最終章【ジェクト~終結】
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思い出は優しいから…
=92=
「ただこうして待ってんのも退屈だぜ」
そう言ってジェクトは首を左右に振ってコキリと音を鳴らした。
「少しは大人しく待てんのか貴様は」
「あんだよアーロン、硬ぇこと言うんじゃねぇよ。ヒマなんだからしゃーねーだろ」
「…まったく」
アーロンはいつものように眉間に皺を寄せて呆れたように盛大に溜め息をついて見せた。
「アーロン、溜め息つくと幸せが逃げるんだってさ」
「溜め息1つでなくなるような幸せなど、俺はいらん。大体、誰がそんなことを!?」
幾分か眉間の皺が浅くなったけど、それでも真面目そうな堅苦しい顔を私に向ける。
私は至極真面目な顔のアーロンを見つめながら、うろうろと歩き回っている半裸の男を片手で指差した。
そしてアーロンはまた溜め息をついた。
「そんな奴の言うことを真に受けるんじゃない、ラフテル」
「どうして?ジェクト、今まで知らなかったこと、たくさん教えてくれるよ」
「ほう、例えば?」
「えっとね、くしゃみを連続で3回した人は悪い噂されてるとか、突然靴紐が切れたら悪いことが起こる前触れとか、夜爪を切ると…」
「あー、わかった。もういい」
「凄いねジェクト、私、初めて聞いたものばっかりだから凄い勉強になったよ」
「なんだぁ、俺のことかよ」
少し離れたところにいたジェクトが後ろ首を擦りながら近づいてきた。
「ジェクト、ラフテルに録でもないことを吹き込むのはやめろ」
「ああん、録でもねえとはなんだ。知ってて当たり前のことを教えてやっただけじゃねえか!」
祈り子の間から出てきて早々、ブラスカは2人の喧嘩を止める羽目になった。
「おい、飯はどーすんだあ?」
夕方、間もなく日が沈むという時間になって、ジェクトが言った。
「うーん、今晩だけは我慢するしかないだろうね」
「マジかよっ!」
「誰のせいだ…」
アーロンの言葉にはっとしてジェクトはしゅんと項垂れた。
「俺、だよな…」
「そうだ!貴様のお陰でブラスカ様は宿もとれん」
「だから悪かったよ」
「ラフテル、何をしてるんだい?」
ブラスカの声に手を止めてそちらを振り返る。
「ん?何って、夕食の準備だよ。お腹空いてるでしょ?」
「それはわかるが、いつの間に…、どうしたんだい、それ」
簡単な竈を作って、魔法で起こした火のそばには何匹かの魚と熟れた果物。
「ほら、あそこ」
幻光河の岸のほとりで釣り糸を垂れていた人物を指差した。
「私の首飾りと交換に、旅の召喚士がお腹を空かせてるって言ったら、こんなにくれたの」
私は果物を手にしながらブラスカに言った。
ブラスカもアーロンもジェクトも驚いた顔をした。
「だからあそこで俺と交代しろって言っただろーがよ」
「何言ってんの?あいつは属性で攻撃したほうが効率いいって話したじゃない!」
「それはわかってんだよ。魔法使ってる間にもう1匹に狙われんだろうが!」
「アーロンがカバーに入ってくれたじゃない!」
「アーロンがたまたまいたからいいが、もっと出てきたらどうすんだ!ああん?お前は命の危険ってもんを考えてねぇのかよ!」
「それこそ何言ってるの!?命なんていつでも賭けてるよ!ブラスカが覚悟を決めた時からずっと…」
「ラフテル!!」
「??」
「!! …ごめん、なんでもない」
「……覚悟って、なんだ」
「…シンを倒す、覚悟だよ…」
「それがなんだってんだよ!」
「「………」」
「おいっ、教えろ!ブラスカ、何を隠してやがる、言え!」
「…ジェクト…」
「ブラスカ様!!」
それらは全部、ジェクトとの会話の記憶、思い出。
10年前の旅で体験した忘れられない本当の出来事。
あの時、いつか自分が入り込んだ真っ白な世界で蘇った記憶の中の、ほんの一部。
ジェクトに会えたことで、ジェクトと交したたくさんの言葉の中の、一番記憶に残る場面。
それがきれいに蘇ってくる。
「ラフテル」
私の名を呼ぶアーロンの姿は、10年前の姿で私の目の前に現われる。
だがあの時よりも低く重くなった声は、次第にその姿を今の姿に変えていく。
「……アーロン…」
いつの間にか、みんなが戦っている場所から少し距離を置かれているようだ。
「ラフテル…」
「いやだ、戦いたくない。戦えないよ!」
子供のように首を左右に大きく振って拒絶する。
「早くみんなを止めなきゃ、ジェクトが!」
顔を上げてジェクトのほうを見つめ、立ち上がろうとした身体が動かない。
アーロンが私の両肩を押さえていたからだ。
「アーロン、離して!行かなきゃ、ジェクトがやられちゃうよ!」
「ラフテル、落ち着け」
「落ち着いてなんていられない。このままじゃジェクトが!早く助けなきゃ!離して!離してよ!!」
“パァンッッ!”
