第2章【別世界へトリップ】
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「ラフテル、…思い出せ」
奴、いや、目の前の男のそのたった1つだけの目からは、恐怖は感じられなかった。
それよりも、どこか辛そうに、悲しそうにさえ見える。
思い出せと言われても、何を忘れているのかさえわからない。
「………」
「ラフテル、お前が忘れていたとしても、俺は覚えている。ベベルで訓練をしていた時にキノックの隣にいた奴は誰だった?
ブラスカのガードにと無理矢理お前の腕を引いたのは誰だった? 10年もの長い間何度もお前の夢に出てきたのは誰だった?
ユウナのガードとしてジェクトを倒した時に共に異界へ連れ立ったのは誰だった?」
…ベベルで訓練を受けていた頃?
こいつはそんな昔から私を知っていたとでもいうのか。
言われた言葉に思わず記憶を引き出そうと思考を巡らせる。
だがそんな記憶など出てくるわけもない。
そもそも、私の記憶がおかしいのかどうかなんて、なぜこいつに言い切れるんだ。
必死に過去のことを掘り起こそうとするこいつの態度にだんだん腹が立ってきた。
「…いい加減にしろ…」
「?」
俯いた顔のまま呟いた声は相手には届いていなかったかもしれない。
頭や胸の中に渦巻くイライラとした気持ちは自分で自分を抑えられなくなる。
「訓練を受けていた頃からの私を知ってる!? キノックって、あのキノック老師のこと!? ブラスカのガードには私が自分から申し出たんだ! 無理矢理じゃない!
10年間同じ夢なんて見るわけないだろ!? ユウナのガードになって、ジェクトを倒して… …そして、あんたに、殺された……」
「!!」
思わず早口で一気に捲し立てた。
それでも最後のほうは呂律が上手く回らなくなってきて、遣りきれない苛ついた感情と相まって、目頭が熱くなった。
この男の言う、私が思い出さなくてはならないらしい記憶と、私自身の中にある思い出の記憶は全く違う。
こいつの言う物語を私の記憶として植え付けようとしてるんじゃないだろうかとさえ思えてくる。
涙を溢すという行為が敗北感を生むように感じられて、悔しさを悟られまいと、目の前の男を睨み付ける。
いつしか、恐怖はなくなっていた。
全く平気という訳ではないが、今のこいつからは殺気も怒気も感じられない。
ふいに、彼の掌が私に近付いた。
顔に、頬に触れる直前まで来たところで、私の体がビクリと震えた。
その途端に動きをピタリと止めてしまった彼の手は、何かを逡巡するかのように、小さく揺れていた。
「……そうか」
手を引いたと同時に、小さな呟きを溢して1歩足を引いて見せた。
すぐにその場で後ろを向いてしまったが、顔だけをこちらに向けて、先程と同じようにどこか寂しそうに言った。
「…お前の持つ過去の記憶が俺の持つ記憶と違っていたとしても…」
「………」
「…お前の時間は、俺のものだ」
その言葉だけを残して、アーロンとかいう奴はそのまま部屋を出て行った。
小さな音を立てて閉じられた扉を見つめたまま、私は奴が残していった言葉を頭の中で反芻させる。
もし、それを言われたのがうら若き少女で、相手も自分が好意を抱いていた相手だったとしたら、それは気持ちを揺るがす貴意の言葉と成り得ただろう。
だが、その相手が全く知りもしない、恐怖を覚えるだけの相手だったとしたら、それは自分にとって気味のいいものではない。
それなのに、その言葉。
なぜ、こんなにも胸がざわつく…?
私の中にはない、彼が持つ記憶には私がいる。
先程私に触れようとしたあの手が、微かに躊躇いを含んでいたことに気付いていた。
あれは、命を奪おうとしている手じゃ、なかった。
私を見下ろした、たった1つの瞳に含まれていたのは、恐怖ではなかった。
彼の記憶の中の私は、彼にとってどんな人物だというのか、なんとなく想像が付く。
だからと言って、今の私にも同じように接してこられても、私はどんな態度を取ればいいのかわからない。
今の私にとっては、恐ろしい人物でしかないのだから。
私の命を奪った、憎むべき相手でしかないのだから…
その日の夜、私がいる部屋の隣から大きな音がしたが、どうやら壁が1枚崩壊したらしい。
→第3章【見つけ出してやる】
20,jun,2015
16,Feb,2018 携帯版より転載
「ラフテル、…思い出せ」
奴、いや、目の前の男のそのたった1つだけの目からは、恐怖は感じられなかった。
それよりも、どこか辛そうに、悲しそうにさえ見える。
思い出せと言われても、何を忘れているのかさえわからない。
「………」
「ラフテル、お前が忘れていたとしても、俺は覚えている。ベベルで訓練をしていた時にキノックの隣にいた奴は誰だった?
