第12章【全ての物語の結末】
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【 110 】
「さあて、悪いが止めをささせてもらう」
奴がこちらに向かってくるのが見えるが、体は動かない。
歯痒さに自身の力のなさを痛感して情けなくなる。
無理矢理体を捻るようにして奴の銃弾を避けるが、思う通りに動かない体では更に傷を増やすだけだ。
なんとか頭を持ち上げて、はっとする。
米神に感じる、固い金属の感覚。
すぐ横に奴の気配。
動けなかった。
「おたくと戦えて、楽しかったぜ」
折角生き返らせてくれたソラ達に、守れなかった彼女に、謝罪の言葉が浮かんだ。
死ぬことが怖い訳ではないが、申し訳ない思いと自分自身の不甲斐なさに苦笑するしかない。
いつかティーダが言っていた、諦めの境地の意味が理解できた。
俺は覚悟を決めたのだと思う。
そう思った瞬間、服の袂からあの人形がスルリと滑り落ちた。
目を奪われたのは俺だけではなかったようだ。
突然それが眩しく光り、奴は俺に向けていた銃口を逸らした。
「うおっ!?」
驚きの声を上げたのは奴だ。
俺はやっとそこで顔を上げ、奴の顔を見る。
俺から僅かに距離を置いた奴の服から、同じような光が飛び出した。
何がおきたのか理解できずに、ただ2つの光を見つめていた。
それは近付き、そして1つとなる。
ゆっくりと光が弱まり、そこに見慣れた虹色の光の球が集まっていく。
まさか、これは…。
俺は朦朧とする意識の中、幻光虫が作り出した彼女の姿を見ていた。
「…ラフテル」
「…ファレルクス」
「2人とも、もう、いいだろ」
無数の幻光虫を纏わりつかせたラフテルがいた。
2つの違う名で呼ばれた彼女が俺達の間に入り、交互に顔を見ながらそれぞれの名を呼ぶ。
「そんなに不思議そうな顔をするな。 元々私は死人なんだから、幻光虫の力が及ぶところなら存在できる。 2人のお陰だ。 アーロン、シグバール」
「…ファレルクス、俺はお前を…」
「シグバール、私の名は、ラフテル。 …ファレルクスは、もういない。 あなたが一番よく知ってるはずだ」
「…あぁ、俺が、この手で、殺した。 だが! お前さんはここにいる。 俺はあんたに聞きたいことが…」
ラフテルは膝を落とした俺の傍らに寄り添うように屈み込んで、俺に回復の魔法をかけた。
傷は治るが、出血の影響は快復せず、俺の意識は落ちそうだ。
「迎えを呼んでるから、もう少し頑張ってくれ、アーロン」
お前のように死人であった時なら、幻光虫の力を借りて回復できただろう。
お前の顔を見れて、嬉しくないわけがない。
だが、お前を力一杯抱き締めることができないのが、悔しくてもどかしい。
「シグバール、お前の、お前達の本来の目的は? 夢は? そのヒントを聞きに、わざわざこの世界に来たんだろ?」
「わかってるなら、話は早い」
「…その答えが、もうすぐここに来る。 機械の翼に乗って。 …でも、その答えを見ても、あんた達のヒントにはならない」
「なんだって?」
「さっきも言ったけど、私は元々死人だ。 もう命はない。 肉体もない。 この体は、幻光虫というこの世界独特の現象が見せている幻のようなもの。 …こうすれば、わかるだろ」
ラフテルは自らを幻光虫に変えて、奴の側で再び姿を表した。
「自分の世界に帰ったほうがいい、シグバール。 私達が向こうの世界で異端分子だったのと同じで、お前もこの世界での影響を少なからず受けているはずだ」
「そんなこと、あるわけないってハナシ」
そう言った奴の目の前には、今の黒いコートではない服を着た、この男がいた。
今よりも若い頃だろうか。
