第12章【全ての物語の結末】
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【 106 】
「ギャラリーが可愛い仔猫ちゃん達とは嬉しいね。 だけど、場所は変えさせて貰おうか。 俺には地の利がない」
「いいだろう」
自分も感じていたユウナ達の気配を、こいつも感じ取っていたようだ。
船の甲板の上では足場が悪い。
下手したら彼女達を捲き込みかねない。
…こいつは、ラフテルを消そうとしている。
こいつの言う任務とやらがどんなものなのかなどどうでもいい。
甲板を蹴って飛び上がった奴を追って、俺も空へ身を投じる。
幻光虫ではない、生身の肉体で飛ぶことは流石に無理だが奴を追うくらいなら問題はない。
…この男の目的がいまいちよく理解できない。
ラフテルに会いたいのか、殺したいのか…。
こいつの任務がラフテルの抹殺ならば、なぜあの場ですぐに殺さなかった?
奴にとっては、目覚めない無防備な今のラフテルは絶好の機会のはず。
やはり、こいつはラフテルと会いたがっていると考えたほうがいいのか?
奴の動きが止まり、自分の居場所を教えるかのように空中に向かって銃のような武器から一発放った。
…なるほど、奴がここを選んだ理由がよくわかる。
障害物の何もない広い草原。
飛び道具を使う者らしい選択だ。
「冥界の戦士、アーロン。 あんたと一戦やりたかったんだ」
そう言って、俺に武器を向けた。
奴の武器は飛び道具だ。
どんな能力や威力があるのかわからない以上、警戒を緩めるわけにはいかんだろう。
いつでも対応できるようにと、自分の武器を握り直して身構えた。
先制は奴から。
連続で発射される弾は通常の銃とさして変わらんようだが、弾そのものが、違う。
これは、弾というより細長い刃物といったほうが近いかもしれん。
足元に数発着弾した初撃は、奴の牽制か。
避けるのは簡単だが、避ける方向を読まれているようで、体を移動させた場所に正確に次弾がくる。
避けきれずに服の裾を掠めていく。
奴の撃った弾は俺の武器で跳ね返すことはできるようだ。
金属音がするくせに、跳ね返した弾は地に落ちて闇に溶ける。
なるほど、闇の力を利用した武器ということか。
弾は無限だが、再装填にはやはり若干の時間がかかるようだ。
その隙をついて斬りこむ。
だが当然、奴自身もよく承知なのだろう。
紙一重でするりと剣先から逃れる。
俺の武器は振るって終わりではない。
その勢いを殺すことなく足技に繋げる。
きれいに脇腹に蹴りが入り、奴は声にならないおかしな呻き声をあげて吹き飛んだ。
そこででかい吐息を吐き出す。
己の体が異様に重く感じて、酷い疲労感を覚える。
死人だった頃は、あまり感じなかった、この懐かしい感覚。
まだ僧兵として訓練を受けていた頃、ブラスカ達と旅をしていた頃にはよく感じていた、体を動かすという感覚。
「(…そうか、肉体を持つとは、こういうことか)」と今更ながら生を実感した。
「…う、…うぁ…、…あー…、や、やるね」
おかしな声を溢しながら、それでも奴は立ち上がる。
すぐにまた太刀を握り締めて身構えた。
力なさげにこちらに銃を向ける姿勢を取る。
「…だけど、俺には力業は通用しないってハナシ」
ふいに奴が黒い靄に包まれたと思った瞬間、背後から弾が飛んできた。
一瞬反応が遅れて頬に小さな痛みを覚える。
咄嗟に身を翻し体制を立て直すが、視線を向けた先には奴の姿はなくただ黒い靄の名残が僅かに揺らめいていた。
警戒心が一気に吹き上がる。
再び背後から殺気を感じた瞬間、刃物のような弾が俺を狙い撃つ。
