第11章【帰ろう、ともに…】
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【 102 】
暗い穴の中をひたすら進んでいく。
闇の触手を無理矢理広げてできた通路のようだと感じた。
壁や床一面、さながら意志を持つ魔物のように蠢き、絡みついてくる。
手で振り払えばすぐに空中で消えてなくなるような儚い存在ではあるが、その量が鬱陶しい。
確かにここは生者が入るところではない。
精神の弱いものはすぐに囚われてしまうだろう。
幸か不幸か、あの世界を体験できたお蔭で俺は難なく進むことができる。
しばらく進むと、前方に微かな光が見えた。
同時に絡みつく闇の触手も威力が衰えるのか俄然進みやすくなる。
暗い場所から日の当たるところへ出た瞬間の眩しさを、久しく忘れていたらしい。
あの世界では気にならなかったが、元の世界の明るさを改めて実感する。
いつの間にかなくなってしまった色眼鏡の存在を今になって悔やんでしまう。
それよりも、と辺りを見渡す。
どうやらここはベベルの町の一角のようだ。
嗅ぎ慣れたいつもの匂いの空気を吸い込んで、一気に吐き出す。
深い深呼吸を1つ零して、寺院を目指す。
足を進めながらも、気は重かった。
ここに、ラフテルはいる。
あちらの世界で辛い別れをしたはずの女が、そこにいる。
本当なら歓喜に溢れる場面になることだろう。
だが、俺が今から会おうとしているラフテルは、俺がよく知る彼女とは違う。
俺という存在を忘れ、憎んでさえいる。
俺の記憶と彼女の記憶は違う。
…共に訓練を受け、共に旅をし、同じ召喚士を守ったというのに。
彼女の俺を見る怯えた目を思い出す。
またあの目を向けられることがわかっていて、己自身が苦しい思いをすることがわかっていて、それでも会うことに意味はあるのだろうか。
進めていた足が止まってしまう。
自分がこんなに情けないとは…。
俺は、お前にまた会いたいだけだ。
「失礼、もしや、アーロン…?」
ふいにかけられた声に反応して振り返る。
見覚えのある、老人。
真っ白な髪に、値の張りそうな彫刻の施された杖を手にしていた。
「ヴァイル僧官長…!?」
「もう僧官長ではないんだ。 ただのヴァイルと呼んでくれ、アーロン。 …久しいな」
「お久しぶりです」
「どうだ、一杯やろう」
まだガキの頃、寺院で訓練に明け暮れていたあの頃の記憶が鮮やかに蘇ってくる。
誘いを断ろうかとも考えたが、うまい口実が出てこなかった。
昔から穏やかな人物ではあったが、こんなにも楽しそうに笑顔で話す方だったのかと意外な一面を知った気がした。
昔の思い出話をし続ける姿に、普段はあまりこうして人と話す機会はないのだろうかと思ってしまう。
「大召喚士2人のガードとして旅をして、そのどちらも見事にナギ節をもたらしてくれた。 まさに伝説だ」
「…大袈裟です。 伝説などではない」
「ははは、…ラフテルにも、同じことを言われたよ。 本当に偉業を成し遂げたのは召喚士だ、とね」
「………」
「アーロン、…実を言うと、私はお前を恨んでいた」
「え……」
「いや、気にしなくていい。 私の勝手なやっかみなんだ」
「?」
「…ブラスカ殿のナギ節が始まってすぐだ。 ラフテルはたった1人でベベルに戻ってきた。 誰もが称え、賞賛し、キミ達は英雄となった。
…だが、ラフテルにとっては地獄だっただろう。 寺院やシン、エボンの本質を知ってしまった彼女は、逃げられなくなった。
魔法を封じられ、視界を奪われた上に動けぬようにと毒まで盛られた。
だがベベルの民にとっては英雄的存在だ。 動かぬ体に着飾られた、言わば寺院の物言わぬ人形。
ブラスカ殿とジェクト殿のことはすぐに伝わってきた。 だが、あなたの存在はようとして知れない。 …生きているなら、彼女を救って欲しかった」
