第4章【再会、だけど…】
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『33』~召喚されたもの~
変態野郎は椅子から立ち上がると、部屋の中央で何やら呪文のようなものをぶつぶつと唱え始めた。
腕を振り上げたり掌を翳してみたりと、何の儀式なのか全くわからないが、とにかく動き一つ一つが気持ち悪くて見ていられない。
「…お、おい、何を始める気なんだ」
「ひ~ひっひっひっひ、お誂え向きなのがいた」
「………」
やがて床の上に魔方陣のようなものが浮かび上がった。
鈍い光を放ち、湯気のように瘴気の煙が立ち昇り始める。
それは酷い匂いを放って部屋の中に充満していく。
思わず己の腕で顔を塞いでしまう。
「いや~な臭いの穴だな」
「冥界の牢獄につながっているのさ。 極悪凶暴な罪人を呼び出すってわけだ」
「なるほど …なるほど」
猫野郎も何かを感じ取ったのだろう。
変態野郎のすぐ隣に陣取っていたが、ゆっくりと1歩ずつ後退していく。
それは私も同じことだった。
その場にいることで、おかしな気配を感じる。
いつかどこかで感じたことがある雰囲気。
纏わり付くような空気が重く感じられる。
肌に突き刺さるほどではないにしろ、ビリビリと身に感じる不気味な瘴気に、近づくことが憚られる。
本能が、危険だと感じ取っているのかもしれない。
魔方陣が浮かんでいた場所は、まるで溶けていくかのように沈み込んでいく。
床に開いた大きな穴。
そこからはどす黒い不気味な色をした煙が立ち昇る。
相変わらず気色悪い笑い声を上げながら、変態野郎は穴の淵で手を翳して立っている。
そこから何が現れるのだ…
穴から立ち上る瘴気はどんどんその体積を増していく。
もうすでに穴の向こう側は何も見えないほどになっている。
それでも、さながら囚われたものが解き放たれるかのように、渦を巻いて瘴気は私たちの視界を遮る。
ふいに、何かの気配を感じた。
それは、この変態野郎がたった今行っていることの結果だとはわかっているのに、それの正体がわからないから恐ろしい。
こいつは何を呼び出したのだ。
この穴の中から何が出てくると言うのだ。
…だがこの気配、どこかで感じたことがあるような気がした。
決して美しいとは言い難いこの黒い瘴気の煙の中に、人影を見た。
低い重低音が、このそう広くはない空間に響いているようだった。
巨石が動き出す時のような、地獄の魔物たちの唸り声のような、低く、深い、重い音が聞こえる。
床につけた足の裏を通して、私の体中を震わせる。
もうもうと立ち込める煙に写し出された影が次第にその輪郭を律していく。
よく覚えのある気配を纏わせて。
瘴気の煙が薄くなっていく。
変態野郎が床の穴を閉じたのだ。
煙の色に染まっていた世界が元の色を取り戻していく。
すぐに世界はまた見慣れた薄暗い部屋に戻った。
宙に浮かんでいた影が、何かに導かれるように音もなくゆっくりと降りてくる。
私は、目を離すことができなかった。
その一連の様子をただじっと見つめ続けていた。
そんなこと、あり得ないと。
ここに存在するはずのない人物の出現に驚くなと言われても無理だ。
なぜ、どうして?
すっかり煙は消え、相手の顔をはっきり見ることができる。
たった今、地の底から召喚された人物は僅かに顔を俯けたまま、目を閉じている。
まだこの部屋の様子は見ていないのだろう。
彼の足がまだ地につく前に、背後の壁の陰に入った。
まるで逃げ込むように。
なぜそうしたのかわからなかった。
咄嗟の行動だった。
彼に見つかることがマズイと感じたからか、それとも、この胸に浮かんだおかしな感情が恐怖だと悟ったからか。
ゴツゴツとした冷たい岩肌の壁の陰から、変態野郎の姿を目にする。
その前に立つ人物の纏う服の色がやけに鮮やかに写るのは目の錯覚からか。
よく見知った、手触りも臭いも蘇ってくるその服を纏った男。
俯いていた顔をゆっくりと持ち上げ、そしてたった一つしかない片方の目を開く。
見慣れたその様子はすぐ間近で見ているような感覚を覚える。
…アーロン。
なぜ、ここにいる?
あの変態野郎は何と言っていた?
…そうだ、確か冥界の牢獄だ。
アーロンは牢獄にいたということなのか?
