第3章【見つけ出してやる】
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【 23 】
この遣り切れない苛付く気持ちを部屋の壁にぶつけてみたところで、何が解決するわけでもない。
俺がそこから幻光虫となって外へ飛び出したのと同時に、部屋の中に兵士が何人か駆け込んできたのが見えた。
だがそれどころではない。
俺には行って確かめなければならないことがある。
「お久し振りです、アーロン殿。 お待ちしてましたよ、さあどうぞ」
独特の口調と長い手を広げて迎えてくれた人物に、短い言葉だけを返して彼の後に続く。
ラフテルに会う前に伝えておいた希望を、バラライはすぐに実行してくれていたようだ。
このスピラにおいて、彼等ほど幻光虫の扱いに長けた種族はいない。
スピラと異界を繋ぐ扉を管理できる唯一の種、ここグアドサラムに住む、グアド族だ。
俺を迎えたのは、トワメルという人物。
確かこいつはジスカルやシーモアに仕えていたと思ったが、どうやら今は彼がグアド族の族長になっているらしい。
ラフテルのことで、何かしらの情報を得られないかと思ったのだ。
幻光虫の集合体でしかない我々死人という存在について、彼らなら俺たちにはわからん何かの原因を知っているのではないか。
それを確かめてみたいと思ってのことだ。
真新しい彼の屋敷に招かれ、先代のもの以外全く区別のつけられん代々の族長の似顔絵に少々辟易しつつ、部屋の入り口付近で足を止める。
「こうして私めがこのような地位につくことができたのは、ユウナ様のご助言のお陰。
そしてシンのいない平和な時を過ごせるのも、貴殿方がユウナ様を導いて下さったお陰。2年前のあの日……」
「思出話をしに来たのではない。バラライからどこまで聞いている?」
先代といい、こいつといい、どうしてこうも無駄な話をしたがるのか。
話を遮られたことに怒りを浮かべるわけでもなく、僅かに驚いたようで、身の前で合わせていた手のひらを1度開いてまた結んで見せた。
表情そのものは分かりがたいので、本当に驚いたのかどうかは不明だが…。
「…我々にとっても、ラフテル様というお方は身内も同然。 理由はご存知でしたかな?」
「あぁ、聞いている」
「シーモア様が先代族長となられたのも、ラフテル様がジスカル様にヒトとしてのお心を分け与えて下さったからこそ。
…まぁ、大きな声では言えない、裏の事情も多々ありましたが、それでも、ラフテル様の危機とあらばこのトワメル、如何様にもお力添え致しましょう」
ラフテルの、命を削った原因の相手はかつてのグアド族の族長。知っていて、当然か…。
「そもそも、死人という存在が如何様にしてこの世界にその姿を留め存在していることができるのか、そこから知る必要がありますが、アーロン殿にはもう無用ですかな」
「………」
「幻光体がその姿を留める為には、核となる強い想いが必要です。 その想いを核として、幻光虫は姿を変えるのです。
ところが、大切な想いが何らかの影響で薄れた、または欠けてしまうと、幻光虫の濃度は薄まり核はその姿を保っていられなくなる。
なんとかして核は姿を保とうとしますから、生身の人間と同じように深い休息を取らざるを得ない…」
ラフテルが深い眠りに落ちて、何日も目覚めなかったのはそういう理由からか…
幻光虫を扱う能力に長けている種族ならではの話だな。
「そして、なぜ、そのようなことが起こったのか…」
そうだ、俺が一番知りたい理由がそこだ。
今はもう目覚めている彼女の、眠っていた理由など今更どうでもいい。
一番大切なことは、記憶が捻じ曲がっている、或いは欠けてしまっている、という点だ。
俺自身のこともそうだが、今の彼女の頭の中にある記憶は、自分たちが経験してきたこととまるで違うものだ。
もし、この先もこのままでいたとして、その記憶に関する人物と接触した場合、当然のように話に食い違いが生じてしまう。
それまで淡々と話を進めていたトワメルが、言葉を濁らせる。
グアド族は表情に乏しいということを聞いてはいたが、確かに判り難いかもしれないが乏しいというほどではないだろう。
明らかに、今までとはその表情を変えてしまっている。
「実は、私にもその理由はわからないのです」
ここに来るまでに寄せていた期待と、こいつの表情を見てから浮かんだ予想が的中した。
溜息とも取れるような長い嘆息を吐き出しながら、さてこれからどうしようかと思案を巡らせた。
→