ブラスカのガードにと無理矢理お前の腕を引いたのは誰だった? 10年もの長い間何度もお前の夢に出てきたのは誰だった?
ユウナのガードとしてジェクトを倒した時に共に異界へ連れ立ったのは誰だった?」
…ベベルで訓練を受けていた頃?
こいつはそんな昔から私を知っていたとでもいうのか。
言われた言葉に思わず記憶を引き出そうと思考を巡らせる。
だがそんな記憶など出てくるわけもない。
そもそも、私の記憶がおかしいのかどうかなんて、なぜこいつに言い切れるんだ。
必死に過去のことを掘り起こそうとするこいつの態度にだんだん腹が立ってきた。
「…いい加減にしろ…」
「?」
俯いた顔のまま呟いた声は相手には届いていなかったかもしれない。
頭や胸の中に渦巻くイライラとした気持ちは自分で自分を抑えられなくなる。
「訓練を受けていた頃からの私を知ってる!? キノックって、あのキノック老師のこと!? ブラスカのガードには私が自分から申し出たんだ! 無理矢理じゃない!
10年間同じ夢なんて見るわけないだろ!? ユウナのガードになって、ジェクトを倒して… …そして、あんたに、殺された……」
「!!」
思わず早口で一気に捲し立てた。
それでも最後のほうは呂律が上手く回らなくなってきて、遣りきれない苛ついた感情と相まって、目頭が熱くなった。
この男の言う、私が思い出さなくてはならないらしい記憶と、私自身の中にある思い出の記憶は全く違う。
こいつの言う物語を私の記憶として植え付けようとしてるんじゃないだろうかとさえ思えてくる。
涙を溢すという行為が敗北感を生むように感じられて、悔しさを悟られまいと、目の前の男を睨み付ける。
いつしか、恐怖はなくなっていた。
全く平気という訳ではないが、今のこいつからは殺気も怒気も感じられない。
ふいに、彼の掌が私に近付いた。
顔に、頬に触れる直前まで来たところで、私の体がビクリと震えた。
その途端に動きをピタリと止めてしまった彼の手は、何かを逡巡するかのように、小さく揺れていた。
「……そうか」
手を引いたと同時に、小さな呟きを溢して1歩足を引いて見せた。
すぐにその場で後ろを向いてしまったが、顔だけをこちらに向けて、先程と同じようにどこか寂しそうに言った。
「…お前の持つ過去の記憶が俺の持つ記憶と違っていたとしても…」
「………」
「…お前の時間は、俺のものだ」
その言葉だけを残して、アーロンとかいう奴はそのまま部屋を出て行った。
小さな音を立てて閉じられた扉を見つめたまま、私は奴が残していった言葉を頭の中で反芻させる。
もし、それを言われたのがうら若き少女で、相手も自分が好意を抱いていた相手だったとしたら、それは気持ちを揺るがす貴意の言葉と成り得ただろう。
だが、その相手が全く知りもしない、恐怖を覚えるだけの相手だったとしたら、それは自分にとって気味のいいものではない。
それなのに、その言葉。
なぜ、こんなにも胸がざわつく…?
私の中にはない、彼が持つ記憶には私がいる。
先程私に触れようとしたあの手が、微かに躊躇いを含んでいたことに気付いていた。
あれは、命を奪おうとしている手じゃ、なかった。
私を見下ろした、たった1つの瞳に含まれていたのは、恐怖ではなかった。
彼の記憶の中の私は、彼にとってどんな人物だというのか、なんとなく想像が付く。
だからと言って、今の私にも同じように接してこられても、私はどんな態度を取ればいいのかわからない。
今の私にとっては、恐ろしい人物でしかないのだから。
私の命を奪った、憎むべき相手でしかないのだから…
その日の夜、私がいる部屋の隣から大きな音がしたが、どうやら壁が1枚崩壊したらしい。
→第3章【見つけ出してやる】
20,jun,2015
16,Feb,2018 携帯版より転載