第12章【全ての物語の結末】
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ヒトの命の儚さに、改めて気付かされる。
この世界には、シンという災厄が1000年もの長い間君臨し続けてきた。
その間に、ヒトは何度も世代を繰り返して短い命を燃やしていった。
短いからこそ、ヒトは命を尊び、愛を深め合う。
たった1人の命でさえ、失うことに深い悲しみが生まれるのに、何度も、何人もの命を失う悲しみに耐えられるはずがない。
永遠の命を望む者は、その悲しみさえ振り払える強さを持っているのだろうか。
シンを倒して10年後、こいつに再会した。
驚いたのは、再会したことではなかった。
こいつは、命を無くしていた。
死人として、それでも何食わぬ顔をして私に声を掛けた。
あの時の驚きは確かに大きかった。
だが、たとえ死人だったとしても、こいつは私の目の前にいた。
確かに存在していた。触れられた。
だが、その驚きよりも遥かに大きな喪失感が今の私を覆い尽くしている。
あの時、あちらの世界で再び取り戻すことができた命を、こいつはまた失ってしまった。
せっかくあの子達がくれたものだったのに、私はそれを守ることができなかった。
今となっては後悔しか浮かばない、取り返すことのできない、自分の所業を恨んだ。
ユウナ達が、まだ私に何かを聞きたそうにしているのがわかった。
だが、彼女達も声に出すのを躊躇っているのだろう。
小さな声は喉の奥に消えて行った。
重い腰を持ち上げて、アーロンが眠る寝台に腰を下ろす。
すっかり冷たくなって何の反応もない彼の血で汚れた顔にそっと触れた。
一時は収まった涙がまた溢れてくる。
やっと元の世界に戻って来れたのに、やっと本当の自分を取り戻したのに、その代償はあまりにも大きい。
もう、アーロンは死人として蘇ることはないだろう。
彼の望みだった私を取り戻したのだから。
アーロンがいなければ、私もこの世界に留まる理由はない。
私は、1つの決心をしていた。
「……アーロン、…いいよね…?」
ポタリと一滴、私の涙が零れ落ちた。
その瞬間、アーロンの体が淡く光を放ち始めた。
後ろから、彼女達の小さな驚きの声が上がる。
淡い光は小さな粒となって宙を舞い始める。
その光を追うように、私は涙で濡れた顔のまま、ゆっくりと寝台から身を起こした。
「…!?」
ふいに、顔に何かが触れた感触がした。
小さな光が収束して、目の前によく見慣れた、赤。
流した涙の痕を優しく拭うその手の温もりに、更に涙が溢れだす。
「お前が決めたことだ。構わん」
「…ア、アーロン」
姿を現したアーロンは、完全な形ではなかった。
朧げで、透けていて、ゆらゆらと揺らめいていた。
もう、この姿を保っていることさえできないのだろう。
アーロンの、あのきつい眼差しはなく、優しい目を見つめてから私はユウナ達に視線を向けた。
「ユウナ、リュック」
「は、はい…」
「ん?」
ゆっくりと彼女達の元へ足を進める。
と同時に後ろ腰に刺していた武器を鞘ごと取り外して、2人に1本ずつ手渡した。
「…私にはもう、必要ないから。 …いらなかったら捨ててくれ」
「そんな!」
「え、貰っていいの!? 捨てるわけないじゃん!」
「…それから、パイン」
「えっ…」
後ろを振り返って、アーロンに目配せをする。
彼は何も言わずに自分の武器を差し出した。
「パインには、これを貰って欲しい。 大分使い込みすぎて痛んでるけど」
「あっ…、あ、いや、その…。 あ、ありがとう」
目を大きく見開いて意外そうな表情をしていたが、剣士である彼女なら、アーロンの剣の扱いもお手の物だろう。
3人の顔を見つめながら、私はゆっくりとアーロンの元まで後退した。
「ユウナ、頼みがある」
「…何、でしょうか」
「私達を、異界送りしてほしい」
「えっ!?」
→
