第3章【見つけ出してやる】
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【 25 】
グアドサラムの森を抜けた先はまだ木の生い茂る森が続く。
このスピラの生命の源とも言えるマカラーニャの森から流れ出た水は、スフィアの原料とも成り得る成分を多分に含む。
豊かな森を形成するのに必要な水が豊富なのだ。
その水の流れこそが幻光河となってこのスピラを潤している。
そこに生きる人間だけに留まらず、幻光河は死者をもそこに呼び寄せる。
魂だけと成った幻光虫は水辺に集まりやすい。
マカラーニャから流れ出た水の成分のお陰で、この河岸には他では見られない花が咲く。
幻光虫はその花に集い、舞うのだ。
その幻想的な光景は見るものを圧倒し、心を揺り動かす。
これが死者である事を忘れさせるかのように、儚く美しく光を放つ。
尤も、それは命あるものの意見でしかなく、俺にとっては今だ浮かばれぬ魂が彷徨っているだけにしか見えん。
「……フン」
この光景を見てしまうと、己自身もこの魂たちと同じ立場であることに嫌気が差す。
だから敢えて幻光虫となることをせず、人の姿を留めたまま己の足で地を歩く。
自分はこいつらとは違うのだと主張するかのように。
その中身は何も違ってなどいないと言うのに…
もう間もなく、幻光河の北岸が見えてくるというところに来て、何やら人が大勢集まっているような音や声が耳に届いた。
時折軽快な楽器の音も混じっている。
人の姿を留めたまま、遠くからその様子をじっと見つめた。
大勢の人間、派手に飾り付けられたシパーフ乗り場やその周辺、こちら側では珍しくたくさんの露店も出ているようだ。
普段は南岸でしか見かけないというのに。
そして、何を奏でているのかは判らないが軽快な音楽がここまで届く。
一体何をやっているのかと遠巻きに眺めているところへ、ふいに声を掛けられた。
「あんちゃん、どこぞで会ったかの?」
老人の声に、そちらを振り返る。
曲がってしまった腰に片手を添え、もう片方の手は釣竿を肩に掛けている。
人の良さそうな笑顔の老人だった。
「………!」
見覚えがある。
それは向こうも同じようで、じっと笑顔のままで俺の顔を見つめている。
「…あぁ、召喚士様のガードの方じゃったかな? 嬢ちゃんは息災か?」
何と応えればいいのか。
“嬢ちゃん”というのは、間違いなくあいつのことだろう。
2年前の旅のときも、ブラスカ達との旅のときも、そして1人きりで旅をしていたときも、あいつはこの老人の世話になったと言っていた。
「ユウナ様がシンを倒されたとき、嬢ちゃんはユウナ様を守って命を落とした、そう、風の噂で聞いたが…」
「……ベベルにいる」
嘘ではない。
だがこの老人が口にした事実を肯定することもできなかった。
「ほっほっほっほ、そうかの。 …あんちゃん、一つ頼まれてくれんかの」
「なんだ?」
「こいつを……」
肩に載せていた釣竿を杖のように突きたててバランスを取り、腰に当てていた片手を懐に突っ込んだ。
その中で何やらゴソゴソと探っていた手がゆっくりと引き出される。
「嬢ちゃんに返してやってくれんか」
老人が俺に向かって差し出した手には、古びた首飾り。
ベベルの紋章の入った小さなエンブレムが付いた、高官が付けるものだった。
「…これは?」
「嬢ちゃんに初めて会ったとき、こいつと交換に魚をくれと、言ってのう。わしゃそんなもんはいらんと言ったんじゃが、タダで貰うわけにはいかん、と言ってな」
「…あの時か」
ブラスカと旅をした時、この幻光河でジェクトが起こした事件は忘れたくても忘れることなどできない。
そのせいで宿に泊まる金もメシを買う金も全て失って、半ば途方に暮れていたときにあいつがどこからか魚と果物を持ってきた。
その行動に驚き戸惑ったが、本当に有難かった。
「この歳になると、ベベルは遠いのう」
「………」
「今日はの、お祭りじゃ」
「祭り…」
「召喚士様は、もう、おらん。死んだ者の魂を異界へ送ってくださる召喚士様がおらんようになってからは、ああして皆で魂を慰めるお祭りをしとるんじゃよ」
楽器のことはあまり詳しくはないが、耳に届いた音は笛の音か。
その音につられるように振り返った老人と同じ方向に俺も目を向けた。
この日のために設けられたであろう、1段高いステージの上で、さながら召喚士のような衣装を身に纏った何人かの男女が優雅な舞を披露しているのがここからでもよく見えた。
その姿が、かつてのブラスカとユウナとダブってしまう。
究極召喚を授けるユウナレスカも、その究極召喚でしか倒せないとされたシンももう存在しない。
もう、召喚士は旅をしない。
こんな辺境の地に、寺院もない小さな村や町にわざわざ召喚士は訪れることもなくなってしまった。
そこに住む人々は、その土地ごとにこうした鎮魂の儀式を執り行ってきたのだろう。
「あんちゃん、…この老い先短い年寄りの頼みごと聞いてくれて、感謝しとるよ」
「…礼を言うのは、こちらだ」
→
