最終章【ジェクト~終結】
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さようなら
=98=
眩しい光がゆっくりと収まっていく。
辺りはまた暗い空間に変わる。
強い光を受けた目は、暗闇に慣れるまでは何も見えない。
だが、そこに、見えるはずの無い姿を見た。
優しそうな女性、髭を蓄えた大男、不思議な形をした杖を持つ老人、美しい肉体美を持つ女性、フードを被った少年、賢そうな犬を連れた男性、
そして、シーモアの母。
「…お前…!」
私だけにしか見えていないのかと思った。
座り込んだ私と、その隣にいるアーロン。
その少し先には、つい今しがたまで激しい戦闘をしていた仲間達。
エボン=ジュが存在していた辺りの空間にフワリと浮いている半透明の姿を見れば、それが生きた人間で無いことは明らかだ。
少年が呟いた言葉に、ユウナも仲間達も反応する。
言われずとも、私にも理解できる。
これは、祈り子となった者達。
女性は母親のように柔らかな笑顔で手を振り、大男は背を向けたまま片手を挙げて見せた。
そのまま、空気に溶けるように消えていく。
老人はまるで私達を讃えるように両手を大きく振り上げ、美しい女性はきつい眼差しで一瞥して目を背けるように後ろを向いた。
彼らも同じ様にゆっくりと消えていく。
犬を連れた男性は腕組みをして頷いて見せ、シーモアの母は、ゆっくりと丁寧に頭を下げ、そして消えて行った。
最後に、目深にフードを被った少年が、チラリと見える口元を僅かに緩めた。
『ありがとう……』
微かな小さな呟きが、確かに私にも聞こえた。
「あ……」
少年が、言葉を飲み込む。
祈り子たちは皆、やっと眠りにつくことができるのだ。
やっと目が元に戻ってきた。
ここは、先程までいた場所。
ジェクトの生み出したザナルカンドの街が一望できる、大きなステージ。
エボン=ジュも召喚獣もいなくなった、ただのシンという鎧の抜け殻。
ユウナが踊っている。
死者の魂を鎮める踊りを。
静かな空間の中で、皆がじっとそれを見守っている。
敵はもう、いない。
だが、ユウナの戦いはまだ終わってはいない。
この世界中にいる悲しき魂を鎮めるという戦いは…。
胸が温かくなってくる。
それは温かいを通り越して、熱くさえ感じる。
だが、苦しいとは思わない。
私の下半身はもう、半分石になっていて、私はもう動けない。私の時間は、終わりを迎える。
「ティーダ」
「ん? ……!! ラフテル!!」
ユウナの踊りをじっと見つめていた少年が、私の様子にそこで初めて気が付いたようだ。
少年だけではない。
そこにいた仲間達が私の姿に驚愕している。
言葉さえ出ないようだ。
近付いてくる少年に、パキパキと音を立てながらもなんとか動く肩を動かして、手に握っていた小太刀を渡す。
ひび割れて欠片となった細かな私の肉体の一部が地に落ちて、その衝撃でそれはさらに細かな塵となって消えていく。
戸惑いながらも、少年はそれを受け取ってくれた。
「…1つはキミが、1つはユウナに…」
「わかった。…預かっとくよ」
「…みんな、ユウナを、お願い…」
「…あぁ」
「任せとけ…」
「心配はいらない」
「……大丈夫よ」
「…ラフテル~…」
「ふふ、頼もしいな…」
踊り続けるユウナが、くるりと回転してこちらを振り向いた。
そして、その動きが止まってしまう。
「!!」
ユウナの様子に、仲間達の視線も一気に私の隣へと移る。
「続けろ」
私の隣に立つ、この男から、たくさんの幻光虫がフワリフワリと舞い上がっている。
「…でも!!」
反論しようとするユウナの手は、止まったままだ。
「…ユウナ、いいんだ。私たちも、もう、眠りたいんだ…」
「これでいいさ……」
私の体から、1つ、たった1つ、小さな魂の欠片がフワリと浮かび上がる。
「(ありがとう、ジスカル…)」
体の力が抜けていく。ダラリと下げた手が一気に硬化する。
パキパキという耳障りな音が聞こえている間はまだ、生きている証拠。
「いやあ!!ラフテル!!」
「ラフテルさん!!待って!!」
泣きそうな悲痛な叫びが聞こえてくる。
でも、もう、これで終わりなんだ。
祈り子たちが石となって眠りにつくのと同じ。私も、入れ物としての役目はもう意味を成さない。
「…みんなに、会えて……良かった。 …あり、がと……」
途切れる意識のその瞬間、体が砂のように崩れるのを感じた。
ユウナが、踊る。
私は急に体が軽くなるのを感じた。
動けなかった体が動く。歩けなかった足が軽い。あれだけの疲労が全くない。
『?』
私は、どうなった?
