飛び込んでしまうのが一番有効だ。
だが当然、それは相手も承知のこと。
空振った私の腕が戻る前に、まるで虫でも追い払うかのように私の脇腹を払い除ける。
突然別方向から加えられた力にバランスを崩しながらも、素早く地に降りて相手を目視する。
視界に飛び込んできたのは、太刀を振りかぶっている姿。
はっとしてその体勢のまま、横に飛んだ。
太刀の先が岩肌の地面に叩きつけられて耳障りな音を立てた。
攻撃を繰り出した直後が一番の狙い目となる。
再び奴の首を狙って小太刀を振りかざした。
太刀を振り切ったままの姿勢のアーロンが、こちらを見ることもなく頭をひょいと後ろに流し、私の攻撃はまた綺麗にかわされてしまう。
ふいに移動した奴の頭があった位置よりも下方に、拳が見えた。
咄嗟に左腕を腹部へ持っていき、腹に力を込めた。
だが僅かに防御が間に合わなかった。
重い一撃を受けてまた私の体は別方向へ。
地面を滑るように足の裏でブレーキをかけながら、それでもなんとか体勢を保つ。
体が安定した途端に思わず二度ほど咳き込んでしまう。
気を抜くことはできない。
すぐに顔をあげて奴を確認しなければ。
次の瞬間、頭上から凄まじい殺気を感じた。
顔を上げると、先程と同じように太刀を振りかぶったアーロンの姿。
両手の小太刀を持ち替えて、顔の前でクロスさせる。
そこに奴の拳など比ではない重い一撃が落ちてきた。
瞬間的に唱えた防御魔法のおかげで、なんとかその一撃を受け止める。
だがこの重さは恐ろしい。
腕どころか、体全体に重みが圧し掛かってビリビリと震えが走る。
「くっ!」
思わず口から苦痛の呻きが漏れてしまう。
腕が痺れるように痛い。
上からの重みで体を支える足が地面にめり込みそうだ。
いや、その前に私の足など簡単に潰されてしまうだろう。
「どうした、ラフテル。おまえはそんなものではないだろう?」
「………」
勝ち誇ったような余裕の笑みを浮かべて、アーロンが私を見下ろしている。
戦う相手にこんな台詞を言われたら、普通だったら逆上するかもしれない。
冗談じゃないとせせら笑って更に攻撃をぶつけていたかもしれない。
…だが…。
悔しいと思う気持ちは浮かばない。
ただただ、こんな戦いは嫌だと感じていた。
かつて、ジェクトと戦った時のように。
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8,jul,2015