第12章【全ての物語の結末】
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それまで黙って話を聞いていたシグバールが、私に歩み寄ってきた。
「わかった。 よく、理解した。 確かに肉体がないんじゃどうしようもないってハナシ。 この飛び回る光も、この世界にしかないみたいだし、この世界でしか存在できないなんて意味がない。 …俺は自分の世界に戻るとしよう」
「ああ、ここでお別れだ、シグバール」
「……ファレルクス、 ……いやラフテル、俺は……」
シグバールが何か言おうとしたその瞬間、大きな衝撃が走って船が激しく揺れた。
「わっ…」
『マモノガ!!』
「くっ!!」
パインは急いで医務室を出ていった。
はっと気付いた時、私はシグバールの腕の中にいた。
先程の衝撃でバランスを崩したらしい。
「あ、すまないシグバール……、 ……?」
意外なほどに優しく包み込む腕は、それでもほどかれることなく、私は動けない。
「俺は、ファレルクスを殺すべきじゃなかった…」
「え…?」
「あいつを向こうの世界で初めて見た時から、俺はおかしな感情に囚われていた。 …心なんてないんだがな」
「…心は、なくならないよ。 ヒトとしてそこにいる限り、生きてるとか死んでるとか関係ない。 他人と触れ合い繋がって、心は生まれる。
誰かに奪えるようなものじゃ、ない。 あっちの世界に行って、それがよくわかった」
「…そうか、そうだな。 …もう、行かないとな。 俺はまだあっちの世界でやらなきゃならんことがある」
「…そうか。 …シグバール、私の記憶を、心を、連れてきてくれて、ありがとう」
ゆっくりと腕の拘束をほどいて、シグバールは私を解放する。
心のない脱け殻、存在しないもの、自分達をそう呼んでいたが、そんなのは嘘だと思う。
彼はここに存在しているし、心がないなんて思えない。
「!!」
「じゃあな、ラフテル。 お前さんは俺が初めて愛した女によく似てた……」
唇に触れるだけの小さな軽い挨拶を残して、シグバールは黒い闇に消えていった。
彼もかつては生きた人間で、普通に恋もして当たり前に存在していた。
それなのに、彼の物語はどこで間違ってしまったのか、同情するわけではないが、憐れに思えて仕方がなかった。
先程の船の衝撃は恐らく魔物の仕業だろう。
窓の外に目を向けてみるが、ここからでは何も見えなかった。
恐らくユウナ達が戦っているのだろう。
船は止まったままだ。
動いていたなら私はこんなに平気ではいられないだろうから。
今のうちに、アーロンの所へ戻ろうとした。
彼が運ばれた小さな部屋はひっそりと薄暗く、足を踏み入れるのを躊躇ってしまいそうだ。
魔法の光の名残が時折窓の外を流れていく。
ユウナ達は激しい戦いを繰り広げているのだろう。
寝台の上に横たわるアーロンはピクリともせず、青白い顔のまま眠っている。
私は自分を取り戻したことで、もう1人の私がアーロンに何をしたのかを知った。
アーロンに謝らなくてはならない。
思わずアーロンの胸にすがり付いた。
「アーロン、 …アーロン! 目を、開けてよ…。 …私、言わなきゃならないことがあるんだ。 …だから、起きてよ…」
血で濡れた服は、すぐに私の手を赤く染める。
あの時は、あっちの世界で出会ったあの時は、あいつに感情を、心を奪われていて浮かんでこなかった気持ち。
それが今になって急に膨らんで溢れてしまう。
「アーロン! アーロン!!」
何度も何度も名を呼び、胸を揺さぶった。
手に伝わる鼓動は次第に小さく弱くなっていき、やがて何も聞こえなくなってしまった。
「アーロン!! 嫌だ、待って! 死ぬな! 諦めるな!」
バカみたいに泣き叫んで更に強く揺さぶる。
気が狂ったように声を張り上げて胸を両の拳で叩いた。
何度も、何度も…。
わかってたんだ、彼はもう助からないと。
酷い苦痛だったはずだ。
あちらの世界でもたくさんの戦いを繰り広げ、血を流した。
こちらの私にあんな態度を取られて、私を探しにあんな世界にまで行く羽目になって。
それなのに、私はアーロンに何もしてやれなかった。
一言謝ることもできないまま、アーロンは……。
「…う、…うっ…、アーロン、…ごめん、ごめん、なさい…」
やっと絞り出した謝罪の言葉はもう、彼には届かない。
