最終章【ジェクト~終結】
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親として
=93=
「もう、あんたには負けねえ!!」
少年の切ない叫びが響く。
一瞬、ほんの一瞬だけ、ジェクトの獣のような咆哮と、その動きが止まった。
それは、まだジェクトの意識が残っている、確かな証だ。
“手加減はできねえ”“壊れちまう”
そんなことを言っていたはずなのに、この強大な召喚獣と化してしまったジェクトに、人間だった頃の感情が、残っている。
人間の魂は不思議なものだ。
すでに無くした命の記憶や感情だけを現世に残す。
それを持った人間はもうこの世界に存在しないというのに、その人間が残したものはいつまでもそこに在り続ける。
魂のない生きた人間と、魂だけの死んだ者。
マイカやシーモアのように、己の野望の為だけにこの世界に執着しているものと、屁理屈だけの捻じ曲がった教えに縛られたスピラの住人。
本当にスピラを、この世界を変えるために、変えずにこの仕組みを維持するために、必要なのはどちらなのだろうか?
ジェクトもブラスカも、この世界を変えたいと願っていた。
変えられると信じていた。
だが、現実はどうだ。
今までの召喚士とガードが取った道と同じでしかなかった。
だから、それを知る私がいる。アーロンがいる。そして、 ……少年がいる。
もしかしたらジェクトは、自分が夢の存在であることは知らないのかもしれない。
だが、シンがどういう存在なのかは、当然知っているはず。
己が、シンなのだから…
己を倒し、解放してくれる、次の召喚士を、待つことしか出来ない。
今までの召喚士も、きっと自分を倒しに来た新たな召喚士に、エボン=ジュの存在を教えようとしてきただろう。
そして、この死の螺旋を終わらせたかった。
だが、できなかった。
究極召喚を発動した召喚士は命を落とし、選ばれたガードは召喚獣となりやがて新たなシンとして生まれ変わる。
生き残ったガードはことごとくベベルに監禁され、二度と自由の身になることはできなかった。
私が、その証拠だ。
彼らは伝説と呼ばれ、人々の希望の星としてのみ存在を許される。
ベベルに、エボンに歯向かうことは許されず、背いた者は全て反逆者として抹殺された。
だから、ユウナは人々の希望の星と呼ばれたにも拘らず、反逆者としての扱いを受けることになった。
エボンの教えは絶対で、少しでも反逆の意思がある者は極刑。それがエボンの教えだなんて、そんな道理が通るなんて許せない。
多くの召喚士とガードと、そしてスピラに住む命ある者達を犠牲にしてまで、この死の螺旋を維持させる意味がどこにあったのだろうか?
ブラスカも、ジェクトも、その犠牲となった者の1人だ。
スピラを変え、皆が笑って暮らせる平和な世界を望んだだけなのに。
エボン=ジュにその体をいいように使われ、自らが望んだわけでもないのに、多くの命を魂を奪い、そして何もかもを破壊する、絶対的存在。
今、目の前にいるこの巨体を誇る召喚獣も、自由を、救いを求めているのだ。
仲間達にだって、これが理不尽なものだとわかっている。
それでも、こうする他はないのだ。
祈り子になること。
魂を生きたまま別の入れ物に入れ替えられたもの。
中でも究極召喚獣は特別で、祈り子の入れ物とされるのは、召喚士本人である。
己の肉体の中から呼び出す召喚獣は最強だが、その入れ物である召喚士の命は絶たれ、戻るべき召喚獣の入れ物である召喚士は命は無い。
つまりは、1度発動してしまえば、同時に2人の人間の死を意味する。
そして呼び出された召喚獣は永遠にエボン=ジュの拠り所となるのだ。
エボン=ジュから解放される為には、その拠り所なっている己を破壊するしかない。
「…ごめん、ジェクト」
暗いザナルカンドの空に響き渡るジェクトの雄叫びは遠くどこまでも痛々しくて、切なかった。
ジェクトを攻撃することを謝るのではなく、助けることから逃げていた自分の行動を謝罪する。
もうジェクトであった頃の意識は残っていなくても、ジェクトの記憶や感情は残っている。
これは幻光虫でしかないから…
ジェクトの魂から生まれた、召喚獣という幻光虫の塊だから。
生きて悲しみと戦って、運命を変える。
そう言ったのは誰だったろうか?
