第12章【全ての物語の結末】
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『112』~2人はひとつに~
船の中の一室に運び込まれたアーロンはすぐに寝台に移された。
だが、この船に医者が乗っていないのは私も承知だった。
手を洗いに行こうとしていたアニキ達に、ユウナが戻ったらすぐベベルへ向かうように伝える。
アーロンの顔は真っ白で、普段は温かい体温はひどく冷たい。
苦しそうに短い呼吸を不規則に繰り返している。
血が、足りないのだ。
すぐに医療設備のあるベベルへ行って輸血しなくてはならない。
「アーロン、諦めちゃダメだ。 気をしっかり持つんだ!」
頬を軽く叩きながら大きめの声で呼び掛ける。
反応はない。
なんだろうか、このザワリとした感覚と焦燥感。
アーロンがこのまま死んでしまうかもしれないと、もう二度と会えなくなるかもしれないと考えて、恐怖を覚える。
先程から船が動き出した音も振動もなく、どうしたのかと疑問が浮かぶ。
もしかしてまだユウナ達が戻らないのだろうか?
その時、バタバタと足音を立ててリュックが部屋に飛び込んできた。
「ラフテル! 大変!大変!! すぐ来て、あっちのラフテルんとこに変な奴が!」
「…落ち着けリュック。 …変な奴!?」
まさかシグバール?
だが案内をユウナ達に任せた筈だ。
ユウナとパインはどうしたんだ?
急かすリュックの後について、私が眠っているという部屋へ走る。
アーロンの傍を離れるのは心苦しかったが、ユウナが戻らなければ船は出発しない。
奴が1人でここに来たのはユウナ達と何かあったから。
その理由も聞き出さねばならない。
リュックが駆け込んだ部屋には医務室の表示。
扉を開くと、そこはまるで…。
「これは…!」
「ラフテル~…」
私の背にしがみつくようにして、リュックは後ろから私の前方を指差す。
幻光虫の飛び交う、さながら異界の一角のような部屋の壁に背を預けた黒いコートの人物がこちらをじっと見つめていた。
「…シグバール、…彼女達は? 何も…「しないしない」…」
私の言葉を遮って、手を振ってみせる。
「この場所は知ってたし、俺達にとって移動距離なんて意味はないし、仔猫ちゃんの手を借りるまでもないってハナシ」
「…そうか」
「ちょっと、ユウナ達はどーしたのよ!」
「どうもこうも、何もしてないと言ったはずだ」
「大丈夫だリュック、こいつは平気で嘘をついて簡単に人を騙すが、今は信じていい。 ユウナ達がこちらに向かってくる気配も感じるし、間もなくここに来るだろう」
「ホント!? よかった~」
リュックは私の背に凭れ掛かるようにして大きく嘆息した。
何を言ったかはわからないが、シグバールは余程リュックを怖がらせたようだ。
そのシグバールが、私の言葉を待つかのようにじっとこちらを見つめ続ける。
私は小さな溜め息を1つ溢して、寝台の上で眠っている私自身に視線を向けた。
薄暗い部屋に無数に飛び回る幻光虫。
その虹色の光を受けて、もう1人の私がそこにいる。
「さっきも言ったはずだ、シグバール。 あんたが望む答えはここにはない。 あんたの最後の質問には答えた。 他に何を望むんだ」
「俺にはイマイチよくわからないんだが、つまり、あんたは死んでるってことなのか?」
「その通りだ。 あんたが殺したファレルクスは、あんたの仲間の科学者が作り出した人形に私の記憶を植え付けただけのもの。
それは私と同じ姿や記憶を持ってはいても、私ではない。 ファレルクスという存在は、あの時完全に失われたんだ。
…あんたは教えてくれた。 心の闇から生まれた存在と、魂の脱け殻である存在しないもの。 元は1つだったものを元に戻せばどうなる?」
シグバールはじっと私の言葉を聞いていた。