「ほら、こっちだ!」
人を小馬鹿にしたように、闇の中を自由に移動して四方八方からの狙い撃ち。
だがこんなお遊びがいつまでも通用するものか。
再び奴の気配を感じた瞬間、体ごと剣を回し振るった。
金属音を立てて、奴の弾を跳ね返してやった。
「ぐわぁっ!」
己自身の闇の攻撃でもダメージを受けるのか。
懲りずにまた闇に身を隠す。
だが、もう無駄だ。
次に姿を表す場所は予測がつけられる。
空気がユラリと揺れて、闇の穴が開く予兆となる。
素早く太刀を振り切った。
完全ではないが、手応えが確かにあり、闇の靄の中から奴が姿を表した。
肩口に手を当てて、片膝を落とした奴が、それでも片方の目で俺を睨む。
「まったく、どうしてこう俺の任務には邪魔が付きまとうんだか、いつもいつも…」
「自分のものを壊すと言われて怒らん奴はいないと思うが?」
「自分の…? あの女が? はっ!面白いことを言う。 あれは心をなくした脱け殻、存在しないもの、ノーバディだ。 俺達と同じな!」
「同じだからなんだ、また仲間に引き入れようというのか?」
奴が手を当てていた肩口からは、あの時のラフテルのように黒い闇が空気に溶けていくのが見えた。
嫌でもこいつらがあの時のラフテルと同じだと納得してしまう。
闇の者。存在しない者。
心がないからこそ、こうして姿を保っていられるのか。
…あるい意味、少し前の俺と同じなのだな。
死を受け入れられず、生に執着して強い想いを残す。
その思いを受けて、幻光虫がこの姿や記憶を留める。
心もないくせに、完全な肉体を求めてさ迷う哀れな私生児。
俺は警戒を解いて武器を下ろした。
意味のない戦いはするだけ無駄だ。
「…なんだ、憐れみのつもりか? 酷い侮辱だ」
「勘違いするな。 お前の真意を知りたいだけだ。 …殺す殺すと言いながら、そんな素振りはない。 お前も、会いたいのだろう? ラフテルに。
結局俺達の望みは同じだとしたら、この戦いは無駄だ」
「そうだな、おたくにとっては無駄でも、俺にはおたくは邪魔な存在であることに代わりはない。 消せるチャンスがやっと来たんだ。
おたくの名をしきりに呼んでたファレルクスの記憶を戻したらどうなるか、考えるまでもないってハナシ」
「…誰の、記憶、だと…?」
「おっと、つい口が滑ったみたいだ。 …まぁいいさ、前に話しただろ? ウチの機関の頭のイカれた科学者がファレルクスを作り出したハナシ」
そう言えばそんなことを以前聞いた覚えがあった。
心が生まれる瞬間を見るために、だったか?
ヒトの記憶だけを詰め込んだヒトガタ。
心どころか感情も欠如した哀れな人形。
「そして、俺が殺したことも」
→
4,oct,2015
「ギャラリーが可愛い仔猫ちゃん達とは嬉しいね。 だけど、場所は変えさせて貰おうか。 俺には地の利がない」
「いいだろう」
自分も感じていたユウナ達の気配を、こいつも感じ取っていたようだ。
船の甲板の上では足場が悪い。
下手したら彼女達を捲き込みかねない。
…こいつは、ラフテルを消そうとしている。
こいつの言う任務とやらがどんなものなのかなどどうでもいい。
甲板を蹴って飛び上がった奴を追って、俺も空へ身を投じる。
幻光虫ではない、生身の肉体で飛ぶことは流石に無理だが奴を追うくらいなら問題はない。
…この男の目的がいまいちよく理解できない。
ラフテルに会いたいのか、殺したいのか…。
こいつの任務がラフテルの抹殺ならば、なぜあの場ですぐに殺さなかった?
奴にとっては、目覚めない無防備な今のラフテルは絶好の機会のはず。
やはり、こいつはラフテルと会いたがっていると考えたほうがいいのか?
