第3章【見つけ出してやる】
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【 24 】
ずっと眠っていたあいつがやっと目を覚ました。
異界で、祈り子たちですら原因がわからないと言っていた突然の眠りから。
祈り子たちも、幻光虫が作り上げたただの記憶と想いの塊でしかない。
肉体的には命あるものと何ら変わりはない存在である自分たちの身体の変調なら、生きた人間が受ける治療を施さねばならない。
そう言われて、この世界へ来た。
何をどうすればいいのか解決策もないまま時は流れて、しかし、それでもあいつは目を覚ました。
それは喜ぶべきことだ。
……だが…
あいつは俺に関する記憶の一切を失っていた。
いや、初めから俺など存在していなかったような記憶を持っていた。
俺たち死人の核となる幻光虫の扱いについて、この世界で一番高い能力を持つグアド族になら、この理由がわかるやもしれないと考えてここまで来た。
だが、グアド族でもこの理由はわからんと言う。
俺は、どうすればいいのだ。
どうすればあいつの、彼女の記憶を戻せる?
俺の姿に酷く怯えるあいつは、先日の戦いの記憶すらも何かと混同しているようで、俺の姿を奪ったあの男と俺を取り違えているのだろう。
…おれは、彼女に、また触れることすらできなくなってしまったのか。
10年間、辛い夢を見続けていた、あの時のように…
彼女ではなく、俺自身の記憶がおかしくなったのかとも考えた。
だが、ベベルで会ったバラライや医師、訓練生たちの態度を見れば、自分の記憶の中に残っている自分の歩んできた道は間違いないと断言できる。
俺の記憶は正しいはずだ。
それでも、もう一つ確信が欲しかった。
俺が、俺たちが歩んできた過去の道のり、起こした行動が間違いなく事実であったと。
「アーロン殿」
「…なんだ」
互いに向き合ったまま無言で何やら思案を巡らせていたらしいトワメルが徐に口を開いた。
声を掛けられて、はっとする。
自分自身もつい、考えに夢中になっていて目の前の存在を忘れかけていた。
「先々代の族長達に、話を伺ってみようと思うのです」
「…族長達…?」
「はい。異界へ行き、彼らの意見を聞いてみたいのです」
「何かわかるのか?」
「先代の族長達の中には、今の私達が知り得ぬ能力を持った方がいらっしゃったとか。 その方の知識を拝借することができれば、あるいは…」
「…どれ程の時間が必要だ?」
「さあ、話してみないことには、判りかねます」
「……ふむ」
「こちらでこのままお待ちになりますか?」
「いや、俺は席を外す。 俺も一つ、確かめたいことがある」
「わかりました。 ではもしこちらの話が早く終わりましたら連絡を差し上げましょう」
「頼む。 俺のほうが終わったら顔を出す」
深々と頭を下げるこの男からは、2年前のあの頃の面影は微塵も感じられない。
何が彼をこんなにも変えたのだろうか。
シーモアという存在か、族長と言う重圧か、世間からの非難か…。
何にしろ、頭を下げたいのはこちらのほうだ。
今はその先代の族長とやらの知識だけが頼りなのだ。
屋敷から出てすぐ、ふいに身体に異変を感じた。
何かに身体を動かされるような、強い引力で引き寄せられるようなおかしな感覚。
「!?」
異界の入り口が開けられたことで、自分の身体が引き寄せられているのかもしれない。
まだ、異界に帰るわけにはいかない。
意識を強く持って、地を踏みしめる両足に力を込めた。
幻光虫に姿を変えることもせず、己の足でグアドサラムを後にした。
途中、幾人かのグアド族がじっとこちらを見つめている姿を目にしたが、彼らは俺が死人であると見抜いているのだろう。
特別何かしてくるわけではないが、特徴的な長い民族衣装の襟の中から、これまた特徴的な姿をした彼らにじっと見つめられるのは、あまり気持ちのいいものではない。
足早に、不思議な形をした木の生い茂る大きな森を抜けた。
→
26,jun,2015
ずっと眠っていたあいつがやっと目を覚ました。
異界で、祈り子たちですら原因がわからないと言っていた突然の眠りから。
祈り子たちも、幻光虫が作り上げたただの記憶と想いの塊でしかない。
肉体的には命あるものと何ら変わりはない存在である自分たちの身体の変調なら、生きた人間が受ける治療を施さねばならない。
そう言われて、この世界へ来た。
何をどうすればいいのか解決策もないまま時は流れて、しかし、それでもあいつは目を覚ました。
それは喜ぶべきことだ。
……だが…
あいつは俺に関する記憶の一切を失っていた。
いや、初めから俺など存在していなかったような記憶を持っていた。
俺たち死人の核となる幻光虫の扱いについて、この世界で一番高い能力を持つグアド族になら、この理由がわかるやもしれないと考えてここまで来た。
だが、グアド族でもこの理由はわからんと言う。
俺は、どうすればいいのだ。
どうすればあいつの、彼女の記憶を戻せる?