私はゆっくり寝台に近付き、そして眠っているもう1人の私にそっと触れた。
その瞬間、私達の体を形造っていた無数の幻光虫が一気に光を放ち、部屋の中を明るく照らした。
突然の眩しさに短い驚きの声がいくつか上がった。
眠っていたもう1人の私がこちらの世界で体験した数々の記憶が流れ込んでくる。
アーロンが必死に私を探し求めた理由が、よくわかった。
彼になんて酷い仕打ちをしてしまったのだろう。
どれだけ辛い思いをさせてしまったのだろう。
彼に対する申し訳ない気持ちと、自分が取った言動と、愛しいという想いと、他のたくさんの気持ちや感情が溢れて混ざり合って、弾けそうになる。
私の感情を無視して、幻光虫は再び収束して私の体を作り出す。
昂った私の気持ちは雫となって両目からポロポロと溢れ落ちた。
「ラフテル~…」
「お、おい、どうしたんだ」
「ラフテルさん…」
ユウナ達も船に戻ってきていたようだ。
手の甲でぐいと強引に目尻を拭い、口元に小さな笑みを浮かべる。
「大丈夫だ。 バラバラだった記憶が急に戻ってきたもんだから少しびっくりしただけだ」
低い唸り声のような重い機械の音がして、足元に振動が伝わってくる。
ユウナが戻ったことで、船が動き出したのだ。
『リュ――ック! ヌヅブリッジシコゴエ!』
「もー!うるさいな! わかったよ、行くよ」
リュックの兄が音量を最大にして呼び掛けて来て、リュックはブリッジに戻って行った。
「私、アーロンさんの様子を見てくる。 パイン、ラフテルさんをお願い。 あいつがおかしなことしないように見張ってて」
パインは腕を組んで扉の前に立ち、こちらを睨んでいる。
私はと言うと、いつまでも船は苦手でどうにか誤魔化す方法を探している。
「…シグバール、見せてあげる。 あの日のこと、私の物語の終わった日」
腕を振っていくつかの幻光虫を浮かび上がらせる。
私の記憶から決して消すことのできない、大切で深くて、重い、悲しい思い出。
あの最後の戦い、ジェクトとの会話やユウナにとっての厳しい辛い戦い。
そして石となって崩れ落ちた、自分自身。
思い出すのは酷く悲しくて辛い。
でも、私はもう死人なんだと、生きてはいないのだとわかってもらうには、これが一番手っ取り早い。
幻光虫が写し出した記憶の映像は、シグバールだけではなく、パインにも見えたはずだ。
「こういうこと。 私はもうとっくに死んでるし、肉体は失われた。 だから…、…だから、もう、あんた達の夢の力にはなれない。 …シグバール、…ごめん」
→
11,oct,2015
船の中の一室に運び込まれたアーロンはすぐに寝台に移された。
だが、この船に医者が乗っていないのは私も承知だった。
手を洗いに行こうとしていたアニキ達に、ユウナが戻ったらすぐベベルへ向かうように伝える。
アーロンの顔は真っ白で、普段は温かい体温はひどく冷たい。
苦しそうに短い呼吸を不規則に繰り返している。
血が、足りないのだ。
すぐに医療設備のあるベベルへ行って輸血しなくてはならない。
「アーロン、諦めちゃダメだ。 気をしっかり持つんだ!」
頬を軽く叩きながら大きめの声で呼び掛ける。
反応はない。
なんだろうか、このザワリとした感覚と焦燥感。
アーロンがこのまま死んでしまうかもしれないと、もう二度と会えなくなるかもしれないと考えて、恐怖を覚える。
先程から船が動き出した音も振動もなく、どうしたのかと疑問が浮かぶ。
もしかしてまだユウナ達が戻らないのだろうか?
その時、バタバタと足音を立ててリュックが部屋に飛び込んできた。
「ラフテル! 大変!大変!! すぐ来て、あっちのラフテルんとこに変な奴が!」
「…落ち着けリュック。 …変な奴!?」
まさかシグバール?
だが案内をユウナ達に任せた筈だ。
ユウナとパインはどうしたんだ?