27,jun,2015
グアドサラムの森を抜けた先はまだ木の生い茂る森が続く。
このスピラの生命の源とも言えるマカラーニャの森から流れ出た水は、スフィアの原料とも成り得る成分を多分に含む。
豊かな森を形成するのに必要な水が豊富なのだ。
その水の流れこそが幻光河となってこのスピラを潤している。
そこに生きる人間だけに留まらず、幻光河は死者をもそこに呼び寄せる。
魂だけと成った幻光虫は水辺に集まりやすい。
マカラーニャから流れ出た水の成分のお陰で、この河岸には他では見られない花が咲く。
幻光虫はその花に集い、舞うのだ。
その幻想的な光景は見るものを圧倒し、心を揺り動かす。
これが死者である事を忘れさせるかのように、儚く美しく光を放つ。
尤も、それは命あるものの意見でしかなく、俺にとっては今だ浮かばれぬ魂が彷徨っているだけにしか見えん。
「……フン」
この光景を見てしまうと、己自身もこの魂たちと同じ立場であることに嫌気が差す。
だから敢えて幻光虫となることをせず、人の姿を留めたまま己の足で地を歩く。
自分はこいつらとは違うのだと主張するかのように。
その中身は何も違ってなどいないと言うのに…
もう間もなく、幻光河の北岸が見えてくるというところに来て、何やら人が大勢集まっているような音や声が耳に届いた。
時折軽快な楽器の音も混じっている。
人の姿を留めたまま、遠くからその様子をじっと見つめた。
大勢の人間、派手に飾り付けられたシパーフ乗り場やその周辺、こちら側では珍しくたくさんの露店も出ているようだ。
普段は南岸でしか見かけないというのに。
そして、何を奏でているのかは判らないが軽快な音楽がここまで届く。
一体何をやっているのかと遠巻きに眺めているところへ、ふいに声を掛けられた。
「あんちゃん、どこぞで会ったかの?」
老人の声に、そちらを振り返る。
曲がってしまった腰に片手を添え、もう片方の手は釣竿を肩に掛けている。
人の良さそうな笑顔の老人だった。
「………!」
見覚えがある。
それは向こうも同じようで、じっと笑顔のままで俺の顔を見つめている。
「…あぁ、召喚士様のガードの方じゃったかな? 嬢ちゃんは息災か?」
何と応えればいいのか。
“嬢ちゃん”というのは、間違いなくあいつのことだろう。
2年前の旅のときも、ブラスカ達との旅のときも、そして1人きりで旅をしていたときも、あいつはこの老人の世話になったと言っていた。
「ユウナ様がシンを倒されたとき、嬢ちゃんはユウナ様を守って命を落とした、そう、風の噂で聞いたが…」
「……ベベルにいる」
嘘ではない。
だがこの老人が口にした事実を肯定することもできなかった。
「ほっほっほっほ、そうかの。 …あんちゃん、一つ頼まれてくれんかの」
「なんだ?」
「こいつを……」
肩に載せていた釣竿を杖のように突きたててバランスを取り、腰に当てていた片手を懐に突っ込んだ。
その中で何やらゴソゴソと探っていた手がゆっくりと引き出される。
「嬢ちゃんに返してやってくれんか」
老人が俺に向かって差し出した手には、古びた首飾り。
ベベルの紋章の入った小さなエンブレムが付いた、高官が付けるものだった。
「…これは?」
「嬢ちゃんに初めて会ったとき、こいつと交換に魚をくれと、言ってのう。わしゃそんなもんはいらんと言ったんじゃが、タダで貰うわけにはいかん、と言ってな」
「…あの時か」
ブラスカと旅をした時、この幻光河でジェクトが起こした事件は忘れたくても忘れることなどできない。
そのせいで宿に泊まる金もメシを買う金も全て失って、半ば途方に暮れていたときにあいつがどこからか魚と果物を持ってきた。
その行動に驚き戸惑ったが、本当に有難かった。
「この歳になると、ベベルは遠いのう」
「………」
「今日はの、お祭りじゃ」
「祭り…」
「召喚士様は、もう、おらん。死んだ者の魂を異界へ送ってくださる召喚士様がおらんようになってからは、ああして皆で魂を慰めるお祭りをしとるんじゃよ」
楽器のことはあまり詳しくはないが、耳に届いた音は笛の音か。
その音につられるように振り返った老人と同じ方向に俺も目を向けた。
この日のために設けられたであろう、1段高いステージの上で、さながら召喚士のような衣装を身に纏った何人かの男女が優雅な舞を披露しているのがここからでもよく見えた。
その姿が、かつてのブラスカとユウナとダブってしまう。
究極召喚を授けるユウナレスカも、その究極召喚でしか倒せないとされたシンももう存在しない。
もう、召喚士は旅をしない。
こんな辺境の地に、寺院もない小さな村や町にわざわざ召喚士は訪れることもなくなってしまった。
そこに住む人々は、その土地ごとにこうした鎮魂の儀式を執り行ってきたのだろう。
「あんちゃん、…この老い先短い年寄りの頼みごと聞いてくれて、感謝しとるよ」
「…礼を言うのは、こちらだ」
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27,jun,2015