最終章【ジェクト~終結】
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その力が敵となる時
=95=
ジェクトが消えたことで、飛び回っていたエボン=ジュの行き場がいよいよ無くなった。
撒き散らしていた邪悪な気配はその勢いを増し、頭上を飛びまわる速度がどんどん速くなっていく。
「来るよ!」
感じる気配は私だけではない。
ルールーの声に皆がはっと頭上を見つめる。
真っ黒な靄の塊のようなその物体は、ジェクトの残した巨大な剣に吸い込まれるように同化する。
ジェクトが己の記憶や想いから生み出したザナルカンドの街も大きなステージも、一瞬で消し去られてしまう。
もうジェクトの余韻に浸ることすら許されないというのか。
真っ白な強い光が辺り一面を包み込み、歪んだ景色が更に形を変えていく。
水の上に描かれた景色が、その水ごと中央から吸い込まれていってしまうような、渦を描いてまた新たな模様を描き出すような、そんな空間が生まれる。
突然感じる、嫌な感覚。
私の嫌いな、浮遊感。
安定しない足元に私は慣れることはできずに、必死に縋るものを求めてしまう。
グラリと傾いた体を支えるものは何も無く、それまであった足元の床は遥か遠く下のほうに黒い1本の線のように見えるだけ。
細長い板のように見えるそれは、よく見れば先程までジェクトが振るっていた大きな剣。
ジェクトが生み出したこの景色を消し去っても、己自身が憑依したこの剣だけは形を留めたのだろうか?
そこに向かって真逆様に落ちていくような感覚。
咄嗟に唱えるべき魔法の呪文さえも思いつかない。
落ちていく体と、惰性でそこに残ろうとする体内の全てが持ち上がる感覚とのバランスが取れない。
ゾワリと走る気持ちの悪い寒気に吐き気を覚える。
必死に目を開ける。
近付いた地面に体が反応する。
着地の瞬間の衝撃に備えて、勝手に体が準備を始める。
それは一瞬のことで、私はいちいち考えてから行動を起さずとも私の体はそこに安全に私を着地させる。
やっと安定した体を起こして、溜息を零した。
次々に仲間達がそこへ降りてくる。
キマリに抱えられてその場に降り立ったユウナが、いち早く杖を構えて身構えた。
何をすべきなのか、わかっているのだ。
「ユウナ!」
少年の掛け声に、ユウナは一度こちらを振り返る。
そして意を決したように大きく頷いた。
再び背を向けたユウナは、天を仰いだ。
ユウナがこれから行うことは、ユウナにとって、いやそれは私達にとってもとても辛く、けれど避けることのできない悲しい戦い。
全ての召喚士達にとっても、もう二度とその力を遣うことはできないという最終警告。
再び視線を落とし、杖を握る拳に力を込めた。
ユウナが構えた杖を大きく振るった。
足元に浮かび上がる魔方陣に照らされたユウナの表情は、辛そうだ。
呼びかけに応じて、上空から召喚獣が飛来する。
ユウナが召喚士としてその力を身につけ、そして初めての召喚獣となった、ヴァルファーレ。
大きな力強い翼をはためかせ、ユウナの心を読み取る優しき召喚獣。
美しい温かな色をしたその姿が、突如として黒く不気味なものに代わっていく。
同時に温和な気配が禍々しいものに変わる。
漂わせる気配が邪悪さを増していく。
その様子に仲間達は動けない。
これまでの旅の中で、何度彼らを呼んだことだろう、何度彼らに助けられてきたのだろう。
共に旅をして、共に成長し、心を通わせた存在。
だが目の前にいるこの召喚獣は、もう、違う。
その心と体をエボン=ジュによって支配された、次なるシン。