急かすリュックの後について、私が眠っているという部屋へ走る。
アーロンの傍を離れるのは心苦しかったが、ユウナが戻らなければ船は出発しない。
奴が1人でここに来たのはユウナ達と何かあったから。
その理由も聞き出さねばならない。
リュックが駆け込んだ部屋には医務室の表示。
扉を開くと、そこはまるで…。
「これは…!」
「ラフテル~…」
私の背にしがみつくようにして、リュックは後ろから私の前方を指差す。
幻光虫の飛び交う、さながら異界の一角のような部屋の壁に背を預けた黒いコートの人物がこちらをじっと見つめていた。
「…シグバール、…彼女達は? 何も…「しないしない」…」
私の言葉を遮って、手を振ってみせる。
「この場所は知ってたし、俺達にとって移動距離なんて意味はないし、仔猫ちゃんの手を借りるまでもないってハナシ」
「…そうか」
「ちょっと、ユウナ達はどーしたのよ!」
「どうもこうも、何もしてないと言ったはずだ」
「大丈夫だリュック、こいつは平気で嘘をついて簡単に人を騙すが、今は信じていい。 ユウナ達がこちらに向かってくる気配も感じるし、間もなくここに来るだろう」
「ホント!? よかった~」
リュックは私の背に凭れ掛かるようにして大きく嘆息した。
何を言ったかはわからないが、シグバールは余程リュックを怖がらせたようだ。
そのシグバールが、私の言葉を待つかのようにじっとこちらを見つめ続ける。
私は小さな溜め息を1つ溢して、寝台の上で眠っている私自身に視線を向けた。
薄暗い部屋に無数に飛び回る幻光虫。
その虹色の光を受けて、もう1人の私がそこにいる。
「さっきも言ったはずだ、シグバール。 あんたが望む答えはここにはない。 あんたの最後の質問には答えた。 他に何を望むんだ」
「俺にはイマイチよくわからないんだが、つまり、あんたは死んでるってことなのか?」
「その通りだ。 あんたが殺したファレルクスは、あんたの仲間の科学者が作り出した人形に私の記憶を植え付けただけのもの。
それは私と同じ姿や記憶を持ってはいても、私ではない。 ファレルクスという存在は、あの時完全に失われたんだ。
…あんたは教えてくれた。 心の闇から生まれた存在と、魂の脱け殻である存在しないもの。 元は1つだったものを元に戻せばどうなる?」
シグバールはじっと私の言葉を聞いていた。
私はゆっくり寝台に近付き、そして眠っているもう1人の私にそっと触れた。
その瞬間、私達の体を形造っていた無数の幻光虫が一気に光を放ち、部屋の中を明るく照らした。
突然の眩しさに短い驚きの声がいくつか上がった。
眠っていたもう1人の私がこちらの世界で体験した数々の記憶が流れ込んでくる。
アーロンが必死に私を探し求めた理由が、よくわかった。
彼になんて酷い仕打ちをしてしまったのだろう。
どれだけ辛い思いをさせてしまったのだろう。
彼に対する申し訳ない気持ちと、自分が取った言動と、愛しいという想いと、他のたくさんの気持ちや感情が溢れて混ざり合って、弾けそうになる。
私の感情を無視して、幻光虫は再び収束して私の体を作り出す。
昂った私の気持ちは雫となって両目からポロポロと溢れ落ちた。
「ラフテル~…」
「お、おい、どうしたんだ」
「ラフテルさん…」
ユウナ達も船に戻ってきていたようだ。
手の甲でぐいと強引に目尻を拭い、口元に小さな笑みを浮かべる。
「大丈夫だ。 バラバラだった記憶が急に戻ってきたもんだから少しびっくりしただけだ」
低い唸り声のような重い機械の音がして、足元に振動が伝わってくる。
ユウナが戻ったことで、船が動き出したのだ。
『リュ――ック! ヌヅブリッジシコゴエ!』
「もー!うるさいな! わかったよ、行くよ」
リュックの兄が音量を最大にして呼び掛けて来て、リュックはブリッジに戻って行った。
「私、アーロンさんの様子を見てくる。 パイン、ラフテルさんをお願い。 あいつがおかしなことしないように見張ってて」
パインは腕を組んで扉の前に立ち、こちらを睨んでいる。
私はと言うと、いつまでも船は苦手でどうにか誤魔化す方法を探している。
「…シグバール、見せてあげる。 あの日のこと、私の物語の終わった日」
腕を振っていくつかの幻光虫を浮かび上がらせる。
私の記憶から決して消すことのできない、大切で深くて、重い、悲しい思い出。
あの最後の戦い、ジェクトとの会話やユウナにとっての厳しい辛い戦い。
そして石となって崩れ落ちた、自分自身。
思い出すのは酷く悲しくて辛い。
でも、私はもう死人なんだと、生きてはいないのだとわかってもらうには、これが一番手っ取り早い。
幻光虫が写し出した記憶の映像は、シグバールだけではなく、パインにも見えたはずだ。
「こういうこと。 私はもうとっくに死んでるし、肉体は失われた。 だから…、…だから、もう、あんた達の夢の力にはなれない。 …シグバール、…ごめん」
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