第2章【別世界へトリップ】
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
= 17 =
「ラフテル様、どうか落ち着いて下さい。僕が知る限り、アーロン殿がラフテル様を手にかけるなどあり得ないことです」
「なぜそう言いきれる?」
「…あの方を見ていればわかります。貴方を見つめる、あの目を」
「目……?」
私を睨み付ける冷たい眼を思い出して、ゾクリと背筋が震える。
私を見下ろすあの恐ろしい眼光のどこがあり得ないと言うのだ。
「あの両目が、私を恐怖に陥れる。命を奪う者の目、魂を消し去る目だ」
「…両目?」
「……?」
「アーロン殿は、隻眼、では?」
「…せき、がん?」
夢に出てくる、私の記憶の中に存在する恐怖の対象、両の目で私を見据える男。
確かにそいつは両目がある。
だが、このバラライという若者は、アーロンが隻眼だという。
つまり、どちらか片方しか目がない。
…ここで見たあの男、目はどうなっていただろうか?
恐怖のあまりにまともに顔を見ていなかったように思う。
もし、ここにいるアーロンという男が隻眼だったとしても、だからと言って私の記憶の中の男とは違うとは言いきれない。
言葉を失って暫く黙ってしまった私に、バラライが声をかける。
「では、アーロン殿を呼びます。いいですか?」
条件反射のように、その名前に反応して体がビクリと震える。
「…な、なぜ?」
「あなたをここに連れてきた理由を知りたいのでしょう?」
では、と、踵を返そうとしたバラライに制止の声がかけられた。
バラライの隣にいる医師の声ではない。
勿論、私は奴に会いたくはないので同じ言葉をかけたかったが、先を越されてしまった。
「?」
バラライも、私達2人の声ではないとわかったのだろう。
1歩踏み出した足をその場に留めたまま、声の出所を探していた。
部屋の隅に微かな気配を感じた。
するとそこから、フワリと幻光虫が舞い上がった。
「!!」
「…あぁ」
その正体がわかって、掛け布を両手で握り締める私とは対照的に、どこか呆れたような表情をバラライと医師はその顔にありありと浮かべて見せた。
幻光虫は数を増し、次第にヒトの姿を形作っていく。
奴が姿を顕にしてくるにつれて、私の呼吸は上手く働かなくなる。
暑いわけでもないのに汗が浮き出てくる。
もう会いたくはないのに。
こんな、ただ恐ろしいとしか感じられない奴の側になど一瞬でもいたくないというのに。
早くここから逃げ出したいと思うのに…。
「外で待って下されと申し上げたはずですが、アーロン殿」
医師の言葉を無視して、奴はゆっくり私に近付いてくる。
その姿を見ることさえ恐ろしくて、目を逸らしたまま親の雷が落ちるのを待っている子供のようにビクビクと怯えている。
この気配、この感じ、こいつも死人だったのか。
何より、つい今しがた、幻光虫として現れたのを見れば一目瞭然だ。
死人である私を異界から連れてきたのだから、当然か。
「では私達は席を外しましょう」
「そうですな」
「なっ! ちょ、待って…」
「ラフテル様、ちゃんと話をして下さいね」
「い、いや、あの、バラライ! 待って……」
「アーロン殿、失礼します。 …盗み聞きは、しませんから」
「あぁ…」
張り付けたような笑顔で、バラライと医師は私の制止も虚しく部屋を後にした。
アーロンへの小さな嫌味も忘れずに。
パタンと乾いた音を立てて閉じられた扉から目を離せなくて、暫く呆然としたままそこを見つめ続けていたが、こちらに1歩近付く足音で我に帰る。
はっとして意識を近くに立つ男に向ける。
思ったよりも随分近くに来ていたことにその時になって初めて気付いた。
相変わらず顔を背けたままで、ただこの空間と時間を耐えていた。
「…ラフテル」
小さな溜め息のような嘆息と共に溢されたのは、私の名。
このベベルで私を育ててくれた僧官様がつけて下さった名前。
自分が恐怖に囚われているとしても、普段の自分の性格はそう簡単には消せなくて…。
「気安く呼ぶな!」
思わず出た言葉と共に、奴の顔を見上げてしまう。
「!!」
初めて、まともにこいつの顔を見た気がする。
バラライが言っていた通り、隻眼。
額から顎の下まで、大きな傷は右目の上を走っている。
「…その傷、どうしたんだ?」
「……」
何気ない単純な質問のつもりだった。
それなのに、どうしてこんな顔をするのか。
→
19,jun,2015
「ラフテル様、どうか落ち着いて下さい。僕が知る限り、アーロン殿がラフテル様を手にかけるなどあり得ないことです」
「なぜそう言いきれる?」
「…あの方を見ていればわかります。貴方を見つめる、あの目を」
「目……?」
私を睨み付ける冷たい眼を思い出して、ゾクリと背筋が震える。
私を見下ろすあの恐ろしい眼光のどこがあり得ないと言うのだ。
「あの両目が、私を恐怖に陥れる。命を奪う者の目、魂を消し去る目だ」
「…両目?」
「……?」
「アーロン殿は、隻眼、では?」
「…せき、がん?」
夢に出てくる、私の記憶の中に存在する恐怖の対象、両の目で私を見据える男。
確かにそいつは両目がある。
だが、このバラライという若者は、アーロンが隻眼だという。
つまり、どちらか片方しか目がない。
…ここで見たあの男、目はどうなっていただろうか?