新たな鎧を纏い、その身を隠してしまわぬ今の内に、生身の召喚獣である今の内に倒さなくてはならない。
困惑し、戸惑い、動けないでいる仲間達を尻目に、私は一番に斬りかかる。
私は、迷わない。
もう、迷わない。
ここにいて呆然としている仲間達は、先程の私。
この邪悪に染められた召喚獣に立ち向かっている私は、先程の仲間達。
だから、みんなの気持ちがよくわかる。
戦わなくてはならない。でも、戦いたくは無い。
ユウナの召喚士としての呼びかけに一番最初に応えてくれた、思い出深き召喚獣。
だが、その祈り子は待っている。
自分を止めてくれるその瞬間を。
だがら、私は迷わない。
ユウナが辛い悲しい想いに囚われても、仲間達から非難の言葉を浴びようとも、私は目の前にいる敵を倒すのみ。
ユウナの召喚士としての能力の高さなのか、召喚獣本来が持つ力なのか、それとも、エボン=ジュが乗り移ったことで増力されたのか、黒く染まったこの召喚獣の力の強大さは、これまでの魔物の比ではない。
悔しいが、私1人ではどうすることもできない。
放たれた強力な光線に足を取られる。
上空から狙い撃ちにされる。
思わず己を庇うように腕を振り上げ、目を閉じる。
肉を斬り裂く音がすぐ近くから聞こえるが、私自身の身には変化は無い。
「何を呆けている。これしきで怖気づいたのか」
召喚獣は痛々しい叫びを上げて離れていく。
「アーロン!」
そこへ鋭い刃の光る球がどこからともなく飛んできて、召喚獣の翼を斬り裂いた。
「へっ、要は、あいつの中の奴を倒しゃいいってことだよな!」
「ワッカ!」
巨大な炎が召喚獣を包み込む。
「申し訳ないけど、私のほうが魔力は上よ」
「ちょーっとだけ待ってて!今すんごいの作るから!」
「ルールー、リュック!」
遥か上空から猛々しい気合の声が掛かる。
空を飛んでいる召喚獣の更に上空から、ギラリと光を反射させてキマリがその背を突き刺した。
飛ぶ力を失って地面に落下してくる召喚獣に、止めの一撃を加えたのは、少年だ。
「ユウナ! ユウナの気持ち、みんなわかってるから!」
「!!」
土煙を上げて倒れた召喚獣の背から、黒い塊が飛び出すのが見えた。
それと同時に、黒かった召喚獣は元の色を取り戻し、そして幻光虫となって消えていった。
→
=95=
ジェクトが消えたことで、飛び回っていたエボン=ジュの行き場がいよいよ無くなった。
撒き散らしていた邪悪な気配はその勢いを増し、頭上を飛びまわる速度がどんどん速くなっていく。
「来るよ!」
感じる気配は私だけではない。
ルールーの声に皆がはっと頭上を見つめる。
真っ黒な靄の塊のようなその物体は、ジェクトの残した巨大な剣に吸い込まれるように同化する。
ジェクトが己の記憶や想いから生み出したザナルカンドの街も大きなステージも、一瞬で消し去られてしまう。
もうジェクトの余韻に浸ることすら許されないというのか。
真っ白な強い光が辺り一面を包み込み、歪んだ景色が更に形を変えていく。
水の上に描かれた景色が、その水ごと中央から吸い込まれていってしまうような、渦を描いてまた新たな模様を描き出すような、そんな空間が生まれる。
突然感じる、嫌な感覚。
私の嫌いな、浮遊感。
安定しない足元に私は慣れることはできずに、必死に縋るものを求めてしまう。
グラリと傾いた体を支えるものは何も無く、それまであった足元の床は遥か遠く下のほうに黒い1本の線のように見えるだけ。
細長い板のように見えるそれは、よく見れば先程までジェクトが振るっていた大きな剣。
ジェクトが生み出したこの景色を消し去っても、己自身が憑依したこの剣だけは形を留めたのだろうか?
