第11章【帰ろう、ともに…】
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【 100 】
フワリとそれが俺の目の前にやってきた。
淡い光を放ち、ゆらゆらとまるで水に浮かぶ船のごとく漂っている。
淡い、虹色の光。
よく見慣れた色のこの光は、…幻光虫…?
「…ラフテル、そこにいるのか?」
『………』
答えが返ってくるはずもなく、未練がましく諦めきれない己の姿に苦笑さえ浮かぶ。
何かをじっと待つようなそれに手を伸ばす。
両の手の中に収まる程しかない光だというのに、ほのかに温かい。
「アーロン、…これを」
ソラが差し出したのは、あの人形。
ちゃんと取り戻してくれていたのか。
短い礼と共に受け取った、穴の空いたラフテルの人形。
もうお前はいないというのに、存在を感じて仕方がない。
虹色の光を放つハートと呼んでいたものが、人形の穴に吸い込まれるように1つになり、光も見えなくなった。
「アーロン、俺、あの時ずっと声が聞こえてた。 お姉さんのかはわかんなかったけど、すっごく悲しそうな声で、
“助けて”って…」
「…そうか」
「やっと自由になれたんだもんね。 お姉さんを縛ってた契約もなくなったし、これで帰れるね」
「…自由、」
ソラの思いがけない言葉に、自分がこれまで歩んできた過去の場面が一瞬だけ浮かんだ。
俺の人生において自由と思えた瞬間などあっただろうか?
目まぐるしく日々は過ぎて行き、使命感のような責に追われ、ただ、流された。
ザナルカンドでの毎日や、旅の途中で体を休ませて一息つくことはあっても、やらねばならぬことで頭が一杯で落ち着く暇もなかった。
改めて自由だ、などと突然言われても、俺はどうしたらいいのかわからん。
「アーロン?」
「そうだな、そろそろ自分自身のことを考えるべきなのかもしれんな」
「…お姉さんの、ことは?」
「俺のいた世界では、いつでも死んだ者と会える場所があるし、その道の専門家もいる。 俺一人で悩んだところでどうしようもないからな」
「えっ、死んだ人に会える場所!?」
3人で顔を見合わせて何かを想像している。
その姿があの時のティーダと同じで、思わず小さな笑みが零れてしまった。
「お前達が想像するような世界ではない」
「あ、そうなのか、…で、アーロンは元の世界に帰るんだろ? どうやって帰るか方法はあるの?」
「………」
「だったら俺達の出番だね!」
自慢気に胸をポンと叩いて見せたソラにはその手段があるというのか。
「バカにするな。 これでもヒトの夢の世界にも訪れたこともある。 なんとでもするさ」
「ドナルドとグーフィーは夢の世界の住人だよ」
「グワッ、ボクのことかい?」
「あひょ、もしかして王様に会ったことあるの?」
「なっ!?」
「とにかく、アーロンの世界には俺が扉を開けてあげるよ。 だから……」
その時、上空から馬の嘶きが聞こえた。
空から馬の声?
顔を上げると、あの時に見た翼の生えた白い馬だ。
翼の間に人が乗っているようだ。
短い手を必死に振る中年の男がいた。
真っ白な馬は優雅な動きで俺達の前に降り立った。
…そうか、ここには夢の世界の住人も普通にいるのか…。
「フィル!」
「探したぞ、卵たち! 向うでハークが待っとる。 すぐに行かんと、子供ができてしまう」
「?? それどういう意味?」
「あ、いや、うおっほん! お前達はまだ気にせんでいい」
「………」
ヤギだ。
いや、別に不思議なことではない。
キマリのような獣人族やハイペロ族のようなよくわからんモノがスピラにもいるのだ。
ヤギの足をした、腹の出た親父など、恐らくこの世界ではよくいる種族なんだろう。
とりあえず、ソラ達はこのヤギ親父をよく知っているようだし、先程のコロシアムにうじゃうじゃと集まっていた異世界の住人達のような邪悪な気配はない。
彼らに続いて闘技場を出た。
闘技場前の広場で、あの若者、ヘラクレスと言ったか、ソラとの再会の言葉を交わしていた。
再びソラが俺の元へ駆け寄ってきた。
「アーロン、アーロンの世界のモノを1つ貸して。 行きたい世界の扉を開けるための、…え~っと…」
「…媒介、か?」
「あ、それそれ、ね、なんかある?」
「では、これを…」
「…ペンダント? うわ、これ凄く綺麗! 高そうだけど、いいの?」
それは元々ラフテルが持っていたものだ。
彼女を探している時に出会った老人から預かったものだった。
少し考えたが、ラフテルだったらこうすることに反対はしないだろう。
「スピラという世界の、ベベルという街の紋章だ。 俺もラフテルもそこで育った。 もし誰か必要な者がいたら、くれてやって構わん」
「いいの?」
「もう俺達には必要のないものだ」
「…じゃ、いくよ?」
ソラが天に向かって掌を掲げると、そこに乗っていた首飾りが光に包まれてゆっくりと浮き上がる。
一歩下がり、それを狙い撃つような姿勢でキーブレードを構えた。
この姿勢を見るのは二度目だ。
最初に見たのは出会って間もない頃。
あいつから逃げる道中の扉の鍵を、ソラは今と同じようにして開けて見せた。
この世のあらゆる扉を開閉できる鍵。
それを扱う者は鍵自身によって選ばれるのだそうだ。
確かに、使いようによっては恐ろしい代物だ。
ソラのような純粋心を持つ者だからこそ、正しい使い方ができるのだろう。
「いっけぇ~~!!」
キーブレードの先から迸る光は宙に浮いたままの首飾りを飲み込み、何もなかった空間に穴を穿った。
すると、人間の身長よりも大きな鍵穴がそこに現れた。
光の中の、黒い穴は奥のほうは何も見えない。
この先が、俺達の世界に繋がった?