俺の姿に酷く怯えるあいつは、先日の戦いの記憶すらも何かと混同しているようで、俺の姿を奪ったあの男と俺を取り違えているのだろう。
…おれは、彼女に、また触れることすらできなくなってしまったのか。
10年間、辛い夢を見続けていた、あの時のように…
彼女ではなく、俺自身の記憶がおかしくなったのかとも考えた。
だが、ベベルで会ったバラライや医師、訓練生たちの態度を見れば、自分の記憶の中に残っている自分の歩んできた道は間違いないと断言できる。
俺の記憶は正しいはずだ。
それでも、もう一つ確信が欲しかった。
俺が、俺たちが歩んできた過去の道のり、起こした行動が間違いなく事実であったと。
「アーロン殿」
「…なんだ」
互いに向き合ったまま無言で何やら思案を巡らせていたらしいトワメルが徐に口を開いた。
声を掛けられて、はっとする。
自分自身もつい、考えに夢中になっていて目の前の存在を忘れかけていた。
「先々代の族長達に、話を伺ってみようと思うのです」
「…族長達…?」
「はい。異界へ行き、彼らの意見を聞いてみたいのです」
「何かわかるのか?」
「先代の族長達の中には、今の私達が知り得ぬ能力を持った方がいらっしゃったとか。 その方の知識を拝借することができれば、あるいは…」
「…どれ程の時間が必要だ?」
「さあ、話してみないことには、判りかねます」
「……ふむ」
「こちらでこのままお待ちになりますか?」
「いや、俺は席を外す。 俺も一つ、確かめたいことがある」
「わかりました。 ではもしこちらの話が早く終わりましたら連絡を差し上げましょう」
「頼む。 俺のほうが終わったら顔を出す」
深々と頭を下げるこの男からは、2年前のあの頃の面影は微塵も感じられない。
何が彼をこんなにも変えたのだろうか。
シーモアという存在か、族長と言う重圧か、世間からの非難か…。
何にしろ、頭を下げたいのはこちらのほうだ。
今はその先代の族長とやらの知識だけが頼りなのだ。
屋敷から出てすぐ、ふいに身体に異変を感じた。
何かに身体を動かされるような、強い引力で引き寄せられるようなおかしな感覚。
「!?」
異界の入り口が開けられたことで、自分の身体が引き寄せられているのかもしれない。
まだ、異界に帰るわけにはいかない。
意識を強く持って、地を踏みしめる両足に力を込めた。
幻光虫に姿を変えることもせず、己の足でグアドサラムを後にした。
途中、幾人かのグアド族がじっとこちらを見つめている姿を目にしたが、彼らは俺が死人であると見抜いているのだろう。
特別何かしてくるわけではないが、特徴的な長い民族衣装の襟の中から、これまた特徴的な姿をした彼らにじっと見つめられるのは、あまり気持ちのいいものではない。
足早に、不思議な形をした木の生い茂る大きな森を抜けた。
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26,jun,2015