運命を変える為に、変える度に、辛い悲しみと戦わなくてはならないというのか。
胸の辺りが先程からざわざわしている。
一体、これは何なのだろうか。
ジェクトに立ち向かうことを決意した瞬間から、私の鼓動は私自身が発しているものとは別の、もう1つの心臓があるような。
誰かの頭の中を覗いているような…
ここはシンの中だ。
だから、ここに辿り着くまでに通ってきたジェクトの記憶や深い心の奥底の意識の1つなのかとも思ったが、何かが違う。
何かを訴えかけるような、胸が締め付けられるような、慈しむような、愛するような……
少年がジェクトに攻撃をする度にそれは沸き上がる。
振り上げた剣を躊躇う時も、振り上げた拳の力を抜いた時も、ジェクトの気持ちが理解できてしまう。
受けた攻撃をものともしないくせに、馬鹿にしたように喜びを表し、自らが反撃するときはわざと狙いを外してみたり…
そして私の頭の中に自分の記憶のように蘇ってくる、父親としての気持ち。
これは……、ジスカルの記憶なのか…
いや記憶と呼ぶにはあまりにも不鮮明で曖昧で場面が見えるわけじゃない。
そういうのとはまた違う。
はっきりと言葉に出すのは難しい、父親だけが息子に持つ感情や気持ちみたいなものが、ジェクトと私の中のジスカルがリンクしている。
口では説明できない、父親としての息子への愛情のようなもの。
今の私になら分かる。
ジスカルも、間違いなく父親として息子を愛していたのだと。
「アーロン」
「…あぁ、行くぞ」
その大剣が振り下ろされた瞬間、攻撃を避けた仲間達とは逆に剣に飛び乗った少年とアーロン。
2人の持つ剣が、ジェクトの胸に突き刺さる。
集まる幻光虫がその傷を塞いでしまう前に、1歩遅れて飛び移った私がそこから直接ジェクトの中に、魔法を注ぎ込んだ。
煩い虫でも追い払うかのように振り上げられた剣は、私達が立つステージの床に突き刺さり、
片手はその剣の柄を、もう片方の手は床に、その巨体を支えるかのように力が込められる。
しかし、体はグラリと傾き、上げられる咆哮は弱弱しく響いた。
→
=93=
「もう、あんたには負けねえ!!」
少年の切ない叫びが響く。
一瞬、ほんの一瞬だけ、ジェクトの獣のような咆哮と、その動きが止まった。
それは、まだジェクトの意識が残っている、確かな証だ。
“手加減はできねえ”“壊れちまう”
そんなことを言っていたはずなのに、この強大な召喚獣と化してしまったジェクトに、人間だった頃の感情が、残っている。
人間の魂は不思議なものだ。
すでに無くした命の記憶や感情だけを現世に残す。
それを持った人間はもうこの世界に存在しないというのに、その人間が残したものはいつまでもそこに在り続ける。
魂のない生きた人間と、魂だけの死んだ者。
マイカやシーモアのように、己の野望の為だけにこの世界に執着しているものと、屁理屈だけの捻じ曲がった教えに縛られたスピラの住人。
本当にスピラを、この世界を変えるために、変えずにこの仕組みを維持するために、必要なのはどちらなのだろうか?
ジェクトもブラスカも、この世界を変えたいと願っていた。
変えられると信じていた。
だが、現実はどうだ。
今までの召喚士とガードが取った道と同じでしかなかった。
だから、それを知る私がいる。アーロンがいる。そして、 ……少年がいる。
もしかしたらジェクトは、自分が夢の存在であることは知らないのかもしれない。
だが、シンがどういう存在なのかは、当然知っているはず。
己が、シンなのだから…
己を倒し、解放してくれる、次の召喚士を、待つことしか出来ない。
今までの召喚士も、きっと自分を倒しに来た新たな召喚士に、エボン=ジュの存在を教えようとしてきただろう。
そして、この死の螺旋を終わらせたかった。
だが、できなかった。
究極召喚を発動した召喚士は命を落とし、選ばれたガードは召喚獣となりやがて新たなシンとして生まれ変わる。
生き残ったガードはことごとくベベルに監禁され、二度と自由の身になることはできなかった。
私が、その証拠だ。
彼らは伝説と呼ばれ、人々の希望の星としてのみ存在を許される。
ベベルに、エボンに歯向かうことは許されず、背いた者は全て反逆者として抹殺された。
だから、ユウナは人々の希望の星と呼ばれたにも拘らず、反逆者としての扱いを受けることになった。
エボンの教えは絶対で、少しでも反逆の意思がある者は極刑。それがエボンの教えだなんて、そんな道理が通るなんて許せない。
多くの召喚士とガードと、そしてスピラに住む命ある者達を犠牲にしてまで、この死の螺旋を維持させる意味がどこにあったのだろうか?
