最終章【ジェクト~終結】
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人形
=91=
糸の切れた、操り人形…
そんな言葉が浮かんで来てしまう、その姿。
がっくりとうなだれた、小さな背中。
今にも泣き出しそうな、子供のような背中。
つい先程目にしたからなのか、父とは比較にならない。
少年の様子を気に掛けている暇は無い。
ジェクトが放ったとてつもない巨大な重気は、そこから離れている私たちにまで重く圧し掛かってくるようだ。
ステージの下から、私達が今立っている床の下から、まるで地獄の底から這い上がってくるかのような唸り声が聞こえてくる。
その気配に、嫌でもたじろいでしまう。
突然、巨大な炎の塊が少年の頭上に落ちてきた。
いや、床の下から這い上がってきたのだ。崖を這い上がるように、壁を登る様に、ステージの端にかけた巨大な、手。
咄嗟に身をかわしてそれを避けた少年の目の前に現われた、巨大なそれ。
もう片方の手をもそこに下ろし、そしてその身を持ち上げた。
全身が炎に包まれた、巨人。
その顔を見れば、どこかジェクトの面影が残っている。
そうこれが、ジェクトの、ブラスカの、究極召喚獣。
かつてのジェクトを思わせる鋼の肉体、勇ましい鬣にはジェクトの名残なのかバンダナのようなものまで見える。
禍々しいその姿が、シンを打ち滅ぼせる力を持った、絶対唯一の存在だったはず。
その姿に戦慄を覚える。
これがジェクトだなんて、信じられない、信じたくない…
でも、私の記憶の中に残る、あの日の光景。
あの時よりも遥かにその力も姿も強大になっているように感じる。
10年という月日が、幻光虫の塊であるこの鎧の中で、ブラスカの聖なる力で呼び出されたはずのジェクトの魂までをも、こんな姿に変えてしまったのだろうか。
もはや、ジェクトの意識はあるのかさえ分からない。
「すぐに終わらせてやるからな!!」
少年は、今にも泣きそうな声で叫ぶ。
少年が、ワッカが、ルールーが、キマリが、リュックが、そしてユウナまでもが、ジェクトに立ち向かっていく。
…私は……
私は、動けなかった。
一度は引き抜いて構えた、両手に握った小太刀は、斬り裂くこともせず鞘に収まることもせず、ただ、私の手の中で沈黙していた。
どんな姿になろうと、私の中のジェクトはジェクトでしかない。
もうすでに、命の無い存在だと分かっている。
祈り子となって、もう召喚されなければ実体を保つことさえ出来ない、幻光虫が生み出した、記憶の塊。
10年前のあの日から、時間は止まってしまった、あの日のままのジェクト。
ずっと、会いたかった。
魂の気配を感じたかった。
自分自身が夢の産物だと、少年は知った。
そして戸惑いながらもその宿命を受け入れようとしている。
なら、ジェクトは…?
いや、もう、いい……
もう、この姿となってしまったジェクトは、この世界で究極召喚としてその運命を受け入れた瞬間から、もうジェクトはスピラの人間だ。
ここで、この世界で、他の召喚士達が通ってきたのと同じ道を、ブラスカと共に選択してしまったジェクトは、他の召喚士が発動した究極召喚で同じ様に倒されるはずだったのだ。
ならば、今更、彼に本当のことを伝えても、彼がそれを知っていたとしても、もう、どうしようもないことだ。
ここにいるのは、スピラに平和を取り戻そうと、シンを倒そうと奮起した1人の召喚士の、その魂と引き換えに生み出された召喚獣。
なのに、私は戦えない。
頭では分かっているつもりなのに、それでも、攻撃を受けて苦しんでいる目の前にいる存在を、敵だと認識できない。
どうして、みんなは平気なんだ?
どうして少年は父親に刃を向けているんだ。
ジェクトが腕を大きく左右に開いた。
逞しい厚い胸板の中央が赤く染まる。
走る裂け目から迸る紅い光。
炎を纏って飛び出したそれを、ジェクトは力強い腕で引き抜いた。
アーロンの持つ太刀よりも遥かにでかい、厳つい一振りの剣。
片腕で軽々と持ち上げたそれを、ジェクトは一薙ぎする。
どこか遠い景色でも見ているような、何も考えが追いつかない私の前に覆いかぶさる、赤。
「何を呆けている!!」
怒鳴り声にはっとする。
私を押し倒すようにして衝撃波から庇ったアーロンの存在に、そこでやっと気付いた。
すぐに身を起して再び剣を構えたその後姿を目にして、私も身を起す。
私の小太刀は、私の手から離れてしまっていた。
「ラフテル!しっかりしろ!どうしたと言うんだ」
「……私、……できない」
「…?」
「戦えない……」
「何を言っている! 死にたいのか!?」
「!! ……死…、そ、れも、いいかも……」
「ふざけるな!!」
死んだら、またみんなに会える。
かつての仲間達に、私もやっとみんなと同じ立場に行ける。
たった1人、この世界に生きている私は、1人取り残されたんだ。
「…でも、だって、…あれは、ジェクトだ…」
「…もう、奴の意識はない。あれはシンだ。もはやジェクトではない」
「なんでそんなこと言えるんだ! アーロンだってジェクトのこと…!!」
「…わかってる」
「!!」
「…あれは、ジェクトなんだぞ…。なんで、みんな、戦ってる? ティーダも、なんで…」
「ラフテル!! アレはもう…「ジェクトなんだ!!!」…」
「それでも、ジェクトなんだ! ジェクトと戦うなんて、私にはできない!!」
糸が切れて、動けなくなった操り人形は、私のほうだった…