奴の動きが止まり、自分の居場所を教えるかのように空中に向かって銃のような武器から一発放った。
…なるほど、奴がここを選んだ理由がよくわかる。
障害物の何もない広い草原。
飛び道具を使う者らしい選択だ。
「冥界の戦士、アーロン。 あんたと一戦やりたかったんだ」
そう言って、俺に武器を向けた。
奴の武器は飛び道具だ。
どんな能力や威力があるのかわからない以上、警戒を緩めるわけにはいかんだろう。
いつでも対応できるようにと、自分の武器を握り直して身構えた。
先制は奴から。
連続で発射される弾は通常の銃とさして変わらんようだが、弾そのものが、違う。
これは、弾というより細長い刃物といったほうが近いかもしれん。
足元に数発着弾した初撃は、奴の牽制か。
避けるのは簡単だが、避ける方向を読まれているようで、体を移動させた場所に正確に次弾がくる。
避けきれずに服の裾を掠めていく。
奴の撃った弾は俺の武器で跳ね返すことはできるようだ。
金属音がするくせに、跳ね返した弾は地に落ちて闇に溶ける。
なるほど、闇の力を利用した武器ということか。
弾は無限だが、再装填にはやはり若干の時間がかかるようだ。
その隙をついて斬りこむ。
だが当然、奴自身もよく承知なのだろう。
紙一重でするりと剣先から逃れる。
俺の武器は振るって終わりではない。
その勢いを殺すことなく足技に繋げる。
きれいに脇腹に蹴りが入り、奴は声にならないおかしな呻き声をあげて吹き飛んだ。
そこででかい吐息を吐き出す。
己の体が異様に重く感じて、酷い疲労感を覚える。
死人だった頃は、あまり感じなかった、この懐かしい感覚。
まだ僧兵として訓練を受けていた頃、ブラスカ達と旅をしていた頃にはよく感じていた、体を動かすという感覚。
「(…そうか、肉体を持つとは、こういうことか)」と今更ながら生を実感した。
「…う、…うぁ…、…あー…、や、やるね」
おかしな声を溢しながら、それでも奴は立ち上がる。
すぐにまた太刀を握り締めて身構えた。
力なさげにこちらに銃を向ける姿勢を取る。
「…だけど、俺には力業は通用しないってハナシ」
ふいに奴が黒い靄に包まれたと思った瞬間、背後から弾が飛んできた。
一瞬反応が遅れて頬に小さな痛みを覚える。
咄嗟に身を翻し体制を立て直すが、視線を向けた先には奴の姿はなくただ黒い靄の名残が僅かに揺らめいていた。
警戒心が一気に吹き上がる。
再び背後から殺気を感じた瞬間、刃物のような弾が俺を狙い撃つ。
「ほら、こっちだ!」
人を小馬鹿にしたように、闇の中を自由に移動して四方八方からの狙い撃ち。
だがこんなお遊びがいつまでも通用するものか。
再び奴の気配を感じた瞬間、体ごと剣を回し振るった。
金属音を立てて、奴の弾を跳ね返してやった。
「ぐわぁっ!」
己自身の闇の攻撃でもダメージを受けるのか。
懲りずにまた闇に身を隠す。
だが、もう無駄だ。
次に姿を表す場所は予測がつけられる。
空気がユラリと揺れて、闇の穴が開く予兆となる。
素早く太刀を振り切った。
完全ではないが、手応えが確かにあり、闇の靄の中から奴が姿を表した。
肩口に手を当てて、片膝を落とした奴が、それでも片方の目で俺を睨む。
「まったく、どうしてこう俺の任務には邪魔が付きまとうんだか、いつもいつも…」
「自分のものを壊すと言われて怒らん奴はいないと思うが?」
「自分の…? あの女が? はっ!面白いことを言う。 あれは心をなくした脱け殻、存在しないもの、ノーバディだ。 俺達と同じな!」
「同じだからなんだ、また仲間に引き入れようというのか?」
奴が手を当てていた肩口からは、あの時のラフテルのように黒い闇が空気に溶けていくのが見えた。
嫌でもこいつらがあの時のラフテルと同じだと納得してしまう。
闇の者。存在しない者。
心がないからこそ、こうして姿を保っていられるのか。
…あるい意味、少し前の俺と同じなのだな。
死を受け入れられず、生に執着して強い想いを残す。
その思いを受けて、幻光虫がこの姿や記憶を留める。
心もないくせに、完全な肉体を求めてさ迷う哀れな私生児。
俺は警戒を解いて武器を下ろした。
意味のない戦いはするだけ無駄だ。
「…なんだ、憐れみのつもりか? 酷い侮辱だ」
「勘違いするな。 お前の真意を知りたいだけだ。 …殺す殺すと言いながら、そんな素振りはない。 お前も、会いたいのだろう? ラフテルに。
結局俺達の望みは同じだとしたら、この戦いは無駄だ」
「そうだな、おたくにとっては無駄でも、俺にはおたくは邪魔な存在であることに代わりはない。 消せるチャンスがやっと来たんだ。
おたくの名をしきりに呼んでたファレルクスの記憶を戻したらどうなるか、考えるまでもないってハナシ」
「…誰の、記憶、だと…?」
「おっと、つい口が滑ったみたいだ。 …まぁいいさ、前に話しただろ? ウチの機関の頭のイカれた科学者がファレルクスを作り出したハナシ」
そう言えばそんなことを以前聞いた覚えがあった。
心が生まれる瞬間を見るために、だったか?
ヒトの記憶だけを詰め込んだヒトガタ。
心どころか感情も欠如した哀れな人形。
「そして、俺が殺したことも」
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4,oct,2015