その話は俺もラフテル自身から聞いた。
聞いて、寺院という存在をますます憎んだ。
あの頃はバカだったのだ。
彼女の気持ちよりも、己の感情を優先させた。
その挙句に返り討ちにされ、命まで落とす結果となった。
ラフテル独りに全て背負わせてしまった。
返す言葉もないまま、黙ってヴァイルの話に耳を傾けた。
「訓練所の官舎の一室を預かるだけの私では、高僧官達のいるあの高さまでは届かない。 私の力ごときでは、どうすることもできなかった。
だからラフテルがいなくなったと聞いた時は、もう終わったと絶望を覚えたものだ。 …結果として嬉しい裏切りだったがね。
あのブラスカ殿の娘であるユウナ殿のガードとして、キミ達2人が共に旅立ってくれた。
すでに寺院から身を引いていた私は、ベベルの一市民とし心から喜んだよ」
「自分も、彼女に会うのは10年振りだったんです。 ずっとベベルを離れていたので。
ラフテルに、合わせる顔がなかった。 彼女が苦しい思いをしているのを知りながら…、俺は…」
「…そう、彼女に言ってやればいい。 聞いたぞ、ユウナ殿と共にまた旅をしていると。
たまには遊びに来るといい」
シンが世界の災厄として君臨していた頃は、当たり前のように死が隣り合わせだった。
死に満ちた世界、それがスピラの代名詞と言えた。
だが今は違う。
シンのいない平和な世界。人々は自由に生きている。
寺院の僧官が遊びに来いなどと、当時では考えられなかった。
ヴァイルと別れ、店を出てからふと空を見上げた。
ラフテルは今、ユウナと共にいる。
先程のヴァイルの言葉を思い出す。
この世界を離れる前、あの状態のままのラフテルにユウナ達を会わせたのは俺自身だ。
ユウナがラフテルをどう思ったのかはわからんが、共にいてくれたことに安堵した。
…問題は、今、どこにいるか。
→
30,sep,2015
暗い穴の中をひたすら進んでいく。
闇の触手を無理矢理広げてできた通路のようだと感じた。
壁や床一面、さながら意志を持つ魔物のように蠢き、絡みついてくる。
手で振り払えばすぐに空中で消えてなくなるような儚い存在ではあるが、その量が鬱陶しい。
確かにここは生者が入るところではない。
精神の弱いものはすぐに囚われてしまうだろう。
幸か不幸か、あの世界を体験できたお蔭で俺は難なく進むことができる。
しばらく進むと、前方に微かな光が見えた。
同時に絡みつく闇の触手も威力が衰えるのか俄然進みやすくなる。
暗い場所から日の当たるところへ出た瞬間の眩しさを、久しく忘れていたらしい。
あの世界では気にならなかったが、元の世界の明るさを改めて実感する。
いつの間にかなくなってしまった色眼鏡の存在を今になって悔やんでしまう。
それよりも、と辺りを見渡す。
どうやらここはベベルの町の一角のようだ。
嗅ぎ慣れたいつもの匂いの空気を吸い込んで、一気に吐き出す。
深い深呼吸を1つ零して、寺院を目指す。
足を進めながらも、気は重かった。
ここに、ラフテルはいる。
あちらの世界で辛い別れをしたはずの女が、そこにいる。
本当なら歓喜に溢れる場面になることだろう。
だが、俺が今から会おうとしているラフテルは、俺がよく知る彼女とは違う。
俺という存在を忘れ、憎んでさえいる。
俺の記憶と彼女の記憶は違う。
…共に訓練を受け、共に旅をし、同じ召喚士を守ったというのに。
彼女の俺を見る怯えた目を思い出す。
またあの目を向けられることがわかっていて、己自身が苦しい思いをすることがわかっていて、それでも会うことに意味はあるのだろうか。
進めていた足が止まってしまう。
自分がこんなに情けないとは…。
俺は、お前にまた会いたいだけだ。
「失礼、もしや、アーロン…?」