「!!」
顔に受けた衝撃で私は突然別の方向を向かされた。
言葉は失われたが荒い呼吸は止まらなかった。
一瞬何が起こったのか理解できず、思考が停止してしまった。
「口調が戻ってるぞ、ラフテル」
「………」
少しして、頬に滲み出てくるじんじんとした痛みと熱。
そこで初めて殴られたことに気が付いた。
「みんながジェクトにしていることは、助けではないのか? 己の記憶と感情に流されて大局を見失っているのは誰だ」
「……あ、ああ、 ………ああああ……!!」
平気なはずだった。何ともないはずだった。
10年前の戦いでブラスカもジェクトも命をなくし、こんな悲しくて辛い思いはもう二度とすることはないと思っていたから…
10年間、一人で旅を続け、戦ってきた。
だから、シンがジェクトだと分かった時から、いつかはこの日が来ることを覚悟してたはずだというのに…。
怖くなってしまったのだ。
仲間を失ってしまう、また…。しかも自分達の手によって!
そんなことは耐えられない。
『なんだ、怖じ気づいたのか、ラフテル』
目の前に突然現れて、ひとをバカにしたようにニヤリと笑って、ジェクトの幻影は消えた。
→
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「ただこうして待ってんのも退屈だぜ」
そう言ってジェクトは首を左右に振ってコキリと音を鳴らした。
「少しは大人しく待てんのか貴様は」
「あんだよアーロン、硬ぇこと言うんじゃねぇよ。ヒマなんだからしゃーねーだろ」
「…まったく」
アーロンはいつものように眉間に皺を寄せて呆れたように盛大に溜め息をついて見せた。
「アーロン、溜め息つくと幸せが逃げるんだってさ」
「溜め息1つでなくなるような幸せなど、俺はいらん。大体、誰がそんなことを!?」
幾分か眉間の皺が浅くなったけど、それでも真面目そうな堅苦しい顔を私に向ける。
私は至極真面目な顔のアーロンを見つめながら、うろうろと歩き回っている半裸の男を片手で指差した。
そしてアーロンはまた溜め息をついた。
「そんな奴の言うことを真に受けるんじゃない、ラフテル」
「どうして?ジェクト、今まで知らなかったこと、たくさん教えてくれるよ」
「ほう、例えば?」
「えっとね、くしゃみを連続で3回した人は悪い噂されてるとか、突然靴紐が切れたら悪いことが起こる前触れとか、夜爪を切ると…」
「あー、わかった。もういい」
「凄いねジェクト、私、初めて聞いたものばっかりだから凄い勉強になったよ」
「なんだぁ、俺のことかよ」
少し離れたところにいたジェクトが後ろ首を擦りながら近づいてきた。
「ジェクト、ラフテルに録でもないことを吹き込むのはやめろ」
「ああん、録でもねえとはなんだ。知ってて当たり前のことを教えてやっただけじゃねえか!」
祈り子の間から出てきて早々、ブラスカは2人の喧嘩を止める羽目になった。
「おい、飯はどーすんだあ?」
夕方、間もなく日が沈むという時間になって、ジェクトが言った。
「うーん、今晩だけは我慢するしかないだろうね」
「マジかよっ!」
「誰のせいだ…」
アーロンの言葉にはっとしてジェクトはしゅんと項垂れた。
「俺、だよな…」
「そうだ!貴様のお陰でブラスカ様は宿もとれん」
「だから悪かったよ」
「ラフテル、何をしてるんだい?」
ブラスカの声に手を止めてそちらを振り返る。
「ん?何って、夕食の準備だよ。お腹空いてるでしょ?」
「それはわかるが、いつの間に…、どうしたんだい、それ」
簡単な竈を作って、魔法で起こした火のそばには何匹かの魚と熟れた果物。
「ほら、あそこ」
