最終章【ジェクト~終結】
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
息子の目線、娘の目線
=94=
何年離れていたとしても、口ではどんなに嫌っていたとしても、本物の親子の愛は確かにそこに在る。
この2人も同じだ。ただ、それを表に素直に出すことが不器用なだけなのだ。
力なく倒れた召喚獣は、内部から破裂するように大量の幻光虫を撒き散らして、空中に消えた。
いくつかの幻光虫が再びそこに集まってきて、そしてジェクト本人の形を作った。
声にならない呻き声を上げて、ジェクトはゆっくりと足から崩れるように倒れていく。
はっと気が付いたアーロンがそちらを振り返るが、瞬間、風のように少年がアーロンの横を通り過ぎる。
時間の流れが遅くなる。
倒れこむジェクトの体がゆっくりと床に近付いていく。
膝から落ちたジェクトの体は、走りこんできた少年にしっかりと支えられた。
姿勢を戻したアーロンの隣に立って、私はその様子をじっと見守った。
本当は私も今すぐ少年と共にジェクトの側に行きたかった。
先程までの自分の愚かな行為が急に恥ずかしくなって、そこから動けないのだ。
ジェクトから発せられる匂いが極端に弱い。
その姿を保っていられるのも奇跡のようだ。
少年の腕に抱えられて、2人はじっと見つめ合っている。
微かに震える少年の肩に、私は手を差し伸べたくなった。
それは、隣に立つこの男も同じなのだろう。
私の肩を抱き寄せて、その手に力を込めた。
ここにいろ、じっとしていろ、と私と自分自身に言い聞かせているのだ。
今は、邪魔をしてはいけない、そんな空間がそこにはあった。
「泣くぞ、すぐ泣くぞ、絶対泣くぞ、ほーら泣くぞ」
「………くっ……う……だいっきらいだ…!」
ジェクトの意地の悪そうな言葉に、少年は嗚咽を漏らす。
こんな時になっても、互いに素直になれない、本当に不器用な親子…
「はは…まだ、早いぜ」
「全部、終わらせてから、だよな」
「わかってるじゃねえか。流石、ジェクト様のガキだ」
そう言って、ジェクトはゆっくりと身を起した。
悔しい…
ジェクトの言葉をもっと聞いていたいと、もっと一緒にいたいと思っているのに、そのジェクトの気配はどんどん薄れていく。
代わりに、邪魔をするかのように私たちの周りを煩く飛び回る、邪悪な気配。
この気配の持ち主こそが、エボン=ジュ。
次の新しい召喚獣を探しているのだろうか。
うろうろと飛び回るその姿に苛立ちを覚える。
「初めて……思った。 あんたの息子で、よかった…」
「……けっ」
最後の最後で、互いに搾り出した言葉はそれが本心だったのかもしれない。
涙で濡れたままの顔を拭いもせずに、床に座り込んだジェクトの顔を見下ろしながら、それでも少年の顔はどこか誇らしげに見えた。
ジェクトの偉大さに隠れてしまっていた少年の存在が、ジェクトよりもいつの間にか大きくなっていた。
それは少年が、少年から青年へと変わっていく瞬間だったように思う。
「ジェクトさん、……あの」
後方に下がっていた仲間達の輪の中からユウナが駆け寄ってくる。
だがジェクトはそれを制する。ユウナがしたかったことがわかったのだろう。
「ダメだユウナちゃん! 時間がねえ!」
だが、今はゆっくり話をしているときではない。
今が最大の、最後のチャンスなのだ。
倒すべきエボン=ジュは召喚獣を求め、私たちの周りをぐるぐると彷徨うように飛び回っている。
「邪魔すんじゃねえ!!」
少年がイライラしたように叫ぶ。
「ユウナちゃん、わかってんな? 召喚獣を………呼ぶんだぞ」
切羽詰ったようにジェクトは叫んだ。
少年の下へ駆け寄ろうとしていたユウナと少年が、何かに引かれるように後ろを振り向く。
当然そこにいたのは仲間達なのだが、彼らには2人の行動の意味が分からない。
そしてそれは私にも…
アーロンが私の肩を抱いたまま1歩前に歩み出た。
もう立っている事だけで精一杯のジェクトが、こちらに視線を向けていた。
幻光虫の放つにじ色の光を纏うジェクトの体は所々向こう側が透けて見えてきていた。
もう、実体を保つこともできず、ただ思念の残像のように見えるだけ。
「ジェクト…」
「んな顔すんじゃねえよ、ラフテル」
「…まだジェクトから教えてもらってないこと、たくさんあるよ」
「へへ、そうか。…いつでも、教えてやるぜ。 ……アーロン、先に、ブラスカんとこ行ってるぜ」
「…あぁ」
「…ジェクト…。 ジェクト!!」
一瞬だけ、いつもの勝ち誇ったような小さな笑みを口元に浮かべたのが見えた。
その体は床へと倒れ、そしてジェクトは幻光虫となって消えていった。
淡いにじ色の光を放つ幻光虫が舞い上がる様子は、これまでも何度も何度も目にしてきた。
だが、その光景をこれほどまでに儚く美しく、そして悲しいと思ったことは、恐らくこれが初めてのことかもしれない。
少年やユウナ、そしてそこにいた仲間達に見送られて、ジェクトは静かに宙へと還っていった。
ありがとう。
そんな言葉が浮かぶ。
初めて出会ったその時から、この横柄な態度は最後まで変わる事は無かった。
それを煩わしいと思ったこともあったし、逆に頼もしいと思ったこともある。
どこのだれから産まれたかもわからない私に、たくさんのことを教えてくれて、明るい笑顔と暖かい背中を分け与えてくれて、ありがとう。
