最終章【ジェクト~終結】
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温故知新
=97=
「みんな! 一緒に戦えるのは、これが最後だ。よろしく!」
「「「!!!」」」
「……へっ?」
間抜けな声を出すワッカを尻目に、少年はユウナの元へ歩み寄る。
「なんつったらいいかな……。エボン=ジュを倒したら、俺、……消えっから!」
「あんた、何言ってんのよ!?」
少年の突然の言葉に、誰もが驚いた。
ルールーの言葉はそこにいる全員の代弁だ。
少年は、じっとユウナを見つめる。
ユウナもじっと少年を見上げる。
少年の顔は、清清しくさえあった。決意を固め、運命を受け入れ、そしてそれを背負う覚悟をした瞳。
ユウナは複雑な表情だ。悲しむような怒るような、困惑した顔。
じっと互いに見つめあい、先に目を逸らしたのは、少年のほうだ。
ユウナの言葉を避けるように、足を進めていく。
エボン=ジュを見据えたまま、少年は武器を手にして身構えた。
「さよならってこと!!」
「そんなあ……!」
リュックが声を上げる。信じられないと、誰もが思ったことだろう。
だが、事実だ。エボン=ジュを滅ぼしたら、偉大なる召喚士を倒したら、召喚されているものは、消える。
祈り子の夢も、消える。
「勝手で悪いけどさ、……これが、俺の物語だ!!」
そして少年は、雄叫びを上げながらエボン=ジュへと向かっていった。
小さく舌打ちをしながらも、ワッカが後に続く。ルールーもリュックもキマリも。
そして、唇を噛み締めたユウナも。
私は、ここでそれを見つめている。
もう、動くことも出来なくなった足で、戦いに参加することも出来なくて、ただここでじっと見守っていることしか出来ない。
「ラフテル」
掛けられた声の方向に目を向ける。
それが誰でどんな顔をしてるかなんて見なくても分かったし、事実想像通りの顔がそこにあった。
「行かなくていいのか?」
最後の戦いとなるはずなのに、どうしてこいつはここにいるんだろうか?
もう動けない私のことなど放っておいて、少年と共にエボン=ジュに止めを刺さないのか?
そう考えている私の頭の中を読み取ったのか、小さく笑いを返す。
「もう、俺達の時代は終わりだからな…。それより…」
アーロンは片膝を付いて私の無くなった足を撫でる。
先程までは切り口ギリギリだった硬化した箇所が、少しずつ私の体を蝕んでいくかのように進んでいる。
もう、私が一瞬でも気を抜けばすぐにでもこの硬化は全身を覆いつくしてしまいそうだ。
「あの召喚獣、シーモアの母さんの……、あの後から違和感はあったんだ。上手く体が動かなくてさ。だけどまさか、最後の最後であんな攻撃、それも最強の奴が出てくるなんて…」
もし五体満足な状態で戦ったとしても、こちらのダメージは大きかっただろう。
エボン=ジュに止めを刺すのは、少年達なのだとアーロンは言った。
もう、自分達は手を出すべきではないと。
動けない、立ち上がることも出来ない私の側に、こうしていてくれる。
何かの瞬間にふと納得してしまう。
そうか、この時代は、今生きている者達の時代なのだ。
もう、命はとうに失ってしまったアーロンや、こうして体が崩れていくのを待つだけの私なんて、必要ない。
今この世界に、この時代に平和を齎す為の、自分達の為の、彼らの戦いなのだ。
自分自身の手で掴み取って貰わねば意味は無い。
何も心配することは無い。
私達が手を出さずとも、彼らはみんな個々で高い能力や力を持っているし、助け合うということができている。
ここで、戦いに参加しなくてもできなくても、安心して見ていられる。
「…アーロン」
「なんだ」
「もう、1人きりで置いていかれるのは、嫌だ…。いい歳して、こんなこと言うのはどうかとも思うが、またみんなと一緒がいい」
「勿論だ。お前の時間は、俺のものなんだからな」
リュックの一投が、ルールーの一魔法が、キマリの一刺しが、ワッカの一球が、ユウナの一詠唱が、そして少年の一撃が、全て決まる。
各々の1つ1つは小さな攻撃かもしれない。
だが、ここには多くの仲間がいる。
力を合わせられる友がいる。
信頼して任せられる相手がいる。
私が10年もの長い月日行ってきたことは、たった1人での旅、たった1人きりでの戦闘。
こんな風に仲間と旅をして戦って、共に同じ感情を分け合うなんて、ブラスカ達と旅をして以来、なかったことだった。
1人がいいと言いながら、様々な町に何度も出掛けてはたくさんの人と話をした。
1人にして欲しいと言いながら、多くの人の世話や施しに甘えた。
それは、寂しかった、から…?
