第12章【全ての物語の結末】
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「 107 」
————俺はお前を、殺す
その命令が俺に下ったのは、初めてお前を見てから僅か2ヶ月後のことだった。
(…やっぱりな)。
声に出さぬ声で囁きながら、命令を下した人物に一応の理由を問うてみる。
返答は、沈黙だった。
聞かなくてもわかるだろ、そんなオーラが俺にプレッシャーを与えてくる。
確かにあいつは、もう…。
————俺はお前を、殺す
あいつの部屋は地下の奥深く。
出られないように頑丈に鍵を掛けた、分厚い扉の奥で眠らされている。
そこに辿り着くまでの道程には、お前が残したであろういくつもの破壊の痕がある。
部屋に近づくにつれ、数も大きさも増していき、この不思議な封印の扉だけがキズひとつない異様な光景を醸し出している。
作られた人形に薬はいらない。
大人しくさせる方法は、一つだけ。
————俺はお前を、殺す
メンバーと共に任務に出掛けるお前の姿も見慣れてきて、あの変人科学者の自慢が鬱陶しく思うようになった。
いかに自分の才能がすばらしいか、放っておけば延々と語り続けるだろう。
それでも感情を見せないお前は何を考えているのか、わからない。
そして自ら行動を起こすということをしない。
何かをしろと命令されれば、忠実にそれをこなしてみせる。
だが、言われなければ何もしないし、動かない。
本当に、ただの人形のようだ。
————俺はお前を、殺す
お前にその名を与えたのは誰だ?
初めて会ってその名を名乗ったから、俺達はその名を受け入れた。
いつの間にか、愛称までつけて呼ぶ奴も出てきた。
そう呼ばれることに異論はないのか、愛称で呼んでもちゃんと名で呼んでも返事はする。
大分感情が備わってきたのか、冗談めいた口調や辛口な台詞も出てくる。
————俺はお前を、殺す
あの目。
印象的なキツイ目でじっとこちらを見つめていた。
何を考えているのか全く読み取ることができなかった。
俺だけじゃないだろう、そう感じたのは。
その場にいた誰もが俺と同じことを感じただろう。
感情のない、死んだ魚のような虚ろな目。
どうせ機関のメンバーではないから、という単純な位置付けで、他のメンバー達はそれほど興味を示さなかったようで、誰も踏み込んだ質問をしなかった。
あの科学者を見下していた部分もあったのだろう。
————俺はお前を、殺す
一緒に任務をこなした他のメンバーに感想を聞いてみたくなった。
こういうところ辺り、まだ心があった記憶が働くのだろう。
答えは一言。“楽だ”。
まだ同行していない俺としては、その言葉の意味を計りきれない。
楽な任務だったのか?それとも…。
他の奴らが気にしない存在だったが、なんというか、俺はもっと色々知りたいと思った。
感情はないに等しいが、あの科学者が言った通り記憶はあるようだ。
なぜか辛辣な言葉を返されているというのに、坊やが懐いて離れない。
愛称で呼んで子犬のように着いていく。俺は相変わらず、あの目に弱い。
————俺はお前を、殺す
“今日はお前に行ってもらいたい”
初めて共に行動する日がやってきた。
奴は当然のように俺のそばへやって来て、あの目で俺を見つめる。
「任務の内容は?」
俺に命令を下した男に問い掛ける。
「詳細は既に渡してある」
疑問符を浮かべる間もなく、すっと目の前に書類が差し出された。
あいつは俺じゃなく、こいつに先に任務の命令を下したのか?
