第11章【帰ろう、ともに…】
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「ありがとうございます」
頭を下げてお見送りをしたお医者様は、何も言わずに軽い会釈だけしてお帰りになりました。
思わず出た3回目の溜息は少し大きめ。
船の中の彼女の眠る医務室に戻る途中の廊下で、2人が私を待っていました。
壁に背を預けて腕を組み、少し怖い顔をしたパインと、不安な表情を隠せないリュック。
街で掛け合って来てもらったお医者様は、3人とも医務室の扉を開けた瞬間に逃げるように去っていき、どうしたらいいのか、正直私にもわかりません。
あの時、私を助けてくれたラフテルさんは、急に意識を失ったかと思ったら、その体から幻光虫を浮かばせました。
慌てて船の医務室に運びましたが、医務室の中はまるで異界のようです。
どんどん溢れてくる幻光虫を止める方法なんて、知りません。
私は、送ることしかできないから…。
このままじゃ、ラフテルさんが消えてしまいます。
この世界に留まるためには、強い思いが必要で、それはいくら私たちが願ってもどうしようもなくて。
彼女自身の思いがなければ意味はない。
こんな時、どうすればいいんでしょうか?
「ユウナ……」
小さなリュックの呼びかけに、私は極力笑顔を作ったつもりでした。
でも、そうじゃないってことは、パインの顔が教えてました。
私達を彼女に会わせてくれた人のことは、ずっと頭の片隅にありましたが、今彼はどこにいるのかわかりません。
早く来てほしい。
彼女を、ラフテルさんを助けて下さい、アーロンさん。
『ユウナ、ブリッジに来てくれ』
船の中にダチさんの声が響きました。
私達は顔を見合わせ、ブリッジへと走りました。
「何か分かったの?」
「通信スフィアの映像を解析してたら、見つけたし」
「見せて見せて!」
シンラ君が映し出した映像は、先日新たに改造し直した通信スフィアのもの。
ギップルさん達の協力もあって、スピラの各地に設置させてもらってるんです。
そこは、とても見覚えのある場所。
「…ベベル?」
「「あっ!!」」
一瞬のことでした。
赤い服を着た人物が通り過ぎたのが、確かに見えました。
同じ場面を何度も再生してくれてます。
記録機能も追加されているようです。
「おっちゃん、ベベルにいるの!?」
「すぐに向かうか?」
「うん、行こう!」
今一番会いたい人がいた。
これですべてが解決したわけではないのですが、ほっとしてしまいました。
「アニキ、急いでベベルへ向かって!」
「おう、りょ~かい!」
船が動き出し、上昇を始めました。
ベベルへ行って、アーロンさんを見つけて…。
それからどうすればいいのか、ラフテルさんは戻れるのか、とても心配です。
「…ねえ、ユウナ」
「ん? 何? リュック」
「ラフテル、…元のラフテルに戻ってくれるかな?」
リュックも、私と同じことを考えていたみたいです。
確かにラフテルさんが戻ってきてくれたことは凄く嬉しかった。
…でも、そこにいたラフテルさんは、私達のよく知るラフテルさんじゃなかった。
最初はちょっと混乱してるだけだと思いました。
でも、一緒に旅をしたはずなのに、私やリュックの持つ記憶とは違う記憶を持っていたり、私達の知らないことを言ったり…。
特に、…アーロンさんのこと。
忘れてるというより、最初からいなかったような言動に私達もどう返したらいいのか困りました。
でも、ラフテルさんは間違いなくラフテルさん。
凄く強くて私達を守ってくれる、優しい人。