小さな卵のような黒い塊は、触手をうねうねと激しく動かし、その体を膨張させたり収縮させたりを繰り返した。
黒い靄のような、煙のようなものを噴出しながら、苦しんでいるようにも見える。
やがてそれは光の球体に包まれていく。
幻光虫の放つ色のようなにじ色に染まる光る球体は、ゆっくりと上空へと登っていく。
そこから、1つの幻光虫がフワリと飛び出した。
それはゆっくりと宙へ還って行く。
残されたエボン=ジュの抜け殻は2つの守護石柱に挟まれ、さながら封印されるように硬く閉じられた。
そして眩い光を放ち、それは細かな塵となって霧散していった。
エボン=ジュの最後だ。
→
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「みんな! 一緒に戦えるのは、これが最後だ。よろしく!」
「「「!!!」」」
「……へっ?」
間抜けな声を出すワッカを尻目に、少年はユウナの元へ歩み寄る。
「なんつったらいいかな……。エボン=ジュを倒したら、俺、……消えっから!」
「あんた、何言ってんのよ!?」
少年の突然の言葉に、誰もが驚いた。
ルールーの言葉はそこにいる全員の代弁だ。
少年は、じっとユウナを見つめる。
ユウナもじっと少年を見上げる。
少年の顔は、清清しくさえあった。決意を固め、運命を受け入れ、そしてそれを背負う覚悟をした瞳。
ユウナは複雑な表情だ。悲しむような怒るような、困惑した顔。
じっと互いに見つめあい、先に目を逸らしたのは、少年のほうだ。
ユウナの言葉を避けるように、足を進めていく。
エボン=ジュを見据えたまま、少年は武器を手にして身構えた。
「さよならってこと!!」
「そんなあ……!」
リュックが声を上げる。信じられないと、誰もが思ったことだろう。
だが、事実だ。エボン=ジュを滅ぼしたら、偉大なる召喚士を倒したら、召喚されているものは、消える。
祈り子の夢も、消える。
「勝手で悪いけどさ、……これが、俺の物語だ!!」
そして少年は、雄叫びを上げながらエボン=ジュへと向かっていった。
小さく舌打ちをしながらも、ワッカが後に続く。ルールーもリュックもキマリも。
そして、唇を噛み締めたユウナも。
私は、ここでそれを見つめている。
もう、動くことも出来なくなった足で、戦いに参加することも出来なくて、ただここでじっと見守っていることしか出来ない。
「ラフテル」
掛けられた声の方向に目を向ける。
それが誰でどんな顔をしてるかなんて見なくても分かったし、事実想像通りの顔がそこにあった。
「行かなくていいのか?」
最後の戦いとなるはずなのに、どうしてこいつはここにいるんだろうか?
もう動けない私のことなど放っておいて、少年と共にエボン=ジュに止めを刺さないのか?
そう考えている私の頭の中を読み取ったのか、小さく笑いを返す。
「もう、俺達の時代は終わりだからな…。それより…」
アーロンは片膝を付いて私の無くなった足を撫でる。
先程までは切り口ギリギリだった硬化した箇所が、少しずつ私の体を蝕んでいくかのように進んでいる。
もう、私が一瞬でも気を抜けばすぐにでもこの硬化は全身を覆いつくしてしまいそうだ。
「あの召喚獣、シーモアの母さんの……、あの後から違和感はあったんだ。上手く体が動かなくてさ。だけどまさか、最後の最後であんな攻撃、それも最強の奴が出てくるなんて…」
もし五体満足な状態で戦ったとしても、こちらのダメージは大きかっただろう。
エボン=ジュに止めを刺すのは、少年達なのだとアーロンは言った。
もう、自分達は手を出すべきではないと。
動けない、立ち上がることも出来ない私の側に、こうしていてくれる。
何かの瞬間にふと納得してしまう。
そうか、この時代は、今生きている者達の時代なのだ。
もう、命はとうに失ってしまったアーロンや、こうして体が崩れていくのを待つだけの私なんて、必要ない。
今この世界に、この時代に平和を齎す為の、自分達の為の、彼らの戦いなのだ。
自分自身の手で掴み取って貰わねば意味は無い。
何も心配することは無い。
私達が手を出さずとも、彼らはみんな個々で高い能力や力を持っているし、助け合うということができている。
ここで、戦いに参加しなくてもできなくても、安心して見ていられる。
「…アーロン」
「なんだ」
「もう、1人きりで置いていかれるのは、嫌だ…。いい歳して、こんなこと言うのはどうかとも思うが、またみんなと一緒がいい」
「勿論だ。お前の時間は、俺のものなんだからな」
リュックの一投が、ルールーの一魔法が、キマリの一刺しが、ワッカの一球が、ユウナの一詠唱が、そして少年の一撃が、全て決まる。
各々の1つ1つは小さな攻撃かもしれない。
だが、ここには多くの仲間がいる。
力を合わせられる友がいる。
信頼して任せられる相手がいる。
私が10年もの長い月日行ってきたことは、たった1人での旅、たった1人きりでの戦闘。
こんな風に仲間と旅をして戦って、共に同じ感情を分け合うなんて、ブラスカ達と旅をして以来、なかったことだった。
1人がいいと言いながら、様々な町に何度も出掛けてはたくさんの人と話をした。
1人にして欲しいと言いながら、多くの人の世話や施しに甘えた。
それは、寂しかった、から…?
小さな卵のような黒い塊は、触手をうねうねと激しく動かし、その体を膨張させたり収縮させたりを繰り返した。
黒い靄のような、煙のようなものを噴出しながら、苦しんでいるようにも見える。
やがてそれは光の球体に包まれていく。
幻光虫の放つ色のようなにじ色に染まる光る球体は、ゆっくりと上空へと登っていく。
そこから、1つの幻光虫がフワリと飛び出した。
それはゆっくりと宙へ還って行く。
残されたエボン=ジュの抜け殻は2つの守護石柱に挟まれ、さながら封印されるように硬く閉じられた。
そして眩い光を放ち、それは細かな塵となって霧散していった。
エボン=ジュの最後だ。
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