幻光河の岸のほとりで釣り糸を垂れていた人物を指差した。
「私の首飾りと交換に、旅の召喚士がお腹を空かせてるって言ったら、こんなにくれたの」
私は果物を手にしながらブラスカに言った。
ブラスカもアーロンもジェクトも驚いた顔をした。
「だからあそこで俺と交代しろって言っただろーがよ」
「何言ってんの?あいつは属性で攻撃したほうが効率いいって話したじゃない!」
「それはわかってんだよ。魔法使ってる間にもう1匹に狙われんだろうが!」
「アーロンがカバーに入ってくれたじゃない!」
「アーロンがたまたまいたからいいが、もっと出てきたらどうすんだ!ああん?お前は命の危険ってもんを考えてねぇのかよ!」
「それこそ何言ってるの!?命なんていつでも賭けてるよ!ブラスカが覚悟を決めた時からずっと…」
「ラフテル!!」
「??」
「!! …ごめん、なんでもない」
「……覚悟って、なんだ」
「…シンを倒す、覚悟だよ…」
「それがなんだってんだよ!」
「「………」」
「おいっ、教えろ!ブラスカ、何を隠してやがる、言え!」
「…ジェクト…」
「ブラスカ様!!」
それらは全部、ジェクトとの会話の記憶、思い出。
10年前の旅で体験した忘れられない本当の出来事。
あの時、いつか自分が入り込んだ真っ白な世界で蘇った記憶の中の、ほんの一部。
ジェクトに会えたことで、ジェクトと交したたくさんの言葉の中の、一番記憶に残る場面。
それがきれいに蘇ってくる。
「ラフテル」
私の名を呼ぶアーロンの姿は、10年前の姿で私の目の前に現われる。
だがあの時よりも低く重くなった声は、次第にその姿を今の姿に変えていく。
「……アーロン…」
いつの間にか、みんなが戦っている場所から少し距離を置かれているようだ。
「ラフテル…」
「いやだ、戦いたくない。戦えないよ!」
子供のように首を左右に大きく振って拒絶する。
「早くみんなを止めなきゃ、ジェクトが!」
顔を上げてジェクトのほうを見つめ、立ち上がろうとした身体が動かない。
アーロンが私の両肩を押さえていたからだ。
「アーロン、離して!行かなきゃ、ジェクトがやられちゃうよ!」
「ラフテル、落ち着け」
「落ち着いてなんていられない。このままじゃジェクトが!早く助けなきゃ!離して!離してよ!!」
“パァンッッ!”
「!!」
顔に受けた衝撃で私は突然別の方向を向かされた。
言葉は失われたが荒い呼吸は止まらなかった。
一瞬何が起こったのか理解できず、思考が停止してしまった。
「口調が戻ってるぞ、ラフテル」
「………」
少しして、頬に滲み出てくるじんじんとした痛みと熱。
そこで初めて殴られたことに気が付いた。
「みんながジェクトにしていることは、助けではないのか? 己の記憶と感情に流されて大局を見失っているのは誰だ」
「……あ、ああ、 ………ああああ……!!」
平気なはずだった。何ともないはずだった。
10年前の戦いでブラスカもジェクトも命をなくし、こんな悲しくて辛い思いはもう二度とすることはないと思っていたから…
10年間、一人で旅を続け、戦ってきた。
だから、シンがジェクトだと分かった時から、いつかはこの日が来ることを覚悟してたはずだというのに…。
怖くなってしまったのだ。
仲間を失ってしまう、また…。しかも自分達の手によって!
そんなことは耐えられない。
『なんだ、怖じ気づいたのか、ラフテル』
目の前に突然現れて、ひとをバカにしたようにニヤリと笑って、ジェクトの幻影は消えた。
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