にわかには信じ難い光景だ。
「アーロン、繋がったよ」
「…あぁ。 …ソラ、ドナルド、グーフィー。 世話になった」
「世話なんて言えるほどのことなんて、何もしてないよ。 それに、誤らなくちゃならないのは、こっちだ」
「お前達を利用したのは俺だからな。 …会えて良かったと思ってる」
突然、ソラ達3人が飛び付いてきた。
あまりに突然のことで、避けることもできずに少しよろめいてしまう。
「…アーロン、俺も、会えて良かった。 また会えるかな?」
「…あぁ、たぶんな」
「アーロン、自分の世界に帰っても、俺達のこと、忘れないで…」
抱き付いてきた手を離し、しっかりと自分の足で立ってからソラはいつもの目で俺を見上げる。
あまりにも眩しすぎるその目を見ていられなくて、俺は自分の視線を空へと逃がした。
「…ふっ、忘れたくとも、あの空を見ればいやでも思い出す」
「? ……!! うわぁ~~っ!」
3人は揃って同じように空を見上げ、そして同じように歓声を上げた。
夜空に瞬く星は英雄の卵達の姿を映し出し、他のどの星よりも美しく瞬いていた。
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28,sep,2015
フワリとそれが俺の目の前にやってきた。
淡い光を放ち、ゆらゆらとまるで水に浮かぶ船のごとく漂っている。
淡い、虹色の光。
よく見慣れた色のこの光は、…幻光虫…?
「…ラフテル、そこにいるのか?」
『………』
答えが返ってくるはずもなく、未練がましく諦めきれない己の姿に苦笑さえ浮かぶ。
何かをじっと待つようなそれに手を伸ばす。
両の手の中に収まる程しかない光だというのに、ほのかに温かい。
「アーロン、…これを」
ソラが差し出したのは、あの人形。
ちゃんと取り戻してくれていたのか。
短い礼と共に受け取った、穴の空いたラフテルの人形。
もうお前はいないというのに、存在を感じて仕方がない。
虹色の光を放つハートと呼んでいたものが、人形の穴に吸い込まれるように1つになり、光も見えなくなった。
「アーロン、俺、あの時ずっと声が聞こえてた。 お姉さんのかはわかんなかったけど、すっごく悲しそうな声で、
“助けて”って…」
「…そうか」
「やっと自由になれたんだもんね。 お姉さんを縛ってた契約もなくなったし、これで帰れるね」
「…自由、」
ソラの思いがけない言葉に、自分がこれまで歩んできた過去の場面が一瞬だけ浮かんだ。
俺の人生において自由と思えた瞬間などあっただろうか?
目まぐるしく日々は過ぎて行き、使命感のような責に追われ、ただ、流された。
ザナルカンドでの毎日や、旅の途中で体を休ませて一息つくことはあっても、やらねばならぬことで頭が一杯で落ち着く暇もなかった。
改めて自由だ、などと突然言われても、俺はどうしたらいいのかわからん。
「アーロン?」
「そうだな、そろそろ自分自身のことを考えるべきなのかもしれんな」
「…お姉さんの、ことは?」
「俺のいた世界では、いつでも死んだ者と会える場所があるし、その道の専門家もいる。 俺一人で悩んだところでどうしようもないからな」
「えっ、死んだ人に会える場所!?」
3人で顔を見合わせて何かを想像している。
その姿があの時のティーダと同じで、思わず小さな笑みが零れてしまった。
「お前達が想像するような世界ではない」
「あ、そうなのか、…で、アーロンは元の世界に帰るんだろ? どうやって帰るか方法はあるの?」
「………」
「だったら俺達の出番だね!」
自慢気に胸をポンと叩いて見せたソラにはその手段があるというのか。
「バカにするな。 これでもヒトの夢の世界にも訪れたこともある。 なんとでもするさ」
「ドナルドとグーフィーは夢の世界の住人だよ」
「グワッ、ボクのことかい?」
「あひょ、もしかして王様に会ったことあるの?」
「なっ!?」
「とにかく、アーロンの世界には俺が扉を開けてあげるよ。 だから……」
その時、上空から馬の嘶きが聞こえた。
空から馬の声?
