第2章【別世界へトリップ】
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
【 16 】
部屋の中から、とても女が出すようなものではない声が響いた。
恐怖に駆られた、死を連想させるような、地獄の底からでも出しているような、悲痛な声。
すぐに部屋の扉が開いて、中から医師が出てきた。
「党首、大変なんじゃ、すぐに来てくれ」
「何があったんです?」
「おい、どうしたというのだ!?」
ラフテルに、また何かあったというのか?
今度は一体何が…!?
この叫び声は、ラフテルがあげているというのか。
「…アーロン殿、申し訳ないのじゃが、少々待っとって下され」
「!?」
俺のほうをチラリと見て、その後は視線を一切合わせようとしないまま、バラライだけを連れて部屋の中に戻った。
どういうことだ?
俺がいると不都合なことでもあるというのか?
今すぐこいつらを押しのけて部屋に飛び込みたかった。
ラフテルの姿を確認したかった。
だが、医師は扉の前から退くことは無かった。
視線だけでバラライに何か伝えたようで、すぐにバラライが俺を諭す。
ここで強硬手段に出るのは容易いが、ラフテルに何が起こっているのかを知ることのほうが先決だ。
俺がいることで都合が悪いというのならば、俺は退こう…。
目の前で閉じられた1枚の薄い扉が、俺の侵入を拒んでいるように感じられた。
俺を差し置いて部屋の中に消えた2人の気配を探る必要も無い。
ボソボソと、小さいが幾人かの話し声が微かに聞こえてきている。
「………」
一度は退くと決めたものの、気にならないわけはない。
ましてやそれが好いた女となれば、じっとしていられる筈が無い。
…自分の今の心の内を自身で感じて、俺は呆れてしまう。
こんなにも愚かな幼い感情を抱くなどと、己自身の不甲斐無さにただ苦笑が漏れる。
俺は静かに眼を閉じる。
この姿を小さな幻光虫に変えてしまえば、こんな扉や壁など何の意味もなくなる。
逡巡は無いとは言えない。
だが、そこに、あいつがいる。
先程、俺を見て酷く怯えた顔をしたラフテルに何があったのか、俺にも知る権利はあるはずだ。
フワリと身体が軽くなる。
舞い上がった己の身体は目の前で俺の侵入を阻んでいる扉を容易く通り抜ける。
生者から見れば、いくつかの幻光虫が浮かんでいるようにしか見えないだろう。
「…そもそも、私はなぜこんなところにいるんだ。…異界に、いたはずなのに」
「ラフテル様、僕があなたをそこでお見かけしてから、もう何日にもなります。その間、あなたはずっと眠っておられた」
「…ずっと…? どれくらい?」
「正確には分かりません。ただ、このままではあなたの身体は…」
「消える、とでも言いたかったのか」
「!!」
「もう目が覚めたんだ。そうそうは消えは……」
「…ラフテル様?」
「…私は、ここにいるわけにはいかない」
「なぜです?」
「ここには、あの2人がいない。…私が存在していられるはずがないのに、どうして私は消えない…?」
「「…?」」
俺がいるからだ。
そう言って、今すぐ姿を現してやろうかと思う。
だが、思い留まった。
俺に関することを何も聞いていない。
俺が一番知りたいことは、そこなのだ。
「消える消えないに関しては、僕たちには判りかねますが、それはあなたをここへ運んできた人物に直接聞いてみたほうが早いでしょう」
「…誰が、連れてきたというのだ」
「…あ、いや、党首、それについてなのですが…」
「ラフテル殿は、その方を酷く恐れておいでのようです」
「!!」
「…どういうことだ?」
一瞬で、ラフテルの顔色が変わる。
その顔に驚愕が浮かぶ。
先程見た、あの恐怖に引き攣った顔がそこにあった。
「…ラフテル様、大丈夫ですか?」
「…あ、あぁ…大丈夫だ」
「ラフテル殿、話しても、構いませんか?」
「……」
意を決したように小さく頷いた。
そして、医師は静かに言葉を紡ぐ。
「ラフテル殿は、アーロン殿を、覚えておりません」
「!?」
「!!!」
「覚えていたというよりも、最初から彼の存在を知らなかったように見受けられます。そして、彼を酷く恐れている」
「な、なんということだ…。…ラフテル様、本当なのですか? 本当にアーロン殿のことを…」
「…そのアーロン、という奴が、さっきの、奴?」
「さっき?」
「…昇降台のところにいた…」
「…そうですよ」
「…怖いんだ。 あいつが…。 私はあいつを知らないのに、あいつは私を知っていた。 名を呼んだ。 …あいつは、私を、殺そうとした…」
「なんと…」
「そんなバカな!!」
→
18,jun,2015
部屋の中から、とても女が出すようなものではない声が響いた。
恐怖に駆られた、死を連想させるような、地獄の底からでも出しているような、悲痛な声。
すぐに部屋の扉が開いて、中から医師が出てきた。
「党首、大変なんじゃ、すぐに来てくれ」
「何があったんです?」
「おい、どうしたというのだ!?」
ラフテルに、また何かあったというのか?