恐怖のあまりにまともに顔を見ていなかったように思う。
もし、ここにいるアーロンという男が隻眼だったとしても、だからと言って私の記憶の中の男とは違うとは言いきれない。
言葉を失って暫く黙ってしまった私に、バラライが声をかける。
「では、アーロン殿を呼びます。いいですか?」
条件反射のように、その名前に反応して体がビクリと震える。
「…な、なぜ?」
「あなたをここに連れてきた理由を知りたいのでしょう?」
では、と、踵を返そうとしたバラライに制止の声がかけられた。
バラライの隣にいる医師の声ではない。
勿論、私は奴に会いたくはないので同じ言葉をかけたかったが、先を越されてしまった。
「?」
バラライも、私達2人の声ではないとわかったのだろう。
1歩踏み出した足をその場に留めたまま、声の出所を探していた。
部屋の隅に微かな気配を感じた。
するとそこから、フワリと幻光虫が舞い上がった。
「!!」
「…あぁ」
その正体がわかって、掛け布を両手で握り締める私とは対照的に、どこか呆れたような表情をバラライと医師はその顔にありありと浮かべて見せた。
幻光虫は数を増し、次第にヒトの姿を形作っていく。
奴が姿を顕にしてくるにつれて、私の呼吸は上手く働かなくなる。
暑いわけでもないのに汗が浮き出てくる。
もう会いたくはないのに。
こんな、ただ恐ろしいとしか感じられない奴の側になど一瞬でもいたくないというのに。
早くここから逃げ出したいと思うのに…。
「外で待って下されと申し上げたはずですが、アーロン殿」
医師の言葉を無視して、奴はゆっくり私に近付いてくる。
その姿を見ることさえ恐ろしくて、目を逸らしたまま親の雷が落ちるのを待っている子供のようにビクビクと怯えている。
この気配、この感じ、こいつも死人だったのか。
何より、つい今しがた、幻光虫として現れたのを見れば一目瞭然だ。
死人である私を異界から連れてきたのだから、当然か。
「では私達は席を外しましょう」
「そうですな」
「なっ! ちょ、待って…」
「ラフテル様、ちゃんと話をして下さいね」
「い、いや、あの、バラライ! 待って……」
「アーロン殿、失礼します。 …盗み聞きは、しませんから」
「あぁ…」
張り付けたような笑顔で、バラライと医師は私の制止も虚しく部屋を後にした。
アーロンへの小さな嫌味も忘れずに。
パタンと乾いた音を立てて閉じられた扉から目を離せなくて、暫く呆然としたままそこを見つめ続けていたが、こちらに1歩近付く足音で我に帰る。
はっとして意識を近くに立つ男に向ける。
思ったよりも随分近くに来ていたことにその時になって初めて気付いた。
相変わらず顔を背けたままで、ただこの空間と時間を耐えていた。
「…ラフテル」
小さな溜め息のような嘆息と共に溢されたのは、私の名。
このベベルで私を育ててくれた僧官様がつけて下さった名前。
自分が恐怖に囚われているとしても、普段の自分の性格はそう簡単には消せなくて…。
「気安く呼ぶな!」
思わず出た言葉と共に、奴の顔を見上げてしまう。
「!!」
初めて、まともにこいつの顔を見た気がする。
バラライが言っていた通り、隻眼。
額から顎の下まで、大きな傷は右目の上を走っている。
「…その傷、どうしたんだ?」
「……」
何気ない単純な質問のつもりだった。
それなのに、どうしてこんな顔をするのか。
→
19,jun,2015