顔を上げると、あの時に見た翼の生えた白い馬だ。
翼の間に人が乗っているようだ。
短い手を必死に振る中年の男がいた。
真っ白な馬は優雅な動きで俺達の前に降り立った。
…そうか、ここには夢の世界の住人も普通にいるのか…。
「フィル!」
「探したぞ、卵たち! 向うでハークが待っとる。 すぐに行かんと、子供ができてしまう」
「?? それどういう意味?」
「あ、いや、うおっほん! お前達はまだ気にせんでいい」
「………」
ヤギだ。
いや、別に不思議なことではない。
キマリのような獣人族やハイペロ族のようなよくわからんモノがスピラにもいるのだ。
ヤギの足をした、腹の出た親父など、恐らくこの世界ではよくいる種族なんだろう。
とりあえず、ソラ達はこのヤギ親父をよく知っているようだし、先程のコロシアムにうじゃうじゃと集まっていた異世界の住人達のような邪悪な気配はない。
彼らに続いて闘技場を出た。
闘技場前の広場で、あの若者、ヘラクレスと言ったか、ソラとの再会の言葉を交わしていた。
再びソラが俺の元へ駆け寄ってきた。
「アーロン、アーロンの世界のモノを1つ貸して。 行きたい世界の扉を開けるための、…え~っと…」
「…媒介、か?」
「あ、それそれ、ね、なんかある?」
「では、これを…」
「…ペンダント? うわ、これ凄く綺麗! 高そうだけど、いいの?」
それは元々ラフテルが持っていたものだ。
彼女を探している時に出会った老人から預かったものだった。
少し考えたが、ラフテルだったらこうすることに反対はしないだろう。
「スピラという世界の、ベベルという街の紋章だ。 俺もラフテルもそこで育った。 もし誰か必要な者がいたら、くれてやって構わん」
「いいの?」
「もう俺達には必要のないものだ」
「…じゃ、いくよ?」
ソラが天に向かって掌を掲げると、そこに乗っていた首飾りが光に包まれてゆっくりと浮き上がる。
一歩下がり、それを狙い撃つような姿勢でキーブレードを構えた。
この姿勢を見るのは二度目だ。
最初に見たのは出会って間もない頃。
あいつから逃げる道中の扉の鍵を、ソラは今と同じようにして開けて見せた。
この世のあらゆる扉を開閉できる鍵。
それを扱う者は鍵自身によって選ばれるのだそうだ。
確かに、使いようによっては恐ろしい代物だ。
ソラのような純粋心を持つ者だからこそ、正しい使い方ができるのだろう。
「いっけぇ~~!!」
キーブレードの先から迸る光は宙に浮いたままの首飾りを飲み込み、何もなかった空間に穴を穿った。
すると、人間の身長よりも大きな鍵穴がそこに現れた。
光の中の、黒い穴は奥のほうは何も見えない。
この先が、俺達の世界に繋がった?
にわかには信じ難い光景だ。
「アーロン、繋がったよ」
「…あぁ。 …ソラ、ドナルド、グーフィー。 世話になった」
「世話なんて言えるほどのことなんて、何もしてないよ。 それに、誤らなくちゃならないのは、こっちだ」
「お前達を利用したのは俺だからな。 …会えて良かったと思ってる」
突然、ソラ達3人が飛び付いてきた。
あまりに突然のことで、避けることもできずに少しよろめいてしまう。
「…アーロン、俺も、会えて良かった。 また会えるかな?」
「…あぁ、たぶんな」
「アーロン、自分の世界に帰っても、俺達のこと、忘れないで…」
抱き付いてきた手を離し、しっかりと自分の足で立ってからソラはいつもの目で俺を見上げる。
あまりにも眩しすぎるその目を見ていられなくて、俺は自分の視線を空へと逃がした。
「…ふっ、忘れたくとも、あの空を見ればいやでも思い出す」
「? ……!! うわぁ~~っ!」
3人は揃って同じように空を見上げ、そして同じように歓声を上げた。
夜空に瞬く星は英雄の卵達の姿を映し出し、他のどの星よりも美しく瞬いていた。
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28,sep,2015