25,jun,2015
この遣り切れない苛付く気持ちを部屋の壁にぶつけてみたところで、何が解決するわけでもない。
俺がそこから幻光虫となって外へ飛び出したのと同時に、部屋の中に兵士が何人か駆け込んできたのが見えた。
だがそれどころではない。
俺には行って確かめなければならないことがある。
「お久し振りです、アーロン殿。 お待ちしてましたよ、さあどうぞ」
独特の口調と長い手を広げて迎えてくれた人物に、短い言葉だけを返して彼の後に続く。
ラフテルに会う前に伝えておいた希望を、バラライはすぐに実行してくれていたようだ。
このスピラにおいて、彼等ほど幻光虫の扱いに長けた種族はいない。
スピラと異界を繋ぐ扉を管理できる唯一の種、ここグアドサラムに住む、グアド族だ。
俺を迎えたのは、トワメルという人物。
確かこいつはジスカルやシーモアに仕えていたと思ったが、どうやら今は彼がグアド族の族長になっているらしい。
ラフテルのことで、何かしらの情報を得られないかと思ったのだ。
幻光虫の集合体でしかない我々死人という存在について、彼らなら俺たちにはわからん何かの原因を知っているのではないか。
それを確かめてみたいと思ってのことだ。
真新しい彼の屋敷に招かれ、先代のもの以外全く区別のつけられん代々の族長の似顔絵に少々辟易しつつ、部屋の入り口付近で足を止める。
「こうして私めがこのような地位につくことができたのは、ユウナ様のご助言のお陰。
そしてシンのいない平和な時を過ごせるのも、貴殿方がユウナ様を導いて下さったお陰。2年前のあの日……」
「思出話をしに来たのではない。バラライからどこまで聞いている?」
先代といい、こいつといい、どうしてこうも無駄な話をしたがるのか。
話を遮られたことに怒りを浮かべるわけでもなく、僅かに驚いたようで、身の前で合わせていた手のひらを1度開いてまた結んで見せた。
表情そのものは分かりがたいので、本当に驚いたのかどうかは不明だが…。
「…我々にとっても、ラフテル様というお方は身内も同然。 理由はご存知でしたかな?」
「あぁ、聞いている」
「シーモア様が先代族長となられたのも、ラフテル様がジスカル様にヒトとしてのお心を分け与えて下さったからこそ。
…まぁ、大きな声では言えない、裏の事情も多々ありましたが、それでも、ラフテル様の危機とあらばこのトワメル、如何様にもお力添え致しましょう」
ラフテルの、命を削った原因の相手はかつてのグアド族の族長。知っていて、当然か…。
「そもそも、死人という存在が如何様にしてこの世界にその姿を留め存在していることができるのか、そこから知る必要がありますが、アーロン殿にはもう無用ですかな」
「………」
「幻光体がその姿を留める為には、核となる強い想いが必要です。 その想いを核として、幻光虫は姿を変えるのです。
ところが、大切な想いが何らかの影響で薄れた、または欠けてしまうと、幻光虫の濃度は薄まり核はその姿を保っていられなくなる。
なんとかして核は姿を保とうとしますから、生身の人間と同じように深い休息を取らざるを得ない…」
ラフテルが深い眠りに落ちて、何日も目覚めなかったのはそういう理由からか…
幻光虫を扱う能力に長けている種族ならではの話だな。
「そして、なぜ、そのようなことが起こったのか…」
そうだ、俺が一番知りたい理由がそこだ。
今はもう目覚めている彼女の、眠っていた理由など今更どうでもいい。
一番大切なことは、記憶が捻じ曲がっている、或いは欠けてしまっている、という点だ。
俺自身のこともそうだが、今の彼女の頭の中にある記憶は、自分たちが経験してきたこととまるで違うものだ。
もし、この先もこのままでいたとして、その記憶に関する人物と接触した場合、当然のように話に食い違いが生じてしまう。
それまで淡々と話を進めていたトワメルが、言葉を濁らせる。
グアド族は表情に乏しいということを聞いてはいたが、確かに判り難いかもしれないが乏しいというほどではないだろう。
明らかに、今までとはその表情を変えてしまっている。
「実は、私にもその理由はわからないのです」
ここに来るまでに寄せていた期待と、こいつの表情を見てから浮かんだ予想が的中した。
溜息とも取れるような長い嘆息を吐き出しながら、さてこれからどうしようかと思案を巡らせた。
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25,jun,2015