私がこの世界で元の私を取り戻したことで、アーロンにはもうこの世界に留まる理由はなくなった。
そしてアーロンのいない世界に、私も留まる理由はない。
こちらにバタバタと近付いてくる足音が聞こえた。
同時に船が動き出す。
部屋に飛び込んできたユウナ達は、一目で状況を理解したのだろう。
幻光虫を舞い上がらせる私とアーロンを見て、息を飲んだ。
「…ラフテルさん、…アーロンさん」
「うそ…、2人とも…!?」
「……間に、合わなかったのか」
寝台の横に腰を落としたまま、私はユウナを呼ぶ。
こちらの世界に残したもう1人の私が世話になったし、きちんと話しておこうと思ったのだ。
「ユウナ、ユウナ達にはすっかり迷惑をかけてしまった。 お礼を、言わないとな」
「迷惑だなんて…! でも、理由を知りたいと思いました。 なぜ、こんなことになったのか」
「…うん、そうだよね。 この世界にいたもう1人の私を生み出したのは、他の誰でもない、私自身」
「えっ…!?」
「私とアーロンはここではない、別の世界に連れていかれた」
「ええ~っ!? なにそれ」
「…別の、世界!?」
「そこに引き込まれる瞬間、私は咄嗟に自分の分身を作り出した。 大切な私自身を残し、形だけの私の人形、脱け殻みたいなものだ。
たとえ闇の世界に引き込まれようと、やがて幻光となって消えてしまうように」
「それが、ここにいたラフテルさんなんですね」
「あいつは、その脱け殻のほうではなく、心を持った私本体をしっかり向こうへ引き込んだんだ。 あいつらは、心というものに異常なまでに執着していたようだ。
だから私の思惑は外れ、余計な混乱を招いた。 これは私の過失だ」
「でもさ、こっちのラフテルの記憶が変だったのはなんで~?」
「アーロンに対する反応も、尋常じゃなかったよな」
リュックとパインも疑問は尽きないのだろう。
まぁ、当然だろうな。
「あれは記憶の欠片だ。 私本体から別れた幻光虫が生み出した体に染み付いた感情や感覚が、もう1人の私に都合がいいように変えられたもの。
アーロンと異界の奥で戦った時や、他の強烈な記憶の欠片を混ぜ合わせて、新たな記憶を産み出してしまったんだ」
→
12,oct,2015
それまで黙って話を聞いていたシグバールが、私に歩み寄ってきた。
「わかった。 よく、理解した。 確かに肉体がないんじゃどうしようもないってハナシ。 この飛び回る光も、この世界にしかないみたいだし、この世界でしか存在できないなんて意味がない。 …俺は自分の世界に戻るとしよう」
「ああ、ここでお別れだ、シグバール」
「……ファレルクス、 ……いやラフテル、俺は……」
シグバールが何か言おうとしたその瞬間、大きな衝撃が走って船が激しく揺れた。
「わっ…」
『マモノガ!!』
「くっ!!」
パインは急いで医務室を出ていった。
はっと気付いた時、私はシグバールの腕の中にいた。
先程の衝撃でバランスを崩したらしい。
「あ、すまないシグバール……、 ……?」
意外なほどに優しく包み込む腕は、それでもほどかれることなく、私は動けない。
「俺は、ファレルクスを殺すべきじゃなかった…」
「え…?」
「あいつを向こうの世界で初めて見た時から、俺はおかしな感情に囚われていた。 …心なんてないんだがな」
「…心は、なくならないよ。 ヒトとしてそこにいる限り、生きてるとか死んでるとか関係ない。 他人と触れ合い繋がって、心は生まれる。
誰かに奪えるようなものじゃ、ない。 あっちの世界に行って、それがよくわかった」
「…そうか、そうだな。 …もう、行かないとな。 俺はまだあっちの世界でやらなきゃならんことがある」
「…そうか。 …シグバール、私の記憶を、心を、連れてきてくれて、ありがとう」
ゆっくりと腕の拘束をほどいて、シグバールは私を解放する。
心のない脱け殻、存在しないもの、自分達をそう呼んでいたが、そんなのは嘘だと思う。
彼はここに存在しているし、心がないなんて思えない。
「!!」
「じゃあな、ラフテル。 お前さんは俺が初めて愛した女によく似てた……」
唇に触れるだけの小さな軽い挨拶を残して、シグバールは黒い闇に消えていった。
彼もかつては生きた人間で、普通に恋もして当たり前に存在していた。
それなのに、彼の物語はどこで間違ってしまったのか、同情するわけではないが、憐れに思えて仕方がなかった。