同じ様な武器を持ち、顔に傷はない。 両目もある。
そして、誰かと戦っているようだ。
「こ、これは…!」
「幻光虫は、ヒトの記憶や想いに反応して、その姿を写し出す。 …これは、お前の記憶か? この世界にいる限り、この現象はどこでも現れる。 自分の意思に反しても、だ」
「…なるほど、こりゃ辛辣だ」
遠くから重い機械の音が響いてきた。
全員が同じ方向を見上げる。
懐でまた何かが音を立て、それに気付いたラフテルが勝手に俺の服をまさぐる。
あぁ、そういえば先程シドの娘から強引に持たされたスフィアがあったな。
『アーロンさん、聞こえますか? …ちょっとおっちゃん、返事してよ! 聞こえてるんでしょ?』
相変わらず喧しい。
目眩が更に悪化しそうだ。
「ユウナ、リュック、聞こえてるよ」
『『……… ラフテル!?』さん!?』
思わずスフィアを顔から遠ざけたラフテルの姿から、ユウナ達の驚いた顔が浮かんでしまう。
それもその筈だ。
あの船には、ラフテルが眠っているんだからな。
しばらくスフィアで何かしらのやり取りをして、巨大な飛空挺が地に降り立った。
ラフテルはそこへ向かって駆け出した。
天を仰いで、俺は地に身を任せた。
ふいに、側に奴が近付いたのに気付いたが、もう俺は動く気力さえ残っていなかった。
「…俺の、負けだ。 好きにするがいい」
「…もう、おたくと戦う気はないってハナシ。 …もし、おたくが万全だったら、そこに転がってるのは俺だった」
向こうの世界で、いくつもの戦いが続き、幻光虫も存在しない世界でまともに回復をする間もないまま、俺はここに帰ってきた。
それをわかっていて、こいつは俺と戦ったのか。
傷ついた俺を好機と取ったのか、驚異と取ったのか。
どちらにしろ…。
「貴様に気遣われるほうが気色が悪い」
「あらら、友達にはなれんね」
→
8,oct,2015
「さあて、悪いが止めをささせてもらう」
奴がこちらに向かってくるのが見えるが、体は動かない。
歯痒さに自身の力のなさを痛感して情けなくなる。
無理矢理体を捻るようにして奴の銃弾を避けるが、思う通りに動かない体では更に傷を増やすだけだ。
なんとか頭を持ち上げて、はっとする。
米神に感じる、固い金属の感覚。
すぐ横に奴の気配。
動けなかった。
「おたくと戦えて、楽しかったぜ」
折角生き返らせてくれたソラ達に、守れなかった彼女に、謝罪の言葉が浮かんだ。
死ぬことが怖い訳ではないが、申し訳ない思いと自分自身の不甲斐なさに苦笑するしかない。
いつかティーダが言っていた、諦めの境地の意味が理解できた。
俺は覚悟を決めたのだと思う。
そう思った瞬間、服の袂からあの人形がスルリと滑り落ちた。
目を奪われたのは俺だけではなかったようだ。
突然それが眩しく光り、奴は俺に向けていた銃口を逸らした。
「うおっ!?」
驚きの声を上げたのは奴だ。
俺はやっとそこで顔を上げ、奴の顔を見る。
俺から僅かに距離を置いた奴の服から、同じような光が飛び出した。
何がおきたのか理解できずに、ただ2つの光を見つめていた。
それは近付き、そして1つとなる。
ゆっくりと光が弱まり、そこに見慣れた虹色の光の球が集まっていく。
まさか、これは…。
俺は朦朧とする意識の中、幻光虫が作り出した彼女の姿を見ていた。
「…ラフテル」
「…ファレルクス」
「2人とも、もう、いいだろ」
無数の幻光虫を纏わりつかせたラフテルがいた。
2つの違う名で呼ばれた彼女が俺達の間に入り、交互に顔を見ながらそれぞれの名を呼ぶ。
「そんなに不思議そうな顔をするな。 元々私は死人なんだから、幻光虫の力が及ぶところなら存在できる。 2人のお陰だ。 アーロン、シグバール」