今度は一体何が…!?
この叫び声は、ラフテルがあげているというのか。
「…アーロン殿、申し訳ないのじゃが、少々待っとって下され」
「!?」
俺のほうをチラリと見て、その後は視線を一切合わせようとしないまま、バラライだけを連れて部屋の中に戻った。
どういうことだ?
俺がいると不都合なことでもあるというのか?
今すぐこいつらを押しのけて部屋に飛び込みたかった。
ラフテルの姿を確認したかった。
だが、医師は扉の前から退くことは無かった。
視線だけでバラライに何か伝えたようで、すぐにバラライが俺を諭す。
ここで強硬手段に出るのは容易いが、ラフテルに何が起こっているのかを知ることのほうが先決だ。
俺がいることで都合が悪いというのならば、俺は退こう…。
目の前で閉じられた1枚の薄い扉が、俺の侵入を拒んでいるように感じられた。
俺を差し置いて部屋の中に消えた2人の気配を探る必要も無い。
ボソボソと、小さいが幾人かの話し声が微かに聞こえてきている。
「………」
一度は退くと決めたものの、気にならないわけはない。
ましてやそれが好いた女となれば、じっとしていられる筈が無い。
…自分の今の心の内を自身で感じて、俺は呆れてしまう。
こんなにも愚かな幼い感情を抱くなどと、己自身の不甲斐無さにただ苦笑が漏れる。
俺は静かに眼を閉じる。
この姿を小さな幻光虫に変えてしまえば、こんな扉や壁など何の意味もなくなる。
逡巡は無いとは言えない。
だが、そこに、あいつがいる。
先程、俺を見て酷く怯えた顔をしたラフテルに何があったのか、俺にも知る権利はあるはずだ。
フワリと身体が軽くなる。
舞い上がった己の身体は目の前で俺の侵入を阻んでいる扉を容易く通り抜ける。
生者から見れば、いくつかの幻光虫が浮かんでいるようにしか見えないだろう。
「…そもそも、私はなぜこんなところにいるんだ。…異界に、いたはずなのに」
「ラフテル様、僕があなたをそこでお見かけしてから、もう何日にもなります。その間、あなたはずっと眠っておられた」
「…ずっと…? どれくらい?」
「正確には分かりません。ただ、このままではあなたの身体は…」
「消える、とでも言いたかったのか」
「!!」
「もう目が覚めたんだ。そうそうは消えは……」
「…ラフテル様?」
「…私は、ここにいるわけにはいかない」
「なぜです?」
「ここには、あの2人がいない。…私が存在していられるはずがないのに、どうして私は消えない…?」
「「…?」」
俺がいるからだ。
そう言って、今すぐ姿を現してやろうかと思う。
だが、思い留まった。
俺に関することを何も聞いていない。
俺が一番知りたいことは、そこなのだ。
「消える消えないに関しては、僕たちには判りかねますが、それはあなたをここへ運んできた人物に直接聞いてみたほうが早いでしょう」
「…誰が、連れてきたというのだ」
「…あ、いや、党首、それについてなのですが…」
「ラフテル殿は、その方を酷く恐れておいでのようです」
「!!」
「…どういうことだ?」
一瞬で、ラフテルの顔色が変わる。
その顔に驚愕が浮かぶ。
先程見た、あの恐怖に引き攣った顔がそこにあった。
「…ラフテル様、大丈夫ですか?」
「…あ、あぁ…大丈夫だ」
「ラフテル殿、話しても、構いませんか?」
「……」
意を決したように小さく頷いた。
そして、医師は静かに言葉を紡ぐ。
「ラフテル殿は、アーロン殿を、覚えておりません」
「!?」
「!!!」
「覚えていたというよりも、最初から彼の存在を知らなかったように見受けられます。そして、彼を酷く恐れている」
「な、なんということだ…。…ラフテル様、本当なのですか? 本当にアーロン殿のことを…」
「…そのアーロン、という奴が、さっきの、奴?」
「さっき?」
「…昇降台のところにいた…」
「…そうですよ」
「…怖いんだ。 あいつが…。 私はあいつを知らないのに、あいつは私を知っていた。 名を呼んだ。 …あいつは、私を、殺そうとした…」
「なんと…」
「そんなバカな!!」
→
18,jun,2015