先程の船の衝撃は恐らく魔物の仕業だろう。
窓の外に目を向けてみるが、ここからでは何も見えなかった。
恐らくユウナ達が戦っているのだろう。
船は止まったままだ。
動いていたなら私はこんなに平気ではいられないだろうから。
今のうちに、アーロンの所へ戻ろうとした。
彼が運ばれた小さな部屋はひっそりと薄暗く、足を踏み入れるのを躊躇ってしまいそうだ。
魔法の光の名残が時折窓の外を流れていく。
ユウナ達は激しい戦いを繰り広げているのだろう。
寝台の上に横たわるアーロンはピクリともせず、青白い顔のまま眠っている。
私は自分を取り戻したことで、もう1人の私がアーロンに何をしたのかを知った。
アーロンに謝らなくてはならない。
思わずアーロンの胸にすがり付いた。
「アーロン、 …アーロン! 目を、開けてよ…。 …私、言わなきゃならないことがあるんだ。 …だから、起きてよ…」
血で濡れた服は、すぐに私の手を赤く染める。
あの時は、あっちの世界で出会ったあの時は、あいつに感情を、心を奪われていて浮かんでこなかった気持ち。
それが今になって急に膨らんで溢れてしまう。
「アーロン! アーロン!!」
何度も何度も名を呼び、胸を揺さぶった。
手に伝わる鼓動は次第に小さく弱くなっていき、やがて何も聞こえなくなってしまった。
「アーロン!! 嫌だ、待って! 死ぬな! 諦めるな!」
バカみたいに泣き叫んで更に強く揺さぶる。
気が狂ったように声を張り上げて胸を両の拳で叩いた。
何度も、何度も…。
わかってたんだ、彼はもう助からないと。
酷い苦痛だったはずだ。
あちらの世界でもたくさんの戦いを繰り広げ、血を流した。
こちらの私にあんな態度を取られて、私を探しにあんな世界にまで行く羽目になって。
それなのに、私はアーロンに何もしてやれなかった。
一言謝ることもできないまま、アーロンは……。
「…う、…うっ…、アーロン、…ごめん、ごめん、なさい…」
やっと絞り出した謝罪の言葉はもう、彼には届かない。
私がこの世界で元の私を取り戻したことで、アーロンにはもうこの世界に留まる理由はなくなった。
そしてアーロンのいない世界に、私も留まる理由はない。
こちらにバタバタと近付いてくる足音が聞こえた。
同時に船が動き出す。
部屋に飛び込んできたユウナ達は、一目で状況を理解したのだろう。
幻光虫を舞い上がらせる私とアーロンを見て、息を飲んだ。
「…ラフテルさん、…アーロンさん」
「うそ…、2人とも…!?」
「……間に、合わなかったのか」
寝台の横に腰を落としたまま、私はユウナを呼ぶ。
こちらの世界に残したもう1人の私が世話になったし、きちんと話しておこうと思ったのだ。
「ユウナ、ユウナ達にはすっかり迷惑をかけてしまった。 お礼を、言わないとな」
「迷惑だなんて…! でも、理由を知りたいと思いました。 なぜ、こんなことになったのか」
「…うん、そうだよね。 この世界にいたもう1人の私を生み出したのは、他の誰でもない、私自身」
「えっ…!?」
「私とアーロンはここではない、別の世界に連れていかれた」
「ええ~っ!? なにそれ」
「…別の、世界!?」
「そこに引き込まれる瞬間、私は咄嗟に自分の分身を作り出した。 大切な私自身を残し、形だけの私の人形、脱け殻みたいなものだ。
たとえ闇の世界に引き込まれようと、やがて幻光となって消えてしまうように」
「それが、ここにいたラフテルさんなんですね」
「あいつは、その脱け殻のほうではなく、心を持った私本体をしっかり向こうへ引き込んだんだ。 あいつらは、心というものに異常なまでに執着していたようだ。
だから私の思惑は外れ、余計な混乱を招いた。 これは私の過失だ」
「でもさ、こっちのラフテルの記憶が変だったのはなんで~?」
「アーロンに対する反応も、尋常じゃなかったよな」
リュックとパインも疑問は尽きないのだろう。
まぁ、当然だろうな。
「あれは記憶の欠片だ。 私本体から別れた幻光虫が生み出した体に染み付いた感情や感覚が、もう1人の私に都合がいいように変えられたもの。
アーロンと異界の奥で戦った時や、他の強烈な記憶の欠片を混ぜ合わせて、新たな記憶を産み出してしまったんだ」
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