確かに体が崩れるような感覚はあったはずなのに。
足を片方なくしてしまったはずなのに、立っている。
『…あぁ、そうか。私も……』
数歩前を赤い大きな背中が歩いている。
立ち止まり、ゆっくりと振り返る。
しっかりと私の目を見てから、こちらに手を差し伸べる。
「ラフテル……」
私は迷わずその手を取る。
体中から迸る淡い光を纏わせながら、ゆっくりと仲間達の間を縫っていく。
「…10年、待たせたからな」
少年の前で、アーロンはそう呟いた。
「…ラフテルも、か…?」
「………」
少年には、私の姿が見えているらしい。
私は、少年の目を見つめて、1つ頷いた。
ステージの端まで来て、そこでアーロンは剣を構えた。
「もう、お前達の時代だ」
「……私の物語は、これでお終い。この続きは、みんなが綴って、必ず…」
剣を構えていない方の腕で、アーロンは私の腰をぐいと抱き寄せた。
私は赤い服を握り締めて、その胸に顔を埋めた。
体が、フワリと浮かび上がった。
→
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眩しい光がゆっくりと収まっていく。
辺りはまた暗い空間に変わる。
強い光を受けた目は、暗闇に慣れるまでは何も見えない。
だが、そこに、見えるはずの無い姿を見た。
優しそうな女性、髭を蓄えた大男、不思議な形をした杖を持つ老人、美しい肉体美を持つ女性、フードを被った少年、賢そうな犬を連れた男性、
そして、シーモアの母。
「…お前…!」
私だけにしか見えていないのかと思った。
座り込んだ私と、その隣にいるアーロン。
その少し先には、つい今しがたまで激しい戦闘をしていた仲間達。
エボン=ジュが存在していた辺りの空間にフワリと浮いている半透明の姿を見れば、それが生きた人間で無いことは明らかだ。
少年が呟いた言葉に、ユウナも仲間達も反応する。
言われずとも、私にも理解できる。
これは、祈り子となった者達。
女性は母親のように柔らかな笑顔で手を振り、大男は背を向けたまま片手を挙げて見せた。
そのまま、空気に溶けるように消えていく。
老人はまるで私達を讃えるように両手を大きく振り上げ、美しい女性はきつい眼差しで一瞥して目を背けるように後ろを向いた。
彼らも同じ様にゆっくりと消えていく。
犬を連れた男性は腕組みをして頷いて見せ、シーモアの母は、ゆっくりと丁寧に頭を下げ、そして消えて行った。
最後に、目深にフードを被った少年が、チラリと見える口元を僅かに緩めた。
『ありがとう……』
微かな小さな呟きが、確かに私にも聞こえた。
「あ……」
少年が、言葉を飲み込む。
祈り子たちは皆、やっと眠りにつくことができるのだ。
やっと目が元に戻ってきた。
ここは、先程までいた場所。
ジェクトの生み出したザナルカンドの街が一望できる、大きなステージ。
エボン=ジュも召喚獣もいなくなった、ただのシンという鎧の抜け殻。
ユウナが踊っている。
死者の魂を鎮める踊りを。
静かな空間の中で、皆がじっとそれを見守っている。
敵はもう、いない。
だが、ユウナの戦いはまだ終わってはいない。
この世界中にいる悲しき魂を鎮めるという戦いは…。
胸が温かくなってくる。
それは温かいを通り越して、熱くさえ感じる。
だが、苦しいとは思わない。