ふいにかけられた声に反応して振り返る。
見覚えのある、老人。
真っ白な髪に、値の張りそうな彫刻の施された杖を手にしていた。
「ヴァイル僧官長…!?」
「もう僧官長ではないんだ。 ただのヴァイルと呼んでくれ、アーロン。 …久しいな」
「お久しぶりです」
「どうだ、一杯やろう」
まだガキの頃、寺院で訓練に明け暮れていたあの頃の記憶が鮮やかに蘇ってくる。
誘いを断ろうかとも考えたが、うまい口実が出てこなかった。
昔から穏やかな人物ではあったが、こんなにも楽しそうに笑顔で話す方だったのかと意外な一面を知った気がした。
昔の思い出話をし続ける姿に、普段はあまりこうして人と話す機会はないのだろうかと思ってしまう。
「大召喚士2人のガードとして旅をして、そのどちらも見事にナギ節をもたらしてくれた。 まさに伝説だ」
「…大袈裟です。 伝説などではない」
「ははは、…ラフテルにも、同じことを言われたよ。 本当に偉業を成し遂げたのは召喚士だ、とね」
「………」
「アーロン、…実を言うと、私はお前を恨んでいた」
「え……」
「いや、気にしなくていい。 私の勝手なやっかみなんだ」
「?」
「…ブラスカ殿のナギ節が始まってすぐだ。 ラフテルはたった1人でベベルに戻ってきた。 誰もが称え、賞賛し、キミ達は英雄となった。
…だが、ラフテルにとっては地獄だっただろう。 寺院やシン、エボンの本質を知ってしまった彼女は、逃げられなくなった。
魔法を封じられ、視界を奪われた上に動けぬようにと毒まで盛られた。
だがベベルの民にとっては英雄的存在だ。 動かぬ体に着飾られた、言わば寺院の物言わぬ人形。
ブラスカ殿とジェクト殿のことはすぐに伝わってきた。 だが、あなたの存在はようとして知れない。 …生きているなら、彼女を救って欲しかった」
その話は俺もラフテル自身から聞いた。
聞いて、寺院という存在をますます憎んだ。
あの頃はバカだったのだ。
彼女の気持ちよりも、己の感情を優先させた。
その挙句に返り討ちにされ、命まで落とす結果となった。
ラフテル独りに全て背負わせてしまった。
返す言葉もないまま、黙ってヴァイルの話に耳を傾けた。
「訓練所の官舎の一室を預かるだけの私では、高僧官達のいるあの高さまでは届かない。 私の力ごときでは、どうすることもできなかった。
だからラフテルがいなくなったと聞いた時は、もう終わったと絶望を覚えたものだ。 …結果として嬉しい裏切りだったがね。
あのブラスカ殿の娘であるユウナ殿のガードとして、キミ達2人が共に旅立ってくれた。
すでに寺院から身を引いていた私は、ベベルの一市民とし心から喜んだよ」
「自分も、彼女に会うのは10年振りだったんです。 ずっとベベルを離れていたので。
ラフテルに、合わせる顔がなかった。 彼女が苦しい思いをしているのを知りながら…、俺は…」
「…そう、彼女に言ってやればいい。 聞いたぞ、ユウナ殿と共にまた旅をしていると。
たまには遊びに来るといい」
シンが世界の災厄として君臨していた頃は、当たり前のように死が隣り合わせだった。
死に満ちた世界、それがスピラの代名詞と言えた。
だが今は違う。
シンのいない平和な世界。人々は自由に生きている。
寺院の僧官が遊びに来いなどと、当時では考えられなかった。
ヴァイルと別れ、店を出てからふと空を見上げた。
ラフテルは今、ユウナと共にいる。
先程のヴァイルの言葉を思い出す。
この世界を離れる前、あの状態のままのラフテルにユウナ達を会わせたのは俺自身だ。
ユウナがラフテルをどう思ったのかはわからんが、共にいてくれたことに安堵した。
…問題は、今、どこにいるか。
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30,sep,2015