機関のメンバーのナンバーをなんだと思ってるんだってハナシ。
————俺はお前を、殺す
「やっぱりお前が来た。お前が来ると思ったんだ」
初めてお前の顔に薄い笑みが浮かんだのを見た。
こいつの正体は何で、どこで育ったのかはわからない。
記憶が残ってるうちに聞き出せばよかったんだ。
どんどん記憶は失われていき、生まれた町の名も親の名もわからなくなったと言った。
心はないくせに思考する能力は一人前に備わっているから、己自身の存在に疑問を持つようになった。
感情のないモノが自己を求める行為が、あれほどとは思わなかった。
————俺はお前を、殺す
共についた任務はとある遺跡の調査だった。
この遺跡は、大昔に起こった戦争の名残を抱えている、らしい。
俺には興味は沸かないがな。
そこで遺跡の欠片を探しつつ、住み着いた魔物どもを片付ける。
少々手間が掛かりそうだが、遺跡の欠片の判別ができる奴が俺しかいないってんだから、仕方がない。
こいつの戦う姿を、ここで初めて目にする。
…なるほど、他のメンバーが口にしていた言葉の意味が理解できた。
余計な会話はないし、必要に応じて動くし何よりも、強い。
2振りの剣、いや、刀で舞うような優雅な動きで魔物を片付ける。
加えて、魔法という能力が俺を驚かせた。
————俺はお前を、殺す
錯乱して暴れるお前を見たのは、任務を終えて戻った時だった。
あの赤毛野郎が手を貸して欲しいなどと、普段では絶対にあり得ない言葉を掛けるから、何事かと思ってしまった。
その時に何度も口にしていた、誰かの名。
そいつは余程深い間柄なのか、はたまた因縁の相手なのか。
俺や他のメンバーがそいつに見えているようで、必死にやめろだの戦いたくないだのと叫ぶ。
なまじ滅法強いので手に負えない。
俺達のなけなしの魔法をぶつけてみても、あいつは魔法を跳ね返す魔法を自分にかけているようで、全て跳ね返される。
正面から攻撃しても防がれる。
本当に、こいつは何者なんだ。
それに、攻撃しようとするとあの科学者がキズつけるなと喚き散らす。
はぁ、と溜め息を溢し、闇の扉をこいつの背後に開いて後ろから羽交い閉めにしてやった。
————俺はお前を、殺す
昨日お前が話した記憶が、今日はなくなってる。
何かを探すように辺りを見回す。
俺達を別の名で呼ぶ。
曖昧で途切れ途切れのやり取り。
不安定な存在。
この部屋にたどり着くまでに、あの科学者の狂ったような懇願の悲鳴が今も背後から響いてくる。
奴が作り出したこの人形が破壊されることを極端に恐れているようだ。
素人目の俺から見ても、心も感情もない、狂ったこいつは失敗作だと言わざるを得ない。
————俺はお前を、殺す
銃口を額に当てられているというのに、相変わらず何を考えているのかわからない表情を浮かべて俺を見上げた。
もうすっかり記憶は残っていないのか、自分が何者なのか、自分でも理解できないでいる。
だがこれで、任務完了だ。
俺は機関のメンバーらしく心もないままにお前を殺す。
「これでサヨナラ、だ」
「…お前、この前一緒に遺跡に行った奴に似てるな」
「!!」
はっとした。
まさかそんな言葉が出てくるとは思いもしなかった。
もう、記憶は残って…、いや、こいつが作られてからの記憶は、残っているはず。
なんだ、この感覚は!?
胸に自分の武器が突き刺さったような気分だ。
「…悪いが、人違いだ」
————俺はお前を、殺した…
→
5,oct,2015
————俺はお前を、殺す
その命令が俺に下ったのは、初めてお前を見てから僅か2ヶ月後のことだった。
(…やっぱりな)。
声に出さぬ声で囁きながら、命令を下した人物に一応の理由を問うてみる。
返答は、沈黙だった。
聞かなくてもわかるだろ、そんなオーラが俺にプレッシャーを与えてくる。
確かにあいつは、もう…。
————俺はお前を、殺す
あいつの部屋は地下の奥深く。
出られないように頑丈に鍵を掛けた、分厚い扉の奥で眠らされている。
そこに辿り着くまでの道程には、お前が残したであろういくつもの破壊の痕がある。
部屋に近づくにつれ、数も大きさも増していき、この不思議な封印の扉だけがキズひとつない異様な光景を醸し出している。
作られた人形に薬はいらない。
大人しくさせる方法は、一つだけ。
————俺はお前を、殺す
メンバーと共に任務に出掛けるお前の姿も見慣れてきて、あの変人科学者の自慢が鬱陶しく思うようになった。
いかに自分の才能がすばらしいか、放っておけば延々と語り続けるだろう。
それでも感情を見せないお前は何を考えているのか、わからない。
そして自ら行動を起こすということをしない。
何かをしろと命令されれば、忠実にそれをこなしてみせる。
だが、言われなければ何もしないし、動かない。
本当に、ただの人形のようだ。
————俺はお前を、殺す
お前にその名を与えたのは誰だ?