そこに向かって真逆様に落ちていくような感覚。
咄嗟に唱えるべき魔法の呪文さえも思いつかない。
落ちていく体と、惰性でそこに残ろうとする体内の全てが持ち上がる感覚とのバランスが取れない。
ゾワリと走る気持ちの悪い寒気に吐き気を覚える。
必死に目を開ける。
近付いた地面に体が反応する。
着地の瞬間の衝撃に備えて、勝手に体が準備を始める。
それは一瞬のことで、私はいちいち考えてから行動を起さずとも私の体はそこに安全に私を着地させる。
やっと安定した体を起こして、溜息を零した。
次々に仲間達がそこへ降りてくる。
キマリに抱えられてその場に降り立ったユウナが、いち早く杖を構えて身構えた。
何をすべきなのか、わかっているのだ。
「ユウナ!」
少年の掛け声に、ユウナは一度こちらを振り返る。
そして意を決したように大きく頷いた。
再び背を向けたユウナは、天を仰いだ。
ユウナがこれから行うことは、ユウナにとって、いやそれは私達にとってもとても辛く、けれど避けることのできない悲しい戦い。
全ての召喚士達にとっても、もう二度とその力を遣うことはできないという最終警告。
再び視線を落とし、杖を握る拳に力を込めた。
ユウナが構えた杖を大きく振るった。
足元に浮かび上がる魔方陣に照らされたユウナの表情は、辛そうだ。
呼びかけに応じて、上空から召喚獣が飛来する。
ユウナが召喚士としてその力を身につけ、そして初めての召喚獣となった、ヴァルファーレ。
大きな力強い翼をはためかせ、ユウナの心を読み取る優しき召喚獣。
美しい温かな色をしたその姿が、突如として黒く不気味なものに代わっていく。
同時に温和な気配が禍々しいものに変わる。
漂わせる気配が邪悪さを増していく。
その様子に仲間達は動けない。
これまでの旅の中で、何度彼らを呼んだことだろう、何度彼らに助けられてきたのだろう。
共に旅をして、共に成長し、心を通わせた存在。
だが目の前にいるこの召喚獣は、もう、違う。
その心と体をエボン=ジュによって支配された、次なるシン。
新たな鎧を纏い、その身を隠してしまわぬ今の内に、生身の召喚獣である今の内に倒さなくてはならない。
困惑し、戸惑い、動けないでいる仲間達を尻目に、私は一番に斬りかかる。
私は、迷わない。
もう、迷わない。
ここにいて呆然としている仲間達は、先程の私。
この邪悪に染められた召喚獣に立ち向かっている私は、先程の仲間達。
だから、みんなの気持ちがよくわかる。
戦わなくてはならない。でも、戦いたくは無い。
ユウナの召喚士としての呼びかけに一番最初に応えてくれた、思い出深き召喚獣。
だが、その祈り子は待っている。
自分を止めてくれるその瞬間を。
だがら、私は迷わない。
ユウナが辛い悲しい想いに囚われても、仲間達から非難の言葉を浴びようとも、私は目の前にいる敵を倒すのみ。
ユウナの召喚士としての能力の高さなのか、召喚獣本来が持つ力なのか、それとも、エボン=ジュが乗り移ったことで増力されたのか、黒く染まったこの召喚獣の力の強大さは、これまでの魔物の比ではない。
悔しいが、私1人ではどうすることもできない。
放たれた強力な光線に足を取られる。
上空から狙い撃ちにされる。
思わず己を庇うように腕を振り上げ、目を閉じる。
肉を斬り裂く音がすぐ近くから聞こえるが、私自身の身には変化は無い。
「何を呆けている。これしきで怖気づいたのか」
召喚獣は痛々しい叫びを上げて離れていく。
「アーロン!」
そこへ鋭い刃の光る球がどこからともなく飛んできて、召喚獣の翼を斬り裂いた。
「へっ、要は、あいつの中の奴を倒しゃいいってことだよな!」
「ワッカ!」
巨大な炎が召喚獣を包み込む。
「申し訳ないけど、私のほうが魔力は上よ」
「ちょーっとだけ待ってて!今すんごいの作るから!」
「ルールー、リュック!」
遥か上空から猛々しい気合の声が掛かる。
空を飛んでいる召喚獣の更に上空から、ギラリと光を反射させてキマリがその背を突き刺した。
飛ぶ力を失って地面に落下してくる召喚獣に、止めの一撃を加えたのは、少年だ。
「ユウナ! ユウナの気持ち、みんなわかってるから!」
「!!」
土煙を上げて倒れた召喚獣の背から、黒い塊が飛び出すのが見えた。
それと同時に、黒かった召喚獣は元の色を取り戻し、そして幻光虫となって消えていった。
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