だからこそ、ちゃんと本当の記憶を取り戻して、あの時はこうだったね、なんて思い出話もしたい。
リュックは私と同じで、元のラフテルさんを知ってるから気持ちはわかりました。
でも、じゃあ、パインはどう思ってるのか知りたくなりました。
「パイン」
「どうしたんだ?」
「パインはどう思ってるのかなぁ?って。 ラフテルさんのこと」
「…そうだな。 あんた達と違って、私は一緒に旅をしたわけでもない。 直接話をしたのも、多分この機会が初めてだ。 だからあんた達ほど私はあの人のことを知らない。
…だけど、噂は聞いてた。 私もベベルにいたからな。 そして彼女に憧れた。
私もあんな風に強くなって、広い世界を飛び回って、色んな物を見たいって思ってた。 今ここにいる彼女が、その時の人と同一人物と言われても、ちょっと信じられないけどな」
「そっか、パインはラフテルに憧れてたのか~。 へ~」
「な、なんだ、憧れちゃいけないのか?」
「そんなことないよ。 パインは自分のことあまり話してくれないから、嬉しいんだ」
「ふ、ふん、ほら到着したようだぞ。 探しに行くんだろ」
船のブリッジは全面ガラス張りで、どこからでも外の様子を見ることができます。
パインの言葉に、視線をそちらに移しました。
前方に見覚えのある大きな街。
巨大な寺院を中心に、今も広がり続けている、私の生まれ故郷ベベル。
あの一騒動の後、かなり寺院も街も混乱したみたい。
寺院の中身はまるっきり変わってしまいました。
街の人たちも色々な問題と向き合わなくてはならないことに戸惑ってたけど、だいぶ落ち着いてきたようです。
この船の船長で、リュックのお兄さんでもあるアニキさんと、アニキさんの友達のダチさん。
2人の声が大きくなってきたことに気が付きました。
何かアルベド語でもめてるみたいです。
私も大分アルベド語はわかるようになってきたけど、この2人のは凄い早口だし、リュック曰く、アニキさんはかなり方言がきついらしくて、私には全部理解できません。
所々リュックに訳してもらうと、どこに着陸するかってことみたい。
一番広い場所がある寺院の敷地内がいいと言うダチさんと、絶対寺院になんか入りたくないって言うアニキさん。
…どっちでもいいのに。
言い合いを続ける2人を尻目に、私達は互いに顔を見合わせ頷きました。
「行っちゃおう!」
第11章終
→第12章【全ての物語の結末】
1,oct,2015
20,Feb,2018 携帯版より転載
「ありがとうございます」
頭を下げてお見送りをしたお医者様は、何も言わずに軽い会釈だけしてお帰りになりました。
思わず出た3回目の溜息は少し大きめ。
船の中の彼女の眠る医務室に戻る途中の廊下で、2人が私を待っていました。
壁に背を預けて腕を組み、少し怖い顔をしたパインと、不安な表情を隠せないリュック。
街で掛け合って来てもらったお医者様は、3人とも医務室の扉を開けた瞬間に逃げるように去っていき、どうしたらいいのか、正直私にもわかりません。
あの時、私を助けてくれたラフテルさんは、急に意識を失ったかと思ったら、その体から幻光虫を浮かばせました。
慌てて船の医務室に運びましたが、医務室の中はまるで異界のようです。
どんどん溢れてくる幻光虫を止める方法なんて、知りません。
私は、送ることしかできないから…。
このままじゃ、ラフテルさんが消えてしまいます。
この世界に留まるためには、強い思いが必要で、それはいくら私たちが願ってもどうしようもなくて。
彼女自身の思いがなければ意味はない。
こんな時、どうすればいいんでしょうか?