14,oct,2015
ヒトの命の儚さに、改めて気付かされる。
この世界には、シンという災厄が1000年もの長い間君臨し続けてきた。
その間に、ヒトは何度も世代を繰り返して短い命を燃やしていった。
短いからこそ、ヒトは命を尊び、愛を深め合う。
たった1人の命でさえ、失うことに深い悲しみが生まれるのに、何度も、何人もの命を失う悲しみに耐えられるはずがない。
永遠の命を望む者は、その悲しみさえ振り払える強さを持っているのだろうか。
シンを倒して10年後、こいつに再会した。
驚いたのは、再会したことではなかった。
こいつは、命を無くしていた。
死人として、それでも何食わぬ顔をして私に声を掛けた。
あの時の驚きは確かに大きかった。
だが、たとえ死人だったとしても、こいつは私の目の前にいた。
確かに存在していた。触れられた。
だが、その驚きよりも遥かに大きな喪失感が今の私を覆い尽くしている。
あの時、あちらの世界で再び取り戻すことができた命を、こいつはまた失ってしまった。
せっかくあの子達がくれたものだったのに、私はそれを守ることができなかった。
今となっては後悔しか浮かばない、取り返すことのできない、自分の所業を恨んだ。
ユウナ達が、まだ私に何かを聞きたそうにしているのがわかった。
だが、彼女達も声に出すのを躊躇っているのだろう。
小さな声は喉の奥に消えて行った。
重い腰を持ち上げて、アーロンが眠る寝台に腰を下ろす。
すっかり冷たくなって何の反応もない彼の血で汚れた顔にそっと触れた。
一時は収まった涙がまた溢れてくる。
やっと元の世界に戻って来れたのに、やっと本当の自分を取り戻したのに、その代償はあまりにも大きい。
もう、アーロンは死人として蘇ることはないだろう。
彼の望みだった私を取り戻したのだから。
アーロンがいなければ、私もこの世界に留まる理由はない。
私は、1つの決心をしていた。
「……アーロン、…いいよね…?」
ポタリと一滴、私の涙が零れ落ちた。
その瞬間、アーロンの体が淡く光を放ち始めた。
後ろから、彼女達の小さな驚きの声が上がる。
淡い光は小さな粒となって宙を舞い始める。
その光を追うように、私は涙で濡れた顔のまま、ゆっくりと寝台から身を起こした。
「…!?」
ふいに、顔に何かが触れた感触がした。
小さな光が収束して、目の前によく見慣れた、赤。
流した涙の痕を優しく拭うその手の温もりに、更に涙が溢れだす。
「お前が決めたことだ。構わん」
「…ア、アーロン」
姿を現したアーロンは、完全な形ではなかった。
朧げで、透けていて、ゆらゆらと揺らめいていた。
もう、この姿を保っていることさえできないのだろう。
アーロンの、あのきつい眼差しはなく、優しい目を見つめてから私はユウナ達に視線を向けた。
「ユウナ、リュック」
「は、はい…」
「ん?」
ゆっくりと彼女達の元へ足を進める。
と同時に後ろ腰に刺していた武器を鞘ごと取り外して、2人に1本ずつ手渡した。
「…私にはもう、必要ないから。 …いらなかったら捨ててくれ」
「そんな!」
「え、貰っていいの!? 捨てるわけないじゃん!」
「…それから、パイン」
「えっ…」
後ろを振り返って、アーロンに目配せをする。
彼は何も言わずに自分の武器を差し出した。
「パインには、これを貰って欲しい。 大分使い込みすぎて痛んでるけど」
「あっ…、あ、いや、その…。 あ、ありがとう」
目を大きく見開いて意外そうな表情をしていたが、剣士である彼女なら、アーロンの剣の扱いもお手の物だろう。
3人の顔を見つめながら、私はゆっくりとアーロンの元まで後退した。
「ユウナ、頼みがある」
「…何、でしょうか」
「私達を、異界送りしてほしい」
「えっ!?」
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14,oct,2015