→
=91=
糸の切れた、操り人形…
そんな言葉が浮かんで来てしまう、その姿。
がっくりとうなだれた、小さな背中。
今にも泣き出しそうな、子供のような背中。
つい先程目にしたからなのか、父とは比較にならない。
少年の様子を気に掛けている暇は無い。
ジェクトが放ったとてつもない巨大な重気は、そこから離れている私たちにまで重く圧し掛かってくるようだ。
ステージの下から、私達が今立っている床の下から、まるで地獄の底から這い上がってくるかのような唸り声が聞こえてくる。
その気配に、嫌でもたじろいでしまう。
突然、巨大な炎の塊が少年の頭上に落ちてきた。
いや、床の下から這い上がってきたのだ。崖を這い上がるように、壁を登る様に、ステージの端にかけた巨大な、手。
咄嗟に身をかわしてそれを避けた少年の目の前に現われた、巨大なそれ。
もう片方の手をもそこに下ろし、そしてその身を持ち上げた。
全身が炎に包まれた、巨人。
その顔を見れば、どこかジェクトの面影が残っている。
そうこれが、ジェクトの、ブラスカの、究極召喚獣。
かつてのジェクトを思わせる鋼の肉体、勇ましい鬣にはジェクトの名残なのかバンダナのようなものまで見える。
禍々しいその姿が、シンを打ち滅ぼせる力を持った、絶対唯一の存在だったはず。
その姿に戦慄を覚える。
これがジェクトだなんて、信じられない、信じたくない…
でも、私の記憶の中に残る、あの日の光景。
あの時よりも遥かにその力も姿も強大になっているように感じる。
10年という月日が、幻光虫の塊であるこの鎧の中で、ブラスカの聖なる力で呼び出されたはずのジェクトの魂までをも、こんな姿に変えてしまったのだろうか。
もはや、ジェクトの意識はあるのかさえ分からない。
「すぐに終わらせてやるからな!!」
少年は、今にも泣きそうな声で叫ぶ。
少年が、ワッカが、ルールーが、キマリが、リュックが、そしてユウナまでもが、ジェクトに立ち向かっていく。
…私は……
私は、動けなかった。
一度は引き抜いて構えた、両手に握った小太刀は、斬り裂くこともせず鞘に収まることもせず、ただ、私の手の中で沈黙していた。
どんな姿になろうと、私の中のジェクトはジェクトでしかない。
もうすでに、命の無い存在だと分かっている。
祈り子となって、もう召喚されなければ実体を保つことさえ出来ない、幻光虫が生み出した、記憶の塊。
10年前のあの日から、時間は止まってしまった、あの日のままのジェクト。
ずっと、会いたかった。
魂の気配を感じたかった。
自分自身が夢の産物だと、少年は知った。
そして戸惑いながらもその宿命を受け入れようとしている。
なら、ジェクトは…?
いや、もう、いい……
もう、この姿となってしまったジェクトは、この世界で究極召喚としてその運命を受け入れた瞬間から、もうジェクトはスピラの人間だ。
ここで、この世界で、他の召喚士達が通ってきたのと同じ道を、ブラスカと共に選択してしまったジェクトは、他の召喚士が発動した究極召喚で同じ様に倒されるはずだったのだ。
ならば、今更、彼に本当のことを伝えても、彼がそれを知っていたとしても、もう、どうしようもないことだ。
ここにいるのは、スピラに平和を取り戻そうと、シンを倒そうと奮起した1人の召喚士の、その魂と引き換えに生み出された召喚獣。
なのに、私は戦えない。
頭では分かっているつもりなのに、それでも、攻撃を受けて苦しんでいる目の前にいる存在を、敵だと認識できない。
どうして、みんなは平気なんだ?
どうして少年は父親に刃を向けているんだ。
ジェクトが腕を大きく左右に開いた。
逞しい厚い胸板の中央が赤く染まる。
走る裂け目から迸る紅い光。
炎を纏って飛び出したそれを、ジェクトは力強い腕で引き抜いた。
アーロンの持つ太刀よりも遥かにでかい、厳つい一振りの剣。
片腕で軽々と持ち上げたそれを、ジェクトは一薙ぎする。
どこか遠い景色でも見ているような、何も考えが追いつかない私の前に覆いかぶさる、赤。
「何を呆けている!!」
怒鳴り声にはっとする。
私を押し倒すようにして衝撃波から庇ったアーロンの存在に、そこでやっと気付いた。
すぐに身を起して再び剣を構えたその後姿を目にして、私も身を起す。
私の小太刀は、私の手から離れてしまっていた。
「ラフテル!しっかりしろ!どうしたと言うんだ」
「……私、……できない」
「…?」
「戦えない……」
「何を言っている! 死にたいのか!?」
「!! ……死…、そ、れも、いいかも……」
「ふざけるな!!」
死んだら、またみんなに会える。
かつての仲間達に、私もやっとみんなと同じ立場に行ける。
たった1人、この世界に生きている私は、1人取り残されたんだ。
「…でも、だって、…あれは、ジェクトだ…」
「…もう、奴の意識はない。あれはシンだ。もはやジェクトではない」
「なんでそんなこと言えるんだ! アーロンだってジェクトのこと…!!」
「…わかってる」
「!!」
「…あれは、ジェクトなんだぞ…。なんで、みんな、戦ってる? ティーダも、なんで…」
「ラフテル!! アレはもう…「ジェクトなんだ!!!」…」
「それでも、ジェクトなんだ! ジェクトと戦うなんて、私にはできない!!」
糸が切れて、動けなくなった操り人形は、私のほうだった…
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