「ユウナ……」
小さなリュックの呼びかけに、私は極力笑顔を作ったつもりでした。
でも、そうじゃないってことは、パインの顔が教えてました。
私達を彼女に会わせてくれた人のことは、ずっと頭の片隅にありましたが、今彼はどこにいるのかわかりません。
早く来てほしい。
彼女を、ラフテルさんを助けて下さい、アーロンさん。
『ユウナ、ブリッジに来てくれ』
船の中にダチさんの声が響きました。
私達は顔を見合わせ、ブリッジへと走りました。
「何か分かったの?」
「通信スフィアの映像を解析してたら、見つけたし」
「見せて見せて!」
シンラ君が映し出した映像は、先日新たに改造し直した通信スフィアのもの。
ギップルさん達の協力もあって、スピラの各地に設置させてもらってるんです。
そこは、とても見覚えのある場所。
「…ベベル?」
「「あっ!!」」
一瞬のことでした。
赤い服を着た人物が通り過ぎたのが、確かに見えました。
同じ場面を何度も再生してくれてます。
記録機能も追加されているようです。
「おっちゃん、ベベルにいるの!?」
「すぐに向かうか?」
「うん、行こう!」
今一番会いたい人がいた。
これですべてが解決したわけではないのですが、ほっとしてしまいました。
「アニキ、急いでベベルへ向かって!」
「おう、りょ~かい!」
船が動き出し、上昇を始めました。
ベベルへ行って、アーロンさんを見つけて…。
それからどうすればいいのか、ラフテルさんは戻れるのか、とても心配です。
「…ねえ、ユウナ」
「ん? 何? リュック」
「ラフテル、…元のラフテルに戻ってくれるかな?」
リュックも、私と同じことを考えていたみたいです。
確かにラフテルさんが戻ってきてくれたことは凄く嬉しかった。
…でも、そこにいたラフテルさんは、私達のよく知るラフテルさんじゃなかった。
最初はちょっと混乱してるだけだと思いました。
でも、一緒に旅をしたはずなのに、私やリュックの持つ記憶とは違う記憶を持っていたり、私達の知らないことを言ったり…。
特に、…アーロンさんのこと。
忘れてるというより、最初からいなかったような言動に私達もどう返したらいいのか困りました。
でも、ラフテルさんは間違いなくラフテルさん。
凄く強くて私達を守ってくれる、優しい人。
だからこそ、ちゃんと本当の記憶を取り戻して、あの時はこうだったね、なんて思い出話もしたい。
リュックは私と同じで、元のラフテルさんを知ってるから気持ちはわかりました。
でも、じゃあ、パインはどう思ってるのか知りたくなりました。
「パイン」
「どうしたんだ?」
「パインはどう思ってるのかなぁ?って。 ラフテルさんのこと」
「…そうだな。 あんた達と違って、私は一緒に旅をしたわけでもない。 直接話をしたのも、多分この機会が初めてだ。 だからあんた達ほど私はあの人のことを知らない。
…だけど、噂は聞いてた。 私もベベルにいたからな。 そして彼女に憧れた。
私もあんな風に強くなって、広い世界を飛び回って、色んな物を見たいって思ってた。 今ここにいる彼女が、その時の人と同一人物と言われても、ちょっと信じられないけどな」
「そっか、パインはラフテルに憧れてたのか~。 へ~」
「な、なんだ、憧れちゃいけないのか?」
「そんなことないよ。 パインは自分のことあまり話してくれないから、嬉しいんだ」
「ふ、ふん、ほら到着したようだぞ。 探しに行くんだろ」
船のブリッジは全面ガラス張りで、どこからでも外の様子を見ることができます。
パインの言葉に、視線をそちらに移しました。
前方に見覚えのある大きな街。
巨大な寺院を中心に、今も広がり続けている、私の生まれ故郷ベベル。
あの一騒動の後、かなり寺院も街も混乱したみたい。
寺院の中身はまるっきり変わってしまいました。
街の人たちも色々な問題と向き合わなくてはならないことに戸惑ってたけど、だいぶ落ち着いてきたようです。
この船の船長で、リュックのお兄さんでもあるアニキさんと、アニキさんの友達のダチさん。
2人の声が大きくなってきたことに気が付きました。
何かアルベド語でもめてるみたいです。
私も大分アルベド語はわかるようになってきたけど、この2人のは凄い早口だし、リュック曰く、アニキさんはかなり方言がきついらしくて、私には全部理解できません。
所々リュックに訳してもらうと、どこに着陸するかってことみたい。
一番広い場所がある寺院の敷地内がいいと言うダチさんと、絶対寺院になんか入りたくないって言うアニキさん。
…どっちでもいいのに。
言い合いを続ける2人を尻目に、私達は互いに顔を見合わせ頷きました。
「行っちゃおう!」
第11章終
→第12章【全ての物語の結末】
1,oct,2015
20,Feb,2018 携帯版より転載