ブラスカも、ジェクトも、その犠牲となった者の1人だ。
スピラを変え、皆が笑って暮らせる平和な世界を望んだだけなのに。
エボン=ジュにその体をいいように使われ、自らが望んだわけでもないのに、多くの命を魂を奪い、そして何もかもを破壊する、絶対的存在。
今、目の前にいるこの巨体を誇る召喚獣も、自由を、救いを求めているのだ。
仲間達にだって、これが理不尽なものだとわかっている。
それでも、こうする他はないのだ。
祈り子になること。
魂を生きたまま別の入れ物に入れ替えられたもの。
中でも究極召喚獣は特別で、祈り子の入れ物とされるのは、召喚士本人である。
己の肉体の中から呼び出す召喚獣は最強だが、その入れ物である召喚士の命は絶たれ、戻るべき召喚獣の入れ物である召喚士は命は無い。
つまりは、1度発動してしまえば、同時に2人の人間の死を意味する。
そして呼び出された召喚獣は永遠にエボン=ジュの拠り所となるのだ。
エボン=ジュから解放される為には、その拠り所なっている己を破壊するしかない。
「…ごめん、ジェクト」
暗いザナルカンドの空に響き渡るジェクトの雄叫びは遠くどこまでも痛々しくて、切なかった。
ジェクトを攻撃することを謝るのではなく、助けることから逃げていた自分の行動を謝罪する。
もうジェクトであった頃の意識は残っていなくても、ジェクトの記憶や感情は残っている。
これは幻光虫でしかないから…
ジェクトの魂から生まれた、召喚獣という幻光虫の塊だから。
生きて悲しみと戦って、運命を変える。
そう言ったのは誰だったろうか?
運命を変える為に、変える度に、辛い悲しみと戦わなくてはならないというのか。
胸の辺りが先程からざわざわしている。
一体、これは何なのだろうか。
ジェクトに立ち向かうことを決意した瞬間から、私の鼓動は私自身が発しているものとは別の、もう1つの心臓があるような。
誰かの頭の中を覗いているような…
ここはシンの中だ。
だから、ここに辿り着くまでに通ってきたジェクトの記憶や深い心の奥底の意識の1つなのかとも思ったが、何かが違う。
何かを訴えかけるような、胸が締め付けられるような、慈しむような、愛するような……
少年がジェクトに攻撃をする度にそれは沸き上がる。
振り上げた剣を躊躇う時も、振り上げた拳の力を抜いた時も、ジェクトの気持ちが理解できてしまう。
受けた攻撃をものともしないくせに、馬鹿にしたように喜びを表し、自らが反撃するときはわざと狙いを外してみたり…
そして私の頭の中に自分の記憶のように蘇ってくる、父親としての気持ち。
これは……、ジスカルの記憶なのか…
いや記憶と呼ぶにはあまりにも不鮮明で曖昧で場面が見えるわけじゃない。
そういうのとはまた違う。
はっきりと言葉に出すのは難しい、父親だけが息子に持つ感情や気持ちみたいなものが、ジェクトと私の中のジスカルがリンクしている。
口では説明できない、父親としての息子への愛情のようなもの。
今の私になら分かる。
ジスカルも、間違いなく父親として息子を愛していたのだと。
「アーロン」
「…あぁ、行くぞ」
その大剣が振り下ろされた瞬間、攻撃を避けた仲間達とは逆に剣に飛び乗った少年とアーロン。
2人の持つ剣が、ジェクトの胸に突き刺さる。
集まる幻光虫がその傷を塞いでしまう前に、1歩遅れて飛び移った私がそこから直接ジェクトの中に、魔法を注ぎ込んだ。
煩い虫でも追い払うかのように振り上げられた剣は、私達が立つステージの床に突き刺さり、
片手はその剣の柄を、もう片方の手は床に、その巨体を支えるかのように力が込められる。
しかし、体はグラリと傾き、上げられる咆哮は弱弱しく響いた。
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