私の下半身はもう、半分石になっていて、私はもう動けない。私の時間は、終わりを迎える。
「ティーダ」
「ん? ……!! ラフテル!!」
ユウナの踊りをじっと見つめていた少年が、私の様子にそこで初めて気が付いたようだ。
少年だけではない。
そこにいた仲間達が私の姿に驚愕している。
言葉さえ出ないようだ。
近付いてくる少年に、パキパキと音を立てながらもなんとか動く肩を動かして、手に握っていた小太刀を渡す。
ひび割れて欠片となった細かな私の肉体の一部が地に落ちて、その衝撃でそれはさらに細かな塵となって消えていく。
戸惑いながらも、少年はそれを受け取ってくれた。
「…1つはキミが、1つはユウナに…」
「わかった。…預かっとくよ」
「…みんな、ユウナを、お願い…」
「…あぁ」
「任せとけ…」
「心配はいらない」
「……大丈夫よ」
「…ラフテル~…」
「ふふ、頼もしいな…」
踊り続けるユウナが、くるりと回転してこちらを振り向いた。
そして、その動きが止まってしまう。
「!!」
ユウナの様子に、仲間達の視線も一気に私の隣へと移る。
「続けろ」
私の隣に立つ、この男から、たくさんの幻光虫がフワリフワリと舞い上がっている。
「…でも!!」
反論しようとするユウナの手は、止まったままだ。
「…ユウナ、いいんだ。私たちも、もう、眠りたいんだ…」
「これでいいさ……」
私の体から、1つ、たった1つ、小さな魂の欠片がフワリと浮かび上がる。
「(ありがとう、ジスカル…)」
体の力が抜けていく。ダラリと下げた手が一気に硬化する。
パキパキという耳障りな音が聞こえている間はまだ、生きている証拠。
「いやあ!!ラフテル!!」
「ラフテルさん!!待って!!」
泣きそうな悲痛な叫びが聞こえてくる。
でも、もう、これで終わりなんだ。
祈り子たちが石となって眠りにつくのと同じ。私も、入れ物としての役目はもう意味を成さない。
「…みんなに、会えて……良かった。 …あり、がと……」
途切れる意識のその瞬間、体が砂のように崩れるのを感じた。
ユウナが、踊る。
私は急に体が軽くなるのを感じた。
動けなかった体が動く。歩けなかった足が軽い。あれだけの疲労が全くない。
『?』
私は、どうなった?
確かに体が崩れるような感覚はあったはずなのに。
足を片方なくしてしまったはずなのに、立っている。
『…あぁ、そうか。私も……』
数歩前を赤い大きな背中が歩いている。
立ち止まり、ゆっくりと振り返る。
しっかりと私の目を見てから、こちらに手を差し伸べる。
「ラフテル……」
私は迷わずその手を取る。
体中から迸る淡い光を纏わせながら、ゆっくりと仲間達の間を縫っていく。
「…10年、待たせたからな」
少年の前で、アーロンはそう呟いた。
「…ラフテルも、か…?」
「………」
少年には、私の姿が見えているらしい。
私は、少年の目を見つめて、1つ頷いた。
ステージの端まで来て、そこでアーロンは剣を構えた。
「もう、お前達の時代だ」
「……私の物語は、これでお終い。この続きは、みんなが綴って、必ず…」
剣を構えていない方の腕で、アーロンは私の腰をぐいと抱き寄せた。
私は赤い服を握り締めて、その胸に顔を埋めた。
体が、フワリと浮かび上がった。
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