謎はつきない。
だが今はそれよりも、私は私自身を抑えきれなくて仕方がない。
指先が、足が、ピクピクと痙攣でも起こしたかのように細かく震えている。
前に出たくて、声を上げたくて堪らないのだ。
今すぐ彼の元へ駆け寄ってその逞しい腕で抱き締めて欲しい。
いつものように低い声で名を呼んで欲しい。
このおかしな世界から連れ出して欲しかった。
→
5,jul,2015
変態野郎は椅子から立ち上がると、部屋の中央で何やら呪文のようなものをぶつぶつと唱え始めた。
腕を振り上げたり掌を翳してみたりと、何の儀式なのか全くわからないが、とにかく動き一つ一つが気持ち悪くて見ていられない。
「…お、おい、何を始める気なんだ」
「ひ~ひっひっひっひ、お誂え向きなのがいた」
「………」
やがて床の上に魔方陣のようなものが浮かび上がった。
鈍い光を放ち、湯気のように瘴気の煙が立ち昇り始める。
それは酷い匂いを放って部屋の中に充満していく。
思わず己の腕で顔を塞いでしまう。
「いや~な臭いの穴だな」
「冥界の牢獄につながっているのさ。 極悪凶暴な罪人を呼び出すってわけだ」
「なるほど …なるほど」
猫野郎も何かを感じ取ったのだろう。
変態野郎のすぐ隣に陣取っていたが、ゆっくりと1歩ずつ後退していく。
それは私も同じことだった。
その場にいることで、おかしな気配を感じる。
いつかどこかで感じたことがある雰囲気。
纏わり付くような空気が重く感じられる。
肌に突き刺さるほどではないにしろ、ビリビリと身に感じる不気味な瘴気に、近づくことが憚られる。
本能が、危険だと感じ取っているのかもしれない。
魔方陣が浮かんでいた場所は、まるで溶けていくかのように沈み込んでいく。
床に開いた大きな穴。
そこからはどす黒い不気味な色をした煙が立ち昇る。
相変わらず気色悪い笑い声を上げながら、変態野郎は穴の淵で手を翳して立っている。
そこから何が現れるのだ…
穴から立ち上る瘴気はどんどんその体積を増していく。
もうすでに穴の向こう側は何も見えないほどになっている。
それでも、さながら囚われたものが解き放たれるかのように、渦を巻いて瘴気は私たちの視界を遮る。
ふいに、何かの気配を感じた。
それは、この変態野郎がたった今行っていることの結果だとはわかっているのに、それの正体がわからないから恐ろしい。
こいつは何を呼び出したのだ。
この穴の中から何が出てくると言うのだ。
…だがこの気配、どこかで感じたことがあるような気がした。
決して美しいとは言い難いこの黒い瘴気の煙の中に、人影を見た。
低い重低音が、このそう広くはない空間に響いているようだった。
巨石が動き出す時のような、地獄の魔物たちの唸り声のような、低く、深い、重い音が聞こえる。
床につけた足の裏を通して、私の体中を震わせる。
もうもうと立ち込める煙に写し出された影が次第にその輪郭を律していく。
よく覚えのある気配を纏わせて。
瘴気の煙が薄くなっていく。
変態野郎が床の穴を閉じたのだ。
煙の色に染まっていた世界が元の色を取り戻していく。
すぐに世界はまた見慣れた薄暗い部屋に戻った。
宙に浮かんでいた影が、何かに導かれるように音もなくゆっくりと降りてくる。
私は、目を離すことができなかった。
その一連の様子をただじっと見つめ続けていた。
そんなこと、あり得ないと。
ここに存在するはずのない人物の出現に驚くなと言われても無理だ。
なぜ、どうして?
すっかり煙は消え、相手の顔をはっきり見ることができる。
たった今、地の底から召喚された人物は僅かに顔を俯けたまま、目を閉じている。
まだこの部屋の様子は見ていないのだろう。
彼の足がまだ地につく前に、背後の壁の陰に入った。
まるで逃げ込むように。
なぜそうしたのかわからなかった。
咄嗟の行動だった。
彼に見つかることがマズイと感じたからか、それとも、この胸に浮かんだおかしな感情が恐怖だと悟ったからか。
ゴツゴツとした冷たい岩肌の壁の陰から、変態野郎の姿を目にする。
その前に立つ人物の纏う服の色がやけに鮮やかに写るのは目の錯覚からか。
よく見知った、手触りも臭いも蘇ってくるその服を纏った男。
俯いていた顔をゆっくりと持ち上げ、そしてたった一つしかない片方の目を開く。
見慣れたその様子はすぐ間近で見ているような感覚を覚える。
…アーロン。
なぜ、ここにいる?
あの変態野郎は何と言っていた?
…そうだ、確か冥界の牢獄だ。
アーロンは牢獄にいたということなのか?
謎はつきない。
だが今はそれよりも、私は私自身を抑えきれなくて仕方がない。
指先が、足が、ピクピクと痙攣でも起こしたかのように細かく震えている。
前に出たくて、声を上げたくて堪らないのだ。
今すぐ彼の元へ駆け寄ってその逞しい腕で抱き締めて欲しい。
いつものように低い声で名を呼んで欲しい。
このおかしな世界から連れ出して欲しかった。
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5,jul,2015