「…ファレルクス、俺はお前を…」
「シグバール、私の名は、ラフテル。 …ファレルクスは、もういない。 あなたが一番よく知ってるはずだ」
「…あぁ、俺が、この手で、殺した。 だが! お前さんはここにいる。 俺はあんたに聞きたいことが…」
ラフテルは膝を落とした俺の傍らに寄り添うように屈み込んで、俺に回復の魔法をかけた。
傷は治るが、出血の影響は快復せず、俺の意識は落ちそうだ。
「迎えを呼んでるから、もう少し頑張ってくれ、アーロン」
お前のように死人であった時なら、幻光虫の力を借りて回復できただろう。
お前の顔を見れて、嬉しくないわけがない。
だが、お前を力一杯抱き締めることができないのが、悔しくてもどかしい。
「シグバール、お前の、お前達の本来の目的は? 夢は? そのヒントを聞きに、わざわざこの世界に来たんだろ?」
「わかってるなら、話は早い」
「…その答えが、もうすぐここに来る。 機械の翼に乗って。 …でも、その答えを見ても、あんた達のヒントにはならない」
「なんだって?」
「さっきも言ったけど、私は元々死人だ。 もう命はない。 肉体もない。 この体は、幻光虫というこの世界独特の現象が見せている幻のようなもの。 …こうすれば、わかるだろ」
ラフテルは自らを幻光虫に変えて、奴の側で再び姿を表した。
「自分の世界に帰ったほうがいい、シグバール。 私達が向こうの世界で異端分子だったのと同じで、お前もこの世界での影響を少なからず受けているはずだ」
「そんなこと、あるわけないってハナシ」
そう言った奴の目の前には、今の黒いコートではない服を着た、この男がいた。
今よりも若い頃だろうか。
同じ様な武器を持ち、顔に傷はない。 両目もある。
そして、誰かと戦っているようだ。
「こ、これは…!」
「幻光虫は、ヒトの記憶や想いに反応して、その姿を写し出す。 …これは、お前の記憶か? この世界にいる限り、この現象はどこでも現れる。 自分の意思に反しても、だ」
「…なるほど、こりゃ辛辣だ」
遠くから重い機械の音が響いてきた。
全員が同じ方向を見上げる。
懐でまた何かが音を立て、それに気付いたラフテルが勝手に俺の服をまさぐる。
あぁ、そういえば先程シドの娘から強引に持たされたスフィアがあったな。
『アーロンさん、聞こえますか? …ちょっとおっちゃん、返事してよ! 聞こえてるんでしょ?』
相変わらず喧しい。
目眩が更に悪化しそうだ。
「ユウナ、リュック、聞こえてるよ」
『『……… ラフテル!?』さん!?』
思わずスフィアを顔から遠ざけたラフテルの姿から、ユウナ達の驚いた顔が浮かんでしまう。
それもその筈だ。
あの船には、ラフテルが眠っているんだからな。
しばらくスフィアで何かしらのやり取りをして、巨大な飛空挺が地に降り立った。
ラフテルはそこへ向かって駆け出した。
天を仰いで、俺は地に身を任せた。
ふいに、側に奴が近付いたのに気付いたが、もう俺は動く気力さえ残っていなかった。
「…俺の、負けだ。 好きにするがいい」
「…もう、おたくと戦う気はないってハナシ。 …もし、おたくが万全だったら、そこに転がってるのは俺だった」
向こうの世界で、いくつもの戦いが続き、幻光虫も存在しない世界でまともに回復をする間もないまま、俺はここに帰ってきた。
それをわかっていて、こいつは俺と戦ったのか。
傷ついた俺を好機と取ったのか、驚異と取ったのか。
どちらにしろ…。
「貴様に気遣われるほうが気色が悪い」
「あらら、友達にはなれんね」
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8,oct,2015