初めて会ってその名を名乗ったから、俺達はその名を受け入れた。
いつの間にか、愛称までつけて呼ぶ奴も出てきた。
そう呼ばれることに異論はないのか、愛称で呼んでもちゃんと名で呼んでも返事はする。
大分感情が備わってきたのか、冗談めいた口調や辛口な台詞も出てくる。
————俺はお前を、殺す
あの目。
印象的なキツイ目でじっとこちらを見つめていた。
何を考えているのか全く読み取ることができなかった。
俺だけじゃないだろう、そう感じたのは。
その場にいた誰もが俺と同じことを感じただろう。
感情のない、死んだ魚のような虚ろな目。
どうせ機関のメンバーではないから、という単純な位置付けで、他のメンバー達はそれほど興味を示さなかったようで、誰も踏み込んだ質問をしなかった。
あの科学者を見下していた部分もあったのだろう。
————俺はお前を、殺す
一緒に任務をこなした他のメンバーに感想を聞いてみたくなった。
こういうところ辺り、まだ心があった記憶が働くのだろう。
答えは一言。“楽だ”。
まだ同行していない俺としては、その言葉の意味を計りきれない。
楽な任務だったのか?それとも…。
他の奴らが気にしない存在だったが、なんというか、俺はもっと色々知りたいと思った。
感情はないに等しいが、あの科学者が言った通り記憶はあるようだ。
なぜか辛辣な言葉を返されているというのに、坊やが懐いて離れない。
愛称で呼んで子犬のように着いていく。俺は相変わらず、あの目に弱い。
————俺はお前を、殺す
“今日はお前に行ってもらいたい”
初めて共に行動する日がやってきた。
奴は当然のように俺のそばへやって来て、あの目で俺を見つめる。
「任務の内容は?」
俺に命令を下した男に問い掛ける。
「詳細は既に渡してある」
疑問符を浮かべる間もなく、すっと目の前に書類が差し出された。
あいつは俺じゃなく、こいつに先に任務の命令を下したのか?
機関のメンバーのナンバーをなんだと思ってるんだってハナシ。
————俺はお前を、殺す
「やっぱりお前が来た。お前が来ると思ったんだ」
初めてお前の顔に薄い笑みが浮かんだのを見た。
こいつの正体は何で、どこで育ったのかはわからない。
記憶が残ってるうちに聞き出せばよかったんだ。
どんどん記憶は失われていき、生まれた町の名も親の名もわからなくなったと言った。
心はないくせに思考する能力は一人前に備わっているから、己自身の存在に疑問を持つようになった。
感情のないモノが自己を求める行為が、あれほどとは思わなかった。
————俺はお前を、殺す
共についた任務はとある遺跡の調査だった。
この遺跡は、大昔に起こった戦争の名残を抱えている、らしい。
俺には興味は沸かないがな。
そこで遺跡の欠片を探しつつ、住み着いた魔物どもを片付ける。
少々手間が掛かりそうだが、遺跡の欠片の判別ができる奴が俺しかいないってんだから、仕方がない。
こいつの戦う姿を、ここで初めて目にする。
…なるほど、他のメンバーが口にしていた言葉の意味が理解できた。
余計な会話はないし、必要に応じて動くし何よりも、強い。
2振りの剣、いや、刀で舞うような優雅な動きで魔物を片付ける。
加えて、魔法という能力が俺を驚かせた。
————俺はお前を、殺す
錯乱して暴れるお前を見たのは、任務を終えて戻った時だった。
あの赤毛野郎が手を貸して欲しいなどと、普段では絶対にあり得ない言葉を掛けるから、何事かと思ってしまった。
その時に何度も口にしていた、誰かの名。
そいつは余程深い間柄なのか、はたまた因縁の相手なのか。
俺や他のメンバーがそいつに見えているようで、必死にやめろだの戦いたくないだのと叫ぶ。
なまじ滅法強いので手に負えない。
俺達のなけなしの魔法をぶつけてみても、あいつは魔法を跳ね返す魔法を自分にかけているようで、全て跳ね返される。
正面から攻撃しても防がれる。
本当に、こいつは何者なんだ。
それに、攻撃しようとするとあの科学者がキズつけるなと喚き散らす。
はぁ、と溜め息を溢し、闇の扉をこいつの背後に開いて後ろから羽交い閉めにしてやった。
————俺はお前を、殺す
昨日お前が話した記憶が、今日はなくなってる。
何かを探すように辺りを見回す。
俺達を別の名で呼ぶ。
曖昧で途切れ途切れのやり取り。
不安定な存在。
この部屋にたどり着くまでに、あの科学者の狂ったような懇願の悲鳴が今も背後から響いてくる。
奴が作り出したこの人形が破壊されることを極端に恐れているようだ。
素人目の俺から見ても、心も感情もない、狂ったこいつは失敗作だと言わざるを得ない。
————俺はお前を、殺す
銃口を額に当てられているというのに、相変わらず何を考えているのかわからない表情を浮かべて俺を見上げた。
もうすっかり記憶は残っていないのか、自分が何者なのか、自分でも理解できないでいる。
だがこれで、任務完了だ。
俺は機関のメンバーらしく心もないままにお前を殺す。
「これでサヨナラ、だ」
「…お前、この前一緒に遺跡に行った奴に似てるな」
「!!」
はっとした。
まさかそんな言葉が出てくるとは思いもしなかった。
もう、記憶は残って…、いや、こいつが作られてからの記憶は、残っているはず。
なんだ、この感覚は!?
胸に自分の武器が突き刺さったような気分だ。
「…悪いが、人違いだ」
————俺はお前を、殺した…
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5,oct,2015