本当の父親というものを知らなかった私にとって、あなたはずっと、私の父親だった。
→
=94=
何年離れていたとしても、口ではどんなに嫌っていたとしても、本物の親子の愛は確かにそこに在る。
この2人も同じだ。ただ、それを表に素直に出すことが不器用なだけなのだ。
力なく倒れた召喚獣は、内部から破裂するように大量の幻光虫を撒き散らして、空中に消えた。
いくつかの幻光虫が再びそこに集まってきて、そしてジェクト本人の形を作った。
声にならない呻き声を上げて、ジェクトはゆっくりと足から崩れるように倒れていく。
はっと気が付いたアーロンがそちらを振り返るが、瞬間、風のように少年がアーロンの横を通り過ぎる。
時間の流れが遅くなる。
倒れこむジェクトの体がゆっくりと床に近付いていく。
膝から落ちたジェクトの体は、走りこんできた少年にしっかりと支えられた。
姿勢を戻したアーロンの隣に立って、私はその様子をじっと見守った。
本当は私も今すぐ少年と共にジェクトの側に行きたかった。
先程までの自分の愚かな行為が急に恥ずかしくなって、そこから動けないのだ。
ジェクトから発せられる匂いが極端に弱い。
その姿を保っていられるのも奇跡のようだ。
少年の腕に抱えられて、2人はじっと見つめ合っている。
微かに震える少年の肩に、私は手を差し伸べたくなった。
それは、隣に立つこの男も同じなのだろう。
私の肩を抱き寄せて、その手に力を込めた。
ここにいろ、じっとしていろ、と私と自分自身に言い聞かせているのだ。
今は、邪魔をしてはいけない、そんな空間がそこにはあった。
「泣くぞ、すぐ泣くぞ、絶対泣くぞ、ほーら泣くぞ」
「………くっ……う……だいっきらいだ…!」
ジェクトの意地の悪そうな言葉に、少年は嗚咽を漏らす。
こんな時になっても、互いに素直になれない、本当に不器用な親子…
「はは…まだ、早いぜ」
「全部、終わらせてから、だよな」
「わかってるじゃねえか。流石、ジェクト様のガキだ」
そう言って、ジェクトはゆっくりと身を起した。
悔しい…
ジェクトの言葉をもっと聞いていたいと、もっと一緒にいたいと思っているのに、そのジェクトの気配はどんどん薄れていく。
代わりに、邪魔をするかのように私たちの周りを煩く飛び回る、邪悪な気配。
この気配の持ち主こそが、エボン=ジュ。
次の新しい召喚獣を探しているのだろうか。
うろうろと飛び回るその姿に苛立ちを覚える。
「初めて……思った。 あんたの息子で、よかった…」
「……けっ」
最後の最後で、互いに搾り出した言葉はそれが本心だったのかもしれない。
涙で濡れたままの顔を拭いもせずに、床に座り込んだジェクトの顔を見下ろしながら、それでも少年の顔はどこか誇らしげに見えた。
ジェクトの偉大さに隠れてしまっていた少年の存在が、ジェクトよりもいつの間にか大きくなっていた。
それは少年が、少年から青年へと変わっていく瞬間だったように思う。
「ジェクトさん、……あの」
後方に下がっていた仲間達の輪の中からユウナが駆け寄ってくる。
だがジェクトはそれを制する。ユウナがしたかったことがわかったのだろう。
「ダメだユウナちゃん! 時間がねえ!」
だが、今はゆっくり話をしているときではない。
今が最大の、最後のチャンスなのだ。
倒すべきエボン=ジュは召喚獣を求め、私たちの周りをぐるぐると彷徨うように飛び回っている。
「邪魔すんじゃねえ!!」
少年がイライラしたように叫ぶ。
「ユウナちゃん、わかってんな? 召喚獣を………呼ぶんだぞ」
切羽詰ったようにジェクトは叫んだ。
少年の下へ駆け寄ろうとしていたユウナと少年が、何かに引かれるように後ろを振り向く。
当然そこにいたのは仲間達なのだが、彼らには2人の行動の意味が分からない。
そしてそれは私にも…
アーロンが私の肩を抱いたまま1歩前に歩み出た。
もう立っている事だけで精一杯のジェクトが、こちらに視線を向けていた。
幻光虫の放つにじ色の光を纏うジェクトの体は所々向こう側が透けて見えてきていた。
もう、実体を保つこともできず、ただ思念の残像のように見えるだけ。
「ジェクト…」
「んな顔すんじゃねえよ、ラフテル」
「…まだジェクトから教えてもらってないこと、たくさんあるよ」
「へへ、そうか。…いつでも、教えてやるぜ。 ……アーロン、先に、ブラスカんとこ行ってるぜ」
「…あぁ」
「…ジェクト…。 ジェクト!!」
一瞬だけ、いつもの勝ち誇ったような小さな笑みを口元に浮かべたのが見えた。
その体は床へと倒れ、そしてジェクトは幻光虫となって消えていった。
淡いにじ色の光を放つ幻光虫が舞い上がる様子は、これまでも何度も何度も目にしてきた。
だが、その光景をこれほどまでに儚く美しく、そして悲しいと思ったことは、恐らくこれが初めてのことかもしれない。
少年やユウナ、そしてそこにいた仲間達に見送られて、ジェクトは静かに宙へと還っていった。
ありがとう。
そんな言葉が浮かぶ。
初めて出会ったその時から、この横柄な態度は最後まで変わる事は無かった。
それを煩わしいと思ったこともあったし、逆に頼もしいと思ったこともある。
どこのだれから産まれたかもわからない私に、たくさんのことを教えてくれて、明るい笑顔と暖かい背中を分け与えてくれて、ありがとう。
本当の父親というものを知らなかった私にとって、あなたはずっと、私の父親だった。
→